みためにだまされてはいけません(R15)
奈里子は仕事は順調だが恋愛は枯れてる27歳。ところがある日、彼女はいわゆる「朝チュン」をやらかしてしまう。
R15です。
竹野内 碧様主催の「恋愛糖分過多企画」参加作品です。
会社の近くにあるコンビニはイケメンと美声の見本市みたいで別名「執事コンビニ」と呼ばれている。
噂では大手コンビニチェーンの研修所を兼ねていて、店員さんは内定済みの大学生からの選抜バイトと、本社若手社員の有望株だとか。
なるほど、それもありえると私や同僚たちはうなずいた。それくらいなんかキラキラしている店なのだ。
私が執事コンビニに行くのはたいてい残業食を買うためだ。そして買うのはいつも肉まんと栄養ドリンク。同期で友人でもある梓は私の組み合わせになんともいえない顔をする。
私から見れば梓のチョコケーキと栄養ドリンクの組み合わせのほうがよっぽどなんだけど、そこは互いに鋭くつっこまないようにしている。
店員さんも内心はともかく、すっかり私のパターンを飲み込んでしまったみたいで、肉まんを取っておいてくれた人もいたなあ・・・目がくりくりしてて背が高くて人懐っこそうな男の子。彼とはそれがきっかけで挨拶をかわすようになり私のちょっとした癒し・・・・それだけだったのに。
-早春や隣の寝息に覚えなし
状況:目を覚ましたら自分の部屋ではありません。どうしてだ。
なぜ俳句風。とにかく今の状況を整理してみよう、うん。
えっと・・・・仕事の帰りに執事コンビニの前を通ったら、癒しの店員さんとばったり会って、帰る方向が一緒だって分かってなぜか飲みに行った。互いに自己紹介をしあって私は店員さんの名前が浅岡くんだと知った・・・で、その後どうしてこうなった。普段の理性はどこに。
今、私がすることはここから痕跡を残さずに静かに立ち去ることだ。耳元に聞こえる規則正しい寝息、ぬくもり。なんかこの状況・・・泣けてくるんですけど。
ベッドの周囲に脱ぎ散らかした自分の服をかき集めるべく、そうっと起き上がりベッドから出ようとしたところで、腕をつかまれた。
「えっ?!」
「・・・黙っていなくなるつもり?」
くりくりした目が私を見ていた。
「お、おはよ・・・浅岡くん」
「おはよう。名字じゃなくて下の名前で呼んでよ」
はて、浅岡くんの下の名前は何でしたっけ。
私が覚えてないのが丸分かりなのが気に入らないのか、浅岡くんは不服そうにため息をついた。
「宗真だよ。あんなに俺をもてあそんでおいて覚えてないのはひどくない?」
「はっ?なんですと?」
私があなたをもてあそんだ・・・どっちかというと私の体のあちこちについてる赤い跡からみて、浅岡くんのほうがあれだろう!!
と、言いたいけど呆然としすぎて言葉がでない。浅岡くんは私のようすを見て冗談だよと笑った。
「・・・・私の恋愛なんて枯野原・・・・」
思わずぎょっとする。どうしてこの人、私が心のなかでつぶやいたことを知ってるんだ。
「昨日酔っ払ってぼやいてたよ。奈里子さん、いちいち表現が面白すぎ」
浅岡くんが思い出したように笑う。でも手は離してくれない。
「あのー、そろそろ着替えたいので手を離してください。そ、それからこのことは互いに忘れませんか?」
「どうして?俺はこれっきりにするつもりないけど。いろいろと相性いいみたいだし」
「い、いや相性はともかく、これからコンビニに行きづらくなるのはちょっと困る」
私はあそこの肉まんが好きなんだよ。栄養ドリンクの種類も豊富で。
「大丈夫、もう俺あの店に行かないから。昨日で研修終わったから来週からは本社に戻ります。普段の俺は社内のシステム開発や管理が主な仕事」
「はあ、そうなんですか」
あのコンビニについての噂は本当だったのか。今度梓に教えてあげよっと。
「俺、接客って得意じゃないからストレスたまちゃってさ。でも奈里子さんと挨拶をかわすようになって、ちょっと楽しくなったんだ。
だから研修が終わるまえにお礼を言いたかったんだけど、全然姿を見せないし。それが昨日偶然会えたから嬉しくて、飲みに誘ってしまいました」
「わ、私も浅岡くんと挨拶してちょっと話したりするの楽しかったよ」
浅岡くんがおどけた調子に、私も思わず笑ってしまう。でも、そろそろ服を着たいのですが。
「浅岡くん、あの・・・服を着てから話さない?」
「帰らないと約束してくれるなら」
「わかった、帰らない」
すると手が離される。私は浅岡くんに反対側を向いてもらって慌てて服を着た。浅岡くんも服を着たらしく私たちは改めて向き合った。
「俺と付き合ってくれませんかって言うつもりで飲みに誘ったんだけど、なんか・・・ごめん」
「謝らないでいいよ・・・浅岡くん、私でよかったら」
「奈里子さんがいい」
浅岡くんの手が伸びてきてぎゅっと抱きしめられる。このぴったりとはまる感じ・・・やっぱり相性いいのかな。よくわからないけど。
「あ、そうだ奈里子さんって27歳だっけ。酔っ払ったときに言ってたけど」
「そうだけど?」
「あのさ、俺いくつだと思う?」
浅岡くんがなんだかとーってもにこやかに私を見ている。大学生には見えないけど、どうみても私より年下よね・・・。
「うーんと、25歳とか?」
すると頭の上で「やっぱりな」とぼやいたかとおもうと、私のほうをみてにやりと笑った。
「俺は今年30歳です」
「は?えっ、えーーーーっ!!?」
「俺って童顔みたいでさー、やっぱり年下だと思ってたんだ。なるほどね」
これは彼に謝るべきなんだろうか・・・でも、この人どうみても自分の童顔を利用してるクチだよね。人懐っこいだけじゃなさそうな一面をこれから見ることになりそうな予感がする。
読了ありがとうございました。
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いろいろ作品を書いてきたのですが、私「朝チュン」を書いたことが皆無だったような気がして、チャレンジしてみました。




