4章5話 神聖国からの生還と、大秘宝との対峙
朝になって神官たちに見つかったら、神力を回復したサロモンがどんな目に遭うともしれない。サロモンは神殿に住み込み勤務の神官長だったので彼の居場所がないところだが、ド・メディシス家に一時的に匿うことはできる。
とにかくここにいては、サロモンの身の安全が保証できない。
「見回りが頻繁に来ます、せいぜい数時間でしょう」
「ではなおさら急ぎましょう。陸路で帰ると追いつかれるので、飛んで帰りましょう。薬神杖には二人分ぐらいは支えられそうですが、杖自体にサロモンさんは触れないし、俺の腕力ではあなたの体重を支えるのは無理なので……こうしましょう」
ファルマは、ちょうど鉄格子の独房の入り口にかかっているアルファベットのDの形をしている真鍮製の錠前に目をつけた。独房の鉄格子を消すことで錠前を取りはずし、サロモンの足枷を繋いでいた鎖を輪っかにして錠前で束ね、それを薬神杖に通した。
輪の部分に腰かけてもらって、つりさげるようにしてサロモンを運ぶ予定だ。
「これでよしと。その掛け布は防寒に持っていきましょう」
ファルマが鉄格子の一部を消せることを知ったサロモンが、ファルマに頼み事をする。
「ファルマ様、この鉄格子で短い杖を作っていただけませんか」
「あ、はい。でも鉄格子で、杖?」
こう、もっと神杖といえば特殊な素材でできているというかありがたいものだとファルマは思っていた。
「力を増幅させるための晶石こそありませんが、聖別詠唱を唱えて聖別すれば最低限の杖にはなります」
神杖は、神官が聖別して杖にするのだ、とサロモンは言った。その気になれば棒切れでも杖になるらしい。ただ、聖別詠唱は神殿の外部の人間には知られていない。
サロモンが神殿で独占していた秘儀をファルマに明かしてくれるのは、ファルマにとってありがたかったが、口外したと神殿に知られてしまえば、ますますもってサロモンの身が危険だ。神殿からすれば、サロモンを生かしておくわけにはいかないだろう。
「知らないことがたくさんあるなあ……もしかして、その聖別詠唱を唱えたら俺にも杖は作れるのでしょうか」
「人間ならまず修行を積み神官になり身を清める必要がありますが、ファルマ様の御身はもともと清浄なので可能だと思われます。その薬神杖も、先代の薬神様がご自身で作られたものですし」
「薬神は聖別詠唱を使ってこれを作ったのでしょうか」
「半実体の杖ですので、素材からして特別なもののように思えます」
「なるほど」
(薬神杖に関しては、まだ何の素材でできているのかすら分からないからな……)
薬神杖の素材には、ファルマの知っている地球の元素は使われていない。
それに、ファルマが杖を作れたとして、薬神杖固有の神術を発動できるような杖になるだろうかというと、自信がなかった。
「俺も自分で杖を作ってみたいです。この杖、返す約束をしてしまったので」
次も同じような性能が出せるやつを、とファルマは希望する。
「なんとまあ……人間には持てない杖を神殿に返却したとて、何になりましょうか。あなたはこの杖を使って多くの人間を、そして帝都をも救ってきた。あなたにこそふさわしい杖だというのに」
サロモンは嘆かわしいといって額をおさえた。
「今はとにかく逃げましょうか。あ!」
ファルマは独房の窓から出ようとして、その独房の真正面に五人ほど見張りがいるのを見つけた。
夜警の神官が巡回に来て、ちょうど牢のあたりに居ついていた。独房の窓から脱出したら、間違いなく発見されてしまう。
「ここからは出られそうにないです」
二人は錠前のなくなった独房の扉を普通にあけて、独房の並ぶ監獄の通路に出る。
「仕方がありません、階下にある地下神殿の通路を通って脱出しましょう。地下神殿の非常口を通って出れば脱出できます。ファルマ様、申し訳ありませんがここを開けてください」
ファルマは非常階段に続く施錠された鉄扉を消去し、二人で非常階段を下りる。階段をかけ下りながら、ファルマはふと思い出した。
「そういえば、地下神殿には大秘宝があるって言っていましたよね」
「はい」
「ちらっと見て帰ることってできそうです?」
次に地下神殿に来る機会はなさそうだと思うので、せっかく地下神殿を通るのなら一目見て帰りたいという思いはある。
「あと一時間もすれば追っ手がつくと思いますので、ごく短時間でしたら」
「ほんのチラ見でいいんです」
「ここです」
大秘宝がおさめられているという、地下深くの特別な宝物庫に二人で潜入する。
ファルマは厳重に施錠されている大扉の鍵を消去した。
部屋の中央の豪奢な装飾の施された台座に、大秘宝はガラスケースにおさめられて展示されていた。ファルマが部屋の中に踏み込む前に、サロモンは忠告する。
「床を踏みますとファルマ様の神力に床が反応しますので、浮遊して近づいてください」
神殿内部の事情に通じているサロモンの的確な内部情報は、ファルマにとってありがたかった。
「おっと、そういう場所なんですね」
ファルマは薬神杖に腰かけて浮遊して大秘宝に近づく。サロモンは入り口で、見張りを兼ねながらファルマを見守っている。
「大秘宝に触れると反応します?」
「大秘宝は人間にはどうこうできませんから、大秘宝を取りあげた時ではなく、ガラスケースが開けられた時に反応するようになっています」
(怪盗にでもなった気分だな)
「それなら、触れそうですね」
「え? ケースを開けずにどうやって大秘宝に触れるというのですか?」
ファルマは腕まくりをし、ガラスケースを貫通するイメージと共に手を伸ばすと、彼の手は物質をすりぬけガラスを貫通する。物音に気を付けながら中の大秘宝を取り上げ、ガラスケースからすり抜けて大秘宝を取り出す。
「おお……そんなことが! さすがでございます」
ファルマが手にしたもの。
それは、半透明になり秘宝化してしまってはいたが紛れもなく……。
(俺の職員証だ……)
彼の生前の職員証。彼の記憶が正しければ、これを胸ポケットに入れたまま息を引き取ったはずだ。生前の彼、薬谷完治が肌身離さず持っていたもの。
「それはどんな奇跡が起こるんです? 薬神ゆかりの大秘宝ですから、奇跡を起こす筈です」
「と、言われましても。これはただの身分証なんです」
職員証などではなく、何かほかのものと共に死ねばよかった、とファルマは思う。例えば携帯やPCなどだ。電力さえ生産できれば、様々な用途に使えたのに……と無念だ。何でよりによって職員証なんてこっちに来ちゃったのかと彼は溜息をつく。
「いったいどんな機能があるのでしょう」
サロモンがワクワクしながら職員証の使い道を聞くので、
「身分証としての用途のほかは、そうですね。まあ、ある施設の鍵を開いたり……」
研究室のね、と、ファルマは面白くない回答を口の中で補足した。
「ある施設とは、どこにある施設なんですか?」
サロモンはさらに問い詰める。大秘宝の秘密が今、明かされようとしていた。
「ああ、それはこの世界にはないです」
「この世界にはない場所の鍵が開く……なるほど」
サロモンは考え込んだ。
「前、サロモンさん。薬神は聖なる泉の力を使って天上に帰ったと言いましたっけ」
ファルマはサロモンの言葉を思い出した。
「その泉ってどこだと思います?」
「それは私ども教区神官長が閲覧できる聖典には書かれていません。大神官のみ閲覧できる、原典にはあるのかもしれませんが……」
そこまで話したサロモンは、はっとして耳を欹てた。
「声が聞こえた気がします、追っ手がきたようです。ここから出ましょう」
「そうですね」
(この職員証をもっと調べたいなあ……借りて帰ろうか)
ファルマはポケットに入れておいたレプリカを取り出し、見比べた。
(レプリカ置いて帰ったらバレるかな? 半透明にすればバレなさそうだよな)
レプリカのカードは、鉄板に精巧に絵付けをしたものだ。ファルマはその場でSiO2でガラスを作り、カードサイズにし、その上に鉄製のレプリカを置き、鉄を消去する。すると、ガラス板に絵のみが転写される。
そしてさらに、本物に似せるために反射しやすい素材で表面をコーティングをし、神力を含ませ、適度にすりガラス加工を施した。
カードはファルマの神力で輝き、半透明を保っている。
「できた。どうです? 大秘宝とそっくりですよね」
サロモンは呆れていた。
「いやはや、あなたという方は……」
ファルマは両手でレプリカを包み込み、ガラスを透過させてケースの中に戻した。ファルマが手の中に完全に握り込んだものは、ファルマの体の一部となって半実体と化し、集中すれば物体を透過するのだ。
(肉体じゃない体って、便利なこともあるな)
普段、影がなくて苦労しているぶん、存分に半実体の体のアドバンテージを利用する。
「ちょっとお借りするだけです。返す予定です、一時的とはいえ窃盗っちゃ窃盗ですけど……」
ファルマは言い訳のようにそう言う。後ろめたそうにしているファルマに、サロモンはフォローの言葉をかけた。
「そもそも秘宝は全て守護神様のものです。人間がお預かりしているに過ぎないのです」
その時だ。
「こっちから声がしたぞ!」
追っ手の神官たちが押し寄せてきた。武装し杖を構えた神官の一団は、十名。
「あ、もたもたしていて追いつかれてしまいましたね」
ファルマは振り向きざまフードをかぶって顔を隠し、大秘宝はポケットに入れる。
サロモンも、独房の中から持ってきた掛布で顔を隠した。
「賊か⁉ 何者だ!」
「残念だったな、大秘宝には触れはせん!」
暗がりの中で、互いに相手の顔は見えない。ファルマは薬神杖を持っているので多少の発光を隠せはしないが、サロモンの脱獄に気付いて追ってきた者たちではないようだ。
「”氷の矢(Flèche de la glace)”」
追っ手の神官の一人から詠唱が打たれ、無数の氷矢が飛んできた。
(危なっ!)
ファルマは無詠唱で、杖に乗ったまま矢を溶かすイメージで手をかざすと、氷の矢は蒸発する。
エレンの教えてくれた、加熱という水属性神術の一技法だ。しかし無詠唱というものが珍しいのか、相手はファルマがどんな神術を使ったのか理解できない。
「な、なにをした!」
二人の神官が杖の先端を合わせる。攻撃の威力を増す共鳴神技の前動作だ。
「”灼熱の燃焼(Enfer de brûlure)”」
ファルマたちに向けて、大火炎が浴びせられる。
(こんな密室で大火炎系使うのか)
酸素の大量消費で酸欠になったらどうするんだ、と思いながらファルマは薄い水の壁で防ぐ。
「退いてください!」
ファルマはサロモンに鋭く呼びかける。
「敵は水属性だ!」
神官たちは叫んだ。
「ここは私にお任せを」
サロモンは杖を構えて真横に駆け抜け、鉄格子で作った即席の杖で石床に直線を引く。サロモンの神術によって神力を与えられた床石は床から浮き上がる。
「ゆけ、”大地の怒り(Colère de la terre)”」
指向性を与えられると、一斉に床石は神官めがけて飛んでゆく。
「うわあっ!」
水属性の神官が氷の防壁を展開するも、薄い防壁は易々と打ち砕かれる。
「土属性の上位神術使いだ!」
サロモンが意識的に彼らに命中はさせなかったが、その威力はすさまじく、大神殿の柱が数本破損した。十分な威嚇にはなったようだ。
「悪いが、沈んでもらおう」
サロモンはそんな一言とともにぐっと神力を杖に込め、鉄杖を神官たちに投げつけた。杖は神官たちの前で石床につき刺さる。そのタイミングを見計らい、サロモンは発動詠唱を打つ。
「”流砂世界(Espace du sable de dérive)”」
杖を一本失うが効果は抜群の、土属性の高等神技を放った。
詠唱と同時に神殿の床が脆く崩れ、瓦解し細かい砂になってゆく。更に細かく分解され流砂と化した。
「う、うわあっ!」
「これは!」
神官たちは逃れようとするが、術の領域を標す白線が床上に刻まれる。
白線の内側の砂地獄に脚を捕らわれ、神官たちは一人残らず足場を失い、階下へと滑り落ちていった。
「そう簡単には上がってこれますまい」
サロモンは杖を失ったが、相手はきっちりと行動不能にした。
「あの、彼ら二度と出られないとかじゃないですよね」
ファルマは薬神杖を持って浮遊したまま、床にぽっかり空いた大穴から階下を覗き込む。
神殿から逃走するために神官を砂の中に生き埋めにしてしまうつもりはない。診眼で暗闇を見ても、打撲程度しかダメージはなさそうなのでファルマはほっとした。
「ああ、問題ありません。地上へ通じる通路はあります。一日もあれば出られるでしょう」
「一日……!」
ちゃんと出られるのかな、とファルマは心配するが、穴が開いているのでそのうち救援が来るだろう。
「こうしてはいられません、私たちも脱出せねば。出口はこちらです、ファルマ様」
「サロモンさんって、結構やるときはやる人ですよね」
「これでも、元異端審問官ですからな。可能ならどんな手でも使いますよ」
サロモンはファルマを手引きし、長い地下用水路に沿って歩く。明かりひとつない暗闇の中だったが、薬神杖を持ったファルマは薬神杖の効果で自然と発光するので照明がわりになった。そして彼らは遂に出口を見つけた。
「第六地下水路です。神聖国の大神殿の南東出口になりますな」
二人が地下用水路と地上水路を繋ぐ扉を開けると、明るくなり始めた空が見えた。
「では、飛びますよ」
ファルマは薬神杖とループ状の鎖を錠前を介して接続し、サロモンを杖からぶら下げた。
「重くないでしょうか」
サロモンは不安がる。
「全然いけますよ」
薬神杖の浮力がファルマの神力である限り、何十人でも運べる自信がある。
「ひいっ!」
朝日が昇るとともにファルマは空へ急浮上し、そのまま加速してゆく。
どんどんと小さく遠ざかってゆく神聖国。高所恐怖症のサロモンは下を見ないようにずっと上を見ていた。
こうして、冬空の寒さに耐えられなくなれば地上に降り、何度かの休憩をはさみながら、数時間後には無事サン・フルーヴ帝都へと帰り着いたのであった。
そして、彼はメディシス家の窓から、倒れ込むようにして自室に戻った。
…━━…━━…━━…
「薬神は既に皇帝に見出されていたか……サロモンめ、隠し立てをしおって」
大神官ピウスは、サン・フルーヴ帝都守護神殿の神官長、コームから送られてきた伝書鳩での手紙を片手で握りつぶした。コームからの報告によれば、薬神憑きの少年は薬神杖を持っていて、サロモンとの面会を条件に薬神杖を返すと言っている。そして、神聖国へゆくのは構わないが、自らが主治薬師を務めている皇帝に挨拶をしてから正式な手続きを踏んで行く、とのことだった。
「その場合、薬神を神聖国へおびき寄せ、そのまま大神殿に封印することはできそうにない」
「神聖国が薬神一柱のためにサン・フルーヴ皇帝と帝国全土と事を構えるのでは、割りに合いませんな」
ピウスに手紙を取り次いだ枢機神官長が嘆息する。皇帝、エリザベートII世は全ての階層の帝国民から慕われている。国内で皇帝の権力を脅かす敵対勢力も、継嗣問題も特にないので、間接的に皇帝を脅迫することもできなかった。
神脈閉鎖という最終奥義を持つピウスは、皇帝との一対一での戦闘を怖れはしない。
だが、皇帝を慕う帝国全土の神術使いを敵に回すとなると、少々骨が折れる。
薬神が皇帝のお気に入りとなれば、そうそう簡単に大神殿におびき寄せることもままならない。
「足を踏み入れただけで守護神殿全体が発光したそうだから、このたびの薬神の神力はとりわけ強いようだ。それに、降臨期間も非常に長い」
「ほう……それほどまでの神力を持っていた守護神は過去に例がありません。歴代の守護神であっても、一部が発光する程度です。一度、薬神の順番が抜けましたが、その反動でしょうか」
かつては入れ代わり立ち代わり地上に降りてきていた守護神。守護神が地上に降臨する順番は、だいたい決まっている。この守護神が下りたら次はこの守護神が来るというのも周期を計算すれば推測できる。だが、前回は薬神が降臨せず、スキップして次の守護神が降臨してきた。ピウスは前例と合わせて、こう推測した。
「二柱分の神力を持って降りてきたのだろうか……もしくは、守護神が長らく降臨しなかった期間に天上に溜った神力を全て集めて降りてきた」
「それは野放しにしておくには惜しいですな……ただでさえ守護神の降臨が珍しい時世ですので。次、いつ降りてくるかわかりませんし」
「薬を創り、人を癒すことしかできない薬神に、何故そんな神力が……」
「その薬神の神力を完全に搾り切れば、”鎹の歯車(Cramp machinulis)”を大きく巻き戻すことができますな。ああ……その神力を無駄遣いさせるのも惜しい」
「ああ……時間が稼げそうだ。問題はどうやって神力を搾り取るかだ、守護神は気まぐれだ。世界の存亡を意に介してもおらん」
大神殿が歴代の守護神の神力を集めているのには、とある事情があった。
だが、とにかく、薬神が薬神杖を大神殿まで返却しにくるということは約束されている。
何故、薬神がサロモンにこだわるのかピウスには疑問だったが、サロモンという神官が交渉カードとして使えるのならば、使わない手はない。ピウスはそう考えた。
「サロモンから目を離すな。自殺などさせ……」
そう言い終わりもしない時だった。
あわただしくやってきた大神殿聖騎士団長が、大神官室の外から驚愕の事実を告げた。
「大神官様! サロモンが脱獄しました!」
看守をつとめていた聖騎士の報告を伝える騎士団長に、枢機神官が吠える。
「なんだと⁉ 神脈の閉鎖は完全だったというのに、何故脱獄ができる!」
「窓の鉄格子がはずされていました。また、錠前もなくなっており……。申し訳ありません!」
「探せ! まだ神聖国の門は出られない! そう遠くには行けない筈だ」
その日、神聖国は神官総出でサロモン捜索のために大騒ぎとなった。
しかし、サロモンが見つかることはなかった。土属性と水属性の二人組の賊が地下神殿に入ったという報告はあったが、大秘宝も無事で特に盗難もなかったことから、夜警の神官が譴責を受けるにとどまった。
「これだけ探してもいないということは、サロモンは自殺したのではないか……」
「サロモンが行方不明になったと知ったら、薬神は怒り狂うだろうか」
ピウスの頭痛の種が増えた。これでは、薬神を神聖国に呼べない。
…━━…━━…━━…
ファルマとサロモンが帝都に戻って二日後。
帝都の守護神殿のコーム神官長の使いの神官が、メディシス家に神聖国からの親書を携えてやってきた。
「大神殿の判断を仰いだ結果、暫くは薬神杖を所持されていて構わない、ということになりました」
気まずそうな顔で報告する神官にファルマは驚いた顔で、
「えっ、どうしてですか? 陛下に報告をして、旅程を組もうと思っていたのですが」
と、すっとぼける。
「サロモンが少し、体調を崩しておりまして。すぐにお会いできないと申すものですから」
「深刻なんですか? 神脈を閉鎖されて、体を壊してしまったとか」
いかにも気の毒だ、といったような顔をするファルマである。
「いえっ、決してそのような。それでは、また大神殿から連絡がありましたらまいります。失礼いたしました!」
神官が逃げ帰るのを見届けた後……ファルマは背後を振り返った。
私服を着たサロモンがゆっくりと現れた。
「だって、サロモンさん」
「そのサロモンとやらの体調は、永久に回復しないでしょうな」
二人は顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。




