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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
第二章――DOUBLE HERO
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帰還

 お久しぶりです。

 という訳で第二章始まります。

 

 なぜこんなことになったのか。

 少女は悔やみ奥歯を噛み締めながらもたつく足を振るわせて必死に走った。

 後ろを見やれば巨大な影が辺りの木々を倒してこちらへ向かって突き進んでくる。絶望的だった。


 影の正体は『ギガント』と呼ばれる二足歩行のモンスター。

 3メートル近くある巨体にはち切れんばかりに備え付いた筋肉は、見るだけでその破壊力を想像させる。青白い皮膚をしていて鬼のような形相が地獄行きを告げているようだ。立派な丸太程もありそうなその腕に繋がる手には、人間が持つには両手を使わなければならないような巨剣を片手で提げ、ブンブン振り回している。


 ギガントは上級モンスター、いわゆるめっちゃ強い化物で、討伐するには国の軍隊が動くほどだ。

 そんな奴に少女は鬼ごっこを申し込まれていた。 


 本当にこんなはずではなかった。

 ほんのちょっとモンスターの住み着く森の中に入って、とある植物を採取してくるだけのはずだったのに……。

 少女は強かった。今彼女が滞在している街の中ではおそらく5本の指に入るくらいの実力を保持している。それでも単身でこの森に入るのは危険だと知っていた彼女は考えうる安全策をすべて打ってきた。

 いま自分が持ちうる最高の武具を持った。もしモンスターと遭遇しても発見されづらくなる魔法のローブを着込んだ。もしもの時のために緊急避難用の転移魔術を使えるアイテムも用意していた。

 だというのに、彼女は不幸に見舞われた。


 駆ける彼女の足元は太い木の根が所狭しと走っていて、普段なら気にならないのにこの時ばかりは神が張り巡らせた罠としか思えなかった。右も左も木と崖と小川ばかり。最寄りの村へ逃げ込もうと走っているのだが、如何せん距離がある。


 僅かずつ、後ろから迫る影との距離が縮まりつつあった。

 「どうしよう、どうしよう……」


 弱気な声が漏れる。

 考えてみれば彼女が弱気になるのは4ヶ月ぶりだ。


 4ヶ月前、何の前触れもなくこの世界に飛ばされた彼女、いや彼女たちは当然のように困惑した。

 そしてそこへ追い討ちを掛けるように襲撃をしてきた複数の悪魔。言うまでもなく、奴らは少女たちの敵で、虐殺に快楽を覚えていた。

 悪魔たちの姿を見て、恐怖し、絶望し、弱気になって、死を覚悟した。


 だというのに彼女は生きている。

 たった一人の少年が、彼女たちの運命を捻じ曲げたのだ。


 剣を取り、血塗れ濡れながら、金の髪をたなびかせた少年。

 クラスメイトを守ると言い、常に彼女らを背に置いて悪魔たちに果敢に立ち向かっていた。

 今でも目を瞑れば明瞭に思い出せる。その時の少年の後ろ姿を。


 しかしその後、皆の安全が確保された途端に少年は姿を消した。

 その時一緒にいたガイウスと名乗る黒ずくめの男について行ったのだと思うが、実際のところはわからない。生きているのかすら、音信不通なのだ。


 少女は悲しくなった。

 彼が自分たちを守ってくれたように、今度は自分が彼を守ろうと決意していたのに、彼はいなくなった。


 会いたい、

 会いたい……。


 「橘くん……」


 少女は少年の名を呟く。

 彼がいなくなって、少女は強くなると決意した。橘が守ったクラスメイトたちを今度は自分が守り、生きて彼に再会するために。

 だから弱さを少しずつ捨てていった。強くなるためにまず、弱気になることを捨てた。

 橘は決して諦めなかった、その姿を見てしまったから。

 

 それ以来少女は弱気を一切見せなかった。

 強くなるための努力も惜しまなかった。

 誰も死なせないために、誰よりも前へ出て戦った。


 だが、それは脆いハリボテだったようだ。現に今、彼女の口からは弱気と橘の名が漏れたのだから。


 どうしたらいいのか分からない。

 幾多の経験を積み、堅実に確実に出来ることは全てこなして来たのに、自分の弱さが露になった途端、今まで積み上げてきたものが崩れ、4ヶ月前までの弱さが溢れ出してきた。


 嫌、嫌だよ――――


 死にたくない。

 まだやりたいことが沢山ある。

 まだやり残したことが沢山ある。


 みんなと元の世界に帰るんだ、みんなとまた笑って学校へ行くんだ。

 当たり前に「おはよう」と言って「バイバイ」と手を振るんだ。

 それを何度も繰り返したい。


 何度でも何度でも、太陽が決して沈み切らぬように。


 それが途切れるなんて――――永久に続くとは思っていない。でも今はその時じゃないはずだ。


 だから、別れたままになっている、

 バイバイも言わずにどっかに行っちゃったおバカさんを「おかえり」と迎えるまでは、


 死にたくない。


 地面に張り付く根を飛び越える。その先にまた根が張るが、それも躱し足を止めずに走り続ける。

 が、


 「キャッ!?」


 さらにその先に、まるで少女の動きを先読みしていたかのように神の罠が、巨大な木の根が待ち伏せしていた。体制を捻って何とか躱そうとするも、足に引っかかりそのまま転げてしまった。

 背筋に嫌な寒気が這い回る。

 マズイ、とすぐさま立ち上がろうとするが、遅かった。


 ズドン、とすぐ後ろからひときは大きな地鳴りが聞こえたかと思うと、自分を追ってきていたギガントの足音が静かになった。

 恐る恐る、振り返る。


 青白い巨壁が立ち塞がっていた。

 追いつかれた。 


 「いや……」


 腕で体を引きずり後ずさるがギガントは悠々とその場で手に持つ剣を振り上げた。

 鉛色の塊は研がれていないのか刃が使い物にならないくらい潰れていた。それでも少女を撲殺する武器にはなり得る。むしろ、使い物にならないくらい使い込まれた鉄塊に、刃物以上の危機と恐怖を覚える。


 あの剣に、どれくらいの命が奪われたのだろうか。

 そして、あの剣に自分の命も喰われてしまうのか。


 そう考えたとき、少女は目を瞑った。

 死を覚悟した。4ヶ月前と同じように。ただ、今回は彼がいない。

 あの時、悪魔に怯え動けなくなった少女を助け出し、彼女の前に立った橘はいない。

 ヒーロー不在。


 ヒーローがいないヒロインは、いかにして危機から乗り切るのだろうか?

 ……無理だ。いくら考えても、この状況で少女が助かる道は思いつかない。


 橘くん――――――――


 また彼の後ろ姿を思い浮かべる。

 そうすれば、彼が助けに現れるかもしれないと思ったのだ。

 しかしそれは淡すぎる、儚い期待。彼女自身もそれを理解しているし、そしてこの世界は冗談なくらいに理不尽だ。


 重々しい鉄塊が少女に向けて振り下ろされた。

 

 鉄が肉を打つ音が響いた。

 それは人間が喰らえばひしゃげてしまう程の一撃だったのだろう。

 音が鈍く、気味が悪く。


 だが、


 「あれ……生きて、る?」


 少女は目を開けた。

 何事もなかったかのように平然と。

 というよりほんとに何事もなかったのだ。


 振り下ろされた剣は、少女を打つことはなかった。

 それよりも前、何かに阻まれたことにより剣は勢いを殺され中途半端なその場に留まっている。


 一体何が、と少女は目線を上げた。

 最初にブーツが見えた。その次に赤い布切れの端がゆらゆらと地面すれすれで揺れているのが見えた。

 それは真っ赤なコートで、そのまま視線を上げるがしばらく赤い布地が伸び続くばかり。途中ドクロと剣を象ったような刺繍が見えたが気には止まらない。


 思考停止した彼女はそのまま目線を上げる作業をやめようかと一度目を瞬かせた。

 すると、


 「あぶねぇあぶねぇ。ギリギリ、間一髪、間に合ったな」

 「へ?」


 呑気でバカっぽい、聞き覚えのある声が少女の耳に届いた。

 あっけらかんに口を開けた彼女はそのまま惰性的に視界領域を高く据える。そうすれば見えてくる。


 見覚えのある、金髪の頭が。

 見覚えのある、後ろ姿が。


 少女にはヒーローが不在。

 しかしそれでも、ヒーローが駆けつける可能性だってあるのだ。むしろそっちの方が確率大だったりする。つまり、遅れて登場するのは定石だ。


 「通りすがりで人助けすることになるとは、師匠の属性うつったか?冗談じゃねぇぞめんどくさい。片っ端から人間救い上げるなんて俺には向いてねぇってのによぉ」


 はぁ、と金髪の男は力なくため息をついた。

 それはこの状況では全くふさわしくない間の抜けた声だったが、代わりに妙な頼もしさを感じさせた。 

 男は左手を口元まで持ってくると、ふわぁぁと欠伸した。

 これまた場違い感が否めない動作だ。

 何せ、反対の右手ではギガントの剣を受け止めているのだから。


 3メートル近い巨体から繰り出される一撃を片手で平然と止めている。

 その異様さ、子ザルが日本刀を白羽取りしているようだった。

 

 「まぁなんでもいいか。とりあえず、テメェ覚悟は出来てるだろうな?」


 急に声に凄みが増す。

 ドッと押しつぶすようなプレッシャーがギガントを襲った。

 狼狽えるように独特な鳴き声を漏らすが、一度剣を引き上げるとまた大きく振り上げた。


 今度は体も使って、全力で振り下ろす。

 ギガントの第六感、生存本能、そんな曖昧のものが全力で警鐘を鳴らした。

 ここでやらなければ、確実にやられると。だから躊躇しない。確実に殺すための一撃を振り下ろす。


 だがそれよりも早く、男は赤いコートを翻し、手を横に薙いだ。

 蚊でも振り払うようなゆったりとした動作で、何をしているのか誰にも分からなかった。ただ、少女の視界がやっとこさ、振り払われた男の手に巨大な大剣が握られていることを認識した瞬間、ギガントは糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


 「な、に……?」


 地面にへたりこんだままの少女は呆然と呟いた。

 見上げた男から視線を落とせば、その足元でギガントが倒れ伏している。動く気配はなく、生々しい血の匂いが染み出してくる。


 「よぉ、大丈夫だったか?ここら辺、ヤバめのモンスターがうじゃうじゃ沸いてるから一人でうろつくのは危険だぞ。仲間と一緒に来たのか?もし一人なら俺が近くの街まで送ってくけど……」


 気遣うような口調で男が振り返った。

 大剣を肩に掛け、ニッコリとバカみたいに明るい笑顔を携えながら地面に座ったままの少女に手を差し伸べた。


 のだが。


 「…………」

 「…………」


 直後二人共が固まった。

 気まずい空気が二人のあいだでわだかまり、静寂というか沈黙というか、とにかく二人はお互いの顔を見合わせ声を枯らせた。


 不意に金髪がトレードマークみたいな男は、さっきまで浮かべていた笑顔を思いっきり引き攣らせ、しゃがれた声で笑った。

 対照的に、少女はすごく冷たい表情をして真っ直ぐと男の顔を見続けた。


 「は、ははは……」

 「…………はぁ」


 ため息をついた少女は差し伸ばされた手を取り、立ち上がった。


 「ありがとう」

 「い、いや……」


 素直に礼を受け取らない男は、さらに顔を引きつらせる。

 少女はそれを見てさらに表情を冷たくした。


 何だろうか、このカンジ。

 納得いかないというか、なんか理想と違うというか、言いようのない不満が少女の胸の奥でぶつくさ文句を垂れている。


 もう一度、まじまじと苦笑い気味の男の顔を見て、嘆息した。

 

 橘輝。


 待ちに待ち焦がれた、少女のヒーローは……なんとも情けない表情で目の前に現れたのだった。


 「久しぶり、橘くん」

 「……おう」

 「…………」

 「……あの、黒沢さん?」

 「…………」

 「もしかして、怒ってらっしゃいますか?」


 恐る恐るといった感じで聞いてきた橘に、少女――――黒沢真希は宙ぶらりんだった右の手を見せつけるように上げると、そのまま全力で橘の頬へビンタをかました。


 バチィン!!と快音が響いた。


 「当たり前でしょ!今まで何やってたのよ!?みんな心配したんだよ、いきなり姿消して……本当に心配したんだよ。怖かったし、寂しかった」

 

 今にも泣きじゃくりそうな顔で、誰もがビビるような憤怒を撒き散らす黒沢に橘はたじろぎ、手に持っていたはずの大剣をいつの間にやらどこかに消すと、両手を突き出し彼女へ必死に静止を促した。


 「いや、ごめん!マジごめん!だけどこれには深い事情というか、並々ならぬ決意がありましてね、それを聞いていただければあなた様にもきっと納得していただけると思います!はい」

 「知らないよ、そんなの。とりあえず腹立つからもう一発叩かせて!」

 「黒沢、しばらく見ない間にえらくエキサイティングな性格になったな!しかし殴らせてと言われて殴らせるわけには行かないのが俺の事情というか、とりあえず話聞いてくんない?」

 「却下」

 「ヒデェ!?」


 一蹴された橘の言い分は、そのまま追加されたもう一撃と共にどこか彼方へ吹き飛んでいった。


 腫れ上がった頬を手で摩る橘は若干涙目だ。女の張り手は痛い。

 そして黒沢はどこか満足したように清々しい表情を浮かべ、また橘の顔を伺った。


 「本当に、橘くんなんだね?」

 「じゃなけりゃ二発もビンタした落とし前をどうやって付ける気なんだ?」

 「よかったぁ」

 「それは俺が帰ってきたことにか?それともビンタしたのが赤の他人じゃなくてか?後者だったら俺はここで泣こうと思うんだが」

 「う~ん、ぎりぎり前者」

 「やっぱ泣いていい?」

 

 本気で涙目な橘。

 冗談だよぉ、と笑う黒沢にいいように弄ばれている。

 もうちょっと男らしく振舞わないと、なんかいろいろ失格な気がする。


 「ま、何にしてもさ」

 

 黒沢は一歩後ろに下がり、ちょっとばかり身長が伸びて視点の位置が高くなった橘に見えるように、満面の笑みを浮かべて言った。


 「おかえり、橘くん」

 「……ただいま」


 ともあれ、橘輝は帰還した。 

 今回は橘と亮、二人の視点が交互に来る感じで。別に一緒にやる必要がないんですが、別々にやると展開が馬鹿みたいに遅くなるんで。読みにくかったらごめんなさい。

 ともあれ、また読んで下さる方に感謝です。

 相変わらずの駄文ですが、お付き合い願えると嬉しいです。

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