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巡り会えた2人


 あやねと繋いでいた手が離れたとたん、弦二郎の姿が見えなくなった。


 しばらくそこにたたずんでいた由利香だが、はっと気がつくと、大慌てで、シュウと志水が話をしているテーブルへとたどり着き。

 たった今あやねに、なぜシュウが赤くなっているのか聞いてみよう、と、言ったことなど忘れたように、シュウの腕をつかんで個室へと引っ張って行ったのだった。

 由利香のこの行動には、ポカンとするあやねだったが、次に、ふん! と鼻息も荒く腕を組んで、ひとこと。

「もう、これだから大人って」



 こちらも、訳がわからずに引っ張られてきたシュウが言う。

「どうしたのですか? 由利香さん。そんなに慌てて」

「今ね、見えたのよ! 」

「? 何がですか?」

「弦二郎さんよ。弦二郎さん! あやねちゃんと手をつないでこっちを振り返ったとき、はっきりと弦二郎さんが見えたの。けれど、手が離れるとまた見えなくなって。これってネコ子の時と全く同じよね? どうなってるの、あやねちゃんにもそんな力があるの? 」

「えっ、…そうなのですか」

 言うと、シュウは少し考える様子を見せてから言った。

「冬里にバトンタッチします。たぶん彼の方がこういうたぐいのことには詳しいので」

「そうなの? 」

「はい」


 シュウと入れ替わりに入ってきた冬里は、なにやら楽しそうだ。

「なんだか面白そうな事になってるみたいだねー」

「冬里ー。今回ばかりは弦二郎さんたちが絡んでるから、ぜったい遊ばないでね」

 由利香は珍しく、哀願するように冬里に頼む。これにはさすがの冬里も少し気をそがれたようだ。

「あれ、何か調子狂うな。んーと、じゃあそうだね。あやねちゃんには、もしかしたら後で忘れてもらうことになるかもしれないけど…。ひとつ実験をさせて下さい」

 言いながら、弦二郎の方へ頭を下げる冬里。

「実験? 」

「実験と言いますと」

 実験などとたいそうな言い方をする冬里に、弦二郎も由利香も難しい顔をする。そんな2人に冬里がニーッコリと微笑みを返すのだった。


「今日は本来なら、志水さんが本当に弦二郎さんを感じられないかどうかだけ確認するつもりだったんだよね。けど、あやね姫という希有な存在が現れたため、少し予定を変更いたします」

 冬里はなにやら大げさそうに言う。由利香は眉をひそめているが、弦二郎は勢い込んでうなずく。

「あやね姫にネコ子のような力があるなら、もしかしたら志水さんにも弦二郎さんが見えるかもしれないよね? だ・か・ら、実験」

「「?」」



 そのあと、弦二郎と打ち合わせを終えた冬里と由利香が部屋を出てきた。

 ソファではシュウに夏樹まで加わって、4人で楽しそうに歓談している最中だった。


 そこで由利香の姿を見つけたあやねが、勢い込んで言った。

「あ! 由利香おねえちゃん、やっと出てきたー。ひどいよー、あやねをおいといて、くらまくんを連れ去っちゃって」

「あはは、ごめんね」

 さすがの由利香もあやねには太刀打ちできないようだ。

「でもね、もう許してあげる。くらまくんが何で赤くなってたのかわかったから」

「あら、そうなの? じゃあ教えておしえてー」

 由利香は嬉しそうに言うが、あやねはツンとすまして言う。

「だーめ、ひ・み・つ」

 これにはやはり苦笑いを返すしかない由利香だ。



 そんなあやねに、冬里が声をかける。

「姫、ちょっとこちらへ来てくれる?」

「うん、なーに?」

 不思議そうに言いながら、冬里が立っている個室の前あたりへ行くあやね。

 そこでは、冬里が珍しく真剣な顔をして、小声であやねになにやら話をしはじめる。あやねも、ただならぬ何かを感じ取ったのか、少し緊張して話を聞いていた。


 おおきくうなずいたあやねに、こちらもうなずき返して、冬里はあやねを残して個室へと消えた。

 入り口の近くでひとりたたずむあやね。

 しばらくして弦二郎が中から姿を現した。

 あやねを間近に見た弦二郎の目に、涙が光っている。

 あやねは首をかしげてそんな弦二郎を見上げていたが、「あやね姫」と、あとから出てきた冬里が声をかけると、うん、とうなずいて志水を呼ぶ。

「おばあちゃん、ちょっと来て」


 志水は「どうしたの?」と言いながらも、素直にあやねのそばまでやってきた。

「ちょっと、手をつないでほしいの」

「? はい、わかりました」

 そう言って志水があやねの手を取ると、あやねがもう片方の手を弦二郎に差し出した。

 弦二郎は嬉しそうにその手をうやうやしく取った。あやねを真ん中にして、つながりあう3人。


 すると…


 あやねの身体が、ほわん、と光り出した。直後に志水が、

「まあ…、なんてこと、なんてこと…」

 と目を見張って言う。


「弦二郎さん…」

 志水の目から涙があふれ出し、いつしかそれがこぼれ落ちる。

「弦二郎さん、まあ、まあ、こんな近くにいるのに…。なぜわからなかったのかしら? 今まで…気づかなくて…、ごめんなさい」


 そんな様子を目の当たりにした弦二郎が、真っ赤になって、しどろもどろの返事をする。

「いやっ! 志水さん! そんな、そんな、」

 あわあわして、あやねから手が離れそうになるが、あやねが離れまいとしてギュッと手を握ってくれる。その思いを感じた弦二郎ははっと我に返ると、キリリとした顔になって、志水に話をしだした。

「志水さん、とても、とても会いたかった。またお目にかかれて、こんなに嬉しいことはありませんな。しかも、可愛い孫のおかげで」

「ええ、ええ、私も。あやねちゃんには感謝してもしきれませんわね」

「まったくですな」


 しばらく熱い瞳で見つめ合っていた2人だったが、志水が思い出したように視線をはずし、あやねに向けて言う。

「ありがとう、あやねちゃん。もう、手を離しても大丈夫」

 すると、心ここにあらずと言う感じであやねが答える。

「ほんと? 」

 2人はしっかりとうなずく。

 あやねは2人を交互に見て、とても幸せそうに微笑むと繋いだ手を離す。そのまま崩れ落ちるあやね。2人があっと言う顔をする。


「あやねちゃん! 」

 由利香が思わず叫んだ後に見たものは、いつの間にそこにいたのだろう、シュウが、ふわりとあやねを抱きかかえている光景だった。

 しばらく躊躇していた彼は、少し哀しそうに、そのままあやねのおでこに自分の唇をあてようとした。

「待って下さい」

 記憶の操作をしようとしたシュウを止めるように志水が言う。

「あやねなら大丈夫です。小さいときから私につきあわされて、本当にいろんな経験をしているので、人に言って良いことと悪いことの判断は、そこらの大人以上ですわ」

 ちょっぴり苦笑いしながら言う志水に、驚いた顔をしていたシュウだったが、ほっとしながら言う。

「わかりました。私も、こんな素敵な経験は、忘れてもらいたくないと思っていましたから」

「ありがとう」


 シュウはそのままあやねを抱きかかえて移動し、そっとソファへと下ろす。

 志水が隣の空いたところに腰掛け、弦二郎はそのまた横の肘掛けへと腰を下ろした。志水が弦二郎の腰に手を回してもたれかかると、弦二郎も幸せそうに志水の肩を抱いた。


 シュウと冬里はほほえましそうに、夏樹はそれに加えてチョッピリ恥ずかしそうに2人を眺めていたが、ただ1人由利香は、

「もう! やっぱり弦二郎さんがみーえーなーいー」

 と、愚痴をこぼしてふくれっ面になる。

 けれど冬里に「フグだね」と頬をつつかれると、プッと吹き出して笑いだした。つられて思わず吹き出す3人。

 そのあといたずらを思いついたような顔で、由利香がシュウと夏樹に向けて宣言する。

「えー、コホン! 訳がわからない私のために、今の弦二郎さんと志水さんの様子、後で2人で再現すること! 」

 とんでもないことを言う由利香に、シュウは「由利香さん…」と、大きなため息をつき。

 夏樹は由利香を指さしながら、

「由利香さん。横暴っす! 」

 などと言って、また追いかけ回される羽目になったのだった。




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