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三百年後の夏蜜柑

   一.雨の夜の祠


 この日、森の入り口に建つ祠の中では、年老いた女占い師が朱色の台に置かれた宝剣に鋭い眼差しを向けていた。

「何か見えますか」

 刀を挟んで向かい合う少年が小声で言った。彼の名は六太。数え年十二の少年だった。六太は生まれてから一度も晴天の下を歩いたことがない。どんなに天気がよくても彼が外に踏み出すと、青空が雲に覆われ、やがて雨が降りだすのだった。この日も祠の外から静かな雨音が聞こえていた。

「竜神池が見えおる」

 老婆が言った。

「竜神池……。そこに行けばおいらの祟りが解けるんですか」

 六太は今、自分がなぜ雨の中しか歩けないのかを探し求めていた。老婆が頷くと六太は会釈をして祠を出て行った。



   二.三百年後の夏


 この夏は雨が少なくテレビでは連日水不足が報じられていた。特に俊一が暮らす、山を切り開いて作られた新興住宅地一帯は被害が大きく、梅雨を過ぎてから全く雨が降らなかった。

「こうなったらあの池にごみを捨ててやるぜ」

 俊一は地元の高校に通う青年だった。学業は優秀なのたが、少し短気な所があった。

 近くには、竜が住むと言い伝わる小さな池がある。この池を汚すと、必ず大雨に祟られると言われていた。ならばと純一は、屑籠のゴミをコンビニの袋に詰め込むと竜神池に向かった。



   三.六太と竜神池


 六太が竜神池にやってきたのは占い婆の祠を出た翌日だった。雨に霞む竜神池の横には小さな社が建っていた。六太が近づくと社の陰から女性が現れた。年は六太より五つか六つ上だろう。神社に仕えているらしく、白い着物をまとっていた。

「やっと来ましたね。どうぞこちらへ」

 六太を見るなり女性は手招きをした。面食らった六太だが、いわれるまま彼女の後について、社へと入って行った。



   四.俊一と竜神池


 俊一はコンビニの袋(ごみ袋)を手に意気込んで竜神池にやってきた。

「ん…?」

 池の横には朽ちた社が建っていた。社の前には一本の老木が植わっている。老木には一つだけとても目立つ黄色い実がついていた。俊一は不思議に思って近づいて行った。



   五.六太の祟り


 社の中で女性は六太に言った。

「六太。あなたがなぜ雨に祟られているのか教えてあげましょう。あなたの七代先の子孫がこの池を穢すからです。さあ、子孫に手紙を書きなさい。文面は私が教えます」

 女性はそう言うと、六太に筆と紙を渡した。

「おいら何のことかさっぱりわからないんだけど」

「祟りから逃れたくないのですか」

 とまどう六太だが、彼女の言葉を聞いて正直に従う事にした。

 女性は書き終えた手紙を受け取ると、小さく畳んで赤い糸で結わえた。どこから取り出したのか大きな夏みかんに切れ目を入れ中に手紙を差し入れると六太に手渡した。

「これを社の前に埋めるのです」



   六.三百年後の夏蜜柑


 俊一が近づくと、それは大きな夏みかんだった。突然、夏みかんが木から落ち、俊一の足元に転がった。実は二つに割れていて、中に折り畳まれた紙のようなものが入っていた。驚いた俊一が恐る恐る拾い上げると、赤い糸で丁寧に結ばれた和紙だった。広げると次のように書かれていた。

 我が子孫俊一へ

 そなた竜神の池を穢そうとしておるな。それは許されぬこと。今すぐ心を改めこの場を立ち去るべし。

 驚いた俊一は家へ走り帰っていった。



   七.六太と龍神


「これであなたの呪いは晴れたわ」

 六太が夏みかんを埋めると、今まで降っていた雨が上がり、真夏の日差しが照りつけてきた。

「いったいどういうことですか」

 そういって六太が振り向くと、女性の体が水煙に包まれ、竜の姿が現れた。竜は空に駆け上がると身を翻し、真っ直ぐ竜神池の中に消えて行った。

「竜神だった……」

 六太は口を大きく開けたままいつまでも真夏の日差しに輝く水面を見つめていた。



       終わり


最後までお読みいただきありがとうございました。

今回初めての投稿となります。

推敲を重ねましたが、まだまだ文章力が足りず、読み返すたびに気になる箇所が出てきてしまっております。しかし、これにめげずに精進してゆきたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無駄な表現がなく、読みやすくていい文章だと思いました。過去と現在が交互に書かれているのに、ごちゃごちゃしていなくて、とても分かりやすいです。 ご先祖様や、自然を大切にしたくなるお話でした。 …
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