かぐや姫?
ナツ様の所で企画を知り、無謀にも参加しました童話パロです。
昔々あるところに、竹を取って色々な細工物をこしらえ、それを売って生活しているおじいさんがおりました。
ある日、いつものように竹を取りに行くと、光っている竹を見つけました。
近寄って見ると、小さな小さな可愛い女の子がおりました。
おじいさんはその女の子を連れて帰り、かぐや姫と名付けて、おばあさんと大事に大事に育てました。
かぐや姫はすくすく育ち、光り輝く美しい姫になりました。
……。
……。
人の噂は怖いですね。
まぁ、巷で流れているこの噂は、おおむねは合っております。合ってはいるのですが、違うところもあるのです。
おじいさんが、大金持ちの名家のご隠居様で、竹を取って細工物を作るのは趣味である、とか。
竹が光っていたわけではなく、朝日に反射していただけで、ごく普通に幼児だった私を竹林で拾ってくれたのだ、とか。
ついでに言えば、私が光り輝くような美貌ではない、とか。
……この最後の点が、一番残念なのですが。
おとぎ話ではないのです。
竹が光るはずもないですし、そこからお金がザクザクなんて夢でしかないですし、光り輝く美貌なんて、今までに1度だって見たこともありません。
世の噂とは当てにならぬものです。
なのに、それを信じる方々が多すぎます。
屋敷の周りには、一目美しい姫を見ようと人が群がり、私宛の求婚が降るように舞い込んできます。
いーやーっ!
……申し訳ありません、少々取り乱しました。
姫として大切に大切に育てて頂きましたが、何しろ趣味が竹を取って細工物を作る、というおじいさんですから、年頃になりほとんど外に出なくなった私でも時々竹林には行くのです。
供は付けますが、顔を隠しているわけではないのです。
動き易い着物で参りますと、すっかり侍女に混じってしまい、屋敷の周りに群がる方々は、誰も私が「かぐや姫」であると気づかないのです。
いいの、これで?
いえ、勿論、良いのですが。なにやら釈然としないと言いますか……。
さて、降るようにある求婚の事です。
おじいさんの財産目当てもあり、どう考えてもおじいさんと同年配の方からもあり、断って断って断りまくったのですが。
身分の高い方というのは、どうしてこう我がままなのでしょうか。
お断りしているのに、全然聞く耳を持ちません。
何様ですか?と言いたいくらいです。
はい、皇子様右大臣様などなどですね。
しつこく繰り返される求婚に、ついにおじいさんも音を上げてしまいました。
鉄壁を誇る屋敷の守護ですが、今の上流階級の常識である通い婚の怖い所は、内部の手引きなのですよ。侍女たちとの関係は良好だと思うのですが、このままでは彼女たちから籠絡されてしまいそうです。
鬱陶しい求婚は、きっぱりはっきりお断りをして、判らせなくてはなりません。
……侍女たちの情報網をして、『かぐや姫は美人ではない』という情報を流してしまえば、とも思ったのですが。
そんなの、女の矜持が許しませんっ。
私に結婚の意思がないことをおじいさん、おばあさんも汲んで下さり、しつこく残る5人の求婚者に無理難題を伝えて頂きました。
そう、絶対に入手不可能な伝説のお宝です。
えーと、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、龍の首の珠、燕の産んだ子安貝、ですね。
この事も人々の噂で世に広まったらしいのですが、幸いにも成功した方はいませんでした。
偽物を持ち込んだ方はいたのですが、あっさりばれましたし。
見事、求婚者を一掃しましたが、おじいさんに万が一のことがあった時の為にと、身の回りの事から人を使うことまで、一通りの事を身につけるよう言われました。
そのように平穏な何年かが過ぎたある日。
何やら表が騒がしく、不審に思っているとおじいさんが私を呼びます。
行ってみると、きらびやかな金枝銀枝に色様々な玉が?
これは一体?
御簾の向こうに誰か若い男性がいました。異国の服を着ていますが、どなたでしょうか?
「かぐや、久しぶりだな」
っって誰よっ!?
「これは蓬莱の、ではないのだが。玉の枝があったので持ってきた。欲しがっていたのだろう?」
欲しがっていた、というか求婚のお断りの方便で……え? という事は、この人は求婚者?
「俺もこの辺りに来たのは久しぶりだ、ちょっと見て回ろうと思う。お前も一緒に来ないか?」
そう言って笑うのです。
その笑顔に、見覚えがありました。
「あらじん?」
昔、近くの庵に住んでいた、筒井筒の男の子。
すっかり大人になって、全然印象が違っていたので判りませんでした……!
春は花を摘み、夏は蛍を見に屋敷を抜け出し、秋になれば栗やカキを探し、冬は朝早くから凍った手桶に歓声を上げていました。
野歩きに疲れて見つけた泉の水を、わざわざ三々九度の真似をして飲んだこともありました。
懐かしくて大好きだった男の子。
彼が遠くの叔父に引き取られて行った時には、大泣きしたものです。
懐かしい彼と、昔一緒に遊んだ場所などを巡りながら、話を聞きました。
叔父というのが怖い人で、ある時、地下にあるランプを取ってくるよう命じられたこと。
地下には魔法の庭が広がり金枝銀枝に玉がなっていて、あまりにきれいなのでそれを折り取ったこと。そのせいで地下から出られなくなってしまったけれど、ランプには魔神がいて、その魔神に願って自由の身になったこと。
今は自分の船に乗って、遠い異国とも商売をしているのだとか。
大きくなったのだなぁと思いました。
年上の彼に、ちょっとおかしいですが、本当に立派になったのだと。
我が身を振り返れば、何も成していないのが、少々気まり悪いです。
「それで、こちらに戻って『かぐや姫』の噂を聞いたんだ」
あぁ、一体どんな噂だったんでしょうか。
「元光る竹から生まれた、光り輝く姫」
そこで私を見て笑わないで下さいねっ!
「数多いる求婚者に難題を出して、そのすべてを断ったとか。……蓬莱の玉の枝とかな」
だ、誰も持って来れないと思ったんです……。
「祝言の真似事までした女を、むざむざ他の男なんかに取られてたまるかよ。って事で、かぐや」
は、はい?
「俺の所に来いよ。一緒なら楽しいと思う」
びっくりしすぎて、倒れなかっただけでも誰か褒めて下さい。
こうして私はあらじんと一緒になりました。
おじいさんの屋敷からお嫁に出たのですが、何故かそれが月からの迎えと勘違いされていたようです。 そう噂で聞きました。
私自身は全然おとぎ話ではなかったのですが、あらじんの話はおとぎ話のようでした。
ですから、こう締めるのが正しいのでしょうか。
それから2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
筒井筒=幼馴染で。
三々九度は室町時代からという説もあり使いましたが、イマイチ時代に合っていないかも。
*「プライド」を「矜持」に替えさせて頂きました