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LIGHT&DARKNESS ~二人のヒーロー~  作者: takeunder
PROLOGUE――幕開け
11/61

悲劇

 一気に暗い話になります

 悲劇は唐突に始まった


 8時35分、朝のショートホームルーム開始時間きっかりに現れた担任教師が手早く出席確認および本日の予定、つまり遠足についてを適当に確認した


 そして終わりの礼をし、担任が教室から出てドアを静かに閉めた直後、席に束縛されていた生徒たちが三々五々に散り、遠足へ行く準備を開始する。といっても荷物の確認ぐらいなのだが


 そして(とおる)たちも朝に配られたプリントを見ながら遠足をどうするだとかを話していた

 メンバーは亮、優花、墨田の朝のメンバーと変わらず

 高校生といえどまだ子供と言える年頃だ、遠足に僅かながらも心躍らせている


 だがその時、悲劇の片鱗に誰かが気付いた


 「あれ、ドアが開かない」


 一人の生徒が閉められた引き戸の取っ手に手をかけながら言った

 その声に何人かの生徒が「ふざけてないで早くドアを開けろ」と催促するが、


 「い、いや全然開かないんだよ。壊れてんのかなぁ~?」

 ドアに手をかける生徒は首をかしげる


 それを見た他の生徒が面白半分に力自慢大会を始める。だが誰もドアを開けれられなかった。それどころかピクリともドアを揺らすことが出来なかった。まるでドアが不可視の力でそこの空間に固定されているかのように


 教室に出入りに使えるドアは二つある。だが一つのドアが全く開かないという事実に僅かの動揺が生まれる

 とはいえ動揺が大きくなることはなく、何人かの生徒がもう一つのドアへと手をかける


 「あれ?こっちも開かない」


 流石に大きな動揺が教室内に生まれる

 二つあるドアがどちらも同時に壊れることなどあるだろうか?


 この教室のクラスは県内有数の進学校の特別優秀な生徒が集まったものである。現在教室内にいる生徒は全員それなりに頭が働く者ばかりだ

 

 だからすぐさま理解する

 ――――――――これは何かある、と


 誰かがイタズラしたのか?

 さっき出て行った担任が絡んでいるのか?


 いろいろな推測が生徒たちの頭の中に(よぎ)

 

 だが、次の瞬間に起こる現象に全員の推測が否定される―――――――彼らが理解できない現象に否定される


 ブゥゥゥゥンと蜂の羽音のような音が教室中から響いた

 そして皆が自身から一番近い音源に目を向ける――――――――――足元へ


 「なに・・・コレ?」


 誰かが呟いた

 そしてそこにいた者全員がその呟きと同じことを思った

 彼らの視界には理解できない、いや信じられないモノがあった

 

 そんな中で一人、


 「魔法・・・陣?」


 (とおる)だけがその信じられないモノの本質を理解していた


 ――――――――俺はこれを知っている


 そう、彼らの足元に浮かぶ光る円はアレと同じ

 『LIGHT&DARKNESS』の中で一番最初に出てくる魔法陣―――――――――


 ――――――――異世界へと転送する為の魔法陣――――――――


 「そんなバカな・・・」

 

 独り言のように亮は呟く

 当然だ、いくらアレと同じとはいえアレはゲームの中にある空想のもののはずなのだから現実で起こるはずがないと考えるのが普通だ

 彼もそう考えた


 だが彼の考えは一瞬にして否定される


 『リゴーン リゴーン』


 神秘的な鐘の音が響き渡る。そう、これもあのゲームのモノと同じ・・・・・・


 ――――――始まりの鐘


 そして悲劇は始まる


 魔法陣が強く光り、黒い穴のようなものが生まれる

 その現象を目の当たりにしている生徒たちは誰も動けない

 自分たちが学んできた常識で一切理解できない現象を、ただ茫然と見続けることしかできなかった


 黒い穴はそんな彼らをあっさりと呑みこんだ

 躊躇いなく、抵抗もなく、ただその魔法陣に刻まれた効果を実行に移す


 そして密室だった教室内が静寂に満たされた

 

 誰もいなくなった教室

 荷物は適当に散乱し、人がいた気配をくっきりと残している


 そんな教室のドアゆっくりと開いた

 そこに立っているのは学校に関係のないはずの礼服の男


 男はどこからか携帯を取り出し電話帳に登録してある一人に電話をかける

 二回目のコールを遮る様に相手側が通話に出た


 「もしも~し、田澤ぁ聞こえてる?」

 『なに?要件をさっさと言って消えてちょうだい』

 「つめたいな~、グレちゃうよ」

 『死ね』


 プー、プーと通話が切れた音が虚しく響く

 男は一人で苦笑いしながらもう一度電話をかける

 今度は一度目のコールで繋がる


 『消えろ』

 「電話に出て第一声がそれってどうなの?そんなんだから30後半なのにまだ独身なんだよ」

 『うっさい!余計な御世話だ!!・・・それよりそっちはどうなったの?』

 「報告しま~す」


 男は軽い調子で電話の向こうの田澤に向かって現状を報告する


 「っというわけで安斎の(せがれ)、おれらのド本命くんはちゃ~んと『悲劇』への片道切符を受け取ったよ」

 『そう・・・よかったわ』

 「・・・田澤はさぁ、ホントによかったって思ってる?」

 『何が言いたいの?』


 男は見えないはずの電話の向こうの田澤に向かって不敵な笑みを浮かべる


 「な~んでもないよ」

 『いちいち癇に障る言い方するわね。まぁいいわ、さっさと証拠隠滅やっちゃってちょうだい」

 「はいは~い、この忠実なる部下にお任せあれ!」


 男は軽やかな口調でそう言った後、電話の通話を切った

 彼は誰もいない教室に目を落とし、床に落ちてあるプリントを右手で拾い上げる

 数秒そのプリントに書いてあることを黙読するが、


 「くだらね」


 一言そう吐き捨ててグチャリとプリントを握り潰した

 

 「さてと、証拠隠滅、もといお掃除開始しますか」

 服の袖をまくり上げながら彼は腕に力を込める


 途端、彼の両腕から刺青のようなものが浮き上がり、そして光り始める

 それが男の腕からのっぺりとした何かとして離れ、端と端がくっついて円になる


 『魔法陣』だ


 そして魔術が起動する

 床や机の上に散らばっていたプリントやカバンが全て粒子の様なものになり、天井に向かって昇ってゆく。そして天井に突如現れた黒い穴に全てが呑みこまれ、


 「お掃除かんりょー!」


 人がいた形跡のない教室だけが残った

 男は満足そうに教室の中を見渡すと、踵を返して外へ出た


 彼はそのまま何事もなかったかのように来客用の出入り口へ向かい、学校の外へまで出た

 そして校門をくぐり終えたところで振り返り、


 「ヒーローくん、君のこれからは悲劇と不幸しかないと思うけど頑張ってくれ」


 ひとつ、薄気味悪い笑みを浮かべる

 

 「Good ruck―――――HERO」


 そのまま、朝の街の喧騒へと姿を消した


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「・・い、・・きろ!起きろ!」

 「う・・・っん」


 暗い意識の外から誰かに呼びかけられているのを感じ、(とおる)は重たい瞼を上げた


 「亮、目ぇ覚めたか?」


 目を開けた亮の眼前にはおっさ・・・老け顔のクラスメイトの顔があった


 「ああ、覚めたからその暑くる・・・熱血な顔を離してくれないかな」

 「せっかく起こしてやったというのに失礼な奴だな。まぁいい」


 墨田は寝転んだままの亮に手を差し伸べ、亮もその手を握り勢いよく立ちあがった

 立ち上がった亮はまだ少し霞む視界で辺りを見渡した


 「ここは・・・」

 言葉を失う亮


 「俺にも全然理解できない。俺たちは気を失う前まで教室にいたはずだ。なのに目を覚ましてみればこんなところにいるんだ、訳が分からない」

 墨田は心境をジェスチャーで表しながら言う


 しかし今、亮の意識の中に墨田の声は入ってきていない

 彼の意識の中は激しく混乱していた


 「うそ・・・だろ・・・」


 理解出来なかった。いや頭が、心が、常識が、理解するのを拒んでいた

 突如現れた魔法陣、鳴り響く神秘的な鐘の音、そして現在自分たちが置かれている状況


 「教会・・・」


 意識を取り戻した時、あのゲームの主人公たちがいた教会――――――――――


 まるで一致していた、全てがあのゲームの筋書き通り 


 常識で考えればありえない。だが現に目の前で起こってしまった

 もう逃げられない――――――亮の頭はこのふざけた現象をちゃんと理解してしまった


 ここはあのゲーム、『LIGHT&DARKNESS』の世界と同じだと

 そしてこの後、悪魔(やつら)が来るという仮定で動かなければならないことを


 そこで亮の何かを思い出し周りを見渡す

 「優花!」

 そして数メートル離れたところに倒れている幼馴染の姿を見つけ、駆け寄る

 彼と彼女の間に何人かクラスメイトが倒れていたが彼は気にする様子もなく幼馴染の元まで急いだ


 「起きて、優花起きて!」

 激しく体を揺らす。すると優花は意識を取り戻し呑気な欠伸を一つする

 彼女はまだ意識がハッキリしていないのかトロンとした目で亮の顔を凝視している


 そして亮が優花に「逃げよう」と言おうとした時、


 ――――――――ああいう人に憧れるな・・・


 今朝の彼女の言葉を思い出した。あの子犬を救った金髪の少年に向けられた言葉を

 それと同時に自身の妥協点を思い出す


 ――――――――親しい友人達を、優花を、命がけで助けることが出来るだろうか・・・


 亮は思わず歯噛みする

 こんな危機的状況ですら、幼馴染の自分に対する評価が気になっている自分がひどく情けなく思えた


 だが、


 「優花、みんなが(、、、、)危ない。急いでみんなを起こして」

 

 咄嗟に出た言葉は結局、優花に好意を向けてもらいたいという欲から来たものだった

 この選択自体は人間として褒められたものだ。しかし彼の選択の理由は結局、自分の為だ


 (サイテーだ・・・)


 自己嫌悪に陥りながらも亮はそこらに寝転がっているクラスメイトを起こしていく

 そして全員が起きた頃、亮は声を張り上げた


 「みんな聞いて!」


 その声に未だ状況が掴めず、ざわざわとしていたクラスメイト達が一気に黙る

 

 「ここは危険なんだ、今すぐここを離れよう」

 詳しい説明をしている暇はないと判断した亮は極論だけをみんなに伝えた

 当然、訳のわからない状況で極論だけ言われて納得できる人間などいない。皆再び戸惑ったようにざわめき始める


 その時男子生徒の一人が声を上げた

 「安斎、お前はこの状況がどういう事なのか分かっているのか?」


 男子生徒の問いに亮は少しも考えることなく、

 「不確定要素が多すぎて分かっているかと言われれば微妙だけど、ここでゆっくり話している暇はないという事だけは言える」

 起こってからでは遅いのだ。待っていてはだめなのだ。逃げなければならい、まだ見ぬ悪魔から


 ハッキリとした口調でそう答えた亮に、男子生徒は「そうか」と無理やり納得するしかなかった


 「早くここを離れよう」


 そう言って亮が先頭を切って教会の扉へ向かう

 それに続くように優花と墨田が、そしてクラスメイト全員が後を追う


 「亮、不確定でもいいから説明してくれないか?」

 後を追ってきた墨田が先頭を歩く亮に駆け寄る


 亮はそれに振り返ることなく目の前に迫った扉に手をかける

 「ごめん墨田、今は説明してる時間がないんだ」

 そして大きな扉を片手で押し開けた


 ギィィィと古びた金属金具が擦れる音が響き、外の世界が亮たちの目に入る

 

 「雨か・・・」

 亮の隣で墨田が呟いた


 外は雨が降っていた。空は重い鉛色に沈み、そこから降り落ちる雨はほどほどに激しかった

 日の光は弱い、明け方か日の暮れ時なのだろうか?


 「・・・行こう」

 亮はそんな事を気にする様子もなく、ズンズンと雨の暗い道へ足を踏み出す

 

 「ちょっと亮!濡れちゃ――――――――」

 「急いで!!もう時間がないんだ!!」

 止めようとする優花の声を遮る様に亮が声を荒げる


 その声に誰もが目を剥き、そして沈黙を作りだした

 焦っているとはいえ八つ当たりのような真似をしたことに亮は態度に出さないが心の中で深くため息をつき、再び雨降る暗い道へ踏み出す


 そんなとき不意に、虫の羽ばたきの様な音が雨の音に混じって亮の鼓膜を叩いた


 同時、


 「ッッ――――――あぶねぇ!!」

 墨田が声を上げ、雨の中を歩く亮の体を突き飛ばされた

 吹き飛ばされた亮の体は水溜りのある地面に転がり、水飛沫を上げる


 「ッテぇ――――――」

 もう雨でビチョ濡れになっていたので水溜りに突き飛ばされた事には怒りはしないが、いきなりの事に文句の一つでも言うべく両腕で上体を起こした 

 

 「何するんだ墨・・・・・・だ?」


 亮の口の動きが止まった。目の前の光景に言葉が出なかった


 「うい・・・てる・・・」


 墨田が2メートル程宙に浮いていた。それだけでも異常事態だ。亮は戸惑う

 だが、それだけじゃ終わらない


 「――――――――――――へ・・・?」


 肺からただ空気が漏れただけの様な声が喉を通りぬけた

 そんな亮の頬に一滴の雫が落ちた。雨じゃない、生暖かく、そして何より――――――


 ――――――――『赤』かった


 亮はその雫を手で拭い、視線を落とす。すると手の甲が一瞬だけ赤に染まり、すぐに雨に洗い流された

 そしてもう一度、墨田に視線を戻す


 そこで気付く、


 「あ・・・・・・・あァっ!?」


 墨田の胸から鋭利な金属棒が突き出ていることを

 彼の顔に生気が宿っていないことを

 

 「ギャハハハッハハアハハハハハハハハア!!!こりゃいい、異世界の人間の串焼きにでもして食ってみるか?」

 音だけでその辺り一帯が闇に包まれそうな邪悪さを孕んだ笑い声が聞こえた


 それに反応するように他のクラスメイト達も悲鳴を上げた

 驚きや悲しみが含まれたものではない悲鳴

 単純な恐怖しか含まれていない悲鳴が響き渡る


 亮にはその悲鳴の理由が分からなかった。皆が何に怯えているのか理解できなかった

 だがその理由は次の瞬間、人間が最も信頼する五感によって彼に理解させる


 宙に浮いた、いやぶら下がった墨田の体が勢い良く横に振られ、ミチミチという嫌な音を立てながら胸に刺さっていた金属棒から抜け落ちた


 そして墨田の体が無くなりクリアになった亮の視界、そこには――――――――


 「悪・・・魔―――――――――――――――」


 人間が存在することを信じないモノ、いるはずがないモノ、そしてなにより彼が最も恐れていたモノがそこにはいた


 白い産毛に全身を包まれ、トンボの様な翅で大気を叩き、人間の様な二手二足、その手には雨で流せないほどべっとりと赤い液体が纏わりつく金属製のランス

 そんな特徴を兼ね備えた気味の悪い蜂の悪魔が、本来は表情と呼べないものをその昆虫面に浮かべていた


 狂喜という表情を―――――――――

 次で亮のプロローグも終わりです

 自分で書いといてなんですが・・・長かった

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