GAME-天使と悪魔
少年漫画のような王道モノと邪道モノを書いてみたいと思って書いた作品です
少しでも楽しんでいただければ幸いです
※流血描写がかなりあります。苦手な方は回れ右するようお願いします
『リゴォーン リゴォーン』
神秘的でどこか不気味な印象を受ける鐘の音が鳴り響いた。
『LIGHT&DARKNESS』
反響の余韻を残す鐘の音が小さくなると同時に、光と闇という意味の言葉が金髪の少年の目の前の液晶画面に表示された。
金髪の少年はそれを確認した後、手にあるコントローラーのボタンを押した。すると『start』と言う文字が一瞬だけ燃えるように光り、液晶画面が真っ暗になった。
『now loading』という文字が3秒ほど画面の片隅に自分の存在を誇示するかのように点滅し、やがて消える。少年の目の前には一応は3Dのグラフィックだと教えられているのだが本物の映像にしか見えない青空が映されていた。
「すげぇな!本物の映像みたいだ。こんなのが、たかがゲームに使われてるんだから世の中どうかしてるよな」
正直な感想を漏らしたのは今画面の正面に座り、食い入るように映し出される空の風景を見ている金髪の少年『橘 輝』だ。
橘は今、通っている学校で配布されたゲーム『LIGHT&DARKNESS』をプレイしようとしていた。
学校からゲームが配布されるという事に一般的には疑問の声を上げるだろうがちゃんとした理由がある。
「にしてもまさかうちの理事長とあの『clown』の社長が知り合いだったとはな。案外世の中狭いもんだ」
『clown』とはここ数年で大手企業と呼ばれるまでに急成長したゲーム制作の会社で、出したゲームの全てが大ヒットしたという偉業を保持している。
そんな大手企業の社長と橘の通う学校の理事長が旧友だったらしく、社長の方から新作のゲームのテストプレイを理事長のところの学生にしてもらいたいという依頼がので、理事長が教育者としてどうなのかは賛否が問われるだろうが、その依頼を引き受けたらしい。
そんな理由があったわけで夏に行われた行事で総合優勝した橘の在席しているクラスにゲームのテストプレイの課題が言い渡され、ただいま橘は絶賛プレイ中というわけだ。
「ホントにすげぇグラフィックだ。技術がここまで成長していたとは、全然知らなかったぜ」
ゲームの概要がただ文字となって流れ語られていく画面を見ながら橘はそう言った。普段、新聞やニュースなどを見ない橘は日進月歩する技術の成長など知る由もなかった。
だがもし、そちら方面に事に詳しい人物が今橘が見ている画面を見たとしても目を丸くして驚いただろう。そんなレベルでこのゲームのグラフィックは凄かった。
本物のモノを映したと言われても信じてしまう。いや、むしろグラフィックだという事に激しい疑問を抱いてしまうほどの出来だった。
「まさかホントは現実に撮った映像を使ってたりしてな」
橘はあり得ないと思いつつもそんな事を呟き、窓の外の空を見る。だが空は生憎の雨模様で橘はすぐに画面に戻した。その時、先程の呟きは一瞬にして否定された。
橘は息をのんだ。目の前の、画面の中の存在が彼の呼吸を止めた。
ゲームの概要が説明された後、再び画面が真っ暗になりそしてムービーが始まった。黒雲の中、激しい稲光がかすかに辺りを照らしている。そして視界は黒雲の中をぐんぐん進んでいき雲の下へと出た。そこにはやはり本物にしか見えない豪雨と、やはり本物にしか見えない白と黒の影が浮かんでいた。
天使と悪魔。
映像を見た橘の感想はまさにそれだった。
あり得ないモノ、この世界に存在しないはずのモノ、そんなモノが本物にしか見えないグラフィックで映しだされていた。
その姿は旧約聖書やどえらく昔の絵に記された天使と悪魔のものとは少し異なっていた。むしろ現在のファンタジック色が強くにじみ出ている。
天使はスカートをはいた足のない人型の機械の体に、白鳥のように真っ白な4枚の左右ニ対の翼を背中から生やした風貌をしている。
対する悪魔は黒い二足歩行の熊ともオオカミとも言えぬ姿にコウモリのような翼を一対背中に生やしたような姿だった。
この両者は自分の腕や翼を武器にし、激しく打ち合っている。火花が散り、羽根が散り、そしてついに一つの影が墜ちた。天使の方だった。
生き残った悪魔は不敵な笑みを浮かべ獣的な唸り声を上げた。
そこでムービーが終わった。
「……マジかよ」
橘は驚愕し、それが一周回って呆れに変わったような声を漏らした。
この世界に存在しないはずのモノを本物にしか思えないグラフィックで映し出されたのだ。もう本物の映像を使ったんじゃないかという説は破棄だ。
だが橘はそこで唸った。あの天使と悪魔が気になったからだ。
あまりにもリアルすぎた。どう見ても本物だった。いや、存在しないのだから本物のはずが無いのだがどうしても橘は腑に落ちなかった。そこが橘にはどうしてかとてつもなく不気味に感じられた。
橘は画面に目を移した。
画面からは陽気なBGMが流れ『キャラクターメイキング』と表示されている。
そこで橘はコントローラーから手を離し、ゲームを渡された際に説明されたものとゲーム開始時に文字の羅列に書かれていた概要について思い返した。
ゲーム名は『LIGHT&DARKNESS』
おそらく天使と悪魔の事をさしているのだろう。
ゆくゆくはネットに繋ぐことでオンラインプレイが出来るようになり、ほかのプレイヤーと協力してプレイすることやバトルする事も可能になるらしい。
ファンタジーRPGモノで、ストーリーは7つの大陸がありそこでは人間が暮らしている。そして天使と悪魔という存在が軍勢で異界の挟間から侵入し、互いを駆逐するために争っていた。しかしお互いの戦力は互角でなかなか決着がつかなかった。そこで悪魔は人間を食らいその命を自分の力に変え始めた。天使たちは人間を悪魔の魔の手から保護し、その信仰を集める事によって力を高めていった。
そんなとき、異世界から主人公たちが訪れた。そして異世界から来た主人公たちは『スキル』と呼ばれる特殊能力を保持し、その世界の人間たちを守るために天使たちと悪魔に立ち向かうというどこにでもありそうなものである。
その中で橘は『異界』『異世界』というワードが気になった
「……まさかな。馬鹿らしい、そんな中二病じゃあるまいし」
考えていた事を自嘲気味に鼻で笑い、払い捨てた。
そして改めてコントローラーを握りキャラメイクに入る。
体格は175ぐらい、現実の橘と同じぐらいにして顔のつくりはまぁゲームだからある程度のパーツしか用意されていないこともあったで現実の自分より遥かにイケメンフェイスにカスタムした。髪型は現実のものと同じにし、彼のトレードマークともいえる金髪もそのままキャラに反映させる。
最後に『NAME』の部分に『テル』と入力し完了のコマンドを押した。
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橘はイライラしていた。
「何なんだこいつら?さっさとくっついちまえよ!」
家に家族が不在なのをいい事に思いっきり叫んだ。
「このゲームに会話のコマンドが無いのがこんなにももどかしいとは・・・」
橘は恨めしそうに画面を見つめる。彼のイライラの原因を見つめる。
画面の中にはさっき橘が作った『テル』なるキャラクターとおそらく本作品のヒロインであろう少女がツーショットで映っていた。もちろんこの二人も本物にしか見えない。
その二人が会話しているのだが、どっから見ても両想いのくせに二人とも優柔不断でなかなか告白しようとしない。恋愛経験が皆無に等しい橘にとってはそれがとてつもなくむず痒いものであり、ちょくちょく流れてくる主人公の思考なんて声優によって音読されようものなら、
「あああああああ!!!、うぜえええええええ!!!!」
と若干壊れ気味に叫ぶ始末だった。
「もうギャルゲでいいんじゃねぇのこのゲーム!こんな可愛いヒロイン出せるんだったら仮想恋愛ゲームとして大ヒット間違いないから!だからこの二人のウザったさをなんとかしてくれぇ!」
橘は心からそう叫ぶが残念ながらこのゲームはギャルゲでもないければ二人の関係もストーリー的にはこの状態が長く続くことだろう。
そして橘の気など知る由もないゲーム内の二人は甘甘の日常を繰り広げるのだった。
そんな一コマが終わり、ついにストーリーが大きく動き始めた。
『リゴォーン リゴォーン』とどこからともなく鐘の音が聞こえてきた。そして突然、主人公のいるクラスの全員の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がり、混乱する彼らを黒い穴の中に引きずり込んだ。そこで再び『now loading』が表示された。
ローディングが終わり、画面にグラフィックの映像が映された時、主人公が意識を取り戻して立ち上がるところだった。他のみんなはまだ倒れたままで意識が戻っていない様子だ。
ここではじめて橘にテルのコントロールが許された。
スティックを倒すとテルが金髪の髪をなびかせながら走った。そのまま倒れているクラスメイトの近くに行くと『起こす』というコマンドが浮かび上がった。
本来ならここでコマンドを選択して起こすところなのだろうが橘はそうしなかった。
「どうせなら探険しよう」
たんにあまりにも本物に近いグラフィックのゲームの世界に好奇心が膨らんだだけだ。
とりあえずは主人公の周りを調べてみる。
今主人公は他のクラスメイト達と一つの部屋の中にいる。
「教会かな?」
橘は思った印象を口にした。
何列にも並べられた長椅子に、天井近くの壁に取り付けられたステンレスグラス、そしてあの機械を思わせる姿の天使を象った白い石像が立っていた。
横側の壁にはいくつか窓が付いており射しこむ光はない。夜なんだろう。
窓に近づき外の様子をうかがうとそこにはおそらく広大な平原が広がっていた。
どうもこの教会は町中にあるものではないらしい。
「窓は・・・開かないか」
残念ながらなんのコマンドも出てこなかったので橘は諦めて違うところを探すことにした
「なんだあれ?」
するとすぐに彼の注意を引くモノが視界に映った。
鉄製のロッカー。
学校の掃除道具入れに使われてそうなアレだ。それが三つ並んでいる。
ここは教会だ、しかもファンタジーの世界にロッカーとは世界観崩壊もいい所であるが、これは何かあると考えた橘はキャラをロッカーまで走らせた。
「おっ!今度は開けられる」
テルをロッカーに近付けると『開ける』というコマンドが出てきた。そうとなればもちろん橘は速攻でコマンドを選択する。
ギィィィィと妙にホラーチックな音を立てながら一番右側のロッカーが開いた。
「ん?剣か?」
中には大きな刃を持つ不格好な剣が一本入っていた。ファンタジーものなら雑魚が持ってそうな剣の形だ。まぁ最初の武器ならこんなもんだと思い橘はそれを拾った。
『鉄の大剣』
何ともそのまますぎる名前だ。
もう一度ボタンを押すと、いくつかの情報が表示された。
両手剣 rarity3 攻撃+38
おそらく武器の種類とレア度と装備すると発生する効果だろう。
初期武器なら普通lunkは1ではないかと考えるにこの鉄の大剣は最初の隠しボーナス的なものじゃないだろうかと橘は推測した。
結局、そのあと他のロッカーも探したが何も見つからなかった。
あらかた教会内を探し終えた橘はやっとストーリーを進める気になり、ヒロインの少女の近くにテルを走らせ『起こす』のコマンドを選択した。瞬間ムービーが始まった。
ヒロインだけでなく他のみんなもぞろぞろと起き始め「なんだここ?」「何が起きたんだ?」とおのおの適当に疑問の声を上げていく
「なにここ?私たちどうなっちゃったの?」
「大丈夫、なんでもないって……」
不安そうに周囲の様子をうかがうヒロインの手を握りながら励ます主人公。だが彼の顔にも不安の色が濃く滲み出ていた。
「教会なのかな?なんかそれっぽいよねここ」
あの天使の石像を指差しながらヒロインは訝しげな顔をする。
すると主人公は彼女の手を離し一人石像の前まで歩いていく。そしてすぐ前まで到着してやっと主人公は足を止めた。
石像の顔を眺めながら主人公は呟いた
「天・・・使、なのか?」
確かに翼や神秘的な雰囲気など天使としての特徴は捉えているがどこか機械的な、もっと言うと無機質的な何かを感じさせる石像は天使かどうかという疑問を抱かせる姿をしていた。
石像の存在にどこか恐怖を覚えている様子の主人公だったが一度覚悟を決めたような顔をして一歩前に足を進め天使の石像に触ろうと手を伸ばした。――――――――――瞬間!!
ドオォォン!!!!と何かが爆発したような轟音が鳴り響き教会の壁が破壊された。その残骸として飛んできた巨大な瓦礫が主人公を横に5メートル程吹っ飛ばした。
「ァッッ!!?――――――――――な、なんだ?」
主人公は強くたたきつけられた事によって起こった呼吸困難を気にも止めず周囲の様子に意識を向ける。途端誰かの悲鳴が主人公の鼓膜を揺らした。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」
その悲鳴はヒロインのものだった。
その声に気付いた主人公は体の上に乗っていた瓦礫を退け走り出す。
そして見た。
粉々になって見る影もなくなったあの天使の石像と
元のそれと対をなすような邪悪さを持つ3体の悪魔を。
「ッッ!!なんだ……アレ……?」
主人公は半ば放心状態になりながらもヒロインの元まで歩を進めた。
軍隊的な統率を思わせるほど奇麗に横一列に並ぶ3体悪魔はそれぞれ違う種類のようだ。
右側にいるのは羊のような頭に蜘蛛のような体がついた気味の悪い姿をしている。真ん中にいるのは一言で表すのならドラゴン。もっと詳しく言うのなら黒い鱗を纏った二足歩行のトカゲにコウモリの翼を付けたような感じだ。そして最後の一体は他のニ体と比べても異様だった。
赤黒い兜に左右の手に緑と青の炎を纏った大剣、それを握るのは浅黒い肌の人間の姿に、6枚、左右三対の漆黒の翼が生えた悪魔。
本来なら獣の姿をした悪魔の方が異常に感じるはずなのだが、主人公は人型の悪魔に恐怖を覚えているようだった。悪魔というカテゴリーに人間というごくありふれた姿である事に異様さを感じたのだろう。
そんな悪魔が主人公達に向かって口を開いた。
「こんにちは異世界の人間諸君」
紳士的な印象を受ける声と口調がさらに不気味さを際立たせる。
「遠路はるばるこの世界にようこそ。まぁ魔法陣によって飛ばされてきたのだから疲れてはいないでしょうが、どうぞ休んでください――――」
悪魔は不敵に笑う。
「あの世でね」
ドンッ!!とまるで巨大な鎚が地面に叩きつけられたような音が発生した。
蜘蛛の体をした悪魔がその八本ある足のうちの一本を伸ばし地面を踏みつけた音だ。
「ウッ――――!!!」
現実世界でこの様子を見ていた橘は思わず吐き気を催しかけた。
蜘蛛の足の下に主人公のクラスメイトが踏みつぶされていたからだ。
本物に見えるグラフィックで人が死んだ。
もはや殺人現場の映像を見せられているのと変わらない。
橘は口元を抑えながら画面を睨んだ。これ発禁になるんじゃないか?と橘は一瞬考えたがどうやら杞憂に終わったようだ。
蜘蛛の足が上げられた瞬間グラフィックのレベルが不自然なほど下げられ、せいぜいR15が良い所になっていた。
ある意味安堵した橘は、ふぅと短く息をつき、再びストーリーの進行に意識を向けた。
「さっさと死んで我々の力となってください」
笑い混じりの猟奇的な声。
「に、逃げろおおおおおおお!!」
悲鳴混じりの叫び声。
「ッッ――――――――。」
恐怖の色が色濃く滲んだ音にならない声。
多種多様の絶望を含んだ声が教会の中を駆け回り状況をさらに混乱に陥れる。
そんな中で主人公はヒロインの手を引き、混沌と混乱の中を出口に向かって走り抜けた。
彼に手をひかれるヒロインは他のみんなの事が心配なのかずっと後ろを向いている。
だが主人公はそんな彼女の未練を振り切るがごとく全力で走る。
そんな二人の姿を見つけた人型の悪魔が左手に持つ緑の炎を纏う剣を振った。緑色の炎が刃となって背中を向ける二人に襲い掛かるが、
「ックッソォおおおおおおおお!!」
ヒロインの体を両腕に抱き込みながら主人公は出口に向かって飛びこんだ。
ドオオオオオオオオン!!
ザザアァっと地面を滑る。
間一髪のところで外に逃げきったが、目標を失い何もない教会の床にぶつかった炎は教会の壁を壊して二人を10メートル程彼方へと吹き飛ばされていた。
「ガァッ、ッ―――――――――ッ!」
今度こそ無視できないほどの呼吸困難に陥った主人公はその腕からヒロインを離し、仰向けに倒れた。
主人公に包まれていたヒロインは怪我した様子はなくすぐに起き上がった。主人公の容体を見ながらも教会に視線を移す彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「みんな…………」
そんな彼女の手を主人公は強く握り、そして首を横に振った。
いまだに悲鳴が聞こえてくる教会。そこに再び飛びこもうとする彼女を止めるためか、自分を一人にしないでくれと彼女を繋ぎとめるためか。わからない、製作者がどう考えていたのかはこの場面を見ただけでは、主人公の様子を見ただけではわからなかった。
だからヒロインはただ涙を流しながらこくりと一回頷いた。
そして悲鳴が消えた教会。それの意味する事を理解した二人は立ち上がり振り返る事無くその場から離れるために走った。
だが、そんなに簡単に逃げられるわけは無い。教会の天井を突き破るように3体の悪魔が飛び出してきた。絶望の塊が接近する。
「まさか私の攻撃がかわされるとは……やはり異世界の人間は怖いですね。ここで皆確実に殺しておきましょう」
淡々と作業を指示するような調子で言う人型の悪魔。そして―――――――――――
「やれ」
冷淡な声が響く。
瞬間、トカゲと蜘蛛の悪魔が二人に向かって走り出す。人間が出せる速度など振り切って二人に『死』を送るために。
そして蜘蛛よりわずかにリーチがあるトカゲの悪魔が射程範囲に二人を捉え、その凶悪な黒い鋭爪を振りかざした。
肉の抉る音が聞こえた。それに伴い鮮血が飛び散る。
だがその二つとも人間二人から出たものではない。
「グゥガッ!……ゥッ!?」
唸り声を上げたのはトカゲの悪魔だった。
その黒い体からは白く光る腕が突き出たいた。
「なん……だ?」
状況をうまく理解できていない主人公は逃走の足を止め茫然と立ち尽くしている。
たった今まで自分たちを殺そうとした悪魔が動きを止め、白い腕に貫かれている。急展開なこの状況に脳が付いて来れていなかった。
「……お早いご登場で」
人型の悪魔がニヤリと笑いながら『ヤツら』の総称の言葉を吐いた。
「クソ天使……。」
トカゲの体から腕が引き抜かれ支えを失ったトカゲの亡骸はばたりと倒れた。そして初めて主人公たちの目にその姿が映った。
神秘的なオーラを纏い、6枚左右三対の純白の翼を生やした機械的表情の仮面を付けた白い肌をした、人型の天使がそこにいた。
「久しいな『オルス』。貴様の邪魔をしに来たぞ」
無機質な声が抑揚なく響く。向けられているのはあの人型の悪魔だ。『オルス』というのはあの悪魔の名前だろう。
オルスは現れた天使に驚く様子もなくまた笑い始めた。
「くくくく、私の邪魔?無理でしょう、今天使と悪魔との力の差はかつてのように同等ではない。かつて互角だった私と貴様もその例に漏れず実力差が出来てしまっているよ」
勝ち誇る調子で言うオルス。
だがそれを聞いても天使の無機質な様子は変わらなかった。
代わりにまた無機質な声で語り始める。
「確かに貴様と我との間には既に実力差ができているな。だがしかし、その差も今すこしずつ縮まってきているんだ。それに貴様の余裕は我と一対一で戦った場合の話だろ?」
ゴウッ!と空気が裂けるような音が地面を貫いた。
発生源はオルスでも人型天使でもない。もう一体の悪魔、羊のような頭を持った蜘蛛の悪魔が首と胴体を真っ二つに分けられた音だった。
「ッッ!?」
流石にオルスの顔にも困惑……いや、焦りの色が現れた。
「我が一人で来ているなどとは言ってないはずだが?」
そして天使は上空を指差した。
そこには十を越える天使の軍隊。
全て足がなくスカートをはいたような機械のような天使だった。
それぞれ白い光を放つ武器を持っており、その中でギロチンのようなものを持った者が蜘蛛の悪魔を両断したようだ。
「ちっ!わかりました、ここは引きましょう。そこの二人は見逃して上げますよ」
忌々しそうに言ったオルスの足元に黒い魔法陣が浮かび上がり発生した黒い穴の中に姿を沈ませた。
それを見届けた主人公は緊張の糸が解け力なくその場に倒れ込んだ
それに気付いた人型天使が主人公に近づき
「大丈夫か、異世界の者よ?」
そこでムービーは終わった。
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