魔界の住人――DEVIL
遅くなりました
説明回の難しさに唸りながら書き直すこと5回
やっと妥協してもいいかなというレベルまで達しました
まぁ駄文には変わりないのですが、どうぞお付き合いください
「まずは天界と魔界という世界についてだが・・・」
ガイウスは膝の上で手を組み、うーんと唸った
「なんだ?」
橘が訝しげな顔で聞くとガイウスは顔を上げて答えた
「バカな坊やが混乱しちまわないか心配でな」
「サラッとヒデェこと言うな」
「まぁいい、頭を整理しながら聞け」
「・・・おお」
ガイウスは薄らと笑いを向かべて言った
「天界と魔界は異世界だ」
「は?あんたさっきパラレルワールドだなんだつってなかったか?」
「それは人間界の話だ。やっぱり混乱するわな」
はぁと呆れたようなため息をつく
心外だ!と抗議する橘
彼としてはガイウスの説明が足りないと思うのだ
「いいか、この世界と坊やたちの世界は魔力の有無で分岐したパラレルワールドだ。だが魔界と天界は異世界だOK?」
「NO!え、どういうこと?よく分かんない」
「これだからバカは・・・」
「おい!なんか納得いかねぇ!!確かに俺はバカだけどあんたにそう言われんのはなんか納得いかねぇ!!」
ギャーギャー騒ぐ橘を制すように手を突き出した
「坊やは魔界や天界はどこにあると思う?」
突然、質問を投げかけられ橘は一瞬躊躇って答える
「え、そりゃあ地面の下とか空の上とか・・・」
「それは地獄と天国だ。そんな物は存在しないし、魔界や天界とは完全に別物だ」
「じゃあどこに?」
「言っただろ、異世界だって。どこというわけではない。ここにあると言えばここにあるし、どこにもないと言えばどこにもない」
「なんだよその意地悪問題。答えられるか!」
子供のように拗ねた顔をする橘に
ガイウスはハッと笑い飛ばすと腕を組んで、ふてぶてしく背もたれに体重を押し付けた
「坊やたちの世界から見て人間界はパラレルワールド。この世界から見て天界と魔界は異世界ってことだ。分かったか?」
「う~ん、まぁ一応」
まだ納得いかないといった様子の橘だが、ガイウスは気にせず先に進む
「じゃあ、『現在』の天使と悪魔についてだ。簡単に説明するとだな―――――」
そんな前振りをしながらながら彼は簡単に言った
「天使についてはよく知らん。悪魔は7体の『大柱』って呼ばれてる悪魔の神が牛耳って支配してる。
――――――――以上!」
「ホントに簡単だな!雑すぎんだろ」
「バカなお前に合わせて説明したらこんなもんだ。文句言うな」
「いや、それでも・・・もうちょっと詳しくお願いします」
忌々しそうに舌を鳴らしたガイウスは「仕方ねーな」と気だるそうに頭を掻いた
説明してもらっている側とはいえ、彼の態度に一抹の不満を覚えるがグッと堪えて聞く体勢を整える
「まずは悪魔についてだが、言うまでもなく魔界の住人で人間を喰らうことでその身に宿す魔力を底上げすることが出来る。これの所為で悪魔共は人間を襲う」
そこらへんもゲームの設定と同じだと思いながら橘は口を開いた
「俺らが襲われたのはそれが理由ってわけか」
するとガイウスは少し眉を寄せて顎にそっと手を添え、どうしたものかと少し思考を巡らせる
「・・・いや、同じといえば同じだがちょっと複雑な事情が絡んでやがる。コイツの説明は後だ」
理解力が乏しい橘に説明するには順を追って説明するのが一番効率がいいだろうと判断した彼は、そこで話を区切ってさらに悪魔の特徴について語る
「これは天使のも共通することなんだが、悪魔の世界は強さによって階級分けされている」
「階級?番付みたいなもんか?」
「どちらかといえば食物連鎖のピラミッドに近いな」
そう言ってガイウスは指先を宙で弄ばし、その軌跡を辿る様に伸びる光の線(おそらく魔術)で三角形を描いた
さらに光の三角を四段階に分断するよう線を引き、それが意味することを口にする
「悪魔の階級は全部で四段階、下から順に『下位』『中位』『高位』『大悪魔』に分かれてる」
ガイウスは言いいながら、ピラミットの区切りの中に下から『下』『中』『高』『大』と書き込んでいく
「まずは『下位』の悪魔だがこれはピラミッドの底辺に位置する数が多いだけの雑魚だ」
下位悪魔は教会にいた中では蜘蛛、トカゲ、蝉の悪魔などがこれにあたる
「次に『中位』の悪魔。下位の上に位置し、雑魚から毛が生えた程度のちょっとした雑魚だ」
髑髏頭の猿剣士や二足歩行の狼などがこれにあたる
「えらく辛辣だな。あいつらかなり強かったぜ」
橘は彼が教会で殺しあった悪魔たちを雑魚呼ばわりされて苦笑いする
「俺も火事場の馬鹿力がなかったら絶対勝てなかったし、魔術がどんなもんかは知らねぇが普通の人間があいつらに勝てるとは思えないんだが」
実際、橘が言うようにいくら魔術が使えるからといって、普通の範疇に留まる人間では悪魔に勝つことはできない
だが、ガイウスはコケにするように笑いを飛ばす
「アイツらは雑魚さ」
余裕にそう言う彼にはやはりその裏付けとなる根拠がある
彼は再び右手のひらの上に魔力の塊を作った
「悪魔は人間と比べ物にならない魔力を体に宿している。そしてそれを魔術という形でしか使えない人間と違って、悪魔はもうひとつ使う方法を持っている」
ニヤリと笑うと彼は手の上の魔力に意識を向けた
途端、目の前でそれを見ていた橘が心臓が押し潰されそうな感覚に囚われ顔を歪めた
「なん、だ?」
「魔力を強めたのさ。この塊に込めるな」
前の前で禍々しく灯る魔力は、常時目に見えない圧力を発して橘に危機感を覚えさせる
命に危険を感じる程度の危機感を
「もし、この魔力を坊やにぶつけたら死ぬぜ」
「みたいだな。近くにあるだけで息苦しい。早く消してくれ」
圧力からくる息苦しさに耐えかねて、しっしと犬を追い払うように手を払う
するとガイウスはイタズラっ子のような笑みを浮かべて魔力を灯している方の手を「ホレホレ」と近づけてきた
「やめろマジでッ!あんたはガキか!?」
「ハッハ~、よく言われるぜ。いい歳して子供みたいなことするなってな」
「怒られてんじゃねーか!!」
「だが俺は思う。童心を忘れた男に価値はあるか?否!無い!」
「何一人で自問自答してんだ!?さっさとその魔力を消せ。黒沢にも悪影響だ」
言われ、視線をしたに落としてみると
橘の隣で綺麗な黒髪をだらしなく流して寝ている少女の寝顔が目に入る
いくら騒いでも起きる気配のなかった黒沢
だが、幼な子のような寝顔で寝ていたはずの彼女の表情が険しいものに変わり、息苦しそうに荒い息を吐いていた
「おっと、こりゃ~俺としたことが。レディーの眠りを害すのは良くねーな」
キザな笑みを浮かべながら魔力を消す
ガイウスは「ごほん」とひとつ咳払いして話を元に戻すと伝えると橘は「どうぞ」と言わんばかりに肩をすくめて見せた
「さっきの魔力みたいに高密度に集中すればそれは武器になる。これと魔術が使えないうちは雑魚と呼ばれても仕方ない。そしてそれらが使えるレベルにまで達するのが『高位悪魔』と呼ばれる存在だ」
『高位悪魔』その言葉に橘は一体の白い悪魔の姿を思い浮かべた
(そういえばインセドも自分は高位の悪魔だって言ってたな)
「坊やを後ろからグサリといった鎧の悪魔がいただろ。あれが高位の悪魔だ」
「さらにあんたが背後からグッサリ一突きしたあいつか。たしかにあれは強そうだったな」
「坊やじゃどう頑張っても勝てなかっただろうな。というより人間であれクラスに勝てるのは世界中探しても30人いねーな」
弄ったようにそう言うガイウスに橘はからかうように返した
「あんたもその30人の中の一人ってか?」
すると彼は目を逸らしてはぐらかす様な曖昧な回答を返した
「いや、俺は頭数には入ってねー」
何かありそうな雰囲気だった。もちろん橘もそれに気付く
そして「どうかしたのか?」と訊こうと口を開いたとき、ガイウスがそれを遮るように説明を再開した
「ラスト、ピラミッドの頂点『大悪魔』だ」
「お、おう」
橘は出鼻を挫かれ、心の中では動揺したがそれを表に出すまいと振舞った
ガイウスはそれに触れることなく話を続ける
「大悪魔ってのは魔界で『王』の地位を持つ奴らのことだ。もちろん、強さで順位が決まる魔界の王だから全員バカみてぇにつえー」
魔界の王。
その名の通りの圧倒的強さの保持者だとガイウスは言う
魔界の領地を統治する者
その数は千を超えるという
「魔王が1000体・・・どこのクソゲーだよ」
苦笑いが勝手に溢れる
クソゲーなどと例えてみたが、ラスボスが1000体いるゲームなどやる気が起きない
ましてやそれが自分たちが置かれている現実だ
全部と戦う必要がないとしても、絶望感は計り知れない。もはや笑うしかない
「さらに悪い情報があるぜ」
ガイウスはニヤリと笑うと言葉で追い討ちを掛けた
「圧倒的な大悪魔の中に7体、さらにバカげた強さの化物がいる」
「魔王より強い奴が7体か・・・」
「いわゆる魔界の『神』というやつだ。『大柱』と呼ばれている。教会の時、炎に包まれた鬼達磨がいただろ?あれが『大柱』―――つまりは神だ」
炎に包まれた鬼達磨と神という言葉で橘の脳裏に出てくるのは『ベルリア』の姿
そこに存在するだけで全てを押し潰そうとする存在感
たとえ押さえ込んでいても感じる絶対的強さ
思い出すだけで体が竦む
あの時、よく自分は剣を握れたものだと賞賛したくなる
もう一度あれに立ち向かう場面になったら――――――いや・・・
「あんなのが7体もいんのか・・・やっぱりクソゲーだな」
ポツリと自嘲気味の笑みを浮かべながら呟いた
ただの人間である橘が悪魔の神に挑もうと考えている時点で間違いなのかもしれない
勝てるわけはない。それ以上にもう一度出会う機会があるのかも怪しい
(化物には化物が相手をすればいい・・・)
そう考えた時、橘の思考が不意に止まった
もしも、化物に対抗する化物がいないとしたら?
その場に自分しかいない状況で後ろに大切なものがあったとしたら?
――――――――俺はさっきみたいなことを言って諦められるのだろうか?
――――――――無理だ
『橘輝』という人間は『守る』という観点で諦められない人間だ
どんなに絶望的状況でも、彼は諦めないだろう
何も考えずに突っ込み―――そしてあっけなく死んでいく
結果は見えている
ならば―――――
「このままじゃダメだ・・・」
言った途端、橘はバッと勢い良く立とうとした
「うっ・・・グあッ」
だが体に激痛が走り動きが止まる
「おいおい坊や、いくらなんでもその体で動くのは自殺行為だぜ」
橘がいきなり立ち上がろうとするのを見てガイウスは呆れてそう言った
「このままじゃダメなんだ。強くならないと」
それでも橘は腕に力を込めてまた立ち上がろうとする
激痛に表情を歪めながら、それでも立ち上がろうとする
「・・・。」
そんな橘の姿は、ガイウスにとって何か考えさせるものがあった
「くっ・・・」
橘は何度も何度も立ち上がろうとし、その途中で倒れるを繰り返している
彼は体が引き裂かれるような激痛を感じているはずだ
それほどの怪我を負っているのに――――――
死の淵をさまようような体験をしたのに――――――
「―――――坊や、お前はなんで立ち上がろうとする?」
ガイウスの口から疑問の声が洩れた
その疑問に眉をひそめる橘
「なんでって、守りたいからだろ」
さも当然と言わんばかりに彼は再び立ち上がろうと腕に力を込める
「大人しくさえしておけば悪魔たちは坊やたちを狙うことはねーぜ」
「それは絶対か?」
ガイウスが言うのは本当だ。目をつけられない限り悪魔なんてそうそう人前に現れることはない
おそらく橘もそのことは分かっている
だからこそ言葉を返した
そしてガイウスはその返しに思わず返答できなかった
『絶対』――その言葉がガイウスの口を閉ざした
「絶対に安全って言われない限り、俺たちは・・・あいつらは命を狙われんだろ?なら俺は戦う。みんなを守るために、もしもの時に戦う」
迷いを感じさせない言葉を吐く彼に、ガイウスはあることを思い出す
忌まわしい記憶だ
かつての自分が犯した過ち
どこぞの神が決めた『運命』のせいで、『HERO』になりきれなかった『ヒーロー』
立ち向かえばよかったのに
ぶち壊せばよかったのに
出来なかった―――――
『運命』は彼を嘲り笑った
そして目の前には自分が立ち向かえなかった『運命』に真っ向からぶち壊そうとする少年
いや、この少年は既に一度運命をぶち壊している
あの雨の教会で、全滅するはずだった『アッチ』の少年少女たちを守りきった事により、ふざけた物語をぶち壊した
まさにHEROだった
だが――――――――、
「坊や・・・」
今まで淀むことのなかったガイウスの言葉が言いづらそうに区切れた
橘は訝しげな表情をした
ガイウスは橘の目をじっと見、そして首を横に振り
残酷な一言を突きつけた
「もうお前に悪魔と戦う力は残ってねーんだ」




