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※作中に出てくる都市伝説のお話は、多少こちらで手を加えた内容になっております。ご了承下さい。

「うーさぶー」

「ガタガタガタガタ」

「寒さで震えが口に出てるわよ」

「寒さで口が震えるんだから当たり前じゃん」

「そんな音は当たり前に出ないわよ」


 冬。粉雪舞う冷却の世界は白銀なんて表現で優美さを感じさせるどころか、血をも凍らす程の冷徹な寒さで身体を痛めつけた。


「あーもうほんと寒い。ほんと寒いのに超ミニ。ばっちり太もも」

「なんでタイツの一つも履かないのよ。見てるこっちが寒くなるわ」

「いや、ボーイズ達のドリームの為に」

「あんたの太ももに夢は詰まってないわよ」


 と言ってみたが、現実世界の男共は小枝の太ももドリームをしっかりと目の端で捉えている。

 流華はそんな男子達に、凍てつく気温にも負けないほどの冷ややかな目線を向けていった。





「おーホットワールド!」


 教室に入るや否や教卓の横に鎮座する石油ストーブに抱きつかんばかりの勢いで小枝は走り込んだ。


「おお神よ。恵みの暖かみを我に」


 メッカへの巡礼ばりにストーブに両手を伸ばしながら頭を垂れる小枝は、石油ストーブ教の狂信者のようだった。


「おはようさー。ねーさー。さーはチョコどうすんの?」


 先にストーブで暖をとっていた和気藹々ガールズが目を輝かせながら小枝に尋ねる。


 冬。毎年訪れるこの季節に準備されたバレンタインデーというイベント。いまだにそのイベントに対して色めき立つ女子生徒は多い。

 義理チョコ。友チョコ。本命チョコ。様々な気持ちが包み込まれたチョコレートは、バレンタインデーという一日、食するものというデザート、お菓子の領域を超え、神聖なる贈り物へと昇華される。

 そして、先程の「さーはチョコどうすんの?」の意味合いは、ちゃんとした文章に直すなら、「小枝さん、あなたは今年、本命のチョコを男子生徒にお渡しになられるのですか?」というものになる。


「渡す相手は決まってるさ」

「えー! マジ!? 誰誰!?」

「我が女神様へ」

「ああー、香澄先生ね。ってそうじゃなくて!」

「安心しなって。今年は男子に渡すつもりないから」

「なーんだ。つまんないの」


 と言いながらも彼女達がほっとしているのはきっと気のせいじゃない。

 恋のライバルは一人でも少ない方がいいに決まっているのだ。


「で、るーるーは?」

「え、私?」


 まさかして地味で通っている私などがライバルになろうはずもないので、彼女達の質問はただの興味本位だろう。私は肩に下げた鞄を抱き直した。


「私は――」

「るーは私にくれるんだよねー」


 小枝のにんまり顔が私を覗き込む。


「な、あんたにあげるチョコなんてないわよ!」

「もう、照れない照れないー」

「ちょ、やめっ!」


 つんつんと鬱陶しく頬を突いてくる小枝から私は必死で逃れる。そんな私達を見て彼女達はけたけたと笑った。


「ほんと、キャラ正反対なのに仲良いよねー」


 キーンコーンカーンコーン。


「あ、やべ」


 鳴り響いたチャイムで散らばる生徒達に並んで流華と小枝も自分の席へと着いた。

 流華は何とも言えないしこりのようなものを感じながら小枝をちらっと見たが、席に座った小枝は、男子の夢袋である太ももをさすっていた。

 

 ――タイツを履け。


 流華は呆れて溜息をついた。


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