喋る白い猫
「ん…。こ…ここは?」
トラックに轢かれ雷に打たれて呆気なく人生を終えたはずの俺は、何故か森の中で目を覚ました。天国か?とも思ったが、どこにでもある森の風景に違和感をおぼえる。
「夢でも見ているのか?ということは、俺は死んでない?」
問いかけても誰が返事をしてくれる状況ではないが、それでもこの異様な空間から早く逃げ出したくて声に出してしまう。とりあえず状況を把握しないことには始まらないと、俺は立ち上がる。猛スピードのトラックに轢かれて雷に打たれたはずだが、身体に傷ひとつ見当たらない。意識もしっかりしている。俺の身に一体何が起こっているのだろうか。
得体の知れない不安を抱えながら、俺は森の中を歩いてみることにした。
「しかし…。高い木ばかりで先が見えないな…。右か左か…。」
下手に動くと遭難しそうだ。いや、すでに遭難しているから関係ないか。
「よし!こういう時は!」
俺は近くに落ちていた枝を拾うと真っ直ぐに立てた。
「この枝が倒れた方角へ行こう。」
それもどうなんだ?と思ったが、どうせ迷うなら楽しむのもありだ。
「さぁ、どっちだ!?」
変なテンションの俺は中腰になり、枝から手を離した。俺の運命を決めるのは、枝!お前だっっ!
「何してんの?」
「!?」
変に夢中になって枝を見ていた俺の背後から女の子の声がして、俺は驚いて振り向いた。だが、後ろには誰もいない。
「ま、まさか…。ゆ、ゆ、幽霊!?」
ある意味お前も幽霊だろう、とツッコミが聞こえてきそうだが、今はそれどころではない。きょろきょろと辺りを見渡す。
「どこ見てるの?ここよ、ここ!」
再度声がして、ふと下を見る。
「お前は…。」
そこには、あの白い猫が居た。まさかこの猫!
「ばっ!化け猫っっっ!」
「ちっがうわ!全く…失礼ねっ!」
白い猫は怒ったような顔をする。そして俺の前にちょこんと座った。
「あたしの名前はココ。あんたをこの世界に連れてきたのは、このあたし。」
ココと名乗ったこの白い猫は、得意気に笑う。
「へぇ、そうなのか…。って!おいっ!どういうことだよっ!?」
盛大なツッコミを入れる俺をココはきょとんとして見上げてくる。
「どうって?何が?」
「何がって!おかしいだろっっ!俺死んだんだぞ!?」
その他にも突っ込まなければならない部分が多々あるが、まずは死んだということが一番問題だ。
「誰でもいつかは死ぬ運命じゃない。まぁ、あんたの場合はちょっと早まったかな。」
ココは少し申し訳なさそうな顔をした。
あぁ、俺は近々死ぬ運命だったのか。なら、少々早まったぐらいということか…。そうか…。重い病気でもあったのだろうか。あぁ、もっと健康的な生活をすれば良かった。後悔しても遅いのはわかっているが、何だか切なくて視界がぼやけてくる。そんな俺を見て、ココは歩き出す。
「まぁ、あんたの寿命は80歳だったんだけどね。さ、待っている人が居るからさっさと歩いて。」
「はぁぁぁぁああぁぁっ!?」
深い森の中に俺の叫びが虚しく響き渡る。
「ふざけんなぁぁぁっ!俺の人生返せよっ!っていうか、今更だけど!どういう展開なんだよこれっっ!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ立てる俺を一瞥して、ココはニヤリと笑った。なんだか凄く嫌な予感がする。こんなものは、まだ序章にすぎないと言わんばかりの顔で。
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