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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
PROLOGUE――幕開け
2/61

橘輝という人間

  『私立○○高校の1年生が一クラス全員が行方不明になる事件がありました。』

 朝のニュース番組から物騒な事件の情報が流れてくる。


 「最近行方不明の事件ばっかり物騒ね。あんたらも気を付けなさい」

 うす味の味噌汁をすすりながら言うのは『(たちばな) (かおり)』、金髪がトレードマークの少年『(たちばな) (てる)』の母親だ。


 「「はぁい」」

 そして彼女の言葉に適当に答えているのは彼女の子供たち『橘輝』とその妹『(たちばな) 美麗(みれい)』だ。ちなみに美麗は黒髪ツインテールの自他共に認める美少女だったりする。精々中の中ぐらいの輝とは似ても似つかない。


 いま橘家は出張中の父親を欠いた一家団欒の朝食タイムだ。


 「あんたらもうすぐ夏休みだけどどっか行く予定は出来てる?」

 母の質問に二人は首を横に振り否定する。


 「俺は『LIGHT&DARKNESS』のテストプレイに全てを費やす!」

 堕落生活宣言を胸を張って言う輝に母は呆れたようなため息をついた。

 「あんたホントにバカだね。勉強しろなんて言っても無駄な事は分かってるけどもうちょっとちゃんと学生やってくれないかしら?」

 「無駄だよお母さん、お兄ちゃんはバカだから」

 母と妹にボロッカスに言われ輝はハハハと笑う。


 「いくらなんでもヒドクねェか?」

 「「全然!」」

 二人の心無い一言に輝が泣きそうになったのは秘密だ。


 「まあ適当に体と頭動かしなさいよ。廃人になったら家追い出すからね」

 「へいへい、わかってますよ」


 「で、美麗の方はどう?」

 「私は適当に友達と遊んだりするけど基本は家で買い溜めたゲーム三昧かな」

 「そう、ゆっくり遊びなさい。でも夜更かしはダメよ」

 「待ってくれ母さん。俺がゲーム三昧つったらあんなバカ扱いするのに、なんで美麗が言ったらそんな優しく心配するんだ!?差別を感じるぞ!」

 「なんでって、あんたはバカで美麗はちゃんとやる事やる子だからね。差別も何もあんたと美麗の間に決定的な差があるんだから仕方ないでしょ」


 実際、輝は学年最下位を争うバカで、美麗は学年トップを争う優等生だ。

 何ともいい返せない事を言われ「ひでぇ」と呻くことしか出来ない輝。


 『次のニュースです。あのclown社の新たなゲームソフト『LIGHT&DARKNESS』のプロモーションムービーが一部公開されました』

 そんなニュースが流れ三人の視線がテレビに集まった。


 リビングに置いてある大きめのテレビには昨日輝が見たあの『本物にしか見えないグラフィックの映像』が映し出されていた。といっても核心に触れるようなところは無くほとんど自然の景色や人、町の風景ばかりである。


 その映像に三人とも息をしていないかのようにジィィィィっと画面を凝視していた。

 やがてニュースの話題が切り替わると、


 「凄いねアレ、ホントにゲームなの?」

 昨日の輝と同じような疑問を浮かべる母は「世の中間違ってるね」と言って肩を竦めた。


 「あれって昨日からお兄ちゃんがテストプレイやってるヤツでしょ?ホントにあんなに凄いの?」

 「ああ、実際に存在しないはずのモノとかが超リアルに映されてたりするからな」


 輝が答えると美麗は顔の前で手を合わせ、

 「お願い!一回やらせて!」

 と懇願した。だがシスコンでもなければそこまで妹と仲の良いとも言えない(と輝が思っているだけ)輝は速攻でダメ!っと手をクロスさせる。

 

 「ケチ!」

 「なんとでも言え、俺は痛くも痒くもない」

 「なんでも言っていいの?じゃあこの前お兄ちゃんがテストで0てn――――」

 「妹よ、夏休みに入ったらやらせてやる!」

 「ありがとうお兄ちゃん。大好き!」

 どうして弱みを握られた兄とはこうも弱いものなのか……。


 輝はらしくもなく頭を使って感慨に浸る。


 「あんたらゆっくり兄妹愛育んでるとこ悪いけどそろそろ食べ終わらないと学校遅れるよ」

 「「ゲッ!!」」


 言われて急いで二人は朝食をかきこんだ。

 「お兄ちゃん先に顔洗ってきて!」

 「おう!」

 ドタバタとした動きで着々と出発の準備を済ませた橘兄妹は二人揃って玄関を出た


 「「いってきまぁすっ」」

 橘家、最後の(、、、)騒がしい朝の一コマ……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「なあ、やっぱり俺ら一緒に行く必要あるのか?」

 橘兄妹の通学路である川岸の土手を歩いている時、美麗に対して輝から提案を投げかけた。

 「だめ!一緒に行くの!」

 「つっても朝早く俺も出発しなくちゃいけないのは納得いかないんだが、そのへんどうよ?」


 橘兄妹、兄の輝は高校一年生で妹の美麗は中学三年生で通っている学校が違う。

 輝が通うのは家から歩いて10分のところにある私立の高校で、美麗の通うのは家から歩いて40分のところにある公立の中学校だ。

 

 輝は8時台に家を出ても間に合うのだが美麗は7時台後半には家を出ないと遅刻してしまうのだ。

 それに輝は付き合わされいつもせかされながら朝登校しているのだが、


 「お前も自転車通学とか出来んだから一人で行けよ。そしたら俺も家でゆっくり出来るから」

 双方の利害を提示してもう一度交渉してみた輝だったが美麗は速攻でそれをダメ!と切り捨てた。


 「なんでだよ?一人が寂しいなんて言うキャラじゃないだろ?」

 「お兄ちゃんが私を差し置いて家で優雅に朝を過ごすのはなんか許せない」

 「お前ホントに俺の事なんだと思ってんの?」

 「私の大好きなバカでバカでバカなお兄ちゃん!!」

 「おかしいな、一番最初を除くとひたすらバカと罵られてるんだけど俺……」


 短くため息をついた輝に、妹は微笑みかける。

 「確かにお兄ちゃんはバカだけど私はそんなお兄ちゃんが大好きだよ」

 シスコンなら発狂ものの言葉をかけられた輝だが、また深くため息をついた。彼は間違ってもシスコンではなかった。というか現実にシスコンなんて存在するはずがないと主張する方だった。


 「そんなに俺ってバカか?いや、自分でもちゃんとバカだって自覚はあるけどさ、そこまで言われるほどヒドイか?」

 兄からの質問に妹は少し考え、人差し指をピンと立て答えた。

 「う~ん、なんて言うかな。お兄ちゃんはいい意味でもバカなんだよ」

 「それって悪い意味でもバカって事だよな……まぁいいか、続けて?」


 再びの問いかけに妹が答える。

 「だって、お兄ちゃんはいっつも――――――――」

 

 キャン!!

 突如美麗の言葉を遮るように甲高い犬の鳴き声が響いた。


 「なんだ?」

 輝が鳴き声がした方、川の方に視線を向けると川に段ボールが流れていた。

 その段ボールの中には子犬が一匹、あの子犬がさっきの鳴き声の発信主だろう。


 「あ、犬」

 美麗も気付いたようで流れるダンボールを指さした。

 

 他にもいくらかの通行人や通学中の学生がその子犬に気付いていたようだ。だが誰も助けに行こうとしなかった。行けなかったの方が正しいか。

 この川は一昨日と昨日降っていた雨によって増水気味で勢いが早かった。ちょっと行って助けてくるかな、なんてプチヒーロー気取り程度の覚悟では足を運ぶのは躊躇われる。


 だから皆「可哀そう」なんて言いながらも誰も助けにいかなかった。

 そうしている間にも子犬の入った段ボールはどんどん下流に流れていく。


 「可哀そう……」

 美麗もそう呟くだけで何も出来なかった。

 だが――――。


 「美麗、悪いこれ持っててくれ」

 隣にいた輝が鞄を放り投げるように彼女に預け、川に向かって走り出した。


 「お、お兄ちゃん!?」

 いきなりの兄の行動に驚く美麗は兄を追うように土手のギリギリまで足を運んだ。

 

 そうこうしている間にザパァン!と制服のまま輝が勢いの強い川に飛び込み、そのまま鮮やかなバタフライで子犬の元まで駆けつけて川岸まで段ボールを運んだ。


 「っぷは!いや~なかなか今日の川は激しかったな」

 軽い調子で呑気な感想を述べた輝は段ボールから子犬を出し、片腕に抱えて土手に上がった。

 その間輝に向かってその現場を見ていた人から惜しみない拍手が送られ、本人はどうもどうもなどと言いながら手を振っていた。


 「あ~あ、ビチョビチョだ。学校どうしよう……」

 言いながら土手に上がった輝は、いきなり「バカじゃないの!!」と怒気の混ざった声に迎えられた。見れば可愛くない妹が顔を真っ赤にして鬼の形相を作っている。


 「美麗、そんな怒鳴るなよ」

 「そりゃ怒鳴るよ!いきなりあんな……」

 兄の愚行に対して文句言いたげな美麗だったが、感情が溢れ出し言葉を詰まらせた。思うように動かない口を無闇にわなわなさせ、目尻に涙を貯めるその姿は兄の身を本気で心配したことがよくわかる。


 「ちょっ、お前!?泣くなよ。わ、悪かった。でも仕方ないだろ、あのまま俺が行かなきゃコイツどこまで流されてたか……」

 「そっちじゃないよ!」

 「え!?」


 そっちでないとはどういう事だ?

 輝にはその事しか妹に怒鳴られる理由が思いつかなかったのだが。


 「ホントにお兄ちゃんはバカだよね。普通あんな勢いの強い川で『バタフライ』する!?」

 「え、そこ!?」

 このバカ兄あるところにこの妹ありである。


 「バタフライは体力使うから勢いの強い所でやるのは自殺行為なんだよ!」

 「え、いや、あの……すいませんでした」

 まさか妹に泳ぎ方を怒られる日が来ようとは……。

 輝はどこか遠い目をしながらそう思った。


 仕方なくガミガミと妹の少しずれているお説教を頂く輝。

 マシンガンのように次々と吐き出される説教と時々胸をえぐる罵倒の言葉は、いつの間にか普段の私生活のダメ出しに変わっていた。

 そして一通り文句を言い終えた美麗は口を一瞬紡ぎ、そして一番伝えたい事を言葉にした。


 「お兄ちゃんが無茶して何かを助けようとするのはいつもの事だからもう止めない。けど、その過程で自分の命まで危険にさらすようなバカはしないで……」

 どこか弱々しい声だが輝には充分届いたようで、右手で美麗の頭を撫でながら「ごめんな」と一言だけ謝った。


 優しく撫でられ、かぁっと顔を真っ赤にする美麗。

 それに気づく様子もない輝はずっと手を動かし続ける。

 

 何か他に言ってやらねばこのバカ兄はまた無茶をするに違いない。

 そう確信する美麗は何か言ってやろうとするがなにも思いつかず、ただ沈黙を維持してしまった。

 その沈黙も長くは続かなかったが。


 抱えていた犬がいきなり暴れだして輝の腕から抜け出した。そのまま華麗に地面へ着地すると、礼を言う様子もなく全力疾走でどこかに消えていった。

 「達者でな!」

 その姿を旅人でも送るかのように声を出した輝にもう美麗は何も言う気にならなかった。


 「まぁ、これで尊い命が一つ救われたんだ。結果オーライって事で良いじゃねぇか」

 そう言う兄はにししと笑い、雫滴る金髪を日光に輝かせていた。


 「お兄ちゃんはなんでそんなに何でもかんでも助けようとするの?」


 今回だけでない、輝は取りあえず目の前にいる困っている人や動物を見つけたら助けに入る。

 車に轢かれそうな子供をギリギリのところを駆け抜けて助けたり、不良に絡まれていた女子生徒を助けるために喧嘩したり。あと銃を持った強盗に素手で捕縛したなんてこともあったか。 

 見ててこちらがヒヤヒヤする事ばかりだ。


 「妹としてはお兄ちゃんにはもっと自分を大切にしてもらいたいよ……」

 最後尻すぼみな声で胸の内を告白した美麗に輝は少し悩んだように首をかしげながら笑みを浮かべた。


 「俺さ、バカだろ。だから自分がなんで無茶すんのかとか自分でも分かんねぇんだ。」

 苦笑いしながら言う輝は続ける。

 「けどな、もし自分の目の前にいる助けを求めてるやつを見捨てたら……俺が俺じゃなくなるような気がすんだよ。それだけは嫌なんだ。大切なモノが手の隙間から抜けていくような感じがするから……。だからかな、俺は目の前のモノを全部助けたいと思うのは」


 そう言い切った輝が美麗には眩しく見えた。

 眩しすぎて、儚く、気付いたら自分の目の前から消えていきそうな――――


 それが美麗を胸一杯に不安にさせた。


 「ってもう時間ヤベえぞ!急げ美麗!」

 美麗の手首を掴み走り出した橘輝。

 輝に引かれて走る美麗はその後ろ姿を何故かハッキリと目に焼き付けようとしていた。


 そうしなければ後悔するような気がして。

 この姿が妹・橘 美麗が見る、人間・橘 輝の最後の姿とは知らずに……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 橘は妹と別れ、自分の高校に向かっていた。

 時間は8時5分、余裕で間に合う。というより早い方に部類される時間帯である。


 「美麗の奴、間に合うかな?」

 頭の隅で妹が学校に遅刻しないかどうかと心配しながら校門をまたいだ。

 

 校門をくぐったその先に、教育指導のゴリラ教師がいつも通り立っているのが見えた。ゴリラ教師が橘を見つけるとその格好がビチョビチョなことに気付き、訝しげな顔で睨んできた。

 「橘、なんでずぶ濡れなんだ?」

 至極まっとうな質問に橘は川で犬を助けた時の事を説明すると教師は呆れたように笑った。


 「流石ウチの誇る最強バカの一人だな」

 「おい、教師が生徒をバカ呼ばわりするとは何事だ!」

 聖職者の風上にも置けねぇなと心の中で付け足しながら橘は抗議の言葉を口にする。


 それに対して風上に置けない聖職者はやれやれといった仕草で言った。

 「お前は例外だ!」

 「てめぇゴリラ、PTAに訴えんぞ!」

 

 食ってかかる橘と適当にいなす教師のやり取りを続々と登校してきた生徒たちがクスクスと笑いながら見物し始め、いつの間にか二人をぐるりと囲むように野次馬が集まっていた。


 「覚悟しろゴリラ、今日こそ俺はお前を超える!」

 「ほう、やってみろ。教師に向かってゴリラと暴言を吐いた罰も含めて返り討ちにしてくれる!!」

 

 橘は一気に踏み込み、ゴリラに向かって右腕を振るった。

 だがゴリラは左手で軽くそれを払い体勢の崩れた橘の襟首を掴むと、背負い投げのようなもので橘をアスファルトの地面に叩きつけた。

 無論、頭は打たないように調整されてはいるが受け身を取れなかった橘は悶絶。

 その間にゴリラは橘の足を自分の足に絡めトドメの4の字固めを決める。


 「ぎゃああああああああああ!!ギブギブ!」

 カンカンカン!と野次馬の一人が何故か持っていたゴングが鳴り響き勝負が決した。

 勝者のゴリラはまさしくゴリラのような仕草で両手を上に掲げウオォォォォ!と叫び周りもそれに合わせて叫んでいる。


 敗者の橘は地面に横たわっている。

 「くそ、また勝てなかった」

 拳を地面に振り下ろし悔しがる橘。

 すると彼の横に手が差し伸べられた。視線を上げていくとそこには先程激闘(?)を繰り広げたゴリラ教師がいた。


 「ナイスファイトだったぞ橘」

 称えるように橘の手を握り、引き起こしたゴリラは続ける。

 「お前は確かに大バカだが――――」

 「ちょっと待ってくれ。俺はいつ『大』バカにまでランクアップされたんだ?」

 「まぁ聞け、お前は確かに『大バカ(、、、)』だが――――」

 「今強調しただろ!?」

 「うるさいぞ、少しは黙って人の話を聞け」

 「あんたもな……」


 はぁと本日何度目かのため息をついた橘は今度はおとなしくゴリラの話を聞くことにした。

 「お前は確かに超大バカだがな、」

 (もうつっこまないぞ……)

 「俺はそういうバカなところ嫌いじゃないぞ」

 「せ、先生……」

 突然の褒め言葉に言葉を詰まらせる橘。なんと身代わりが早いことか。

 

 「青春してる時なんてバカやってた方が楽しいに決まってる。それを全力でやっているお前を俺は尊敬しよう!」

 「せ、先生……俺、俺……」

 「何も言うな。黙って俺の胸に飛び込んで来い!」

 

 バッと両手を広げたゴリラの胸に飛び込むバカな金髪少年――――なかなかシュールな絵ずらに周りのギャラリーと書いて野次馬と呼ぶ者たちは皆、その場から一歩下がりそのまま校舎に向かい始めた。


 そして野次馬がいなくなった頃にやっと古臭い教師と生徒の絆物語の一幕が終わり、その横を通り過ぎるように校門を通り3台の貸し切りバスが入ってきた。


 「なあゴリラ?あのバスはなんだ?」

 「いきなりゴリラと呼んでくるか超大バカよ……まぁいい、あのバスは遠足用の貸し切りバスだ」

 「遠足?何年が行くんだ?」

 

 橘が発した疑問にゴリラ教師は頭を抱えた。

 「お前なぁ、昨日のHR寝てただろ。お前ら一年の遠足だよ」

 ゴリラの回答に橘は「えぇー!?」と驚きの声を上げた。


 「いや、確かに昨日のHRの時間は寝てたけど……でも年中行事のスケジュールは覚えてる!今日は4時限で終わる事以外何もない日だったはずだ!」

 お祭り大好きなバカ橘は一年のスケジュールを普段では考えられない記憶力を発揮して丸暗記していた。そしてその丸暗記したスケジュールの中には期末テストも終わり、学校に来るのも終業式を合わせてあと三日というこの日に遠足などというバカが大喜びしそうなイベントは無かった。


 ゴリラ教師は腕を組みフンッと鼻で息をつくと、

 「実は理事長の急な思いつきらしい。まぁ本来授業のない日になったのが不幸中の幸いだが……」

 

 俺、ここの理事長に一生ついて行くよ、と心の中で決意した橘は校門を入ってすぐの駐車場に止められたバスに視線を移した。


 「…………。」

 嫌な予感がした。


 何がとは言えない。なんでとも言えない。だが橘は確かにあのバスに不吉なものを感じた。

 目を細め、じっとバスを睨む。

 だがもちろんそれで何かが起こるわけじゃない。


 ゴリラ教師に「どうした?」と声をかけられ「なんでもない」とそっけなく返した。

 所詮ただの予感だと割り切って橘は視線をバスから外した。


 現在8時17分

 もうプロローグは始まっている――――――――。

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