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Sweetness?  作者: 春隣 豆吉
短編など
9/12

そんな彼氏のプロポーズ

久しぶりに脳内にわいたので短編をUP。

でも長文です、ごめんなさい。

 私って声フェチだったのかと自覚したのは、変声期を過ぎた幼なじみの幸智ゆきともの声を聞いたときだった。それまではやったら甲高くて同じ歳の子供のくせに「こどもっぽいこえだな~。あー、うるさっ」としか思っていなかった。

 突然ガラガラ声になり、いつも喉になにかがつまったようで苦しそうな幼なじみの姿を見て気の毒にと思っていたけど、それも過ぎたある日。

「きよちゃん、おはよう」

「お、おはよう。ゆき」

 なんだ、その淡々としながらも甘い声は。もともと背が伸びてきてから、いつも私の後ろでびえびえ泣いていた子供っぽさがなくなって、気がつけばいつも私のことを守っているような態度に変わっていたゆき。

「どうしたの、きよちゃん。ぼーっとしちゃって」

「あ、ああ。えっと、声が違うね」

「うん。なんか急に楽になったら、こんな声になったんだ。変かな」

「変なわけないよ!!」

「よかった。きよちゃんが言うなら変じゃないよね」

 思わず意気込んで言ってしまった私の様子に困ったように笑うゆきの顔はまだ幼い面影があるのに。

 もう、私だけのゆきじゃなくなる。いつか、“きよちゃん、あそぼ”なんていって私と一緒にいたゆきは遠くに行ってしまう。そんなことを思ってしまった中1の春だった……。



「きよちゃん。なにアルバム見て感慨にふけってるの。お、中1の頃だ。懐かしいね」

「あのさあ、ゆき。ノックしてくれないかな。というか勝手に人の部屋に入ってくるんじゃない」

「えー、だっておばさんが“清海きよみなら部屋にいるわよ~”って通してくれたよ」

「うちのお母さんって、ほんとゆきには甘いよね」

「違うよ。甘いんじゃなくて信用されてるの」

 中学生になると思ったとおり、ゆきの良さに他の女の子たちが気がついた。可愛い子や目立つ子、あからさまに“なに、あの子。幼なじみだからって”と言ってくる子もいて、さすがに落ち込んだ私はゆきと距離を置こうとした。

 ところが、だ。なぜか私に関しては妙に察しのいいゆきは、私が離れようとすると逆に側にいるようになった。周囲から何を言われても “俺はきよちゃんのそばにいるのが当たり前だからね”としれっと言い切り、しまいには誰も何も言わなくなり女の子たちもなぜか諦めスタンスに入ってしまった。

 そのままカップル扱いされて中学時代を過ごし、同じ高校に進学した最初の頃は軽い嫌がらせっぽいこともあったけど、それが止んだ頃からはまたカップル扱い。

 大学はさすがに違ったので私とゆきのカップル扱いも終わりかなと思っていたんだけど、いつの間にか私には幼なじみの彼氏がいると広まっていたらしく、結局なんの変わりもなかった。


 そして現在だ。互いに就職して3年目、私は独り暮らしをすることに決めた。それを告げたとき、ゆきはとっくに独り暮らしをしているせいか「そうなんだ」とあっさりしたもので、もっと心配されるかと思った私は拍子抜けしたけれど。

 あらかた荷物は整理し終わって、あとはアルバムを空いているダンボールに入れるだけ。ここでゆきが部屋に入ってきたのだ。

 私とゆきを周囲はカップル扱いしたけれど、本当は全然そんなのじゃない。幼なじみなだけだ。私が多少大人っぽくなったように、ゆきも大人の男性になっていて前はただ甘い声だっただけなのに、現在は甘さのなかに苦さがあり淡々としてるのに艶があるという美声の持ち主になっている。

 やっぱり、ゆきは声がいいわよね~。いつかは私が知らない誰かの名前をその声で呼ぶんだろうな……それは寂しいけど。私はアルバムを箱に入れて封をした。

「あ、きよちゃん。俺言い忘れてた。おじさんとおばさん、今日うちの親と一緒に食事に行くから留守番よろしくね、だって」

「はあ?!何よそれ!!なんで最初にそれ言わないのよ?!」 

 振り向きざまにゆきをみると、そこにいたのは確信犯の笑みをうかべた彼。

「ちょっとゆき。もしかして、わざと言わなかったの?」

「きよちゃんって相変わらず俺の表情を読むのが鋭いね。さすが幼なじみ。でも、やっぱりちょっと鈍感かな」

「えっ」


 ぐいっと腕を引っ張られて、ゆきに抱きしめられる。幼稚園のころ、ふざけて抱きついたりしてたときと違う男の人の腕。ふんわり香るウッド系の香り。

「ねえ、きよちゃん。独り暮らししてちゃんと朝起きれる?朝弱いのに大丈夫?俺、心配だよ」

「だ、大丈夫だよ。今使ってる目覚まし最強だもの。ゆきは心配しすぎ」

 だから離せよと思い、なんとか動こうとするけどゆきはますます腕に力をこめてくる。

「俺はやっぱり心配だよ。だから返事は“はい”しか受け付けないから」

「は?!いったい何を」

「きよちゃん、今年と言いたいところだけど来年、俺と結婚しよう?結婚したら毎朝、きよちゃんのこと起こしてあげるよ。だってきよちゃん―」

 そこでにやりと笑って、ゆきは私の耳元に口をよせた。

「俺の声、好きだもんね」


「いいいいや、す、すきというか、いい声だなあとは思ってるよ。でもですね、いきなり結婚に飛躍するのは、どうかと。私たち、ただの幼なじみでしょ」

 すると、とたんにがっかりした顔つきになるゆき。なぜだ。

「……そうだ、きよちゃんは鈍いんだった。ごめん、雰囲気だけで察してくれると思ってた俺が馬鹿だった」

「ちょっと、その言い方はひどいよ」

「ごめん。じゃあ改めて。きよちゃんのことが好きだよ。一人の女性として、ずっと。ねえ、きよちゃんは?」

「わ、私は」

「まあ、“はい”しか受け付けないからいいんだけどね。きよちゃん、俺のこと好きだもんね」

「は?!なにそのポジティブな考え。わ、わたしがゆきのこと嫌いとは思ってないの」

「うん、思ってない」


 私が彼の表情から気持ちを当ててしまうように、彼が私の気持ちを分かっていてもおかしくないんだってことは、20年以上の付き合いから分かっていた。

 でも、それが今はちょっと悔しいのだ。

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