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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
第二章――DOUBLE HERO
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天聖魔剣士

 声がして亮は振り返った。

 みれば息を荒げながらヘタレた足でマリアが追いかけてきていた。


 教会から先に走り出した他の者もぶっちぎりここへ駆けつけた亮。

 余計な被害を出す前に全部片付けてしまおうかと思っていたのだ。

 が、手間取りすぎたらしい。


 「早いですねマリアさん」


 情けない表情をフードの奥に隠して言葉を返した。


 そしてそれが油断だった。


 背後から、凄まじい殺気が放たれた。

 咄嗟に亮は振り返り、不意打ちに備える。

 その動きに無駄はなく、構えた彼はたとえどのような攻撃にも対応できただろう。


 狙いが彼だったならば――――。


 黒い影が彼の横を通り過ぎた。いや振り切った。

 一瞬の隙を突き、亮を振り切った。


 しまった、と亮は唇を噛んだ。


 そしてまた、声がする。

 マリアの声だ。

 しかし今回は悲鳴。驚きと苦痛に歪んだ、高音のピアノ鍵盤を叩いたような悲鳴が響いた。


 「形勢逆転だな!!」


 勝ち誇ったように饒舌を回す悪魔。

 つい一瞬前までどのようにして生き残るかを考えていたはずのそいつは、いかにも水を得た魚のように生き生きとして嬉々とする。


 その手には鋭く尖り人肉程度あっさりと切り裂いてしまいそうな爪が伸び、その先には柔らかく白い肌をした少女の喉があった。

 悪魔はマリアの背後から腕を回し、その鋭爪を喉元へ突きつけて言った。


 「言われた通り頭を使ってみたぞ!人質、簡潔で効果的な手だろ!?」


 亮はゆっくり振り向き、現状を見据えた。

 ……最悪だ。


 思わず鼻頭を手で打った。

 下を向いて、自分の不甲斐なさに文句をつけたくなる。


 油断していた。

 まさか悪魔がまだこれほど動けるとは思えなかったのだ。

 割と本気で爆発をぶつけたので、絶命は無理でも行動不能ぐらいには追い込めると皮算用していたのだが、どうも彼の魔術もまだまだみたいだ。


 「はぁ……、まさかこんな展開になろうとは」

 「どうしたァ!?自分の劣勢が信じられないか?」

 「そうですね。まさか上位の気高い悪魔がそんな下衆の極みみたいな姑息な手を使ってこようとは、頭の片隅にも思ってませんでしたよ」


 さて、どうやってマリアを助けようか。

 この状況ではあまり無茶なては使えそうになかった。


 悪魔の人質になるなんて、さぞ怖い体験だろう。

 代われるものなら、謹んで辞退したいくらいだ。


 賞金稼ぎをやっているといってもマリアはあれでも年頃の少女。

 いくら素行が悪くてちょっと口調が荒く肉食で変人だったとしても彼女は女の子なのだ。


 「おいコラ君!今絶対に失礼なこと考えたでしょ!?」


 感慨深く頷いていた亮から何かを感じ取ったマリアが叫んだ。


 「いえいえ、別に思ってませんよ何も」

 「嘘!顔に出てる!フード被ってても口元ニヤけてるのは見えんだから!」


 おっとポーカーフェイスが、と亮が取り繕うように手で口元を押さえた。

 そこでふと気付いた。


 「というか、マリアさん随分余裕ありそうですね」


 悪魔に手を回されているのだ、震えて涙目ぐらいはしそうなものなのだが、マリアは気丈に振舞うというよりも余裕ありげに悠々とこちらを睨んでいた。


 「え、まぁこれしき何のことはないかな」

 「頼もしい限りですが、いま人質化してることは理解できてます?」

 「もちろん」

 「後ろにいるのが悪魔だってことも?」

 「当たり前」


 マリアは胸を張るようにドヤ顔をかました。

 間違ってもその表情が許容される場面ではない。


 「というかお前ら俺様を無視すんじゃねぇ!!」


 完全に蚊帳の外だった悪魔が無理矢理首を突っ込んだ。


 「あ、すいません。あまりにアレだったので忘れてました」

 「今時人質って……アレだよ本当に」

 「お前ら自分の立場分かってるか!?」


 亮はナイフを宙に投げて弄び、言った。


 「それよりも、あなたこそ分かっているんですか?その人質を殺した瞬間、あなたを守るものは何も無くなるということが」

 「当たり前だァッ!そのための人質……」

 「分かってないですよ。だって人質っていうのは対象に精神的負荷をかけられる相手のことを言うんですよ。彼女は俺のそれには成り得ません」


 不吉な音を残して、亮は一歩踏み込んだ。

 ゆっくりと、圧力をかけるように。


 「おい、来るな!」

 「いや、だから無駄ですって。それにその言葉はいわゆる死亡フラグってやつじゃないですか?」

 「ちょっと君、善良なる一市民のあたしを助けない気?」

 「もういろいろめんどくさいので、勝手に助かってください。俺はその悪魔を殺すという仕事が残っているので」


 投げやりな会話を繰り返し、マリアはため息をついた。


 「ホント君は……。だけど嫌いじゃないかな。君のそういうところが分かってたから手を組もうって持ち掛けたわけだし」

 「あれは脅迫と言うんですよ」

 「あたしが一方的に足引っ張るのは協力体制じゃないから」

 「聞いてますか脅迫犯?」

 「ちょっと頑張って見せちゃおうかな」


 ガチャリと、金属の擦れる音がした。

 首に凶器を突きつけたままの悪魔はその音を不審がって目を細めるが。


 次の瞬間には、銃声が聞こえて驚嘆することになった。


 「あ?」


 悪魔は声を漏らし、刹那の後には音を立てて倒れ伏した。


 「ガッ、ァア!?……アアアアアアアアアアァッ!!」


 激痛に苛まれたように地面をのたうち回る悪魔の腹部には銃痕が残っていた。

 撃たれたのだ。マリアに。


 体をカゲにするようにして、見えない角度からマリアの銃に撃ち抜かれた。

 だがしかし、おかしい。

 悪魔の身体は堅牢だ。銃弾だって通しはしない。


 それが、こんな小娘の放った銃弾ごときで……。


 霞む視界で銃痕に目を移した。

 すると。


 「退魔の術式ですか」


 亮がつぶやいた。

 マリアはそれを聞くと驚いたように彼の顔を見て、


 「当たり。よく知ってる」

 「魔を払う意味を持つ天界文字をある規則に法って配置した術式は魔術に還元せずとも効力を発する。悪魔に当たればそれは必殺の毒に変わるとも……。昔見た魔術書の一節に書いてあったんです。詳しくではなかったので全貌は知りませんでしたが、銃弾一発をこれほどまで悪魔へのダメージに変えるにはそれしかないと思いましてね」


 ですが、と亮は続ける。


 「この術式は相当高度の技術を必要とするとも聞きました。なんでも、世界でこの術式を描けるのは才能や血統の関係で、十人もいないそうですよ」

 「……へぇ」


 マリアは探られたくない過去をバラされたような顔になって、声を落とした。


 「マリアさん、あなた相当重たい事情を抱え込んでいるみたいですね」

 「まぁ、ぼちぼちと」 


 マリアはバツの悪そうな表情で視線を逸らした。

 分かってはいたが、彼女も相当なものなのだろう。抱えているものの重みというものが。

 退魔の術式を描けるというだけで、教会からは引っ張りだこに違いない。

 賞金稼ぎなんて阿漕な真似をしなくてもお金など望むだけはいるだろう。


 なのに彼女は、ここにいる。

 なぜか望んで亮の隣にいようとする。


 「……」


 お互いのことは詮索しないと決めたが、こうなるとやはり気になる。

 しかし彼女は絶対に口を割らないし、尻尾も見せないだろう。

 

 だから亮は諦めて、もがき苦しむ悪魔へ目を転じると。


 「さぁ、これからあなたをどうしましょうか?」

 「グッ、ガァッ……!」

 「相当退魔の術式というのは悪魔に対して効力があるみたいですね。興味深い」

 「……殺、せッ!」

 「言われずとも、そうしますよ。あなたが生きていてもこちらの害にしかなりませんし、何よりその手は罪のない血に染めすぎた」


 亮は無表情のままに、氷のような刃のナイフを逆手に持って悪魔の頸部へ突き立てた。

 どこをどのように刺せばいいのか熟知した彼は迷いなく、致命部へナイフを引いた。

 それでもう悪魔は動かなくなる。


 「後始末は教会の方へ任せましょう」

 

 徐ろに亮は立ち上がり、その場からでも見える教会の高い屋根を眺めた。

 ややあって、マリアが言う。


 「厄介を押し付けるつもりなら早くここから離れたほうがいい。あたしのあとに続いてもうじき他の人たちも駆けつけてくるはずだから」

 「そうですね。ここで顔を見られると面倒です」


 フードの端を摘んで亮は、その中に影を落とした。


 「大司教エドワルド=サンクティスの見張りも、今日のところは中止にしたほうが良さそうですね。悪魔が襲来したすぐはきっと彼の周りは厳重に警備されると思いますし、リベンジャーさんもそこを強行突破することはないでしょう」

 「じゃあさっさと行かない?足音がすぐそこまで迫って来てる」


 耳をすませば、悪魔の被害によって火事になった家の焼ける音がバチバチと耳障りに騒ぎ、それに混じるように遠くからバタバタと足音の百重奏が聞こえてくる。

 ひとつ頷き、住宅地の奥へと身を滑り込ませた。


 適当に人目につかなそうな道を選択し、いくつか抜けると地味な裏路地に出た。

 地味というのは人通りが少ないということではなく、治安が悪いこの街の裏路地としては少し小奇麗な印象を受ける普通の道だからだ。


 道を作るように囲う両側の壁はそのまま家の壁で、地震が心配されそうなヒビの上に目を逸らすように何枚かの広告が貼っつけてある。

 それに目を通せば、ここ最近でこの街の一角に大きな喫茶店が出来たと書いてある。

 この街で酔狂なことだと呆れながら、亮はとりあえずその広告をマリアに渡した。


 「少し休憩しませんか?」

 「奢りなら喜んで。あたし金無いし」

 「必要なら返しますよ。あのお金」

 「いい。どうせ端金、あんなんが手元にあったところで意味なんかないから」


 マリアは手にある広告の地図をふむふむと頷きながら目を落とし、ここならあたしが案内したげる。ここに書いてある一日限定30食のスペシャルパフェが無くならないうちに行こう!と忙しなく亮を急き立てて手を引っ張り表通りへ出た。


 相変わらず簡素で質素な街並みに、西部劇みたいな砂埃が舞う景色。


 そこを歩く通行人(エキストラ)たちも風景に溶け込むように最適なボロっちい服装をしている。

 対してはマリアの服装も同じようなもので、少し清潔感があるくらい。亮は青いパーカーを着ていてすごく浮いている感じがする。

 

 だが、そんな彼よりも遥かに浮いている、場違いな服装をした男がいた。


 白銀の胴当てと篭手に金の刺繍が入った純白のマントをその身に備え、長い金色の髪を一つに結んで肩口から前へ流し、メルヘンの世界から飛び出してきた王子様を象ったような端正な顔立ちをキリッという効果音が聞こえそうなほど済ませながら、地面に突き立てた装飾過多な煌びやかな大剣の柄に手を置いて裏路地から出てくる亮たちを待っていたかのように仁王立ちする男。


 まるで世界の中心は自分だと言わんばかりに堂々とした佇まいの男は亮とマリアを見て安心したように口元を緩ませた。


 「やぁ君たち。ご機嫌はいかがかな?」

 

 ニッコリと笑い、気さくな印象を与える声で話しかけてくる。

 それはとても好感の持てる振る舞いで、優れた容貌も相まって女性ならコロリといってしまいそうなほど甘い誘惑だった。


 しかし、亮は嫌悪した。

 自身のことを悪党と呼称している彼からすれば、光り輝く王子様みたいな男は真逆の存在に思えるから、などというひねた理由からではない。


 この男の振る舞いは亮も嫌いではない。

 ただ、この男の顔に、頬に――――白い聖痕が刻まれていたのが最大の問題だった。


 「あなたは……天聖魔術師の方ですか?」

 「う~ん、おしい。4割は合っているよ。天聖のところまでは」


 ただ、と男は地面に突き立てた剣を抜き、肩口に添えた。


 「この剣が証明であるように私は魔術師ではなく騎士だ。天聖魔剣士の称号を得た、ね」


 天聖魔剣士。

 亮の師であるクレイドやジョセフのような、天界直轄のもとに働く魔術師を天聖魔術師といい、魔術師ではなく剣術を主とする騎士のことを天界魔剣士という。


 要は魔術師様から騎士様に変わっただけ。

 何も変わらない。結局は天使に仕える者だから、彼も亮には敵としか映らない。


 「その天聖魔剣士様が、俺たちに何か御用ですか?」

 「ああ、大アリなんだ。聞いてくれるかい?」

 「嫌と言えば?」

 「私にある権限を使って無理矢理話をする」


 横暴だ、と亮は肩をすくめてマリアを見た。

 彼女のリアクションも同じようなもので、お互いを見合わせた。


 「本題をどうぞ」

 「物分りがよくて助かる。実はね、さっきの君たちの活躍を見ていたんだよ」

 

 ピクリと二人の体が反応した。

 悪魔との戦闘を見られたのはあまりよろしくない。亮にとってもマリアにとっても。


 「上位の悪魔を弄んだ腕前大したものだ。惚れ惚れしたよ。しかし君たちは天界の直轄にいる人間ではなさそうだ。実に惜しい。これほど有能な人材を日の目を浴びることのない世界で燻らせておくの勿体無いと思ったのだよ」

 

 白の騎士はそう言って、二人に手を差し伸べ、


 「そこで頼みがある」


 言った。


 「私と共に、この世界を救ってもらえないだろうか?」

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