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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
第一章――MY MASTER
28/61

平穏

 亮の口調がプロローグ時から大分変わっています

 精神を病んだ結果です

 本編に入れるタイミング逃したのでここで入れときます

 一人、冷たく鋭い視線で煌く星の浮かぶ黒き天を仰ぐ

 そんな時、周りを取り囲む祈りを捧げた村人たちを押しのけて一人老人がこちらへ歩いてきた

 彼はこの村の村長。白い顎髭を鬱蒼と蓄え、彫りの深い顔のシワが壮年の苦労を物語っているようだ

 

 村長は検死を続けるクレイドの横に立つと、申し訳なさそうに言った


 「もう四人目、さすがにこの村だけで何とか出来る問題ではなくなってしまった。クレイド殿、すまぬが天聖魔術師を近隣の大国よりお越しいただく事にしよう」


 それを聞いた瞬間にクレイドの体がびくりと震える

 天聖魔術師を呼ぶ。その事がどれほど一大事なのか、またクレイドという人間にどのような心象の変化を与えるのか

 それは亮の知るところではない


 昔、クレイドが聖天魔術師だった事と関係があるのか

 もしかしたらその時に彼の身に何かあったのかもしれない


 亮はそんな推測をいくつか立てるが答えが出るわけではない。彼は考えるのをやめ、視線をクレイドに移した。夜の暗闇の所為か、彼の顔には濃い影が掛かりよく見えない

 陰鬱と暗い雰囲気を漂わせて彼はしばらく黙り込み、やがて何かを諦めたかのように小さく口元を動かした


 「……そう、ですね。そうした方が、よろしいかと……」


 それっきりクレイドは口を開かなくなった。黙々と検死を一人で行い、周りを囲っていた人だかりが被害者の関係者ばかりになった頃にやっと立ち上がり、

 「終わりました。埋葬の準備をしてあげて下さい」


 そうとだけ伝えて覚束無い足取りで診療所の方へ戻ってしまった

 そんな明らかに様子がおかしい事に亮が気付かないはずもない。亮は亡者へ一瞥して、クレイドを追うべく歩き出した。その時だ、村の男の一人が亮に声を掛けた


 「君、確か森で行き倒れていたところをクレイド先生に助けられたっていう子だよな?」

 

 そう聞いて自分がちゃんと村人に認識されている事を知った亮は声を掛けてきた男を正面に向き直った

 何も答えない亮だが、真っ直ぐと男を見据えるその目が質問を肯定する


 「そ、そうかやっぱり……」

 言い淀む。男は少し言いづらそうな様子ながらも続けた


 「頼みがあるんだ。ここにいる間だけでいい、先生を気遣ってやってくれないか?あの人は優しい人だ。あんな事(、、、、)があったっていうのにいつもニコニコ笑っていて、でもきっと無理してるんだ。しかも今回はあの天聖魔術師が来るらしいし……とにかく、先生の事支えてやってくれ!」


 男は自分で何を言っているのかも分からないくらいに、伝えたいことを矢継ぎ早に語っていった

 そんな男の鬼気迫るような様子にやや圧倒された亮だがめちゃくちゃな言葉の羅列から男の言いたい事をしっかりと察し、了解の意を込めて頷いた


 「頼むよ……」

 

 男から目を外し、再び診療所に戻ったクレイドの背を追った


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 どうするかなぁ~、と亮は平和ボケしそうな陽気な天気に向かって呟いた

 魔術訓練場の窓際に腰を座らせ、そこから射す燦々とした日光を浴びて目を細める亮は外の景色を遠目でに見渡している


 あの夜から三日経った

 亮は特に何事もなく、淡々と過ぎていく時間を過ごしていた


 何もない、平坦な時間

 クレイドもあの後診療所に戻ってみれば、変わらない笑みを浮かべて、

「いやぁ、事件現場って怖いですねぇ。特に夜なんて怖さ倍増で泣きそうになっちゃいました」

 なんてふざける始末

 どうやら彼自身、亮に自分の過去を触れさせるつもりはないらしい


 亮自身も変わった事といえば喉が完治した事と、天界文字と魔界文字を全て頭に叩き込んだ事ぐらいだ

 どちらも程度を考えると異常な速さで成し得たことだが、前者はクレイドの医者としての腕が作用し、後者は亮のズバ抜けた記憶力でやり遂げたのだった


 不意に亮が窓の外から部屋の中へと視線を移した

 その目線の先には茶髪の女の子が分厚い本片手に、床に巨大な魔法陣を描いていた

 「うーん、うーん」と唸りながら本と魔法陣を相手に交互に睨めっこする姿は微笑ましくあり、何より見ていて飽きない

 亮は柔和な表情で魔法陣を描いてゆく彼女の小さな指先を視線で追っていく

 すると、彼はある事に気付き眉を上げた


 「エミリア、そこ間違ってるぞ」

 「へ!?どこどこ!?」

 「さっき書いた右上の、よく間違えるって言ってたやつ」

 「あ、ホントだ!さすがだね亮お兄ちゃん。いやー、ワタシずっと前から勉強してるのに、つい三日前に魔術の存在を知った亮お兄ちゃんに間違いを指摘されるなんてホント、

 ――――――――――――神様は不公平ですゥゥゥううううううううううううっ!」


 エミリアは幼子独特の甲高い声で嘆いて床にヘタレこんでしまった

 どうやら『天は二物を与えず』という諺がこちらの世界にもあるらしく、彼女は諺なんてクソくらえ!所詮この世は神様の気まぐれで動いてるんだい!と半ば自暴自棄になって床に額を擦りつけている

 ちなみに、エミリアのたどたどしい敬語は二日前「疲れた」の一言の下に吐き捨てられた


 「落ち着けエミリア。お前だってやれば出来るさ」

 「うるさい!なんでも一回やれば出来る亮お兄ちゃんに慰められても全然嬉しくないもん!」

 「ヤケになるなよ。俺だってバク転が全然できなかった」


 バク転いま全く関係なくね?という疑問を浮かべたエミリアだが、頬をふくらませて聞いてみた


 「今は?」

 「ん?そうだな……この通、りッ!」


 窓際から腰を下ろした亮は狭い部屋の中で器用にバク転宙返りをしてみせた

 

 「どうだ?」

 いや、どうだと聞かれても。返答に困るエミリアに亮はなんでもないように続けた


 「人間できない事も諦めずに何度でも繰り返せばいつかはできるようになるさ」

 「くっ、強者の吐くセリフ……ちなみにバク転はどれくらい練習したの?」

 「30回ぐらい?」

 「やっぱり神様は不公平だあああああああああっ!!」


 今度こそ完全にいじけてしまったエミリアは、膝を抱えて部屋の隅で何やらブツブツ言っている

 「フフフ、ワタシなんて。ワタシなんて……」

 

 あーもうこれメンドクサイな。クレイドに丸投げするか?

 なんて身勝手な事を考えた亮はまた窓際に座った


 すると、このタイミング部屋のドアが開かれた

 この部屋に入ってくる人物なんて限られている。そして今この部屋のドアを開ける輩は一人だけ


 (哀れなほどナイスタイミングだな)

 

 「亮くん、スイマセンがさっき渡した課題終たらちょっと手伝って欲しいんですが――――ってエミリアどうしたんですか?部屋の隅でうずくまって……」

 「ししょーぉぉぉぉぉぉおッ!!神様は理不尽なんだよ!」

 

 扉を開けるなりエミリアに飛びかかられたクレイドは訳も分からないと目を白黒させている

 何があったんだ、と亮の方を見るが、彼はあとは任せたと目線を窓の外へ投げやる


 「ちょっと亮くん、私に丸投げしないでください!」

 「俺には無理だった」

 「諦めるの早いですよ!ちゃんとエミリアの修行の面倒も見てあげて下さい!」

 「……一応俺はエミリアの弟弟子にあたるはずなんだが?」

 「出来る方が出来ない方を教えるものです」

 「うわぁーん!やっぱりワタシなんて……ッ!!」

 「え、エミリアなぜ泣くんですか!?」

 「トドメの一撃だな」


 クレイドはまた部屋の端で体育座りして落ち込むエミリアを慰め、亮は傍観を決め込んでその行方を眺めた

 そういえば亮にもうひとつ変わった事があった

 三日前より少し視線が柔らかく、優しいものになっていた

 より正確には、この世界に飛ばされる前の彼の目に戻ってきている


 大切な人を亡くし、実の父と天使たちに煮えたぎる憎悪を覚えることで精神が荒んでいたが時間を経るごとにそれは少しずつ穏やかになっていった

 だが、彼の中から虚無感と復讐心は消えてない。むしろ日を追うごとに強くなっていくような気さえする


 「亮くんも見てないで手伝ってくださいよ」

 「……はぁ、エミリア一体何が悲しいんだ?」

 「亮お兄ちゃんが存在する事が悲しい」

 「酷い言われようだな、おい」

 

 それでも、亮の目は暖かく二人を見つめている

 平穏な日常から殺伐とした世界に堕とされて、そしてまた平穏な二人と触れ合って


 今だけは平穏であってくれと、この二人はずっと光の中に居てくれと

 これから闇に堕ちる自分の最後の平穏であってくれと、そう願うようになっていた


 「ところでクレイド、手伝って欲しい事ってなんだ?」

 不意に思い出したように亮が聞いた


 「ああ、そうでした。診療所の資料の整理を手伝ってもらえませんか?」

 エミリアの頭を撫でて慰めながらクレイドは尋ねる


 とっくに今日やるべき事は全て終わらせていた亮は別に構わない、と答えようと口を開いた

 その時ちょうど、外から黄色い叫び声が何重にも交わって木霊した


 亮は視線を窓の外へと走らせると、この診療所と同じく村はずれに住居を持つ村人が何人か村の広場のある方へと走っていくのが見えた

 それが何なのか、亮は直感で把握した


 「来たみたいだぜ、聖天魔術師って奴が……」


 重く感じる口を開き、亮は語りかけるように声を漏らした

 この前の夜の様子を見る限り、クレイドは聖天魔術師に対して何らかの喜ばしくない感情を抱いているはずだ。それを懸念する亮はただクレイド自身に判断を委ねるしかなかった 


 クレイドは亮に優しく微笑んで目を閉じた。それは覚悟を決める為のものなのか、それとも亮を心配させまいとした行為なのかそれは誰にもわからない

 やがてキッと鋭く瞼を開き、クレイドはいつの間にやら立ち直っていたエミリアの手を取って部屋のドアを大げさに開け放ち―――――


 「行きましょう!面白そうです!」


 ―――――少年のようにワクワクしながら部屋の外へと駆け出していった


 そんな予想外の事に亮は意表を突かれたように目を丸くした

 え、あんた聖天魔術師絡みで暗い過去とかあるんじゃないのか?顔も合わせたくないほどのトラウマがあったりするんじゃないのか?ならあの夜のアレは何だんだ?

 と心の中でいろいろ疑問が溢れるが、クレイドたちの姿はもう見えない


 心配して損した、と一つため息をつき何か諦めたような表情で窓際から腰を下ろすと、重い足取りで二人のあとを追って診療所を出た 


 外へ出ると未だに黄色い声が広場の方から聞こえてきて、それが何故か亮の不安感を煽っていた

 

 (スゴく嫌な予感がするんだが……)

 具体的には野次馬として現場見に行ったら事件の中心に放り出された的なそれだ

 しかし天使に深く関わる聖天魔術師が来るというのだ。行かないわけにもいかない


 亮は心中で膨らむ不安を押さえ込みながら足を前へ進めた

 やがて広場が見え始め、そこに大きな人垣が出来ているのが分かった。その人垣の中心には長身で灰色の長髪をした男の後ろ姿が見えていた

 おそらくあの灰髪が天聖魔術師で、周りを村人囲まれて身動きが取れなくなっているのだろう


 その光景を窺うに、天聖魔術師ってのはやっぱり凄いものだとなんとなく再認識した亮だが、そこで少し様子がおかしいことに気付いた

 人垣を作っているのは女性ばかりなのだ。もちろん男性がいない事もないのだが、全員が人垣から一歩下がったところで苦虫を噛み潰したような表情をしていた


 「来ましたか」


 不意に横から声が掛かる

 振り向くとクレイドが腕を組みながら苦い表情を作っていた


 「エミリアはどうしたんだ?」


 先程はクレイドはエミリアを引き連れて出て行ったはずなのだが彼女の姿が見当たらない

 不思議そうに亮が聞くと、クレイドは人垣の端の方を指差してまた苦い笑みをキツくした

 彼の指差す先を目で追っていく。――――居た。

 人垣のせいで天聖魔術師の姿が全く見えず健気にジャンプしているエミリアがそこにいた

 怪訝な顔をする亮はクレイドに尋ねた


 「何やってんだアイツ?」

 「ハハハ、エミリアは意外と面食いだったりするんですよ」


 あの歳で面食いかよ、と彼女の将来を恐ろし気に想像して呆れた亮はいろいろと様子がおかしい原因を把握して肩を竦めた


 「なるほど。つまり村にやって来た天聖魔術師がイケメンで、それに釣られたエミリアと村の女性たちがそいつを囲んで黄色い悲鳴を上げてるってわけだな」

 「そういう事です。だから男性陣が恨めしそうな目でじっと天聖魔術師を睨んでるというわけですね」


 女性限定の人垣の方からは「きゃーカッコイイ!」だの「王子様みたい」だのと黄色い声が飛びまくるばかりだ。そりゃ村の男たちも恨めしく思う

 人垣の外でぴょんぴょん飛び跳ねているエミリアも「イケメン!王子様!見たい見たい!!」と何やら狂喜乱舞なご様子だ

 それをしばらく苦々しく見守ったふたりは――――


 「……くだらないな」

 「ですね。見ていてあまり面白い光景でもありませんし、帰りますか?」


 くるりと踵を180度回転させて、診療所へ戻ることにした

 取り敢えず天聖魔術師との接触はあのバカ騒ぎが終わってからにするかと亮は心の中で計画を立てながら、内心面倒ごとに巻き込まれなく済みそうだと安心していた


 だがそんなとき不運にも、さっきまでずっと後ろを向いていたはずの灰色の髪をした魔術師が何かを感じ取り、バッと振り返った 

 そして――――――


 「おい、そこの黒の長髪!ちょっと待て」


 魔術師の声を受け、ピタリとクレイドの足が止まる

 不穏な空気を感じ取り亮も足を止めクレイドへと振り向いた


 「そうだ、お前だ」


 天聖魔術師は立ち止まったクレイドにそう告げる

 そして魔術師は左頬に刻まれた白いタトゥー『白痕』を歪ませて下卑た笑みを浮かべ、


 「おい振り向いて顔を見せろよ。……いや、やっぱりいいわ。立ち止まったにも拘わらず振り返らない時点で答え(、、)は見えてるよなぁ?」


 小さな虫をいたぶるような、傷口を好んで抉るような、そんな卑劣な印象を与える喋り方をする

 亮は言葉に出来ない嫌悪感を感じながらクレイドへ名で呼びかける

 だが彼は反応しない。その表情はまるで機械のように無感動な仮面を付けているようだ


 時が止まったのではないかと錯覚するほどの刹那の静寂が訪れる

 その瞬間、何も反応を示さなかったクレイドが大きく息を吐いた。そして乱雑に頭を掻くと


 「あなた相手となると、なるべく穏便にいきたかったんですがねぇ」

 そう呟いてゆっくりと振り返った


 「ハッ!やはり貴様だったか、久しぶりだなぁ――――クレイド」

 「お久しぶりです、ジョセフ……」


 クレイドにジョセフと呼ばれた天聖魔術師は嬉しそうに狂気じみた笑みを浮かべた  

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