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【完結済】異世界薬局(EP4)/【連載中】世界薬局(EP4.1)  作者: 高山 理図
Chapitre 3 異世界薬学と現代薬学 Pharmacie d'un autre monde et pharmacie moderne (1146-1147年)
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3章14話 血液学的完全寛解

 それから二日が経つ頃には、パッレの肺出血は落ち着いてきた。

 ファルマの献身的な看病と、おそらくは薬神杖の秘術の効果もあって、パッレは酸素吸入を必要とせず呼吸することができるようになっていた。どうやら、準備しておいた輸血をするまでではないようだ。

 それでも、貧血のせいでちょっと立ち上がるだけでもぜいぜいと息切れがして、清潔を保つため風呂に入って戻ってくるだけでもパッレにとっては一仕事だった。

 容体の急変があってからは、ファルマはパッレのもとから離れないように心掛けた。パッレに付き添っている間、ファルマは薬局を閉めず、エレンと一級薬師に任せた。異世界薬局では薬の処方記録をつけているので、慢性疾患の以前と同じ状況の患者には同じ薬を。その日に訪れた新患や調子の悪い急患は、ド・メディシス家に送ってもらった。感染症の持ち込みのリスクを考えて、患者は隔離した部屋で診療した。

 メロディ尊爵は、発注から一日で銅を加工してボンベを納品した。インジゲーターは取り付けてないが、ファルマの物質構築能力によってボンベ内の絶対圧やゲージ圧は計算できるし、流速も診眼を通して計算できるので問題なかった。バルブも指定した通りに作ってきた。ファルマが液体酸素を充填し、診眼を使いながら酸素を流してゆくと、それは立派に酸素ボンベとして機能した。これで、パッレは苦しい時には自分で酸素マスクを使えるようになり、ファルマがぴったり張り付いていなくてもよくなった。

 パッレの病室への面会の人数も制限した。

 一日一回まで、家族のみ。疫滅聖域で屋敷全体を浄化しているとはいえ、使用人たちの屋敷の内外への出入りが激しいので無菌状態も破られる。だから、基本的にパッレには自室から出ないでいてもらった。窓の開閉も制限という、厳しい管理体制だ。

 パッレは何故そうしなければならないかというファルマの合理的な説明を聞いて、納得して受け入れた。

 ブランシュや母が、毎日一回、一人ずつ交代で面会にやってくる。マスクや保護衣などの完全防備でだ。パッレは母や妹の前では「たいしたことないから」と、病状を軽く装ったり、強がったり、冗談を言ったりして余裕を装った。


 薬局を閉めた後、エレンがパッレの病状を聞きに見舞いにやってきた。

「パッレ君、調子はどう?」

 大きな花束とパティスリーで注文した豪勢なケーキを持ってきたエレンだが、生花は感染リスクから病室に入れることはできないので、玄関に飾ることになった。ケーキも生のフルーツを使っているので、家族がいただくことになった。手ぶらになってしまったことを申し訳なさそうにしながら、エレンが病室に入る。

 エレンは馬に乗っているので、感染を防ぐために服を全部着替えて、手を消毒し、靴も履き替えてこの場に臨んだ。

「ああ、順調だ。悪いな、ファルマを借りて薬局を仕切らせて。薬局に出勤しろと言っているのに、どうしてもといってな」

 パッレは、ファルマに「大丈夫だから出勤しろ」と何度も伝えたのだが、ファルマは頑としてパッレのもとを離れようとしなかった。容体の急変があるから、そうなって駆けつけても間に合わないから、といって。

「ううん、いいのよ。ファルマ君がパッレ君のもとにいてあげたいんだろうし。こっちは何とかやってるわ。治療は辛いのかしら?」

 想像もつかない、白血病治療の苦しみ。点滴に繋がれたパッレは痛々しく、エレンはパッレの身を案じる。

「まあ、思っていたよりはたいしたことないぞ。余裕綽々だ」

 パッレはあっけらかんとして言った。

「そうなの⁉ ファルマ君は大変そうに言っていたけど」

「あいつは大げさだからな、まったく」

「そうなのね、……ならよかったわ」

 エレンはパッレの強がりの言葉を真に受けた。エレンは相手の嘘に敏感な部類に入る。だが、それでもパッレの内心を見抜けなかったのは、パッレの演技が巧妙すぎたからだ。

「おう、早く快復してお前との決着をつけないとな。こてんぱんにしてやるぞ、はーっはっは!」

「そんな大笑いする気力があるなら、大丈夫そうね」

 エレンはほっと胸を撫でおろした。

「じゃ、頑張ってね。元気になったら決着をつけましょ」

 エレンがドアを閉めると同時に、パッレはベッドの上に崩れ落ちた。長い時間話していて、消耗したようだ。

 別室で患者の診療をしていたファルマが、消毒を終えてエレンと入れ違いに病室に入ってきた。

「兄上、息が苦しいんだろ。笑い声が下の階まで聞こえてたぞ。あんなに大声で喋ったら息切れもするよ」

「まあそう言うな、強がりぐらい言わせてくれ」

「強がりすぎだ、エレンは心配してたんだぞ」

「ド・メディシス家の男子たるもの、女子供の前で弱音を吐いても仕方がないからな」

 これが大貴族の嫡男としての誇りと自覚なのか、とファルマは彼の生き方を見た気がした。


 治療開始七日目の朝、パッレは病室兼自室でどろどろに煮込まれたスープを喉に流し込んでいた。パッレに供されていたのは生の食物、香辛料、油脂、乳製品の抜かれたメニューだったが、それは感染症や消化管への負担を軽減させるためである。

「抗がん剤投与中は、食事にまで気を使うんだな」

 長引く治療に、パッレは憔悴しきっていた。飲み物も生のジュースではなく、生ものを避けて湯冷ましの水、あるいは生成水である。ベッドで過ごす生活が続いたために、脚の筋力も衰えてきていた。

「感染しやすくなっているし、用心にこしたことはないからね」

 ファルマもパッレと同じ食事を、同じ病室でとる。それはパッレへの気遣いのためだ。そういえば、抗がん剤による白血球の減少とともにほとんど起こるといっていい、パッレの感染は免れていた。

 ファルマの聖域の中に取り込んでしまえば、細菌感染のリスクは極度に低下している。

「お前まで付き合って同じ食事をとることはないぞ。ちゃんと食べろ、肉も魚も。倒れてしまう」

 そんなところまで気を使うな、とパッレは苦笑する。

「疲れているだろうから、昼間はしっかり寝ているといい」

「それがあまり疲れてないんだよ。父上のポーションが効いているんだ、どうしたことか……」

 ブリュノの栄養ドリンクは麻薬でも入っているのではないかと思うほど、効果覿面だった。それを聞いたパッレは、何を当り前なことを、と妙な顔をする。

「ああ、父上の薬はよく効くからな。大陸で一番効くと言われている、俺は父上のような薬師になるのが目標だった。だが、目標が変わった」

 そういって、彼はもくもくと味気のない食事を続けた。

「目標が変わったってどうなったんだ?」

 ファルマがすっとぼける。パッレはもごもご言った。

「まあその、失言だ」

「分かった、聞かなかったことにする」

 ファルマは流す。

「だが! このままで済むと思うなよ、お前に追いつき、薬神の知識を吸収し、追い越してやるんだからな! はーっはっは! げほっ、がはっ」

 カラ元気もいいところだな、とファルマは切なくなる。だが、パッレの明るく強気な性格はファルマの心労を軽減させた。彼はファルマの前では殆ど弱音を吐くこともなかったし、強い兄を演じ続けた。

「咳が出るからやめろよ兄上。じゃあ、元気になってきたなら。肺出血の症状が消えたから、ATRAを再開したいと思うんだ」

 ファルマは寛解導入療法、ATRAの再開の頃合いを見計らっていた。

 ATRAを早く再開しなければ、白血病細胞はまた増殖を始めるうえ、ATRAの副作用とは別の、この白血病特有の症状である各臓器からの出血が懸念されるのだ。

 脳の出血が一番怖い、とファルマは危惧している。

「また同じことになるんじゃないのか……?」

 先ほどまで高笑いをしていたパッレは、ごくりと唾をのみ、警戒する。

「そのリスクはある。だから次は、75%の量から少しずつ増やしていく」

 パッレの脳裏にまたあの苦しみが蘇る。いっそ殺してほしいと思ったほどのだ。

「やらなければ、いけないんだな……分かってる。やろう」

 パッレは腹を決める。これほど恐ろしい治療があるだろうか。がんとは一筋縄ではいかない恐ろしい病気だ、とパッレは胸に刻む。

 ファルマをして、病の王だと形容したがんというもの。

 治せるか治せないか、まったく想像もつかないという病だ。

 がんというものがどんな病気であるか、ノバルートでは殆ど知られていなかった。その、パッレにとっては全く未知のがんを見つめ、迷うことなく治療方針を打ち出し、いくつもの薬と薬神の力を使って治療にあたる弟に、パッレは感謝してもしきれなかった。

「自分が生み出したモノ(細胞)の戦いなのか……」

「だからこそ、手ごわいんだ。”非自己”ならば、免疫系が攻撃する。でも、”自己”だから攻撃できない」

 かつて自分の一部であったものだから、それを叩くのは難しいとファルマは語る。


「本当は最初から化学療法をやればよかったんだ。俺の判断ミスだった。次はATRAと共に化学療法も同時にいく」

 ファルマは後悔の言葉と今後の方針を述べた。

 化学療法の負担が患者に大きいので、ATRAと同時投与ではなく一日遅らせて、ATRAの効果を見てから化学療法を実施しようとしたファルマの判断は、結果的には間違っていたことになる。だが、状況に応じてはATRA単独療法という治療法もあったりで、そこは判断が難しい。前世が薬剤師であるがゆえの臨床経験のなさが、歯がゆかった。

 副作用が酷いかもしれない、でも覚悟してほしい、とファルマは毅然としてパッレに告げる。その真剣なまなざしに射抜かれて、パッレは受けて立つぞと奮い立った。

「お前が最善だと思う方法をとれ。俺がきついのは一切考慮しなくていい」

「じゃ、そうさせてもらう。吐き気が強く出たら、吐き気止めを使うから言ってくれ。発熱もするかもしれないし、口内炎も出るだろう、倦怠感もひどくなるかもしれない、でも、やるぞ。いいんだな?」

「おうよ!」

 薬師と薬師、薬師と患者との間の、相互の立場を明白にしておく。

 どこまで治療をしていいのか、それを決めるのは患者自身でなければならない。

 生還したい、生還してみせて、医学会にこの症例と、ファルマの治療法の正しさを知らしめてやる、とパッレは強い意志を胸にいだいた。


 六日目、ATRAの服薬を再開。

 そして、同時に抗がん剤イダルビシンを点滴で投与開始。

 点滴瓶にイダルビシンを充填し、エアーのための針を刺し点滴のルートをとるファルマを、パッレは力強いまなざしで見守っていた。

「その、点滴や注射というものひとつにしても、誰も見たことがない。画期的な発明だ。いろんな使い方ができるんだろうな」

 さすが薬神の天啓だ、人間には思いつかない智慧だ、とパッレは絶賛する。

「とはいえ点滴の経験は、俺は動物実験以外にはないんだ」

「ふむ……今恐ろしいことをさらっと聞いたな。動物で練習したのか、いつだ?」

「兄上がいない間だ」

 前世での話だが、パッレには言わないほうがいい。

「人体と動物の体の構造は殆ど同じだから。異論はあると思うけど」

「なるほど。……にしても抗がん剤とやらは毒々しい、嫌な色だ。尿も赤くなるし……」

 赤褐色の点滴が自らの体に入ってくるのを、パッレは受け入れるしかなかった。

「前回とは違う場所に点滴するんだな、敢えてそうするのか?」

 パッレはファルマの執った、ほんの些細な相違点にも目をとめる。

「同じ血管を使わないほうがいい、抗がん剤は血管を傷つけるから」

「そういえば細胞毒性があると言っていたか? 抗がん剤に触れると血管までボロボロになるのか。なるほど……」

 投与後六時間ほどして、猛烈な吐き気がパッレを襲った。最初はまだ冗談を言う余裕のあったパッレも、何度か嘔吐するうち胃の中はカラになってしまって、胃酸が食道を刺激する。繰り返す嘔吐は著しくパッレの体力を消耗した。

「兄上、吐き気止めを変えよう。ほかの吐き気止めを試してみよう」

 吐き気は患者のQOLを著しく下げるため、改善を図らねばならなかった。だが、パッレの体に合う吐き気止めに関しては、診眼では分からない。ファルマはあたりをつけて、数ある吐き気止めの中から組み合わせを変えて彼に差し出す。

「わかった、飲もう」

 吐き気止めを飲んでも、パッレはその吐き気止めそのものを吐いてしまった。吐き気止めは口からではなく点滴に混ぜて、吐き気は一旦収まる。吐き気には、精神的な不安も反映されるため、一概に薬で緩和できるものとは限らなかった。

「服も着替えたほうがいい」

 締め付けの少ない、ゆったりとした服に着替えさせる。

「ふう……よくなった。次から次へ、めまぐるしいな。何で吐き気が出る?」

「抗がん剤が脳の嘔吐を司る部分を刺激するから。実際に吐きたいわけではないんだ、吐きたい気がするだけだよ」

「体内で複雑な反応が起こっているんだな。吐き気止めなら、俺も調合できるぞ」

 パッレは手持無沙汰に吐き気止めを調合しようとしたが、ファルマはそれを制した。

「薬の組み合わせには相性があるから、俺が作ったやつにしてくれ」

「お、おう……」

 ファルマの前で完全に患者にならなければならないことは、パッレにはもどかしかった。

「そのかわり、俺が病気になったら兄上に任せるよ」

「口が上手いな、お前は」

 当てになんてしないくせに、と言うのはやめておいたパッレだった。


 十二日目、白血病細胞の数は順調に減っていた。喜ばしい状態だが、パッレの気力をなえさせる出来事が起こった。長い銀髪の毛が、抗がん剤の影響で抜け始めたのだ。

 手でくしけずるたびに、するりと抜ける。抜け毛が止まらない。抜け毛で枕がびっしりと覆い尽くされた。

「髪が抜け始めたな」

 異変を感じつつ黙ってごみ箱に、むしった毛を放り込むパッレに、ファルマは声をかけた。

「これでいいんだな?」

「想定通りだよ」

 ファルマは頷く。

「わかった」

 パッレは弱音を吐かなかった。

「これは全部抜けるのか? 全部抜けるのなら、もう全部毟ってしまいたい」

「抜けないかもしれないけど、まばらになると思う。毟らずに一回全部剃ったほうがいい。細胞分裂の速い、毛根のような細胞は分裂が停まりやすいから抜けるんだよ」

「一生ハゲたままなのか?」

 パッレはまだ人生を謳歌して間もない十八歳だ。髪のない状態が一生続くとなると辛い。

 それでも、命あっての物種だとパッレは覚悟していた。

「いや、抗がん剤をやめたら生えてくる。今だけの辛抱だ」

「そうか。仕方ないとはいえ、治療中は誰にも会いたくないな……」

 パッレは弱気な一言を漏らす。その彼の言葉をブランシュが、ドアの裏で聞いていた。それからほどなくして……、

「きゃーっ!!」

 ロッテの悲鳴が屋敷に響き渡った。

「お嬢様、何をなさったのですか!?」

 ファルマが駆けつけてみると、ブランシュが彼女の長いブロンドの髪を束ねて、ざっくりとナイフでそぎ落としていた。

「どうしてこんなことを……美しい御髪でしたのに!」

 ロッテはブランシュの手からナイフを取り上げ、もう切らせまいとブランシュを抱きしめる。

「ブランシュ……何をしているんだ!」

 ファルマは、自分の髪の毛の束を握りしめて茫然としているブランシュに、かける言葉が見つからない。貴族の子女にとって、美しく長い髪は財産だ。勝手に切っていいものではない、彼女の母親のベアトリスからはどやされるだろう。

「これでね、大きい兄上にかつらをつくってあげてほしくて……大きい兄上の髪の毛は銀色で、私は金色で、色が違うけど……それでも、いるかなと思ったから」

 ブランシュは口をとがらせて俯き、髪の束を差し出した。

「だめだったかな?」

 これから、パッレの髪の毛は抗がん剤の影響で抜け落ちるので、それに備えて髪は剃ることになるだろう。その間、ブランシュの毛でできたカツラをかぶれば、パッレも外出したり人と会うのに抵抗がないかもしれない。ブランシュはそう思ったようだった。

「切る前に相談してほしかったとは思うけどな」

 ナイフは危ないし、怪我でもしたら、と思うとファルマはやりきれない。

「だって。大きい兄上も小さい兄上も、がんばってるんだもん……」

 何かできることがないかと、彼女なりに考えた末のことだった。

「ああ、喜んでくれるさ。後はきれいに整えてもらうんだよ」

「あいぃ……」

 ファルマは短くなったブランシュの毛をあらため、頭を撫でた。ブランシュの想いのこもった髪の毛は、すぐにかつら職人に届けられた。職人は、これは上等の髪なので、きれいなブロンドのウィッグになるでしょう、と自信を覗かせた。

 事情を聴いたベアトリスもブリュノも、彼女の勝手な行動を叱らなかった。


 そうして治療開始十八日目のことだった。

「喜んでくれ、兄上」

 パッレの採血をして、血液を調べていたファルマが、声を弾ませた。ブリュノもファルマと共に入ってきた。心なしか、口角が上がっている。

「いい知らせだぞ」

 ブリュノも言葉を続けた。

「いい知らせ?」

 副作用のひどい貧血と倦怠感で、パッレは疲れ切っていた。それに、頭を丸坊主に剃ってしまったせいで、心なしか気力もなえてきている。

「兄上の白血病細胞は、治療開始から16日目で2桁減った、血液中に占める白血病細胞は、3%だ」

「……それはどういう意味なんだ? でもまだ、残っているんだろう?」

 それでいいんだ、とファルマは首を左右に振る。血球中の白血病細胞は、すぐにゼロにはならない。それでも、ATRAと抗がん剤併用療法で少しずつ減少して5%を切れば、ある基準の枠組みの中に入る。それは……。

「血液学的完全寛解だ。喜んでいい」

「おめでとう、大きい兄上」

 ファルマの言葉に続くように、ブランシュも大きな箱を抱えて病室に入ってくる。

「何を抱えているんだ?」

 パッレはその箱とブランシュの顔を見比べる。

「えっとねー、これねー。大きい兄上が頑張ったから、私からのプレゼント」

「開けてもいいのか?」

「あい」

「これは……」

 ブランシュの手でウィッグをプレゼントされたパッレは、すっかり短くなった彼女の髪の毛を惜しみ、複雑な表情をして、彼女の想いを汲み、「皆、ありがとうな」と感謝の言葉を述べた。

 治療十八日目にして、寛解導入療法は成功した。

 パッレはファルマと家族の助けもあり、最初の難関を乗り越えたのだった。

 死の淵から生還したパッレは、社会復帰に向けての第一歩を踏み出した。

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