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【完結済】異世界薬局(EP4)/【連載中】世界薬局(EP4.1)  作者: 高山 理図
Chapitre 6 神術使いと呪術使い  Arcane et interdit (1147年)
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6章15話 解呪へむけて

 月明かりもない野路を、わずかな明かりを携えた市民の行列が続いている。誰もが不安と、疲労を顔に浮かべながら目的地へ急ぐ。隣市ランブエ市を目指す馬車と、馬車を手配できなかった市民たちは、貴族や帝国軍の護衛を受けながら行歩を続け、その行列は帝都から最も近い平原を延々と横切ってゆく。


 ド・メディシス家の大馬車列はその渋滞のさなかにあったが、時が経つにつれ、先をゆく人々の列は密になり、遂には動かなくなってしまった。

 そんな渋滞に巻き込まれ、豪奢な馬車の中で苛立ちを募らせていた短気な男は、パッレだ。


「何だこの渋滞は。急に止まったが何故進まないんだ。単に先がつかえているだけか?」

「仔細不明ですが予期せぬ厄介ごとに遭遇しているのかもしれません」

「ああ? 平民どもは何を呑気にしてやがるんだ」


 ド・メディシス家の家令、シモンの報告を受け、パッレが馬車の窓を開け外の様子をうかがう。ブランシュも「みせてよー」と顔を出しては肘で押し込められ、小競り合いのような兄妹げんかに発展する。


「ぎゃあぁ、出たーー!」


 にわかに渋滞列が大きく乱れ、蜘蛛の子を散らしたように市民が一方向へと逃げ出し始めた。彼が眼をこらすと、進行方向右手側の平原の地平線から、半透明の黒い人型をした群体がこちらへと押し寄せてきている。それは一体一体が大きく伸縮する人影のようで、明らかに人ではないことがわかる。

 迫りくるにつれ、市民たちは大混乱に陥ってゆく。


「あっ、あっ、悪霊だーっ!」

「あれが全部悪霊なの!? どうすれば……!」

「まって、押すな押すな! 帝都に向かって引き返せ!」


 飛び交う言葉も支離滅裂だ。

 言い合っている間に、夜の草原に異臭を含んだ風が吹き始きわたり、市民たちは竦みあがる。禍々しい風が吹き込み、草原の草が朽ちて枯れ落ちてゆく。


「そんな無茶な、帝都にも悪霊がいるのよ! どこに逃げればいいっていうの」

「ここにいたらとり殺される! いくらメディシス尊爵の霊薬の効果があるといっても……霊薬は本当に効くんでしょうね⁉」

「あんなのに襲われたらおしまいだ! みんな死ぬんだ……」

 

 悪霊に武器は効かず、悪霊と戦うすべを持たない市民の間から悲鳴と怒号が聞こえる。そして彼らから寄せられる貴族への暗黙の期待は大きい。


「何故悪霊がここに現れる? ここは墓地ではない筈だが」


 パッレが望遠鏡を手に観察すると、シモンが苦々しそうに告げる。


「いえ、パッレ様。この平原全体が墓場でございます」

「そうか……ここは有名な古戦場だったものな」


 現在でこそ専制君主制のもと政情も安定している世界最大のサン・フルーヴ帝国だが、その統一と帝政に遷するまでの歴史は、血で血を洗う数多の戦乱があった。

 帝都にほどちかいこの平原は、戦場で安らかには眠れなかった死者たちが悪霊となって地の底から蘇ってきたのだろうか。


「こうなっては仕方ない。蹴散らすぞ! 迎撃が遅れればとりこまれる距離だ! 猶予はない!」

「大きい兄上ー、私も!」


 パッレが上着を脱ぎ棄て、戦闘用神杖を二本握り雄叫びをあげ馬車から飛び出すと、ド・メディシス家つきの使用人、聖騎士らも各々の判断で彼に随い、突撃のラッパを鳴らす。

 先制を決めたパッレが飛び出してゆくのを見た他の貴族や兵士の一団も、疎らな横隊を崩す格好で出撃をはじめた。ブランシュも子供用の華奢な杖を手に、パッレを追おうとするが、すぐさま牽制される。


「カトリーヌ、シャルロット! ブランシュを馬車から出すな! 俺に何があっても出てくるな! 窓を閉め、簡易防御陣を起動して中にいろ、厳命したぞ!」

「承知いたしました! シャルロット、ドアを閉めなさい!」


 ロッテが茫然としていると、カトリーヌはロッテをつき飛ばして馬車のドアと窓を閉め切り、馬車が襲撃を受けた際に神術陣が起動するための非常用回路を繋ぎ、防御を固める。

そしてロッテに向き直り彼女の頬を勢いよく平手打ちにした。

 赤く腫れた頬に手をあてがって、ロッテは茫然とカトリーヌを見つめ返す。


「か、母さん…………」

「愚か者! 早く締めないと中に悪霊が入ってしまうわ! 命令には迅速に従いなさい!」

「でも、それをするとパッレ様が戻ってこれなくなって……」

「そうしろと仰ったでしょう!」


 パッレに何があっても、手を出さず見ていろということになる。

 ロッテは戸惑いを隠せない。


「命じられたのは、ブランシュ様をお守りすること。お前の命はパッレ様とエレオノール様が下さったの! 平和ボケもいい加減にしなさい、愚図愚図しないで!」

「二人とも喧嘩しないでー。私も援護するのー」


 何かをせずにはいられないらしいブランシュがそう言いながら無防備に窓を開けようとするのを、ロッテが慌てて止める。


「ブランシュ様。パッレ様はお優しい方ですので、ブランシュ様が出ていかれると強大な神術が使えません」

「邪魔しないもん!」

「私と一緒にここにいましょう、それが兄上様とのお約束でございます」


 ブランシュの両手を握りしめるロッテの力は強く、ブランシュは口をへの字にしたが受け入れた。


「でも。何もできないなんて……くやしい」

「私も……神力がなく守っていただくばかりの自分を、情けなく思います」

「みんな無事だったら私、これからはもっと神術の練習する。兄上にずっと言われてきたのに、今日までわからなかったの」


 ブランシュは泣きながら懺悔をする。

 ブランシュとロッテは同じ思いを胸に抱いているようだった。


「一番力がほしい時に、誰も守れないぞって。言われたとおりだった、兄上もみんなも、誰も助けられない……!」


 ブランシュは無力を嘆き、崩れ落ちた。


 パッレは全力疾走しつつ後ろも見ず杖を振り、進むことも退くことも避難も侭ならない市民を悪霊から死守すべく、野路に沿って分厚い氷で防壁を走らせた。また、これからぶつける大神技の反動から市民を守るためでもある。

 パッレは最初に接触した悪霊の一団に向け、今にも突き刺すかのように杖を掲げる。


「”実戦時制限解除! 上限!”」


 革新神術の冠辞だ。ロッテの治療のための霊薬の合成にかなりの神力を使い込んでしまったので、大神技の後は神力切れを覚悟する。


「”発動詠唱三節略。必中制勝! 悪疫滅殺の大波浪!”」


 彼の双杖が凪いだ軌跡は、空間の歪みを生じさせる。

 疾風迅雷の進撃、最大出力の革新神術を浴びせかければ、それは透明な浪となり平原を駆ける。平原を浸食していた悪霊へと到達すると途端に実体化、激流の中へ悪霊を押し流して水蒸気となり、見渡す限りの殲滅を果たした。

 パッレの最大出力の神術によって、場にいた悪霊の9割以上を撃破。

 取りこぼした悪霊は、遅れて突撃した神術使いたちが個別に撃破してゆく。彼は油断なく地平線に目を配りながら、杖を下す。大容量の神力を放出し、足元がふらつくが、踏みとどまる。

 

「くっそ……さすがに限界か。あとは平原一面に浄化神術をかけてバカどもが出てこないように……⁉」


 鋭い一声とともに、パッレが瞬時に体を翻す。

 平原の反対側から新手が現れたのだ。氷壁の反対側では、市民らが悪霊に押し寄せられ完全に無防備になっている。予期せぬ方向から現れた突然の災禍に、遠距離にいるパッレの援護は間に合わない。神術使いたちも取り乱すばかりだ。


「ちいっ、 ”逆さ雨!”」


 パッレが咄嗟に放った水属性神技も僅差で間に合わず、今にも悪霊の一端が市民を飲み込もうとしていたとき、


「”氷の壁ぇ――!”」


 緩い発動詠唱と共に、かなりの広範囲に氷の壁が展開した。

 ブランシュが馬車の中から神術を使ったのだ。詠唱の適当さのわりに、ブランシュの神技のコントロールは意外に正確だ。


「みんなー、今のうちに逃げるのー!」


 ブランシュの神技が、押し寄せてくる悪霊を足止めをする。九死に一生を得た市民たちは足をもつれさせながら逃げ出した。しかしブランシュの氷の壁は強度が十分でなく、罅が入り始めた。


「あーん、もちこたえられないのー。兄上助けてー!」


 ブランシュの渾身の防壁が今にも砕け散ろうとしていたそのタイミングで、市民を守るように放射状の白炎が走った。その輝きはまさしく神術の火焔だ。


「私にお任せを!」

 

 芯のある女性の声が響く。

 颯爽と馬車の上に立つ若き貴婦人は二本の神杖が宙に侍らせ、それらは妖艶な輝きを放つ白炎を纏っている。医療火炎神術使いのメロディ・ル・ルー尊爵が追いついて加勢にきたのだ。


「おお、あのお方はル・ルー尊爵様か!?」

「尊爵閣下がいらっしゃるのか、お頼もしい!」


 市民がメロディに熱い視線と声援を送る。神術と類まれなる才能に恵まれ、英雄的な活躍をした貴族にのみ授与される尊爵という爵位。その尊爵に対する市民の崇敬と信頼の念は、絶大なもののようだ。期待に支えられるかのようにメロディは集中力を高め、発動詠唱を唱える。


「”火神の加護のもとに命ずる。 万代不易の天の摂理により、善民を援け、普く不浄を焼灼せん”」


 メロディは歌い上げるように詠唱し、力を蓄え一気に神術を放つ。


「”白炎の舞踏!”」


 彼女の神杖は大火炎を吐き、悪霊を一気に囲い込む。メロディの炎は闇を切り払い次々と悪霊を昇華させてゆく。彼女の神術は正確無比で、出力は強大、そして何より洗練された大技だった。


「さすがは尊爵様、神がかっておられる!」


 活躍と賞賛をメロディに譲った格好になったパッレも、若くして尊爵を与えられた偉大な神術使いであるメロディには一目おいている。


「市民の危機を救っていただき、いたみいります。メロディ・ル・ルー尊爵閣下」

「お褒めにあずかり恐縮ですわ、パッレ・ド・メディシス様。私は職人ですから、攻撃神術を忘れてしまうところでしたがよい慣らしになりました。さあ。今のうちに先を急ぎましょう!」


 メロディが鋭く声をかけ、馬車からひらりと馬に飛び乗ると、市民を先導する。パッレは馬車に戻り、外から防御陣を解除する。待ち構えたように中からブランシュが飛び出してきた。


「あにうえー。褒めてー。私ー馬車から出てないのー」

「でしゃばるなと言ったはずだが、まあほめてやろう」

「やったーほめられたー」


 パッレは、一定の役割を果たしたブランシュの頭をわしゃわしゃとやった。その後、神術使いたちは道中に現れる悪霊をそれぞれの属性の特色を生かした神術で駆逐してゆく。先を急いでいたド・メディシス一行は、エレンの実家の馬車列に後ろから追いついた。


「これこれはド・メディシス様。エレオノールが戻らないのですが、ご存じないでしょうか。帝国医薬大にいるのでしょうか」


 ボヌフォワ伯爵とその夫人が、とともに一人娘の安否を気にかけている。パッレはエレンが一人で薬局に残っていると伝えられなかった。


「お嬢さんは今、帝都の某所に残っています。しかし、彼女はきわめて有能な神術使いです。彼女の腕は、彼女と杖を交わしたこの私が知っています。どんな悪霊も彼女には近づけますまい」


 パッレはエレンの勇気を称え、伯爵に希望を捨てさせない。

 パッレはエレンの神術技能を高く見積もっており、低俗な悪霊に後れをとるとはまったく思っていなかった。その意味では、パッレはエレンを陰ながら認めていた。伯爵は力なく答える。


「ええ、そうですね。信じましょう。娘を信じています」


 その腕には、少し大きくなったソフィを抱いていた。

 ボヌフォワ家と合流し、ランブエ市へと急ぐ道中、野犬の集団に行く手を阻まれる。しかし一匹一匹をよく見ると、その顔貌は変わり果て、肉は腐り落ちていた。死霊となった獣に荷馬が噛まれると、馬は暴れ、見る間に同じ状態へと変貌してゆく。


「変種の悪霊か。くそ、野生動物に憑くようになったのか……」

「この一帯の悪霊による汚染は、深刻であるとみるべきですね」

 

 野生動物と一体化した悪霊をパッレが浄滅し、メロディが躊躇なく焼き払う。パッレの神力が完全に切れた後は、ボヌフォワ伯をはじめソフィとブランシュも攻撃に加わった。後に続く腕のたつ貴族らが神術を駆使して進路を切り開き、市民らが大きな一団となって通り、衛兵たちが後衛をつとめる。

 行く手を阻むように街道に現れる悪霊と交戦しながら、その後の遠い道のりを経てやっとのことでランブエ市の城塞前と到着した。

 城塞の上にランブエ市の旗がたなびいているのを見た市民たちは早くも喜びの声を上げる。


「やっと着いた、助かった!」


 太陽が昇り、金糸のような透き通った光が雲間から零れる。

 ランブエ市の守護神殿は無事だったようで、普段と変わりのない姿を維持していた。束の間の安息を、帝都市民がどれだけ渇望していたかしれない。


 ランブエ市へと入る城塞では、警備兵らが市内の結界を死守している。

 市民は一旦城塞の中へと集められ、そこから簡単な手続きを経てランブエ市の各避難所へと割り振られる。家人らが無事の到着を喜んでいるうちに、メロディがド・メディシス家に近づいてきた。


「ド・メディシス御一行様とボヌフォワ伯爵は、これからどちらへ」

「避難施設へ向かう予定ですが」

「ご両家とも、もしよろしければ、ランブエ市に父の遺した小領がありますの。そちらへおいでくださいませ、安全ですわ」

「それは助かります。必ず迎えに来ますので、しばしの間よろしくお願いいたします」


 パッレは、彼らをメロディに預けることにした。

 ボヌフォワ伯の一行とソフィも、メロディのもとで世話になることにしたらしい。

 ド・メディシス家の一族郎党は安全な場所へと移し、ベアトリスへの義理立てを果たした、となるとパッレの目指すは帝都だ。


 彼はブランシュに別れを告げるとド・メディシス家で一番速い馬に乗り、単騎で今来た道を猛然と引き返し始めた。神力は切れている。体力も限界だ、それでも彼は一路帝都を目指す。

 朝日をいっぱいに受け、風を切り裂き疾走しながら、彼は馬に鋭く鞭を入れた。


 ◆


 異世界薬局の一階でエレンの処置を終え、ファルマはエレンの容態を看ながら付き添っていた。エレンにつきっきりでいたいところだが、帝都の状況は決して楽観視はできず、いたずらに時間を潰していることは躊躇われた。

 ファルマは窓を開け放ち、杖で軽く浮遊して帝都を一望する。

 守護神殿の機能を取り戻した直後から、帝都を覆う黒雲は神殿を中心にして少しずつ晴れ上がってゆくようにも思える。だが依然として、分厚い霧と暗雲の立ちこめる空の下では、実体化した悪霊が暴虐と破壊の限りを尽くしているに違いなかった。帝国医薬大の神術陣は一日はもつ。だが、その他の場所に避難した人々が取り残された場所に応援に行かなければならない。


「エレンは動かせないだろうが、こうしてもいられない」

 

 せめてあと一人、エレンの付き添いがいてくれれば身動きがとれる。

 そう思いながら店に入ったとき、ふっと扉が開いた。


「店主様?」

「おうわっ」


 水色の髪がふわりと揺れる。その後ろから顔を出した大柄の青年も、ファルマを目撃して素っ頓狂な声を出した。お互いにとって意外な顔ぶれの登場に、ファルマはしばし驚く。


「レベッカ! ロジェも。何でこんなときにここに? 避難命令が出ているんじゃ……」

「その……薬歴とカルテと一緒にランブエ市に避難をしようと思いまして。患者さんの書類の管理は私の担当だったはずで」

「俺は店主サンに薬の管理を任されていましたヨ」


 レベッカ照れくさそうに答え、ロジェはさも当然のように言い返す。ファルマがあっけにとられていると、レベッカがエレンをみとめたので、ファルマは彼女の容態を説明する。何をどのように治療を施したのかまでは伝えなかったが、レベッカはエレンが瀕死だったと知り、涙を浮かべていた。


「申し訳ありません店主様、エレオノール様が残っていると知っていれば私もすぐに駆けつけましたのに」

「皆の気持ちには感謝するけど、次からは確実に逃げてほしいんだ。君たちの身の安全こそが、間接的にこの薬局を守ることになる。カルテも薬歴も作り直せばいい、薬もまた揃えればいい。けど、君たちが培った知識も技術も、そして常連さんと築いた信頼関係は一朝一夕で取り戻せるもんじゃない」


 だから何より、全員の無事が最優先だ。ファルマは心からの気持ちを伝える。

 ロジェは、薬局の調剤室の保冷庫に張り巡らせていた神術陣が破綻しているのをあらため、中の血液が汚染されているのを検証している。


「にしてもストックしていた全血が悪霊の汚染で使えなくなっていたとは、災難でしたネ。この部屋の薬は大丈夫なんデスか、店主サン?」

「薬は問題ないだろう。ダメになっていればまた創ればいい」

「んー。カウンターの生け花が腐り、薬局内の植物が悉く枯れ、保管していた血液も腐っていマスよ……悪霊は人や動植物に憑きマス。生体医薬品には問題ないデスか?」


 ロジェの眼光が鋭く光る。ファルマはロジェの言葉に息をのむ。


(研究室から持ち帰った試薬が軒並みやられたか……?)

 

 ファルマは手近にあった粗精製していたタンパク質の乾燥物を入れた試薬瓶をあけると、腐敗臭が鼻をついた。

 品質がこれほど短時間に変化してしまうなどということはありえない。


「やられた……」


 被害の検証と把握は後回しだ。それに、エメリッヒの研究のために、帝国医薬大の研究室に分注して保管してあるものもある。それでもこの薬局に置いていたのが殆どだったために全滅に近いだろうが、完全に全滅ということはない。渋い顔をして思案していたファルマは、レベッカに意識を戻される。


「店主様、ところで私はエレオノール様と同じ血液型だったはずです、もう非常事態は脱したのかもしれませんが、出血も続いているでしょうし輸血に協力できませんか?」

「そういえば僕もデスよ」

「それはありがたい、二人のうち一人、輸血に協力してくれ」

「なら僕たち、ここに戻って来てよかったデスね?」

「そう言われると言い返す言葉もないな……」


 成人男性で循環血液量の多いロジェのほうが適任ということで、ファルマはロジェの採血を始める。彼は血液型判定もクロスマッチテストも受けており、ファルマの血液だけでは心もとないのでエレンに輸血を行う準備をはじめた。そうしていると、


「店主様ーっ! どうしてここにーっ⁉」

「セルストさんまで!」


 セルストとその子供たちも薬局になだれ込んできた。異世界薬局の薬局薬師が全員集合だ。ロジェとレベッカは顔も見合わせ、朗らかに笑う。セルストは悪霊が高頻度で出現する森に囲まれた自宅から出られない状況になっていたが、少し前にファルマが神殿から湧き出す悪霊を掃ったからか悪霊が減り始めたので、何とか避難準備を整え出発したのだという。そして彼女も、薬局が気がかりで立ち寄ってしまったのだ。


「皆、店主サンの指示は覚えていましたが、なんとなくここに集まってしまいまシタ。次に有事あれば全員避難するように課題にしましょうネ! 意味ないデス」


 身も蓋もないことを言うロジェと、ロジェに悪態をつきながら血まみれのエレンの清拭をするセルスト、避難のために薬局にある機密文書等を一か所に集め始めるレベッカ。そしてロジェの血液をエレンに輸血するファルマは、ただただ、薬局職員として一緒にやってきた仲間に囲まれ、心強く感じていた。

 しぼみかけていた気力が戻ってくる。レベッカが手を打ってわざと明るい声を出した。


「エレオノール様を安全な場所に移動させません? 薬局の重要書類の準備ができました」


 レベッカの声が聞こえたのか、エレンの体がわずかに動く。


「んん……ん?」

「エレン⁉」

 

 意識が戻ってきたようだ。処置をしていた間麻酔はかけなかったので、脳への血流が安定すれば意識は比較的早く戻ってくるだろう。エレンは彼女をのぞき込む、薬局職員一人一人の顔を眺めた。その瞳に段々と輝きが、その頬にははっきりと生気が戻ってくる。


「私……生きてるの……死んだの?」


 信じられないといったように、エレンは次第に美しい碧色の瞳を見開く。ファルマがエレンを安心させるように彼女の手に自らの手をそっと重ねる。ファルマもエレンが生きている実感を込めながら返す。


「生きてるよ、エレン。君は戻ってきたんだよ」


 レベッカとロジェが彼女をのぞきこみ、セルストの子供たちにベッドサイドを囲まれる。セルストとレベッカがほろりときたらしく、思わず半泣きになりながらエレンを気遣う。


「エレオノール様、おいたわしいです」

「痛みはありませんか?」

「全然……痛くないわ。ありがとう、助けてくれたのね」

「店主サンのおかげですヨ」

「……ありがとう、ファルマ君」


 ファルマはエレンの声と、疼痛がないと聞いてようやく気が休まる思いだ。彼女の一連の処置こそ無麻酔で行ったが、術後は局所麻酔薬とオピオイドを併用した神経ブロックで術後鎮痛管理を行っていた。ファルマは胸に迫る様々な言葉を一旦飲み込むと、彼女を安心させるように微笑む。そんなファルマの様子を眺めていたエレンは、わずかに口をとがらせた。


「あの……ひとつ、妙な事があるんだけど……夢を見ているのかしら」

「どうした?」

「みんなの顔がはっきり見えるの、眼鏡がないのに」

「あっはっは、それは幻覚デスよ」

「しっかり休んでください、エレオノール様」


 ロジェは笑い、逆にレベッカは心配したようだ。ロジェの言うように、エレンの近視は軸性近視と呼ばれる、骨格に由来する遺伝的なものなので、何かの拍子に治ったりはしない。ファルマがエレンに輸血をしたことによって、エレンの視力が回復してしまったなどということは受け入れられなかった。


(どうやって? ありえない)


 驚いていると、小さな青白い華のような光がエレンの手首に巻き付くように輝いている。彼女の膚の上で咲くそれをよく見ると、ファルマの肩にある薬神紋にデザインが似ているようでもある。


(んん⁉)


 ファルマは自身の腕をまくって薬神紋を確認すると、左肩の先が少し削れているような気がする。彼女に診眼を使うと、エレンの術後の状態は安定しているようだ。

 そして、手首に起こった変化を診眼で看破しようと試みると、新たな神脈が発生しているのが見えた。


「エレンさ、ちょっと指先で輪っかつくってもらえる?」

「どうして?」


 ファルマは興奮をおさえながらエレンが指先で作った輪っかをエレンの目に当てさせる。すると、輪っか越しに見える彼女の眼光が変化したのに気づいた。


「ファルマ君とロジェ君の腕が光って見えるわ」

「青い点みたいに?」

「ええ」

 

 エレンは不思議そうな表情になる。その意味を知るファルマは、ぞわぞわと鳥肌が立つ。輸血のために針を刺した部分の傷口が、点のように見えているのだろう。指先の輪をのけると、光は見えなくなるという。彼は術後のエレンに申し訳ないと思いながらも、一つだけ要求をしてみる。


「穿刺創と言ってみて」

「穿刺創」

「光の色が変わった?」

「ええ、白くなったわ。どうしちゃったのかしら、私の目」

「意識が混濁してるんじゃないデスか? あんなに失血したから」

「エレオノール様、おやすみくださいませ。きっと脳に酸素がいっていないんですよ」

「そうね。私の頭、大丈夫じゃないかも」


 エレンは怖くなったらしくぎゅっと目をつぶったが、それは紛れもなく診眼だった。

 エレンに診眼が宿ったということは自分の能力がなくなったかと一応確認したが、ファルマのほうの診眼もきちんと機能している。見える光は多少薄くなったが、判別できないほどではない。

 素直に考えれば、やはりファルマの持っていた薬神の能力の一部が、エレンに分け与えられてしまったことになる。戸惑いはあるが、考えようによっては能力を継承した相手が彼女でよかったと思う。彼女は今や、豊富な知識と臨床経験に裏付けられた、信頼できる薬師となった。エレンはいったん毛布をかぶったが、はっとして毛布を弾き飛ばした。


「あっ、それからファルマ君、君のお母様が大変なの!」


 ◆


「今頃、あの子たちは何事もなくランブエ市に向かっているかしら……」


 一人、ド・メディシス家の屋敷を守るベアトリスは、誰もいない筈の屋敷の庭園に人の気配を感じていた。エレンとの共鳴神術「破邪狂飆の大神陣」によって、屋敷全体には陣の中心を聖域として風雨で浄化する神術陣がかかっている。並みの悪霊は敷地内にも近づけないはずだ。屋敷の中は安全なはず。

 それなのに、確かに門の外から足音が聞こえてくる。

 彼女は静かに口を結ぶと、三首の神鳥をあしらったダンハウザー家の神杖を携え、身をこわばらせて臨戦態勢に入る。


「”風神の名において命ずる……”」


 先制攻撃を仕掛けようと発動詠唱を保留し気配を殺していると、茂みの陰から見慣れた人物が現れた。


「おっと。私めでございます」


 緊張状態にあり杖を構えていたベアトリスの顔がほころぶ。

 セドリックの姿がそこにあった。


「リュノー⁉ どうしてここに戻ってきたの。私はド・メディシス家の者は誰もこの屋敷に残るなと命じたはずよ、早く逃げなさい!」

「ええ、しかとそう承りましたが、私の今の主は異世界薬局店主のファルマ様でございますので」


 セドリックは不器用に笑って返す。彼は寡黙だがしたたかな男だった。


「ただ戻ってきたわけではありません、ご覧を」


 セドリックは神杖で突き刺した、ネズミほどの小さな黒こげの塊をベアトリスに見せる。


「小動物に憑いた悪霊が土の中へ潜り、こざかしくもお屋敷へ侵入を図っておりました」

「まあっ……気付かなかったわ」

「地上には奥様の神術陣の結界があるようですが、その効果は地下には及んでおりません。お屋敷の周囲を歩いて、私が地中を浄化しておきました」


 セドリックは浄化神術を得意とする土属性の神術使いだ。


「ド・メディシス家の広大なお屋敷は、悪霊にまつわる因縁を鎮めるために建てられたと、ご当家の禁書庫の資料より熟知しております。こういう折をみて、悪しきものが寄り集まってくるのでしょう」


 セドリックは淡々と語る。ブリュノの信頼のあつかったセドリックは、ド・メディシス家の禁書庫の閲覧も許されていたのだった。


「奥様に万一のことがあれば、そのファルマ様に申し訳がたちません」

「平気よ。私には厭というほど神力が残っているわ、だって使わなかったのだものね」


 ベアトリスは可憐な少女のように胸を張る。そのしぐさが可笑しかったのか、セドリックはつられて笑い、慌てて表情を締めた。


「旦那様も奥様も、神力に至るまで倹約家でございます」

「失礼ね」


 セドリックの軽口をベアトリスが受け流す。

 この世界の貴族が一日に使える神力量と生涯神力の上限は生まれつき決められており、その関係は柄杓と水瓶に例えられる。

 大きな柄杓と水瓶を持つ者は、枯渇を気にせず自在に神術を使える。神力と神術の扱いに長けた者は、大領主となる。このタイプの最たる者が女帝で、エレン、ブリュノ、パッレもこの部類に入る。

 小さな柄杓と小さな水瓶を持つ者は、神術の代わりに学芸や技能を磨き、なるべく神術を使わなくともよい道を選ぶ。貴族の中でも、小領主や文官の殆どがそうだ。

 小さな柄杓と大きな水瓶を持つ者は、神力を余らせたまま生涯を終えることになる。

 柄杓が極端に大きく水瓶が小さい者が、ベアトリスだった。


「神力を惜しまなければ、私は負けないわ」

「ですから私も奥様が神力を使い果たさなくてよいよう、微力を尽くすべく戻ってきたのです」


 ベアトリスは生来の神力量の少なさゆえ、貴族の義務としての日々の神術訓練を行うことができない。そのかわり、火事場に備えて神力を大量に消費する大神技ばかりを手札としていた。彼女が負けないという根拠である。


「待って……音がしない?」


 ベアトリスとセドリックが動きを止め、足元に視線を落とす。

 それから間髪入れず、地面にひび割れが起こり始めた。


「何か……よからぬ気配を感じますな。嫌な気配が膨れ上がってゆくのを感じます。屋敷の中枢部ですな」

「あのあたりには……行くわよ、セドリック!」



 ファルマは薬神杖に乗り、ベアトリスの救出のため空から単身でド・メディシス家へと戻ってきた。エレンをセルストの馬車に乗せ、最低限の荷物を積み、薬局職員たちは最寄りの帝国医薬大に避難を促した。


「なんだ、あれは」


 屋敷に戻ったファルマが見たものは……メディシス家の建物を突き破り、膨張するように成長し始めた樹状の構造物だった。ド・メディシス邸の高さを優に上回るサイズの巨大樹、それが突如として現れたのだ。


「母上⁉ どこだ……」


 このままでは埒が明かないと踏んだファルマは診眼を使い、ベアトリスを探す。その構造物の樹冠に、ベアトリスが絡めとられていた。ファルマが救出しようとしたとき、


「”神威の烈風!”」


 ベアトリスは下半身を枝に絡めとられたまま、怯むことなく大神技を繰り出していた。彼女の神技によって複雑に絡まりあった枝は一旦は弾け飛ぶが、ダメージなどお構いなしに成長を続ける。

 地上ではセドリックが、地上を覆いつくそうと拡がる巨大な根を神術陣で必死に抑え込もうとしているところだった。

 ファルマは状況を飲み込めないながら、最善の行動をとる。


「”疫滅聖域!”」


 ファルマは薬神杖に神力を込め、上空から異形を焼き払う。ファルマの神術に触れたなにがしかは光の粒子に分解され、樹木の根本まで削られていった。

 ファルマは空に投げ出されたベアトリスを空中で受け止める。ベアトリスは神力を消耗していたが気力は十分で、大きな傷もなく命に別状はなさそうだ。


「母上、これはどうなったのです」

「呪器、”疫神樹”よ。目覚めてしまったみたいなの」

「”呪器”⁉」


 ファルマはベアトリスを抱きかかえてふわりと地上に舞い降りる。セドリックに襲い掛かっていた根も、ファルマがまとめて焼き払う。


「というのは何ですか?」


 過去、この世界に降りてきた守護神のうち、とりわけ邪悪な神がこの世界に残したもの。それを呪器というのだ、とベアトリスは早口に告げる。

 ファルマは唐突な新語の出現についていけない。


「そんなものがよりによって家にあるなんて……どうして教えてくださらなかったのですか」

「いたずらに怖がらせてはいけないと思ったから……。あの人が禁術で封印していたの、封印は完全だったわ。でも神殿が破壊されて、帝都が悪霊に浸食された状況では持ちこたえられなかったみたい、私もその存在をすっかり忘れていたわ」

「おお奥様、ご無事ですか。ファルマ様、お戻りになったのですね」

「セドリックさん、怪我はない?」

「ええ、なんとか」

「悪疫の気配を感じて萌芽してしまったのよ。この樹が成長しきったとき、おそろしい果実をつけるの。その果実が災厄をもたらすと言われているわ」


 ”疫神樹”はかつてブリュノが禁術を使って封じていたものだという。

 大樹へと変形し無秩序に増殖を続けていたそれに、ファルマは対峙する。


「破壊してしまってもかまいませんよね」

「できるかしら」


「領域限定、”炭素消去”」


 ファルマは疫神樹に飛びつくと、右腕を幹に当てて物質消去で分解しつくした。炭素化合物とみられるそれは、炭素を奪ってしまえば水蒸気となる。ド・メディシス家の中枢で悪夢のような光景を生み出していた疫神樹も、物質消去にかかっては完敗だ。

 ベアトリスはまぎれもなく腰を抜かしてしまった。持病の腰痛が悪化しそうだ。


「まあっ、お前……ど、ど、どうやってあれを!」

「トリックのようなものですよ」


 しかしそれでも消えなかった呪器の本体は、この世のものとは思えないほど忌まわしい形状をした拳大の種子のように見えた。

 ファルマはそれを両手に取り、神力をかけ潰そうと試みた。

 しかし、どれだけ試みても、ファルマをあざ笑うかのようにびくともしない。秘宝と同じ性質を持つものであれば、それは完全な物質ではなく、ファルマの手で破壊できそうにもなかった。

 心配そうに見守るベアトリスとセドリックに、ファルマは告げる。


「……壊せないのなら、肌身離さず持っておくまでです。私が持って神力をかけ続けるかぎり、萌芽しないでしょう。ところで、呪器は一つだけではないのですよね」

「ええ……どこに何があるのか、誰も全容は把握していないと思うわ」


 ピウスが亡くなり生じた大神官の空位。

 それによって生じた世界規模での悪霊の発生。

 追い打ちをかけるように加わった呪器の復活。ファルマは根本的な対策を打たねばならないと強く感じた。


(もう俺の力ではカバーできない。疫滅聖域も限局的だ……やはり大神官を立てないとだめなのか……)


 女帝が背に負った融解陣が、大陸の運命の鍵を握っている。

 融解陣を負った人間が次の大神官になる。大神官は世界各地の悪霊を鎮める特殊な神術を行使し、世界の平和と安寧を維持していた……。


(墓守に選ばれた陛下が仮の大神官として即位すれば、地獄の蓋は閉ざせる……陛下はそれを覚悟しておられた。大神官になったとして、問題はそのあとだ)


 ファルマは、女帝の大神官即位はやむをえないとあきらめた。

 既に各地で発生する悪霊に対抗する決め手はなく、ファルマの手には負えなくなっている。ごく短期間の間に世界各地の悪霊がよみがえり、呪器のようなものの封印が次々解け、人々を襲いはじめ、それが際限なく続くとなると……無理だ。

 ファルマは思考を切り替え、一旦大神官となった女帝の命を守り、世界の崩壊を食い止める方法を猛然と考えはじめる。


(感染症だとすれば、あれを俺に感染させられないか?)


 しかしファルマの体細胞はあらゆる感染を成立させない。一時的に移植したとしても、生着してくれないだろう。だからといって女帝の背にある融解陣を治療してはいけないのかもしれない、それをすれば、また新たなキャリアが生じるだけだ。

 女帝の体内に巣食ったものを、そのままの状態で体外に排出させる方法を考えればいい。


(あの状態を維持したまま陛下から融解陣を切り離せば……呪いは解ける)


 ファルマは二つのストラテジーを考えた。

 一つには、感染箇所を皮膚ごと切除して、それを組織ごと培養し続ける。

 女帝の背には、皮膚を培養してシート状にしたものを移植または人工真皮による真皮再構築によって補完する。確実に切除する方法だが、広範囲の皮膚切除が必要となるために、感染症などの危険が伴う。

 もう一つは、彼女の背にある感染源を転写して、あらかじめ準備しておいた彼女の皮膚細胞に感染させ、細胞ごと異界に隔離する。

 ファルマとしては、断然後者で進めていきたい。


(異界の研究室で培養し続ければ、彼女の背に融解陣が感染しているのと同義だ。隔離できるんじゃないか?)


 異界の研究室は鎹の歯車の中心部に繋がっていて、内部の時間は止まっているか循環している。その研究室の中の培養器の中に融解陣の感染源をセットしておけば、融解陣は維持され続けるし、「その時」を迎えて融解陣が活性化し、女帝を溶かすことはないし、異界で何か起こったとしても、その影響がこの世界に及ぼす効果は少ない。

 異界にいる薬谷完治がどうなるかは知らないが、死の連鎖は止まる。


「急がないと」


 休んでいる暇はなかった。女帝の表皮を一部切り取り、それを他の細胞とともに培養して自家培養表皮を作り、背中を一面覆うことのできる状態まで増殖させるには、細胞増殖のスピードから考えて2~3週間程度必要だ。融解陣はまだ彼女の表皮に留まっている……感染症だとしたら真皮に浸透する前に、やり遂げなければならない。

 ファルマは女帝と接触して融解陣の隔離を行い、再び異界へと向かう算段を考える。

 そして、女帝には大神官への即位を進言せざるをえない。


(その代わり、必ず彼女の命は守ってみせる)


 苦しい決断だが、ファルマが思いつく最善の手段はそれだ。

 

「エメリッヒ、君が備えていたことが今こそ役に立ちそうだ」


 サン・フルーヴ帝国医薬大では、ファルマとエメリッヒ・バウアー主導のもと、風と水属性神術を無菌的に利用した細胞培養のシステムが完成したばかりだった。



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