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【完結済】異世界薬局(EP4)/【連載中】世界薬局(EP4.1)  作者: 高山 理図
Chapitre 4 治療医学・予防医学・錬金術 Médecine, Médecine préventive, Alchimie (1147年)
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4章4話 神聖国への潜入

本日は2話同時投稿しています。前の話を読んでいない方はご確認お願いいたします。

 神殿前の様子を見ていたエレンとファルマは、いつも神殿で見かける熱心な信者の一人が神殿から出てきたので、呼び止めた。

「あ、異世界薬局の店主様。ボヌフォア様も」

 信者の老女は薬局をかかりつけにしているので、ファルマの顔を見知っていた。エレンとも知り合いである。

「こんにちは。神官長様は、交代されたんですか?」

「そのようですよ。つい一週間前のことですね」

「交代の理由は?」

「なんでも、前の神官長様が神殿への反逆を起こして……投獄されたとのうわさです。新しい神官長は大神殿から直接派遣されていらした方のようです」

 あくまで噂ですがね、と声をひそめて老女は打ち明けた。前の神官長さん、よい方だと思っていたのに残念です、と彼女は首をふった。

「何の反逆ですか?」

 ファルマがさらに問い詰める。

「さあ、そこまでは……」

 老女は詳しい事情は知らないようだった。


「背信ではなくて反逆というと、かなり罪が重いわ。死刑か神脈の閉鎖ぐらいやられるかも」

 どうやら深刻そうね、とエレンは更に沈鬱な表情になる。

「それ、もしかして俺のせいなんじゃないかな」

 ファルマはぽつりとこぼした。

 これだけ帝都で大っぴらになっているファルマの存在、その正体が、どこから大神殿に漏れても不思議ではない状態ではあった。その情報が大神殿へ伝わらないよう、サロモンが情報を根こそぎ握りつぶしていたというのは、エレンも知るところだった。それでも、風のうわさなどが広まり、サロモンも隠し切れなくなったということなのだろう。

「前に、影のない子供を探せって指令が大神殿から出てたんだし」

「どうなのかしらねえ……」

 エレンも、ファルマの存在が大神殿に気取られるのは時間の問題だとは思っていた。考えても仕方がないことなので、考えないようにしていたのだが……。

「でも、場合によっては死刑って、そこまでやるのか? 宗教団体なんだろ?」

 ちょっと無慈悲すぎるんじゃないか、とファルマは糾弾したい。

「神殿組織ってものすごい縦割り社会だし、神脈の開閉をいじれる立場にある神官長の裏切りには、特に厳しいのよ」

 それを聞いたファルマは腰の薬神杖に手をかけた。

「反逆者扱いされた原因はこれかな……秘宝がなくなった罪は重そうだよな……」

 反逆という言葉はあてはまるだろう。

 よく手になじんだ薬神杖は、ファルマの神力を含んで輝いていた。ファルマの神術に耐え、さらなる力を引き出してくれた、この世にたった一振りの特別な杖。愛着がないというと嘘になるし、他の杖には代えられない。それでも、ファルマは杖がなくても一通りの神術は使えるし、サロモンを釈放してもらう方が重要だった。人命にまさるものではない。

 ファルマは迷わなかった。


「この杖、神殿に返すよ。サロモンさんに貸してもらっているものだし、秘宝をなくしたことで嫌疑がかかってるんだろうから」

「でも、薬神杖はあなたにしか使えないのよ? 宝の持ち腐れじゃない。許可をもらって所有させてもらった方がいいわ」

 使えないものを返したって……と、エレンは渋る。大神殿からすれば盗難に遭ったような状態になっていることは否めない、とファルマは言う。

「サロモンさんの厚意で使わせてもらっていたけど、大神殿は知らないわけだし、俺が占有するのもまずいと思う。返却して、それと引き換えにサロモンさんの釈放をお願いしてくるよ」


 ファルマは腹を据えて、サン・フルーヴ帝都の守護神殿へと乗り込んでいった。サロモンが神官長を務めていた時とは、神殿の空気が一変していた。「一人で行くと危険よ」と、エレンもついてきた。ファルマが一歩神殿に踏み込むと、神殿の床が青白く脈打つように発光する。

 ファルマの神力を床材が検出し、神殿全体が聖域と化す瞬間だ。

「えっ?」

 それを見たエレンは絶句する。まさか、神殿がファルマに反応して光るとは思わなかったのだ。

「そうなんだよ。凄いよな、神殿」

「これじゃ、隠そうったってすぐ見つかっちゃうわねえ……」

 ファルマに対する神殿の反応を見たのは初めてだったので、エレンは驚いていた。エレンのリアクションに構わず、ファルマは新任の神官長を探す。礼拝堂にいないことを確認すると、彼はまっすぐ神官長室へと踏み込んでいった。エレンも後から続く。神官長室の扉の中から光が漏れている。新しい神官長は在室のようだ。ファルマは声を張って呼びかけた。


「こんにちは、お忙しいところ失礼いたします。神官長様、少しお話をさせていただけませんか」

「なっ、何だ!」

 新しい神官長は、ピリピリしながら杖を構えてドアを開けて出てきた。

 神殿全体に異変が起こったので、警戒したのだ。おそらく、神力を検出して燃え盛る燭台の炎も炎上していただろう。しかし彼は薬神杖を持ったファルマと発光する神殿の床を見て、全てを理解したようだった。彼はファルマを頭からつま先まで眺め、満面の笑みを浮かべた。

「これはこれは。こちらからご挨拶を申し上げようと思っていましたが、そちらからいらっしゃるとは、光栄です」

 新神官長は眼鏡をかけた中年の男だった。

「お初にお目見えいたします、私は新しく赴任した神官長のコームです。お見知りおきを、薬神様」

「薬神ではなくてファルマ・ド・メディシスと申します。私のことをお探しだと思ったので、これをお返しに来ました、長い間お借りしていて申し訳ありませんでした」

 薬神杖を両手でコームに返すが、コームは受け取ろうとしない。

 そして、彼はこういうのだった。


「おそれいりますが、大神殿に直接来て戻していただけますか。私ども人間には持てませんので」

 コームの言葉に、ファルマは違和感を覚えた。

「失礼。大神殿というと、神聖国にですか?」

 エレンがコームに確認する。帝都を簡単に離れるわけにいかないファルマは、それは都合が悪い。

「鞘がなければ持てないかもしれませんが、鞘を持てば杖に触れなくても誰でも持てます。ここにお返しするのではまずいでしょうか」

 薬神杖は有機物をすりぬけるので、人間には使うことも直接持つこともできない。だが、無機物の箱などに入れれば持ち運びができるということは分かっていた。そうやってサロモンは杖を薬局に持ってきたのだ。ファルマだっていつでも薬神杖を手に持っていたわけではない。石の床に置いたり立てかけたり、鞘に入れて腰に佩いたりしていた。


「それでも、直接大神殿にいらして、あなたが所有しておられた事情を説明してくださるとありがたいです」

 大神殿という言葉に、ファルマは警戒した。守護神が憑いていると分かれば、大神殿に拘束されるかもしれないとサロモンが言っていたからだ。守護神がどうこうはさておき、神聖国に行けばややこしいことになるのは目に見えていたので、ファルマとしてはご免こうむりたいところだ。

「神聖国にまで行くのは、彼も仕事があるので難しいです……」

 やけに大神殿に来てくれと言うんだな、とエレンも不審に思ったようで固辞しようとする。

「サロモンさんにお会いしたいのですが、今どこにいらっしゃいますか? 大神殿に行けば会えますか?」

 ファルマは慎重に言葉を選ぶ。

 一旦神聖国に出向く構えをみせて譲歩し、サロモンの居場所を聞き出さなければいけない。

「はい、お会いできると思います」

「サロモンさんはお元気にしておられますか?」

 コームの視線がコンマ数秒泳いだのを、ファルマは見逃さなかった。そこでファルマはすかさず釘をさした。

「御存命ですよね?」

「ええ、もちろんです。一連の責任をとらせるために、神脈は閉鎖されたと思いますが……」

「そんな……神脈の閉鎖だなんて」

 エレンはサロモンに同情した。神力を失ったサロモンは平民として神殿からはじき出され、悲惨な境遇が待っているに違いない。ファルマはコームにこう言い放った。

「伝書鳩を神聖国に飛ばしてください。薬神杖を返還し、サロモンさんに会うために神聖国に行きますと、そうお伝えください。もしサロモンさんに会えないのでしたら、俺は神聖国に行きません」

 こう伝えておけば、たとえ死刑が決まっていてもすぐには処刑されまい。サロモンは人質にとられているようなものだった。ファルマにとってサロモンはよき理解者だった、彼を庇いたい気持ちがこみあげてくる。


「承知いたしました。馬車は私どもで手配します」

 コームは、ファルマの神聖国行きを急ぎたがっていた。

「行きはいいとして……ファルマ君、どうやって帰ってくるの? 薬神杖がなければ、神聖国から戻ってくるのに馬で一週間かかるわよ」

 何かあってはいけないから、私もついていくわ、といってエレンは心配する。ファルマはエレンの心遣いに感謝した。そこでコームに尋ねる。

「診療が一段落ついてからでいいでしょうか。私もたくさんの患者を抱えています、私が不在にすると命にかかわる患者もいます」

 その患者の中には、化学療法中のパッレもいる。パッレはもうある程度自分で判断して薬を使えるようになっているが、それでもファルマが傍にいないことには様々な感染リスクに曝され、すぐに感染症にかかってしまうだろう。

 サロモンの命も大切だが、パッレの命も、そして彼が受け持っている患者の命も大切である。

「一週間程度ならお待ちできます」

 コームは譲歩した。そのあたりは、多少柔軟に対応してくれるようだ。

「では、神聖国に行きます。秘宝を勝手に使わせていただいていて申し訳ありませんでした」

「なに、あなたが気にやまれることはない。サロモンの責任です」

 コームは上機嫌で頷く。しかし直後、ファルマの次の発言に凍り付くことになった。


「ただ、エリザベート皇帝陛下にお伝えした後にまいります」

「な、何故皇帝陛下に……皇帝陛下が何の関係があるのですか」

 喜色満面だったコームの顔は青ざめ、狼狽した。

「着任されたばかりでご存じないと思いますが、私の経営している薬局は、帝国出資なおかつ帝国勅許の店です。陛下に報告をせずに、私が国外に出ることは禁じられております」

「なんですと……!」

 サン・フルーヴ帝国というと、現在世界で最も力を持つ大帝国、その帝国に君臨する皇帝といえば、それはもう絶大な権力を持っていた。

 今、サン・フルーヴ帝国と真っ向から戦争をして勝てる国家は、世界中のどこにもない。それは、神術の秘儀を独占し世界の覇権を握っているとされる神聖国も例外ではなかった。神官たちがサン・フルーヴ帝国貴族全員の神脈を閉鎖し無力化したとしても、平民兵の兵力差だけで、小さな神聖国などすり潰されてしまう。それほどの軍事大国でもあった。

 その、泣く子も黙る皇帝に一言ことわってから正式に出国という運びになると、神殿といえどファルマを無事に返さないわけにはいかなくなる。一人ぐらいいなくなっても問題にならない、神殿の権限でどうとでも消してしまえる「ただの薬師」、ではなかったのだ。

 愕然とするコームに、エレンはとどめをさした。


「と同時に、彼は筆頭宮廷薬師。つまり、陛下の主治薬師でもあり、数日はともかく簡単に陛下のおひざ元から離れることはできませんの」


 主治薬師というのは、国でもっとも信用されている立場にある薬師である。

 この女帝は気が短いことで知られている、筆頭宮廷薬師を勝手に神聖国に奪われては、逆鱗に触れるだろう。

「さ、さようでございますか……」

 コームの顔が引きつった。皇帝の名前が出て恐れをなしたのだ。薬神憑きが自分からのこのこ神殿にやってきてこれ幸いと思ったら、一筋縄ではいかなかった。

 彼の考えていた以上に、ファルマの帝国内での立場は確固としたものだったのだ。

「だっ……大神殿に判断を仰いでみます」 

 ひとまず、ファルマの大神殿行きは保留になり、その判断が下るまでは薬神杖はファルマが所持していてよいということになった。


「サロモンさん、神脈を閉鎖されたって言ってたよな」

 神殿から帰る途中、ファルマはエレンに確認する。

「酷いことをするわね……サロモン神官長にとっては、死ぬより辛いと思うわ」

 はっきり言って、神術使いとしては再起不能の処遇である。

「神脈って、開閉できるんだっけ」

「そうだけど、二度と開けないようにする方法もあるみたい……さっきの言いようだと、やられたのはたぶんそっちね。ものすごく不名誉なことだから、早まって自殺なんてしないといいけど……」

 誇り高い神官長だから、その方が心配だわ、とエレンは頭を抱えていた。


 その日の夜……屋敷に帰ったファルマは眠れなかった。自分のせいでサロモンが神官長の立場を追われ、神脈まで閉鎖され、今どんな待遇を受けているか分からない……。

 どうすればよかったのか分からないが、彼を巻き込んでしまったことに責任を感じた。

「俺が神聖国に入ったら、何か起きるかな」

 日頃から交わしてきたサロモンの言葉を思い出す。

 夜闇に紛れて、大神殿の大秘宝を見に行くといい、それは可能だと言っていた。サロモンからすれば、警備の手薄な夜ならば潜入はできなくもない、という認識だ。ファルマの存在を鋭敏に暴きだす神殿であるが、床に直接触れなければ、神殿は反応しない。つまり、床に足をつけたり、壁に手をついたりしなければいいのだ。

 コームが、ファルマの存在を知らしめるべく伝書鳩を帝国から神聖国に飛ばしても、まだ手紙は神聖国に着いていないだろう。その間に、サロモンの身に何かがあったら……そう思うと、悠長に寝てなどいられなかった。

 ファルマはベッドから起きて薬神杖を握り、窓を開けた。

「乗り込んでいこうか」

 彼の無事を確認したかった。

 サロモンがどこにいようとも、どんな場所に閉じ込められていようと、診眼を使えばサロモンを神聖国上空から一瞬で見つけ出せる自信はあった。

 なぜなら、サロモンには先天性の異常がある。診眼では見えていたが、日常生活に支障はないので特に気にしていなかった。サロモンの特徴は、およそ七千人に一人。

 神官の数からして、神聖国では一人しかいないであろう。

 彼は、すべての内臓の位置が正常とは逆の、完全内臓逆位であった。


 …━━…━━…━━…


「サロモンさん」

 深夜。雪に閉ざされた神聖国の収容所の独房の中で、寒さに身を震わせながら薄い掛布にくるまっていたサロモンは、窓の外から小さな囁き声を聴いた。

「何者……っ!?」

「ファルマです」

 格子のはめられた窓の外を見ると、薬神杖に乗り、浮遊している少年がいる。闇に紛れ、ファルマが収容所の窓の外にまでやってきたのだ。

「おお……こ、これはなんとしたこと……ファルマ様」

 サロモンは、ファルマの出現に驚愕する。

 どうやってここまでやってきたのか、なぜサロモンが投獄されていることを知っているのか、考えてもただただ理解不能だった。

「事情は殆ど知りません、ですが、俺のせいでこんなことになったのではと……そう思って」

 帝都から神聖国までは、かなりの距離がある。

 ファルマは飛翔を使って薬神杖を使ってひとっとびにして来たのだ。ファルマは冬の上空を飛ぶために、かなり厚着をしてきた。それでも、体が冷え切ってガタガタと震えていたが。

「どうしてここが分かったのです?」

「あなたには少し、特徴がありましてね。心配しました、無事でよかったです」

 ファルマは種明かしをしつつ、無事を喜ぶ。予想通り、神聖国上空から完全内臓逆位の人間を探してみたら、一人しかいなかったのだ。

「こ、こんな取るに足らない男の事を……申し訳ありません」

 サロモンは嬉しいやら、申し訳ないやらで男泣きに泣いた。

「サロモンさんにはお世話になっていますし、とるに足らないなんてことないです」

「ありがとう……ございま……」

 サロモンは恐縮して、最後は言葉にならなかった。


「この房の中に入ったら、何か特殊な術で俺の存在を検出されてしまいますか」

「いえ、この独房は杖を取り上げられた神官を留置する場所で、そういう素材ではできていません」

 ファルマは鉄格子を消去の能力で消して、小窓から身を滑り込ませて独房の中に入った。

 さらにサロモンを戒めていた鉄製の手錠、足枷を消去する。

「こっ、これは何の神術ですか?」

 サロモンは驚いたが、ファルマはもうサロモンに手の内を見せたとしても構わなかった。彼は信用できる男だった。

「それにしても……私は本当に神術使いではなくなったとみえる。あなたの神力を感じることができなくなってしまいました」

「やっぱり神脈を閉鎖されたんですね。もう一度開くことはできないのでしょうか」

 ファルマはやるせない気分になる。サロモンにとっては取り返しのつかないことになってしまった。

「閉じ方によります。……私がかけられたものは、三日経つと二度と開かないものです」

 サロモンはうなだれた。もう、術をかけられて五日目だという。


「神脈を開く詠唱を教えてくれませんか? やってみます」

 ファルマは試してみたいと思った。

 時間を経て閉じるのであれば、薬神杖で無理やりこじ開けられはしないだろうか。そう考えたのだ。

「無理なものは無理だと思いますが……」

「やってみたいんです。教えてください」

 ファルマはサロモンの長詠唱を復唱して、最後に発動詠唱をしかけた。


「”聖泉の湧出(ゆうしゅつ) ”」


 薬神杖の先端をサロモンの胸に当て、ファルマはサロモンに神力を戻すイメージを与える。神脈の開閉は、頭か心臓に杖を当てて行うのだそうだ。心臓の方が開きやすいという。

「……だめです、ね」

 とはいえ、そう簡単には開くものではなかった。神脈の開閉の術式は完成したもので、綻びが見つからない。

「そうだ! 杖を突っ込んでみますね」

 ファルマは思い立って、杖の先端でサロモンの心臓をひと思いに突き刺した。

 内臓逆位なので、右側に刺す。

「ひっ」

 薬神杖はどこに刺しても人体を傷つけず貫通することができる、というのはファルマは知っていた。だから、直接心臓に刺してみたら神力を呼び込むことができるかと思ったのだ。

 突き通したまま、ファルマが同じ長詠唱を繰り返す前に、青白い閃光が迸った。


「ふおおっ⁉ これはあっ!」

 今度は事情が一変した。ファルマがサロモンの神脈を開こうと念じた瞬間から、サロモンに神力が戻りはじめたのだ。

 そして、彼には神力がみなぎり、どこからともなく以前を上回る力が流れ込んでくるのだった。


「きっ、奇跡です……ありがとうございます」


 サロモンは開いた口がふさがらなかった。ついでに、神脈も開きっぱなしだった。サロモンが欲しただけ、神力が湧きあがってきた。杖を持たなければその威力は実感できないが、ただごとではないというのはサロモンにも分かった。


「よかった、神力が戻って。無理やりこじ開けたからもう閉じられませんよね」

 また閉ざされてしまっては困るが、それは心配いらないようだった。

「はい、無詠唱で開かれたので、閉じる詠唱がありません」

 神脈の開閉の詠唱は、閉じるときと開くときで一対の詠唱を成している。片方が無詠唱だと、閉じるときも無詠唱でなくてはならない。つまり、ファルマにしか閉ざせないのだ。


「朝になる前に逃げましょう」

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