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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
第一章――MY MASTER
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別れ

 もうちょっと早く更新するつもりだったんですが、忙しくて……。 

 一章終了です。

 「はい、じゃあそんな感じでお願いします」

 「分かりました!クレイド先輩の後を任せていただきありがとうございます」

 「いえ、頼んだのはこちらですから」


 そんな会話を二つ、三つほど交わし後二人は別れた。

 その片割れ、新しく村にやって来る村医者の若い男が意気揚々と部屋から出ていくと、もう一人、亮は一段落着いたように近くに置いてあった丸椅子に腰掛けた。


 「もう一週間ですか……」


 少し薄汚れた天井を見上げ、まだ使い慣れない言葉遣いで感慨深く呟いた。

 そう、クレイドと亮が激突したあの夜からもう一週間の時が流れた。あれだけ激しかった戦いの傷も記憶も、少し薄れ始まてきた頃だ。


 「それにしても師匠はとんでもないことを押し付けてくれましたね」


 亮は誰もいない部屋でくすくすと思い出し笑いをした。

 クレイドの最期、頼まれごとをされた亮はその後エミリアを抱え村に戻った。ジョセフが無残に殺害され、さらに追い討ちを畳み掛けるようにクレイド他二名の姿が見当たらないという事態にパニック気味になっていた村に戻った亮は、あれよあれよという間に村人たちに囲まれ事情の説明を求められた。


 津波のような勢いで詰め寄ってくる村人たちに、亮はクレイドの頼まれごとの一つを実行した。


 クレイドは死にました。村を襲った殺人鬼がエミリアを攫い、それを追った彼が殺人鬼と刺し違えた。

 亮はそんな嘘っぱちな話を村人に聞かせた。

 別にクレイドは自分の尊厳を守ろうとしたわけじゃない。彼は今更そんなことで足掻くほど愚かではなかった。


 結局はエミリアを守るためだろう。人の命を奪い、天使を貶めようとした大悪党、または邪教徒とでも言うべきか。そんな者から教えを請うていたエミリアは、きっとそれに準ずる悪に認定されるだろう。

 そうなれば彼女はきっと傷つけられる。村中、友達も、家族もひっくるめて。


 だから、亮は平然と嘘をついた。誰かを守るための嘘ほど、開口するに易いことはない。

 それにバレる心配もない。現場は魔術合戦のせいで常人の常識が及ぶ領域ではない。架空の故人の遺体が塵のように変化していても何らおかしくないほどに激しく荒れている。


 亮はエミリアを彼女の母に預けると、そのまま何も言わずに診療所に戻った。


 真っ暗な部屋、明かりをつけたまま出たのだがロウソクは最後の一片まで燃え尽きていた。

 新しいロウソクに手早く替えると、それを持って魔術訓練の部屋で探し物をした。魔術書がズラリと並ぶ本棚。改めてみると中々壮観だ。


 亮はそれをひとしきり眺めたあと、本棚を勢いよくひっくり返した。

 ガラスが砕ける音と木が打ち付けられる音が聞こえたが気にしない。こうしなければならなかったのだから、彼はその行為になんの罪の意識も持たない。


 こうしなければ現れないらしいのだ。

 何がか。亮の目の前に映るものだ。

 亮の視線は本棚が立っていた位置、より少しだけ奥、壁に向けられていた。


 魔法陣が描かれている。

 なんのものかは亮には判らない。取り敢えず、今までひっくり返してきた本の中には載っていなかったものだ。

 

 これもまたクレイドの頼みごとに関わるもの。そして報酬だ。


 彼曰く、この魔法陣はいわゆる禁術という奴らしい。

 いつかあなたがこれを使う時が来るだろうと、クレイドは言っていた。

 そして、これを他の誰にも知らせないで下さい。もちろんエミリアにも、と付け加えて。


 要はこの魔法陣を記憶してから削除しろと言っているのだろう。

 なら任せろ。

 亮は持ち前の記憶力で瞬時に壁に描かれた魔法陣を記憶すると、爆発魔法でその壁ごと吹き飛ばした。


 鼓膜を揺らす爆音を聞き届け、亮は息を吐いた。

 取り敢えず、今出来る事は全てやった。

 クレイドからの頼まれごとはまだ残っているが、今焦ることはない。

 

 亮は今夜出て行くなどという計画をすっかりすっぽかして、台所へ向かった。

 とにかく、腹が減った。


 そして今まで、彼から頼まれていたことを亮は全てこなしてみせた。

 いなくなった村医者、クレイドの代わりの人員補充。もともと彼がそれなりに準備を進めていたらしく天聖魔術師をやっていた頃の親しくしていた後輩が後釜に来た。さっきの男だ。


 といっても、後釜の男は連絡を取ったときまだこの村から程遠い王都にいて、彼が到着するまでの間臨時で亮が医者紛いの事をやっていた。よくよく思い出せば、クレイドは助手替わりだと言って亮に医学方面の知識も植え付けていた。

 

 どこまで計算していたんだあの野郎は。


 亮はそんなことをボヤきながら、来る患者来る患者に薬を渡したり怪我の処置を施していた。


 そんな風に穏やかな時間が過ぎて今日、やっと後釜の医者が到着し、カルテなり道具なりの置き場所をひとしきり説明した亮は、旅支度を始めた。

 黙々と、誰に言うことなく。


 あの夜出来なかったことをやり直すように。

 誰にも気付かれずこの村を出よう、と亮は決めていた。


 別に誰に見られても困るようなことではない。もうとっくに村人に認識されてしまった自分は、どう足掻いても彼らの記憶に残ってしまう。接点がなかったと偽ることはできない。

 だからなんとなく、だ。


 別れを悲しむような感性は、悪党になると決めた時から失われた。

 悪党は悪党らしく、孤高を気取る腹積もりだ。


 路銀に、と僅かばかり病院の金庫からガメったこの世界の硬貨を小さな袋に入れ、

 さて、支度は終わりだ。


 窓から外を見れば綺麗な夕焼けが空を茜色に焼き尽くしている。

 旅路の始まりは朝日と共にと相場は決まっているが、まぁいい。十分だ。

 むしろ悪党には眩しすぎるくらいだよ。


 亮は窓から視線を外し、荷物を下げて立ち上がった。


 バタン、と急ぎ立てるような音が聞こえた。

 振り返る。


 「エミリア……」


 茶髪の少女がそこにいた。


 「もう、いいんですか?」


 そう聞いた亮にエミリアは表情を辛そうに歪めた。

 彼女はこの一週間、ろくに生活していなかった。彼女は、クレイドの真実を知らない。だから師匠のクレイドが死んだこと、それが彼女の精神に大きな傷を与えてしまったようだ。


 ずっと塞ぎ込み、食事もしていなかったという。

 見れば前見たときよりも顔色が悪いし、やつれているようだ。


 「食事、ちゃんと取らないといけませんよ」

 「……てよ」

 「はい?」

 「やめてよ。ししょーのマネなんかやめてよ」


 エミリアは泣き出しそうな顔でそう言った。


 「行かないで……。私を一人にしないで」

 「エミリア……」


 亮は力なく崩れるように膝をついたエミリアを見た。

 その表情はすがるようで、何も言わずに小さく首を横に振っている。拒絶したいのだ、大切な人がいなくなることを。


 「ししょーは、いなくなっちゃった。ワタシの所為で……ワタシが、弱かったから。ねぇ、教えてよトオルお兄ちゃん。どうしたら人は強くなれるの?どうしたら、私は誰かを守れるようになるの?もう何も、失くしたくないよ。誰にも死んで欲しくないよ……」


 エミリアは喘ぐ。嗚咽を漏らし、必死に涙をこらえて。

 そんな彼女を見て、亮はなんと言ってやるべきか悩んだ。一瞬だけ、逡巡した。


 「彼の、クレイドの意思を継いで上げてください。今まであなたが見てきた彼を、優しく強かったあなたの師匠の背中を思い出して、その後を追ってください」


 そうすれば、きっと……。


 「俺も、継ぎますから」


 闇に塗れたクソみたいな後悔を。

 だから、彼女にはそれ以外の部分を。本当のクレイドだった部分を引き継いでもらいたい。


 亮はそっと笑う。

 無邪気な子供みたいに、人を騙して喰らう狼みたいに。


 この口調も、それを援護する。

 クレイドの意思を継いだという明確な形が欲しくて、なんとなく真似てみたこの丁寧な口調。


 それが強く、亮にクレイドの影をダブらせる。

 とうとうエミリアは泣いた。

 年相応に弱さを見せて、感情を高ぶらせる。


 だがそれでいいと亮は思う。

 誰かを思って涙を流せることは素晴らしい。もしそれを失えば、そいつはただの腐った悪党だ。

 そんな奴に、エミリアはなって欲しくない。


 だから亮は一言だけ付け加える。


 「あなたが一人前の魔術師となったなら、俺は必ずまたあなたの前に現れます」


 約束です、と彼女の頭を撫でてまた笑う。


 立ち上がる。

 そのまま部屋を、この村を出た。


 お別れの挨拶は十分だったろう。

 適当な方向に森を抜け、目に付いた小高い丘に登って亮は天を仰いだ。


 さて、これからどうするか。

 空はまた重々しい黒に塗りつぶされる。

 だが雲はない。満天の星空が、何かを祝うように輝く。


 亮はそれを見てふと気づく。

 こっちとあっちの世界では星座が違うらしい。


 「まぁ、どうでもいいことか」


 上を見上げるのはやめた。

 彼が見るべきはそちらではない。下だ。


 真っ暗な森が見える。

 光を通さぬその森は、ひどく澱んで闇に満ちている。


 「いいねぇ」


 不敵に笑う亮はその奥へと視線を走らせた。

 すれば、今いる丘より少し高いゴツゴツした岩肌の山が見える。その麓でわずかばかりの明かりがチカチカと揺れる。


 村ではない。

 おそらく、洞窟。


 暗い森の中、洞窟に明かりが点っている。

 いくらなんでもこんな時間に発掘作業はないだろうさ。


 となれば、こんなごもっともなシュチュエーションであるのは山賊の根城か、はたまた邪教徒の集会か。


 どちらでもいい。

 亮の嗅覚は、あそこに何かあると言っている。

 ならば行くしかないだろう。


 「決まり、俺の行く道はコッチだ」


 そう言うと、亮は丘を駆け下りた。

 そして決して光の届かない闇の中へとその身を躍らせる。

 悪党が救われる話を書いてみたかったのですが、なんかビミョーですね。

 プロットではもうちょいブラックだったんですが、しんどくなってライトにしてみましたw


 次は7月の下旬ぐらいに更新すると思います。

 毎度駄文ですが、これからもお付き合い願えると嬉しいです。

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