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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
PROLOGUE――幕開け
13/61

紫電

 過去最長だと思います(笑)

「お早いご登場で、クソ天使ども――――――――」


 空を覆う鉛色の天蓋がガラスのようにひび割れ、砕ける。そこから白光の射す道を通り、光と同じ無機質な彫刻のように白い体から、鳥類を思わせる純白の翼を生やした『天使』が降臨した

 まさに天使と形容できる姿の天使の顔には機械的な表情の仮面が付いている


 そして降臨した天使はその一体だけではない。その天使の後にゲーム内でも見たスカートを履いた人型機械の天使が3体

 さらにその後に続く様に翼の生えていない人影――――――明らかに天使とは異質の何かが10人

 

 続々と降りてくる天使達を見た蜂の悪魔が気味の悪いものを見るかのような顔をする

 「たくッ、あいつら俺たちの邪魔ばっかすんなぁ」

 イライラを吐き捨てるように言う


 悪魔の声は亮の耳には入らなかった。彼の内に希望が生まれていたからだ

 あのゲーム『LIGHT&DARKNESS』の中でも悪魔に襲われた主人公とヒロインは天使が危機に駆けつけた事により生き残った


 ――――――――生き残れるかもしれない


 人間の欲という物は恐ろしいものだ。一度諦めがついたものでも、もし諦めなくてもいい状況になれば捨てたくなくなる

 それが自身の命ともなればそれはもう単なる生存本能――――人間が抗えないモノになる


 (とおる)とて例外ではない。幼馴染を助けるためとはいえ命を捨てるのは流石に躊躇いが生まれる

 そこに現れたこの『天使(きぼう)』だ。縋りつきたくないわけがない

 

 亮の顔が自然に綻ぶ。さっきまで見せていた強がりなモノではなくもっと自然な笑み


 だがその笑みはすぐ近くにいる悪魔の一言に再び掻き消される―――――― 


 「にしても、今更人間助けるために積極的に動き出すってのはどういう風の吹きまわしだぁ?」

 

 不穏な言葉だった。たったその一言で亮の希望は曇りガラスのように鈍く濁る

 

 別に亮を絶望させるために言ったものではない。単純に天使たちへの愚痴を漏らした程度のものだった


 だが彼は悪魔の言葉が耳に入った瞬間に悪魔に向き直り、

 「どういう事!?」

 問い詰める様な勢いで聞いた


 さっきの一言は亮にとって何か重要な事の様な気がしたのだ

 

 亮は今自分たちが置かれている状況を、この異世界を、『LIGHT&DARKNESS』の世界観とまったく同じものだと推測していた

 あのゲーム内で、天使の役割は人間を助け主人公たちと共闘する守護者だ

 その天使が『今更(、、)人間を助けるために動き出す』というのはどういう事なのだ?


 訝しげな顔をしながら悪魔を真剣に見つめる亮。その顔には蜂の悪魔に抱いていた恐怖は見えなかった その事が気に入らなかったのか蜂の悪魔はため息の様なものをひとつ吐き出し、

 「何だ人間?お前らは今更(、、)あいつらに縋りつこうってのか?いやまぁ異世界の人間なら知らないのも当たり前か。こっちの人間でも知ってるのはごく一部だろうからな」


 ――――――――お前は何を言っているんだ?


 亮は無意識に顔を引き攣らせた


 天使ってのは人間を守るものじゃないのか?

 その言い方だとまるで―――――――――――――――――――――


 「遅くなりました異世界の者たちよ。もう大丈夫です、早くこちらへ」

 正しき道に導いてくれると思わせる声が響き、彫刻の天使が手を差し伸べる

 それに惹かれる様に優花やみんなが天使たちの方へと歩を進める


 ――――――――ダメだ!そっちに行っちゃダメだっ!!


 叫ぼうとした。だが亮には彼らを引き止める理由が思いつかなかった

 今こちら側には自分たちを殺そうとする悪魔が一体いて、あちらには助けようと手を差し伸べる天使が複数体いる


 あちら側に行くのが正常な判断だ、最善の選択だ。

 引き留めようと思った原因も所詮悪魔の話を聞いての亮の嫌な予感だけだ。いや、むしろこの悪魔が惑わすために妙な嘘をついたとも考えられる


 亮は迷った

 本来の彼ならこんな状況でも最善を叩きだせたはずだ。だが彼は迷った

 天使という希望の象徴に目を眩ませてしまった


 それが全てを遅らせた。

 叫び声を上げるのも

 無表情なはずの機械的な仮面が冷酷な笑みを浮かべた事に気付いたのも――――――


 「行っちゃダッッ――――――――――――!!」

 叫ぼうとした瞬間、ブオオッ!!と大気を叩く音が炸裂し亮の声が遮られた


 気付けば3体の機械の天使がその翼を羽ばたかせ猛スピードで悪魔に向かって突撃を開始したていた

 

 「おっと、3対1は分が悪ぃな。ここは退散させてもらうぜ。じゃあな人間!ギャハハハアハハハh」

 いつの間にか転移用の魔法陣を展開していた蜂の悪魔は狂喜を残しながら黒い穴の中に沈んで消えていった


 残ったのは静寂と、神秘的な光のみ――――――――


 その静寂に耐えきれなくなったかのように亮は走り出した

 嫌な予感、たったそれだけの理由で走り出した

 もう天使たちに歩み寄るクラスメイト達を止めるまともな理由は完全に消えてしまった。声を上げることも出来ない。だがそれでも彼は焦燥感を抱いて走った――――――――優花の元へ 


 天使は彼の行動に特に疑念を抱く事がなかったのか、仮面を被っているせいか籠っている声で言った

 「悪魔は去りました。さぁ異世界の者たちよ、我々と共に――――――――」

 それはまるで演説の様な口調だった


 「戦いましょう、あの醜き悪魔たちと――――――――」

 

 「きっと勝てます。あなた方の力があれば―――――――――」


 「我々があなた方の力を有効に引き出します―――――――――」


 決まり文句の様に喋る天使

 だがその光景がさらに亮の焦燥感を煽り立てた


 ――――――――何だこの天使達のセリフは?


 気味が悪いと感じた。ド三流の素人が作ったゲームのCPUのセリフみたいだ

 前文と次の文が上手く繋がっていない。まるで都合の悪い部分を無理やり抜き取った様な印象を受ける


 亮はさらに走る速度を上げる

 すると一瞬機械の天使たちの無機質な顔に困惑の色が浮かんだ


 途端、今まで優花たちを白光のスポットライトが当たるところで止まって待っていただけのはずの天使達、正確には『天使ではない何か』である人影達がクラスメイト達の方へと歩いて向かい始めた

 今までは距離があって良く見えなかったが、人影の正体は天使ではなく本物の人間だった

 全員頬の部分に妙な白いタトゥーが入っている

 

 そして数秒の内にその人影達とクラスメイト達が触れ合える距離にまで詰めるが、亮はまだ20メートル程距離がある


 不意に人影の一人が右腕を上に上げた

 何気ない仕草だ。優花たちに集合と言っているようにも見える

 だが違う。あれはそんなものではない


 (やめろ―――――――――――)


 不意に人影の上げた手にきらりと光るモノがある事に気付いた

 白光を反射して神秘的なモノに見えるが、目を凝らしてみればその光はとても鋭利で






 ――――――――――――刃物の様に冷酷だった


 「やめろおおおおおおおおおおおおおおオオオッ!!!」


 鋭利で冷酷な光がクラスメイトの一人に振り下ろされた


 予測して声を上げたはずの亮ですら一瞬何が起こったのか分からなかった

 そんな状況を間近で見ていた優花たちは目を見開き、時間が止まった様に茫然と固まった


 血飛沫が雨に混じりながら優花の頬を伝った

 彼女は震える手で頬をなぞるり、その手を見た


 雨で流されたせいでほとんど一瞬だが、確かに真っ赤な液体を確認した


 「なに・・・コレ?なん、で・・・・・・?」

 彼女の頭の中を混乱が支配する


 そこに追い打ちをかける様に光るモノを振り下ろした人影が笑った

 「ハハハハハハハハハッ!!やりましたよ天使様!神の御言葉通り、力が漲ってきます!」


 この人間が言っている事が亮にはよく分からなかった

 やりましたとはどういう事だ?

 神の御言葉とは?

 

 しかしながら一つだけ理解出来る事があった


 ――――――――あの言葉には蜂の悪魔以上の狂喜と、死神の鎌のような冷たさが宿っている事を・・・


 

 瞬間、本日何十度目かの本物の悲鳴が共鳴する様に轟いた

 思わず耳を押さえたくなるような、甲高さと不協和音を孕んでいたが、叫んでいる本人たち以外は気にも留めず自分たちのやるべき事を見据えていた


 十人いた人影が各々の獲物を狙うために散る

 吹き出す血飛沫、その度に現れる狂喜の声。そして消えてゆく友人たちの命


 「やめろっ!!」


 叫ぶ。だがその言葉は彼らに伝わることはない

 人影たちは殺人を娯楽の様に繰り広げていく。そしてその凶刃がついに優花に向かう


 最初にクラスメイトを切り裂いた人影だ。その手には太い刃のナイフが握られていた

 亮と優花の間にはまだ5メートル以上距離がある。間に合わないッ!

 状況を把握した亮は人影の目に向かって地面の土を蹴り飛ばした。その土は見事に狙い通りに命中し、人影は顔をしかめる


 それでも凶刃が優花に向かって振り下ろされる

 だがその刃は優花の右20センチのところで空を切る


 「グッ!・・・テメェ!!」

 憤怒の声を上げる人影。そんな彼の視線は何処とも言えないところを向いている

 

 その間に亮は優花の手を引っ張り逃げる

 

 「逃がしてはいけません!必ず全員仕留めなさい!」

 仮にも天使の口から出るとは思えない言葉があの彫刻天使の口から響いた


 彫刻の天使の言葉を受け亮たちを追ってきたのは土を蹴り飛ばされしかめっ面の人影一人のみ

 

 (逃げ切れるか?)

 考えている時間すら惜しく感じ、亮は一心不乱に森の方へと逃げた


 たまらなく怖かった

 優花に刃が向けられた時心臓が、いやもっと奥にある何かが握り潰される様な感覚だった

 だが今、自身が彼女の手を引いている状況に何故か安心する自分がいる


 彼女の手を握っている限り、彼女が自分の前から消えることはないと思ったからだ


 自分が彼女を守ると―――――――――守れると

 あの金髪の彼の様に全てを助けることは出来ない。だがそれでも自分は優花を守ることが出来ると


 何の根拠もない、内から湧き上がってくる感情

 

 確信にも似た自信、人間にとってこれほど力になるモノはなかなか無い

 逃げることしか出来はしないが、それは確実に優花を守ろうとする亮の力になるはずだ


 そう、


 これが強い自信ではなく、醜い慢心だという事に気付いてさえいれば・・・・・・




 ドスッと鈍い音が響いた


 途端、亮の手にあった全ての力が抜け落ちていくのを彼は感じた


 ――――――――なんで?


 彼はまだその理由を理解していない

 なぜ自分の手から力が抜けるのかを――――――――


 だが彼はその理由を感じていた

 なぜ自分の手から力が抜けたのかを――――――――


 心が、魂が悲鳴のような絶叫を上げるのを亮は意識の端で捉えていた

 だが頭はその理由が分からない

 絶叫の理由も、内側から焦燥にも似た絶望感が湧き上がる理由も


 彼はゆっくりと振り向いた

 魂が振り向くな!と叫ぶのが聞こえたような気がした

 だがそれでも体は勝手に後ろを振り返った


 そして視界に映るはまさに『情景』


 自分たちを追う人影の手にあるナイフの刃が神秘的な白光を纏い冗談なくらい伸びている

 そして―――――――――――


 「ゆう、か・・・・・・?」


 その刃が優花の左胸を貫いていた―――――――――


 貫く伸びたナイフが引き抜かれ、糸が切れた操り人形の様に倒れる優花。その間、亮は動く事が出来なかった


 彼だけではない。他の誰も動くことはなかった

 さっきまでの悲鳴が全て止まっていた。そして任務を遂行し終えた人影たちは満足そうな顔を浮かべ、静かに殲滅が終わるのを待っていた


 濡れた土の地面に優花の血が染み込んでいく

 真っ赤に、非情に、なんの抵抗もなく


 「優花アアアアアアアアアッ!!!?」


 ついに動き出した亮は地面に倒れる優花の体を抱き起こし、絶叫する様に呼びかける

 優花は口から咳き込むように血を吐きだし、焦点があっていない目で亮を見つめた


 「大、丈夫・・だ、よ・・・・・・と、お、る」

 途切れ途切れ、絞り出すような声で言う優花は、誰の目に見ても大丈夫ではなかった


 色白だった肌は魂が抜けていくように温かみの色を消していき、

 桜色の唇は痙攣するように震え、薄い紫色へと変色していく

 そして瞳からは『生きる』光が蝋燭の炎の様に揺れ、その勢いを弱めていく


 ――――――――なんで?


 疑問が頭の中でリフレインする

 壁に跳ね返る様に繰り返される疑問は亮の頭をつんざくような頭痛として襲い、全ての思考能力と判断力を奪った


 「いや、だ――――――――――嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッッ!!」


 壊れた様に拒絶の言葉を口にする

 だが、神はそんな彼の言葉を聞いてはくれない


 いくら拒絶しようと優花はどんどん弱っていく

 まるで表情の無い人形みたいに変わっていく彼女を視界のみが彼に伝える


 亮は目から溢れんばかりに涙を流す

 雨に混じり、どれが涙か分からなくなる


 意識が澄明なかわりに、思考が絵の具に塗り潰されていくように真っ白になっていく


 ――――――――もう何も考えられない


 耳から入ってくる音も、鼻から入ってくる匂いも、目から入ってくる視界も、舌で感じる味も、肌に触れる感触も、


 なんとなく流れるBGMのように、何か分からない異臭のように、だらだらと流れる映像のように、何も感じない空気の味のように、水の中に入っているように、


 全てがどうでもいい


 全て受容器で止まり思考にまで繋がらない


 だから彼は気付かなかった


 優花がもうどれか分からない涙を拭う為に、震える手を伸ばして亮の頬を拭った事を


 そして、彼に向かって微笑みかけ



 『最後』として彼に言葉を贈った事を――――――――――――



 亮はただ、茫然と優花の唇が微かに動くのを見ていただけだった


 亮の頬に触れていた彼女の手が地面に落ちる

 もう動くことはない


 吐息も、体温も、何もなかった


 彼女の体はもうただの抜け殻

 亮が大切に思い、守りたいと思ったものはそこにはなかった


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 亮の口は閉ざしたかのように動かない。動かすための気力がない


 心が、魂が、絶望に咀嚼されたかのようにボッカリと穿たれ

 亮の中身をすべて奪った


 優花の体を抱いてピクリとも動かない彼に、機械の様な天使が一体近づいてきた

 その顔は仮面で隠され表情は窺えないが、どこか慈愛のようなものと同情のようなものが見られた


 「悪く思わないでください」


 謝罪ではない言葉が、無機質な声でこの世界に現出された

 発生源は亮に近寄ってきた機械のような天使


 「これもすべて我らが『神』の御導き。あなた方は我らの忠実なる『使徒』達の力となるのが、神に御決められた運命(さだめ)なのです」


 淡々と語る天使

 亮は天使の言葉を受け取ってはいない


 ただの音の羅列が一応脳の中に記憶として保存していく


 「その運命に従い、我らの糧となり、我らが悪魔を滅するその時まで待っていて下さい。そうすれば、きっと罪深き力(、、、、)を持ちて生まれて(、、、、、、、、)きた(、、)あなた方にも神から救いの手が差し伸ばされるはずです」


 それだけ言い終えると天使は身を引き、天使たち曰く、『使徒』と呼ばれる人影達の一人、優花を殺したナイフの男に亮を殺れと指示を出した


 ゆっくりと近づきながら、気味の悪い慈愛を含んだ笑みを浮かべる使徒はその手に握るナイフを振り上げた


 しかし人間としての同情なのか、使徒は最後に言葉を掛けた


 「安心して逝け」


 その言葉を聞いた瞬間、亮の内から何かが湧き起こった

 穿たれた魂の傷口からウジ虫の様に湧き出てくる何か。それはどんどん増殖し彼の魂を包みこんだ


 亮は今まで動かなかったはずの口を僅かだが口角が引き上げ、一つ乾いた笑いを吐き出した




 ――――――――何を安心しろと?


 おかしいだろう


 今から殺されるというのにどう考えたら安心できるんだ?


 他の殺された皆は安心して死んでいったのか?


 そんなわけはない


 突如現れた希望が一気に絶望へ変わり、安心していたはずがない


 恐怖――――――――


 安心とは正反対にある感情が、おそらくあの時みんなが感じていたものだ


 そんなものを与えておいて今更安心しろ?


 おかしいだろ


 そんな戯言を言うやつにみんなは殺されたのか?


 運命だなんだと言って、俺たちを糧と呼んだ奴らにみんなは殺されたのか?


 優花はこんな奴に殺されたのか?――――――――――――――


 思考がそこまで辿り着いた時、亮は無意識に言葉を漏らした



 「・・・・・・フザケルナ」



 たった一言

 だがそこに籠められた意味は闇の様に深い感情だった


 それを感じ取れなかったらしい使徒は訝しげな顔をした

 だがすぐに元の表情に戻り、何も言わずにナイフを振り下ろした―――――――――――はずだった



 視界が暗転した


 いや、この物語に幕は下りてはいない


 舞台を照らす明りはまだついたままだ


 それどころか明りはさらに強いものに変っていた。あまりにも強すぎるものへ

 強すぎて逆に視界が暗くなるくらいに

 

 そこにいた全員が、天使ですらが視界というものが激烈な光源に奪われていた

 鮮やかなる『紫』色の光源に―――――――――――――


 落雷


 それが光源の正体

 紫色の雷は『紫電』というのだったか


 紫電が天から降り注ぎ、轟音を撒き散らして大地を叩き地震のごとく揺らす

 残光と残響が尾を引いた頃には、大地は穿たれたように巨大なクレーターを作り、大火災の後の様に真っ黒に焦がされていた


 そして真っ黒なクレーターの中心には人型の木炭のようなモノがあった

 それが何かは言うまでもない


 天使たちの無表情だった仮面が困惑と恐怖に歪んだ瞬間だった


 そして、クレーターのすぐ横で佇んでいた亮は、

 抱きかかえていた優花の体を優しく地面に横たえ、毛づくろいする様に一度彼女の頬を撫でる

 名残惜しそうに彼女から手を引き、立ち上がりながら亮は呟いた


 たった一言――――――――全ての感情を詰め込んだ業火の様な一言




 「殺す」



 瞬間、彫刻の天使に紫電が襲い掛かった

 ズドオオオオオオオン!!と爆発にも似た轟音が響いたと感じた時には彫刻像のように白かった右腕が紫電に穿たれ、消滅していた


 「う、ぐぁ・・・・がッ!?」

 苦痛に声を漏らす天使。その顔にある仮面はもう無表情とは程遠い苦痛と恐怖に染まり上がっていた


 「あ、有り得ない!早すぎる、こんなにも早く『スキル』が覚醒するなんて!?」

 今までの丁寧で落ち着いた印象を与える口調は消え失せ、感情がそのまま吐露された様な言葉を吐く彫刻の天使


 亮はそんな天使の言葉を耳に入れることもせず、一歩、一歩と天使たちへと近づいて行く

 その表情は激しい怒りに歪み、そして左こめかみの一束分の青に染まった髪が神秘的な青白い光を宿していた


 使徒たちは亮の髪に宿る光を見て、一歩分後ろへ引いた


 同じなのだ。亮が宿す光と、天使たちが神と崇める者が纏う光が―――――――――


 絶対の象徴である神と同じ光を宿す少年

 その異常性は、神を信仰し絶対と信じる彼らの魂を激しく揺さぶった


 誰もが臆し、その場から動く事が出来なくなった

 たとえ今、天使たちが命を下しても彼らは従う事はないだろう


 それを理解してか、機械的な姿の天使が3体

 亮に向かって突撃した


 3体とも白光をその体に纏い、亮へ襲い掛かる

 だが―――――――


 ドドドオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!


 3発の紫電が天から降り注ぎ、襲い来る3体の天使に直撃した

 激烈な閃光が辺りを包み、轟音が全ての物音を無に帰す


 そして残光と残響が去った時、そこに残っていたのは3体の天使ではなく、ただの黒く焼け焦げたガラクタの山だった


 「「ぁ・・・あぁ、あぁぁあッ!?」」

 使徒たちの口から言葉にならない恐怖が漏れる。

 もう彼らが天使の指示に従う事は出来ない。天使が命ずるであろう指示は、彼らが神と崇める存在と同等の存在に逆らう事なのだから


 ガタガタと震えだす使徒

 その上から片腕の無い天使が怒号の様に声を上げるが彼らの耳には届かない


 その様子を目にした亮は、よほど滑稽なものに見えたのか笑い声を零した

 「ははは・・・」


 不意に、亮は足を止めた

 「どうしたの?怖い?―――――――――――――――――死が」


 その一言に全員が戦慄した。まるで自分たちのすぐ未来が予言されている様な気がして


 「「「「うわあああああああああああああ!!!!」」」」

 

 悲鳴を撒き散らしながら使徒たちは逃げ惑う

 必死に、無様に、滑稽に


 天使は彼らを引きとめようと声を上げる。だがそれには何の効力もない

 彼らは逃げる。恐怖から―――――――――亮から


 亮は逃げる使徒を追うようなことはせず、ゆっくりとした動作で右腕を前へと突き出し、親指を上へ立てた

 「そうだよ、それでいいんだ。それが今君たちが取れる最善の選択だ」


 使徒たちを称賛する亮。その言葉が残された天使に深い恐怖感を植え付ける


 「でもね、それじゃダメなんだよ」


 響くような声で続ける亮

 そんな彼の表情は、狂喜の笑みを浮かべていた


 「うをおおおおおおおおおおオオオッ!!」

 彼の顔に浮かぶ狂喜を見た時、天使は本能的に咆哮した

 自身の命に危機を感じたのだ。生まれてこのかた、天使の中でも才能ある者として生まれた彫刻の天使は、この時初めて感じた


 ――――――――自身の命が脅かされる恐怖を


 だが、どんなに叫ぼうと亮の狂喜は払えない


 「この世界は理不尽だ。どんなにいい選択をしたって、『最善』を尽くしたって、訪れる運命は最良とは限らないんだよ―――――――――――――」

 

 言い放った時、亮は全てを凌駕する様な狂喜をその顔に浮かべた

 そして上を向けて立てていた親指を勢いよく下へ向け、

 そのまま彼は魂が叫ぶままに、念じていた事を言霊に変える







 「――――――――――――死ね」



 紫電が亮の怒りを代弁するかのように、その鉄槌を振り下ろした


 世界が暗転する

 紫電に包まれ、閃光と轟音に全てが押し潰される。神の決めた運命(ぜったい)さえも


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 世界が再び物語を語り始めた

 

 天気は相変わらずの曇天で、降りしきる雨は地上にいる生者を冷たく叩く

 

 唯一の生者として佇む(とおる)は、およそ『生』がある者とは思えない顔をしていた

 しっかりと地面に足をつけて立ってはいるが、俯き、腕は神経が通っていないかのように力なくブランと垂れ下がっている


 何もない地面を遠い目で見つめる。その瞳には何も宿っていなかった

 まるで死人の様に 


 不意に、彼は踵を返すように振り返りそこに横たわる少女に歩み寄った

 ゆっくりとした足取りで、そよ風に煽られただけで転倒しそうな足取りで


 彼女の傍で足を止めた亮は、そこで力無く、崩れ落ちるように膝をついた

 項垂れるようにして彼女の顔をよく見る


 生きている人間では有り得ない白い肌

 固く閉ざされた瞼は彼女がもう二度と目を覚まさない事を顕著にしている

 それなのに、彼女の表情はとても柔らかで、微笑んでいるようにも見えた


 ――――――――まるでただ眠っているだけみたいだ

 

 亮はそんな事を思った

 それは単なる現実逃避だという事は彼も気付いている


 自重するような笑みが亮の顔に浮かんだ


 「俺って・・・・・・サイテーだ・・・」

 誰にという訳でもなく独り言のように呟いた


 亮は思い出していた

 彼女の最期を―――――――――――――


 弱々しい声で自分に「大丈夫」と語りかける彼女の姿を

 みっともなく涙を流す自分の頬を優しく撫でる彼女の姿を


 そして、自分のために最後の言葉を残してくれた彼女の顔を


 「せっかく君が・・・俺のために『言葉』をくれたのに・・・俺、覚えてないんだ」


 再び亮の頬に涙が伝う


 「君が俺に何か言ってるのを見たのは覚えてる。・・・けど、君が何を言ったのかを聞いた事が思い出せないんだっ」


 拭ってくれる人は誰もいない


 「だからさ、勝手だっていうのは分かってるけどさ・・・」



 ――――――――もう一度目を開けて・・・その声を聞かせて


 言葉にしようとした。しかし言葉にはならなかった

 亮の喉に何かが詰まった様に声が出なくなった


 「う・・・ぐぅ・・・・・・うっ」


 嗚咽が漏れ、それが全ての言葉を塗り替えてしまう

 だから彼は言葉の代わりに彼女に手を伸ばした


 何にもならない事は理解している

 だがそれでも、彼は彼女を抱きしめた


 ――――――――夢であってくれ


 悪夢のようなこの現実を否定しようとする。しかし今抱く彼女の体から感じるものの全てが彼に現実を押しつける


 「なん・・・・・・で」


 「起きてよ・・・目を開けてよ・・・」


 「ねぇ、明日の予定はどうするんだよ?・・・・・・声を聞かせてよ・・・」


 いくら語りかけても意味はない

 彼の言葉は全てこの世界の理不尽に押し潰されて、誰にも届く事はない


 だから彼は叫ぶ

 

 「目を開けてくれ――――――――――――優花アアアアアアアアア!!」


 今度は彼の悲しみを代弁するかのように空が泣いた

 紫電が唸り、曇天が紫に染まり上がる

 彼の一束の青に染まった髪は青白い神秘的な光を宿す


 無駄だとは分かっている。でも認めたくない

 優花が死んだことを―――――――――――亮は認めたくなかった


 そして彼の叫びは静寂の中に消え去る

 誰にも届くことなく、誰にも受け取られることなく、ただ残響を残して・・・


 ――――――――なんでこうなった?


 亮はうまく回らない思考を無理やり回して考える

 

 ――――――――なんで俺たちはここにいる?


 ――――――――なんで俺たちがあんな目に合わなくちゃならない?


 ――――――――なんで優花たちは死ななくちゃならなかった?


 ――――――――なんで・・・・・・俺は優花を助けられなかった?


 いろんな疑問が頭の中を駆け巡る。だが亮にその疑問を解決するためのヒントを何一つ持っていなかった。

 それでは納得いかない、いやあったところで納得なぞ出来るはずもないのだが亮は今ある知識と記憶だけで原因を探る


 そして記憶力優秀な彼の頭の中に次々と過去のビジョンが浮かぶ

 天使と出会った―――悪魔に襲われた―――この異世界に飛ばされた―――教室にいた―――――


 「は、はは、はははははははははははは」

 狂ったような笑い声を出す亮は右腕を優花の体から離し、自身の右目を覆う


 その覆った真っ暗な視界には一つの憎悪の対象の姿が薄らと浮かびあがった


 『LIGHT&DARKNESS』


 そう、あのゲームが全ての始まり・・・

 このふざけた悲劇を引き起こした引き金・・・


 そしてその奥にいる、全ての元凶―――――――――――――――――――


 「・・・・・・とう、さん」


 亮の父、clown社の社長にして、『LIGHT&DARKNESS』を開発した人間

 

 「なんで・・・答えてよ父さん・・・」

 偉大で尊敬できる父だった


 「なんで俺たちを・・・俺たちが何をした?優花が何をした?――――――――」

 その父の姿が亮の中で音を立てながら歪んでゆく


 「なんで優花は死ななくちゃならなかった?・・・なぁ、答えろよ――――」

 そして父の姿が『悪』の象徴と化した時、


 「―――――――――――答えろよッ!!!!」


 彼は『悪』に堕ちた


 全てが憎くなった

 天使も、悪魔も、父も、そして何も救う事が出来なかった自分が憎くて憎くて仕方ない


 「――――――――はははhhぁhhhhhhhhあ!!」


 壊れたラジオから聞こえてきそうな笑い声を響かせる亮の顔は――――――――――


 「いいぜ、やってやるよ――――――――父さん(てめぇ)が何考えているかは知らない。でも俺がやるべきことは分かった・・・・・・・・・殺してやる」


 ―――――――――その表情はかつてないほど、邪悪で凶悪な笑みだった


 「皆殺しだ!!天使も、悪魔も、人間も、

  ――――――――全部全部全部全部、()は俺が滅す(、、、、、)


 だが、彼が誓ったのは悪とは矛盾した決意

 悪に墜ちたにもかかわらず、亮の中にはまだ光が宿っていた

 黒く、深く、全てを呑みこむ様な漆黒色の光が残っている


 その光が彼を完全なる悪へと、残酷な虐殺者へと変えてはくれなかった

 ひどくねじ曲がってはいるが、その光は確かにヒーローを名乗る者が持つ光だった


 仕込まれたのだ、幼い頃からずっと・・・父の手によって

 こうなる様に、悪に墜ちてもヒーローとしての光を失わないように


 安斎の求める『本物のヒーロー』へと導かれるように――――――――――


 そしてここで『安斎 亮』を主人公とした物語のプロローグは終わる


 闇に呑まれたヒーローは復讐を信念に動き出す――――――――――

 長かった

 やっとプロローグが終わりました


 もうプロローグってなんだっけ?と途中で自分で思ってましたがなんとか終わりました

 ここまでお付き合いいただきありがとうございます


 次回から本編・・・と言いたかったのですが、作者に説明する力が無いため、次とその次ぐらいで補足的な用語の話をします


 出来ればお付き合いください

 

 次は橘が主人公として動き(?)ます

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