(5)
「まずはじゃあ、パーツ分解。この話に出てくる人やらものの確認。はい、るーさん」
まるで先生と生徒だ。小枝の中に出来上がっているはずのパズル。それを小枝は一旦崩し、流華と一緒に組み立てる作業を行おうとしているのだ。
「えーっと、まず主人公のアイドルの有加さん。そして彼女の熱狂的なファン事好き好きゆかりん」
「うんうん」
「で、好き好きゆかりんからのDVDと、そこに映っていた男、つまり好き好きゆかりん。後は同期の史奈さん達アイドル、と。こんなもんかな」
「はい、じゃあ一旦そこでよしとしましょう」
パーツ分解完了。これで話を解明する材料は揃っているという事か。いやしかし油断は出来ない。実は見落としているパーツがないとも言えない。
「これでもう分かるの?」
「うん、組み立ては十分出来るね」
見落としパーツはないという事か。
「じゃあ次に、この話で見える一番の実績は何?」
「実績ぃ?」
なんだそりゃ。実績だなんて小難しい表現を。見た目は金髪ミニスカなギャルギャルしいギャルで変わり者ではあるが、これでいて頭は良い。
実績。実績? なんのこっちゃ。
この話のオチで考えればいいのか。そうとするなら――。
「有加さんがとても嫌な気持ちになりました」
「何その小学生の感想文みたいな言い方。でもそういう事」
これでまた一つ構成パーツが増えた。こうやってどんどん話に近付いていく。
小枝が組み上げた頭の中の話に。
「もうこれでほとんど答えは出ちゃってる感じだけどねー」
「んーあんたはそうかもしれないけど、私はそうもいかないの」
「シンプルシンプル。じゃあそうだね。今日は何の日?」
「え、またその質問? 今日はバレンタインデーでしょ?」
「そう。バレンタインデーは、女の子の為の日だよね」
「うーん、ま、そうだね」
「そういう事なんじゃないかな」
「え、なにが?」
「この話は、女の子の為の話なんじゃないかな。アイドルっていう競争社会の女の子達の為の」
「んん?」
せっかくパーツ分解から紐解いていけるかと思ったらまた訳の分からない事を言い始める。本当に困った奴だ。おかげで流華の頭はまた混乱を始めようとする。
「るー、いい顔してる」
「つねるわよ」
「どこを!?」
「まぶた」
「鬼畜!」
「小枝が素直に教えてくれたらつねらない」
「あれ、この部活ってそんな感じだったっけ……まあいっか」
小枝は仕方なそうに一言呟いた。
「アイドルって世界は、見た目ほど綺麗なもんじゃないんだろうねって話」