2章14話 狙われたサン・フルーヴ帝都
「密入国を一隻も許すな! 密入国船は容赦なく積荷ごと海底に沈めろ!」
ジャン提督は戦艦を出し、沿岸をパトロールしていた。また、帝国各地の東イドゥン会社の支社に中継を挟んで複数羽ずつ伝書海鳥を飛ばし、沿岸警備を強化するよう指示した。拿捕した船員、作業員が発病した時のために、伝書海鳥には特効薬を積んで飛ばした。
沖合で、漂流し続けるネデール船籍の大型帆船が遭難船の状態で見つかった。ファルマが見つけられなかったものだ。それは予想外なほど外洋に出ていた。
船の中にいた船員は全員、黒死病にかかってそこかしこで倒れ、力尽きて死んでいた。ネデール国に戻ろうとしたが、ついに操舵できなくなったのだろう。
「これがその密入国船か?」
ジャン提督は難破船をさらに沖合いへと曳航し、船内に大量の火薬を積み、船ごと隈なく爆破した。船を海溝に沈めるのだ。
「おとなしく検疫を受けていれば、殆どが助かっただろうにな。愚か者め」
商人の自由を奪ったり締め付けのためではなく、人命を救うための検疫だ、とファルマは言っていた。彼らはあまりにも無知で、哀れだ。
ネデール国の旗を掲げたマストが大きく傾き海中へ没し、長い航海を終えた。
ジャン提督は甲板で帽子をとり、悪疫の元凶となりさがったそれが海上に大きな渦を作るのをじっと眺めていた。
その頃、マーセイル港の検疫に残されたエレンは、細心の注意を払いながら彼女の弟子や火炎術師らとともに検疫を続けた。各船舶から集めたサンプルの、技師からあがってきた検査結果を見比べる。
「全員合格、20番まで入港していいわ」
「師匠、検疫にも慣れてこられましたね」
彼女に付き添っていたエレンの弟子が感心する。エレンはメガネを布で拭いて一息ついた。
「わかんないわよ、見逃してるかもしれないし。ファルマ君みたいな特殊能力持ってないから、完璧には見抜けないんだから」
一隻一隻、検査に時間がかかって入港が遅くなっても見逃さないように。ファルマに言われた通りの検査法を守り、積荷のサンプルから検査をしていった。感染者が発見されると、隔離し投薬を行った。初期で投与した者は助けられたが、重症者は助けられなかった。でも、それが黒死病というものなのだ。100%を助けるのは無理だ、できることをしよう、とファルマは言っていた。
ファルマの特殊能力での検疫は速かったが、エレンが地道に検査をして結果を得た場合と黒死病病原体の発見率は変わらなかった。
「ファルマ師の薬は、本当に効果があるのですね」
「現に私たち、防護服を着ているとはいえ、これだけ患者と接しているけど発病していないしね。悔しいけれど、過去これほどまでに、ひとつの薬が命を守ってくれていると実感したことはないわ」
「ファルマ師は、同じ効果のあるものが微生物からも抽出できると仰っていましたね」
「ええ、それは私も興味深いわ。頑張りましょう、終わりが見えてきたわ」
残る船はあと6隻。
「ファルマ君も頑張っているんだから……大丈夫かしら、あの子」
エレンは、死病の村に一人で向かったファルマを案じていた。彼女がその場に行けなかったことが、悔しくてたまらなかった。だが、エレンが彼らに何をしてやれただろう。
その日、代行領主アダムとエレンはエスターク村で起きた奇跡を耳に入れることになる。
「私も、あんなふうになりたいわ」
エレンは薬師としての能力不足と無力感を、強く感じていた。ここのところ、ファルマの開発するまったく新しい薬と、彼の、別世界からやってきたとしか思えない知識に頼りきりになっていたからだ。そのせいで、ファルマ一人に重い負担がのしかかっている。彼は何でも一人でやろうとする。そんな状態になっていても、エレンは彼を助けてやれずにいた。
「もっと貪欲に、初歩の初歩からファルマ君の薬学を学んで、彼を支えられるようにならなきゃ」
エレンは改めてそう思った。かつてはファルマの、薬学と神術の師匠であったエレン。もと師匠としての立場もあって、もう一歩踏み込んで彼からすべてを教えてくれとは言えずにいた。
それはおそらく、ブリュノもそうだ。ブリュノは彼の立場もあり、ファルマに「教えてくれ」とは言いにくいのだ。
(黒死病の危機を遠ざけられたら、無垢な生徒となって学ぶしかないわ)
そしてそれを帝国、のみならず各国の薬師に教え広めるのは、自分にだってできる仕事だ、エレンは改めてそう自覚した。
知識は、力だ(Scientia est potentia)。
それは、サン・フルーヴ帝国薬学校の正門に刻まれた校訓だった。
…━━…━━…━━…
真夜中になり、夜の気配が濃くなってきた。
エスターク村を出たファルマは、村から脱走した8人の家族を帝都に至る道中の廃屋の中で見つけた。彼らのうち3人が高熱を出して、その場で子供たちもろとも身動きがとれなくなって暗闇の中で身を寄せ合っていた。子供たちはぐっすりと寝ていた。彼らは、発熱が始まったので怖くなって村を逃げ出したのだ。
彼は廃屋の中に聖域を作る。浄化されたテリトリーは、やぶ蚊や小さな羽虫も追い払う。彼らはファルマの足音で目覚める。
「お、お前は発病した俺たちを追ってきたんだろう!?」
父親は怯えた声でよろよろと立ち上がると、短剣を向け、病苦に喘ぎながらファルマに問う。
彼らから見たファルマは、発光して見えたのだ。薬神杖を持つと特に、彼は暗いところでは発光して見える。ファルマもそれを知っていたが、隠すこともできない。
「殺しにきたの!? そうなんでしょう!?」
母親が子供たちをかばう。
「いやだ、死にたくない!」
彼らの緊張がクライマックスになったとき、侵入者は言った。
「助けにきました」
「へ?」
「エスターク村の、エルマンさんですね」
ファルマは生成水とともに全員に治療薬を与え、そして念のために"始原の救援"という神術を施す。
術をかけ終えたとき、ファルマはふらついて、朽ち果てた椅子に腰を下ろした。
「薬を飲んで、具合がよくなったらエスターク村に戻ってください。できるだけ、人にも動物にも触らないで。歩いて帰るのが辛ければ、街道で荷車を借りて」
ファルマは路銀といって金貨を彼らに渡した。
「エスターク村はどうなっているんだ?」
「18人が亡くなりました。ですが皆さん薬を飲みましたので、あと数日もすれば落ち着くと思います」
「あ、あんたはいったい誰だ!」
「ただの薬師です」
ファルマは静かに答えた。
そのとき、轟音が夜の森に響き渡り、数キロ先で火炎神術の火柱があがったのが見えた。
ファルマは廃屋を出ると、杖を片手に急浮揚し、十分な高度をとって炎に向かって目を眇め、飛び去っていった。
森に残された患者たちは互いに顔を見合わせるばかりだった。
「人か? 飛んだぞ……」
「人が飛ぶわけないだろう」
熱に魘されて幻覚を見たのではないのか、と誰かが言った。
そしてそのまま、彼らは眠りについた。それでも、彼らの体内に入った薬は、確かな効果を発揮し続けた。
「あそこか」
ファルマは薬神杖の飛翔で急降下し、その場に駆けつける。エスタークから出た第3追討隊の神官たちが荷車と運搬人たちを包囲し、焼却していた。死骸と荷物はすでに炭化し、火の粉が上がっていた。
「もう死んでたんですか?」
「はい薬神様、すでに息絶えていました。死後間もなかったようですが。ですので遺体ごと荷を焼却しています。国籍はネデール国です」
積荷をその場に残し、ネデール国の運搬人たちは黒死病に斃れて死んでしまったようだった。運搬証書が残っていて、神官はそれをファルマに見せる。
「荷は何だった?」
「証書によりますと、植民地からの高級毛織物や、珍しい染料でございます。が、中の荷だけ抜かれていますな。別の荷車にまとめたのでしょう」
「これで終わりではないでしょう、他にも運搬人がいるはず。追討隊を先に送っています」
「ここも清めておきますね」
ファルマは空中に浮遊し、神技”滅疫聖域”を使う。術を発動させると、青い光波が空中をオーロラのように駆け抜けた。これで半径数キロはカバーできる。
神技を発動し地上に降りると、ファルマはがっくりと膝をついた。息が上がっていた。
「お具合が悪いのでございますか」
「あ、いえ、それは、たぶん、ない……と……」
(疲労度が上がってる? なんかいつもと違うな)
呼吸が整わない。薬神杖で神技を打っても、これまでは特に疲れたりはしなかった。だが、何かが違う。ペストに感染したのか、という一抹の不安がよぎった。万一に備えて、ペストに感染しないよう予防服薬はしているものの……。
「神力切れではないのですか」
「え? そうなんでしょうか」
火属性の女神官キアラがあることに気づいて、携帯型神力計でそっとファルマの背に触れた。神力計は神術使いなら誰でも持っているもので、神術使いは残りゲージを見ながら神技を使うのだ。手で握るのが一番正確だが、体のどこに触れてもはかれる。ゲージは透明で、振り切れた。
「ん? 何かしました?」
ファルマは密かに神力を測られたことに気づかず、凍りついた表情を浮かべる女神官を不思議そうに眺める。
「失礼、神力はまったく尽きていないようです。少しお休みください。お疲れなのでしょう」
神力はいっこうに減っている感じがしないので、ファルマの神力は無限なのだと思っていた。
(よく考えたら、エネルギーを使っているのに無限なんてことはないか)
物理的に考えれば、当然のことだった。力を使えば、どこかから減っているのだ。
(帝都の神官長に協力してもらって、本格的に神術のことも研究しないとな。野放図に使ってぽっくり死んでしまったりするかもしれないし)
一度過労死したのに、さらにもう一回死ぬんだろうか。とファルマは疑問だ。
(まあ、死ぬと仮定して)
帝都での庶民への薬の普及にかまけて、神術の追究、自身のことはついつい後回しになっていた。うまく薬と組み合わせれば、ファルマが薬で治せない人々に対しても治療効果が発揮できるということはこの一日で学んだ。この難局を乗り越えたら、やってみる価値はある。
「薬神様への供物としてこんな粗末なものしかなくて恐縮ですが、これをどうぞ」
パンと水、そしてりんごがファルマの前に出てきた。ほぼ一日、彼は何も口にしていないし休んでもいなかった。硬いパンだったが、人の親切と施されたパンの美味しさが身に染みた。
「いいんですか? ありがとうございます」
ファルマは疲労のあまり飛翔できなくなったので、キアラの馬に乗せてもらい帝都を目指す。
「人間だったら、という注釈がつきますが」
キアラは、彼女の後ろに乗り、ぐったり体をキアラの背にもたせかけているファルマに呼びかける。
「大神技は連続しては使えないものです。神技は神力もですが、精神も消耗します。失礼ですが、子供にはまず大神技は使えません、お体を休めないと。今日、何回神技を使いました?」
彼女は若いが、母親のような口調で話す神官だった。患者の補助的な治療のためと、”滅疫聖域”で相当な回数使ったな、とファルマは思い出す。
「百回ぐらい、かな。もっと使ったかも、覚えてないですけど」
「そんなに使ったのですか。もう! そんなの無茶です、子供なのに何考えてるんですか! 誰がそんなに使っていいといいました、死んでしまいますよ!?」
とヒートアップして、周囲の神官に「薬神様に無礼なことを言うな」、とたしなめられていた。
「ありがとう、キアラさん」
言葉は強いが、心配してくれているんだろうな、とファルマは感謝し、馬上で少し仮眠をとらせてもらった。キアラはロープでファルマと自身をしっかりと結んでいた。
しばらく馬を走らせると、前方にまた新たな火の手が上がった。ファルマは火の気配を察して起きる。
「見つかったようですね」
馬で駆けつけてみると、生存している運搬人4人が第2追討隊に捕らえられ、荷は焼かれていたところだった。運搬人たちはおとなしくお縄についていた。すでに発熱していて、反抗するだけの体力がないのだ。
「お、俺たちは雇い主と契約して雇われただけだ!」
「荷のことは何もしらねえ」
お縄になった運搬人たちは言い訳をはじめた。
ネデール国訛りの男たちだった。
ファルマは馬を降り、彼らに近づく。彼らは子供が登場したので怪訝な顔をした。
「帝都には何台の荷車が向かっている? それらの荷は何だ? 言えば薬を出す、言わないならこのまま死ぬぞ」
淡々とした口調で脅迫する。
「帝都には、あと4台の荷車が向かっている。2台が毛織物、1台が香辛料、そして最後は動物だ」
彼らは命が惜しくなったのだろう、喋り始めた。道中で荷馬を買って曳かせているので、帝都に着くのは明日になるだろうと。
「動物……?」
ファルマは嫌な予感がした。
「パンテ島にいる白いリスだ」
(げっ歯類か。ペストのキャリアになる)
ファルマの直感が警鐘を鳴らしていた。ペスト菌はネズミ、リスなどのげっ歯類についたノミを介して人に感染するのだ。今回の荷物の、主要な感染源になっているかもしれない。
「パンテ島の住民は全滅した。それをわかっていただろう? 何で疫病の島の動物を持ってくる。お前たちもそれに冒されているんだ、仲間だって死んだだろう!」
ファルマは静かな怒りを抑えながら、4人の運搬人たちに問う。
「し、知らねえよ、一体どう関係があるんだ。あいつらは長い船旅に耐えられずに死んだだけだろう、陸に上がれば関係ねぇ!」
運搬人は開き直った。瘴気や悪霊が病気を引き起こしていると信じている世界である。
動物から動物に小さな病原体が感染するという発想は、帝都の民ならともかく、他国の庶民にはまったくといってないのだ。
高く売れそうな商品を積んできただけだ、と彼らは言った。彼らのせいで18人もの人間が死んだとは、言ってもわからないだろう。彼らもまた、被害者なのだ。
「帝都に向かったのは何人だ」
「運搬人が24人、聖騎士が5人だ」
「聖騎士?」
聖騎士というのは、一般的には貴族と主従関係を結んでいる神術使いの騎士だ。
「風属性が3名、水属性が2名だ。王国の騎士だ」
「何でただの商隊を王国の聖騎士が警備している!」
運搬人を警護するのは、通常は平民の用心棒だ。神術使い、つまり貴族が商人を警護することなどありえない。
「知らねえよ、途中の港で乗ってきたんだ……」
「これは……何かありますね。普通は、死病の島から荷揚げして、いわくのついた商品を強引に売ったりはしません。その国の商隊は来年はサン・フルーヴ市には入れないでしょう。信用問題になるからです」
キアラが陰謀の気配を感じ取った。ファルマも同感だった。
(帝国に疫病を広めることが、ネデール国つきの聖騎士の任務だった?)
思えば、以前におかしいと思ったことはあった。女帝エリザベートは、一人だけ結核を発症したのだ。通常、一人だけ結核を発症というのは不自然だ。感染源がわからない。ファルマは疑った。女帝への貢物にまぎれて、結核菌が入ってきたのではないかと。その計略が破綻して、今度は確実に帝都に疫病を蔓延させようとしているのでは、そんな予感がした。ペスト菌に感染した大量のリスが、帝都で放たれたなら……。
まさか、ネデール国が故意にペストを蔓延させ、帝国を滅ぼそうとしているのでは……ファルマが焦りを強めていると、
「もう十分喋っただろう。薬をくれよ、あるんだろう?」
運搬人が命乞いをする。彼らは鉄砲玉だ。黒死病を運ぶための……。
「薬神様、こんなクズどもに薬をやらなくていいのでは」
キアラが唾棄する。
ファルマも薬を与えたくない、という気持ちがなかったといえば嘘になる。それでも、彼は薬師である限り、どの人に対しても等しく治療を行わなければならないと自らを戒めた。だからファルマは彼らに薬を与えた。
彼らの証言は、感染した積荷の物流の把握と、密入国の再発防止のために役立つだろう。
「快復したら帝国に引渡し、帝国法の裁判にかけて処罰してください」
ファルマはそう言うと、薬神杖を握った。馬上で仮眠を取ったので、もう飛べそうだ。
「帝都が危ない」
浮力を操り朝焼けの空へ消えた少年に、神官たちは感謝の祈りをささげたのだった。
…━━…━━…━━…
帝都に詰めるブリュノのもとに、マーセイル領にいるファルマからの第一報の伝書鳩が2羽届いた。
黒死病に感染していた船の積荷と、感染した船員が発見された。
黒死病は検疫によって水際で上陸を防いでいるが、他国を経由しての陸上からの帝都への侵入は確実だろう。
帝都の検疫の強化を図り、城壁の外から戻ってきた者は数日間隔離地区で隔離すること。
ファルマからの指南が書かれていた。
「きたか! ファルマ、エレオノール……無事なのか」
ファルマやエレンは黒死病に感染したのだろうか。ブリュノは彼らの安否が気がかりだ。しかしそれでも、たとえ二人が倒れていたとしても、ブリュノはサン・フルーヴ帝国の公僕として義務を果たさねばならない。
黒死病が発生した旨をブリュノが奏上すると、宮廷のエリザベートは、
「悪夢が、現実となったのか。公子とともによく備えてくれた」
と、ブリュノの働きをねぎらった。
「いかがいたしましょう陛下。即刻、帝都へ至るすべての城門を閉ざしますか」
国務卿フィリッポが、女帝に伺いをたてる。サン・フルーヴ(Saint Fleuve)帝都は、3つの大河が流れており、帝都に入る城門は12箇所、水門は8箇所だ。すべての城門に検疫所が設けられており、厳しく検査が行われている。水門を通る船も厳しく制限されている。
「おそれながら、城水門を完全に閉ざせば、城門の外が疫病であふれかえります」
ブリュノは渋った。城門と水門をいったん閉ざせば帝都は免れるが、城門の外には商人たちとその積荷が滞る。城門の外で感染者が増えれば、帝都の物流は途絶えてしまう。帝都の食糧の殆どは城門の外から入ってくる。門を閉ざせば開けられなくなる。
人口密集地で、ペスト菌が蔓延するのがまずい。帝都の城壁の内部は浄化されている、ペスト菌に感染していないとわかった者から帝都の中に入れるべきだ。とブリュノは奏上した。
その指示は、検疫所にすぐに伝達された。
異世界薬局、2号店、3号店、そして薬師ギルド加盟店の職員たちは、検疫所に詰めていた。ロッテとセドリック、そして手伝いの薬師たちは、帝都に入ってくる商人たちに防護用のマスクを配布した。
「みなさーん! 悪い病気をー! 予防しましょうー!」
ロッテは声を張る。
「微小な生物を吸い込まないようにするためのマスクです」
「微小な生物?」
商人たちは理解できなかったが、帝都の衛兵たちの手前、言うとおりに従った。
「んん……!?」
中央検疫所の調剤薬局ギルド長ピエールは、第六検疫所から寄せられた検査結果を確認した。
「はい……ピエール師、これは」
技師の声に緊張が走る。
「間違いない、陽性だ!」
白いリスを積んだ商隊が、検疫に引っかかったという。
誰も見たことがない、黒死病の病原菌。
だが、ファルマに言われたとおりの検査法で、陽性と出ている。
ピエールは迷わなかった、ファルマを信じた。商人たちは皆陽性、そして護衛は神術使いだったが、発熱していた。
「隔離だ! 即刻隔離ーーっ! 第六検疫所に急げー!!」
しかし、ピエールらが検疫所に駆けつけたそのとき、
”水の槍(Spear van water)”
第六検疫所に、ネデール国の聖騎士からの神技が放たれたところだった。




