異能力猫
初めて長い小説を書いたかもしれません
ところどころ噛みあっていませんが誤字などみつけてくれたらコメントしてくれるとありがたいです。
異能力猫。
俺達猫の世界には、普通の猫と、異能力を持つ猫が存在する。
その名の通り未来予知や瞬間移動等々、猫によって様々な能力が宿る。
しかし異能力を持って生まれてくる猫というのは、非常に少ないらしい。
そんな異能力と何の関係もない普通の野良猫の俺グリーは、今日も公園で仲間達と他愛もない話をしていた。コイツらはいつも4時30分には必ず来ているという、中々時間にルーズな連中らしい。
随分暇なのだろう。
「知ってるか?また異能力を持った猫が人間に悪さをしてるらしいぜ」
しぶい声をきかせるのはボサボサな毛が特徴のアルだ。
俺達三匹の中で一番さわがしく物わかりの悪い奴である。
ただ仲間意識は一番高いといっても過言ではない。
「知ってる知ってる。最近増えてるよね。得にゴロキャットっていう異能力猫の軍団は、よく噂に聞くよ」
それに答えた猫はぽってりと太った外見が特徴のマロシマ。
猫の世界では中々顔が広いらしい。
毎度毎度色々な情報を仕入れてくる。
「へぇ、わざわざ人間にバカするなんて、何考えてるんだか分からないな。っと……もうこんな時間だ、俺はそろそろ帰らせてもらうぜ」
俺はそう言って公園を後にした。
別に寝どころなんてあるわけじゃない。俺には飼い主はいないから、自由きままな野良猫だ。
今日も適当に寝どころを発見して、そこに横たわる。
俺は人間が好きだ。それぞれに個性がある。
他愛もない人間の日常を見てても飽きる事はない。
逆に俺は、猫が嫌いだ。自分のことも好きとは言えない。
得に異能力猫共は、大嫌いだ。
異能力を得たが故に、悪さを働いて、考えが嫌いだ。
そんなのを持っていたらもっと良い事に使えと、俺は助言したい。
しかし、猫の世界では普通の猫は異能力猫に逆らう事ができない。
猫が猫を殺す事は許されてはいないが、殺さなきゃ何の問題もない法律が存在する。
それに案外監視の範囲ってのが狭く、どうにも納得ができない。
故に異能力猫がいくら悪さをしようが、普通の猫の俺達じゃ、反論しただけでボコボコにされる。
俺は人間になりたい。バカでも外見が気持ち悪くても良い。少なくとも、こんな猫の世界よりはマシなんだから。
そんな事を考えながら、俺は眠りについた。
*****
朝起きた時、俺は違和感を感じた。
いや、違和感と言うより、今まで経験したことのないような、五感すべてがまったくおかしな感覚になっていたのだ。
そして俺は自分の目を通し、自らの手を見る。
それは、人間の手そのものだった。
「……何がどうなってる」
これが本日の第一声だった。
理解できるか、急に自分の手が人間のそれになってしまったのだから。
手だけじゃない、腹も、足も、近くの水たまりで顔を覗けば、その顔だって人間そのものだ。
とがった茶色の髪の毛に、ツンとした眼。服はボロっちいシャツとジーンズ。
アルにこの姿を見せれば、多分笑われるだろう。
何がなんだか分かったもんじゃねえ。
俺は現状の理解できぬまま、昨日アルとマロシロと雑談を交わした公園へ向かった。
案の定、その二匹は公園にたむろしている。
とりあえず近ずくが、すぐに逃げられてしまった。
やはり人間の体じゃ、俺の事も分からないのか。
それどころか、警戒してやがる。
しかし、人間の体になっても、猫の声は聞こえるようで
「うすぎたねぇ奴が…急に近付いてくんなよ」やら「僕達を食べるつもりだったんですかねぇ」など散々な事を言われた。
分からなくて無理もないが、言われると腹立たしい。だから俺は反論してやった。
「おい!俺だ、グリーだよ。分からないのも無理ないけど、気づいたらこんな体になってたんだ!助けてくれ」
これは反論と言ってもいいのだろうか、駄目だな。俺はコイツらに助けを求めたのだ。
しかし結果は
「はぁ?何ぬかしてる?馬鹿かコイツ、グリーだって、どう見ても運が味方をしない駄目人間そのものだろ。飼ってやるって言われても、こんな品のない奴じゃ、死んでもお断りだ」
知力のないアルは、俺の事は全く信じなかった。
いつもいつも一言多いんだよなコイツは……。
もしアル一匹しかいなかったら、俺は助からなかっただろう。
「いやいや良く考えなよアル。グリーは野良だよ、前に一度も飼われた事もないって言ってたし、そもそもグリーって名前自体知らないハズだよ。それ以前に、僕達の言葉を理解しているのはおかしい」
咄嗟にマロシロがそれは違うと言ってくれたおかげで、なんとか俺は助かった。
だがお前、さっき僕達を食べるつもりとかなんとかぬかしてなかったか?
「はぁ?じゃあどういう原理だ?なんでこうなった、グリーなら説明できるだろ。してみろ」
「相変わらずの無茶ぶりだなアル、俺もこの体になったのはちょっと前の出来事なんだ。お前らも混乱してるかも知れないけど、一番混乱してるのは俺なんだよ」
「うん、やっぱりこの人はグリーで間違いないようだね。グリー同様アルだって野良だし、その性格を知ってるっていうのは核なる証拠だと思うよ。成程、僕にある一つの答えが見つかったよ。おしえてほしい?」
「ああ、教えてくれ」
俺はすぐさま答えた。
そこでマロシロは俺に向かって招き猫のように手を差し出し
「それじゃあ猫の姿に戻ったら、お礼は頂くよ?」
そう、コイツは真面目で頭がまわる奴だが、同時に欲がある性格なのだ。
*****
マロシロの一つの答え。
それは異能力だ。
確かに、冷静に考えればそれが一番あり得る答えだし、有力だ。
俺はマロシロに教えてもらった場所へ向かう。
そこには異能力猫を研究しているという、一風変わった猫がいるらしい。
猫が猫の研究って……そりゃすごい。
道のりは険しかったが、人間の体は猫の体よりも自由がきき、快適に過ごす事ができた。
視野も広く、今まで見えなかった高さのものも見える。
やはり人間は良い。人間から猫は自由きままでうらやましいと評判らしいが、それはこちらの台詞だ。
そんな事を思っていると、マロシロの教えてもらった場所に到着した。
林に囲まれた小さな休憩所みたいな所だったが、あたりが暗く不気味で、人間はまず近寄らないだろう。
「んんん?こんな所に人間とはめずらしい。いや……もしかしたら猫かな?」
すばり当てられた。
それに驚いた俺だが、それ以前に俺はその猫の外見に驚かされた。
頭は大きなアフロで覆われていた。まるで虹のように色分けされたアフロだ。
そして二本足で立っている。
レッサーパンダなどで、二本足で立つ動物が人気を博したが、猫達にとってそれは容易くなし得られる技ではない。
それをずっと続ける事だって、そうとうの体力がいる。
「んん、その顔、その驚きの顔。君は私の外見に驚く人間かな?それとも見事に正体を当てられて驚く猫かな?」
軽々しく、そしておちょくっているかのような喋り方である。
俺は驚きから我に返り、そしてそういうことか、と手を打った。
「あんたも異能力猫か。」
「ん、そうだよ。あんた『も』、つーことは、君は後者の猫のようだね。まあ座りたまえよ。私はゴム。異能力猫について研究している異能力猫さ。私の異能力は人間の知恵でね、日本足で立つことだってできるし、国語だって数学だって英語だって、ヘタしたらそこらへんの人間よりも頭が良いんだよ」
「へえ、俺はグリー。友達にこの場所を教えてもらってきた。自分がまだ異能力猫なのか……いや、異能力猫なのかもしれないけど、つい今日の朝の事で、まったく整理がついてない状態だ」
会話をしながらも俺はゴムが座っている隣の木でできたイスに座る。
「んん、やはりそうかい。いや、そうしかあり得ないからね。私の所に来る者は、君みたいに自分の現状を理解してない者だ。みんな私に頼ってきてくれてね、だから私も、この研究を続けているんだけどね。それで、どういった類なんだ?んん、いやまあ見れば人目で分かるけど、そうかい、化け猫かな?」
「化け猫か。だけどそれって、人だけじゃなくて物とかにも化けられる奴だよな?それならここに来る途中に試してみたが、駄目だったぜ」
試してみた。
実際は化けろーと頭の中で念じていただけなのだが。
何卒初体験が多く、とにかく試したくなるのだ。
「そうか、じゃあもう一つの可能性だね。んん、それはアレだ。人に『なれる』ということだ。人に『化ける』ではない。もっと分かりやすく言えば、人にしかなれない。しかし、化け猫と違い、それはこの世界に存在のしない人間を作りだす、つまり君自体が人間になるということだ。化け猫は真似をする事しかできないが、君は人になることができる。多分そういうものだろう」
なるほど。そう言われると納得がつくし、なんだかそれっぽい感じがする。
これだけの話だけで、ここまで考えられるのは、やはりその頭脳なんだろうな。
俺は心の中でゴムを尊敬しつつ、ある一つの疑問を投げかけた。
「俺がどういう異能力を持ってるかってのは分かった。だけど、戻る方法はないのか?」
「あるよ、簡単だ。それよりも、ここまで来る途中で、むしろ戻らずに来たという事に驚きたいぐらいなんだけどね。君はどうやら人間が好きなようだ。いや、興味を持っている、かな?」
意味ありげにあえて答えを言わずそう言い
少し間を開けてゴムはまたその口を開いた。
「簡単さ。君が猫の姿に戻りたいと、そう念じるだけ」
*****
俺は、人間に憧れている。羨ましがっている。
だから、この異能力を手に入れた時は、最初気が動転していたが、猫の姿に戻る術をしってしまえば、その動揺も最初からなかったかのようになくなっているのだ。
俺はゴムの研究所を後にした。
別れを言い、帰ろうとしたら、あと、とゴムが別れの挨拶に付けたしをした。
「悪事は駄目ですよ。私の友達にも異能力を持った猫がいるんですけどね、よく人に化けては悪さをするんですよ。たしかゴロなんちゃらっていう一味に入ってたんですけどね」
ふん、言われなくてもする気はない。俺はこの力を善に使うさ。
再び別れをつげ、アルとマロシロがいるであろう公園に帰ってきた。
帰り道は人間の体で行った時よりも辛く、いかに人間の身体能力の高さがどれだけのものかを感じさせた。
猫の姿に戻った俺をみてアルが
「おう、異能力猫さんのお出ましじゃねーか、くう憎いねぇ、俺達置いて昇進ですか!」
「フン、俺だって好きでなったわけじゃねえ。この異能力が人間になれるってものじゃなかったら、俺は今頃屍だぜ」
「そういえばグリーは異能力猫は大嫌いって、良く言ってたもんね~」
マロシロがのほほんと俺の言葉に答える。
「ああ、大嫌いだね。あんなばかげた事をやる奴らの気がしれてるぜ。俺はこの能力は絶対悪事に使わないつもりだ」
悪事、と絞ったのは、やはり人間に憧れがあったからだろう。
人間として人生を送ってみたい、それは俺にとっての夢だったのかもしれない。
そしてそれと同時に、俺はこの能力を、人間の為に使おうと思った。
悪者退治。俺の大嫌いな悪事を働く異能力猫共に、ひと泡ふかせてやりたい、そう思ったのだ。
「って、悪事には使わないんだな。じゃあ息抜きとかには使うのか」
アルがそう言いゲラゲラと笑った。
*****
グリーがちょうど異能力に目覚めたその頃、その周辺で、悪事は働かれていた。
「ふぅ、今日も作戦大成功ね。大好きな鮭缶がこんなにも手に入っちゃった。」
美しい美声を放つ深緑色をしたこの猫の名前は、ミーラ。
ゴロキャットのリーダーである。
「ふっ、もはやこの縄張りで私たちに逆らう異能力猫もいなくなってきたわね。これじゃもう私達って最強じゃない?」
満足そうな顔でいうミーラに対し、その後ろについている一匹の猫が喋る。
「おいおい、こんな人から物を盗むなんてあまっちょろい任務で、何浮かれ気分になってんだ?だからメス猫ってのは嫌なんだよ。やっぱりメスは人間に限るな」
ミーラよりも一回り大きいこの黒猫の名前はオトリ。
ゴロキャットの幹部を務めているが、基本的にミーラに反抗的である。
「何よ!幹部の分際で、だいたいアンタみたいな太っちょい猫が、人間の女に飼われると思ってんの!?馬鹿じゃない。アンタにはメス猫で十分よ」
「あんだと、そもそも俺はこのゴロキャットてのが気にいらねぇ!なーにが縄張りしめてるだ?リーダーのお前含めたって、たったの四匹しかいねーじゃねーか!この辺の異能力猫は呆れてるだろうよ。ああ、こいつらまだこんな甘っちょろい事やってんだ……ってな!」
基本的にこの二匹に喧嘩は絶えないが、この喧嘩が終了するのはストッパー役の三匹目の猫、青ぶちのアメが止めにはいるからである。
「もう、二人ともやめてくださいよ。今日はこんなに鮭缶が手にはいったんですよ、それなのに喧嘩って……ささ、今日は鮭缶食べて、ぱーっと盛り上がりましょう」
こんな事他愛もないことで喧嘩してしまうミーラとオトリであるが、なんだかんだ言って三匹は仲良しである。
「そろそろ大きなイタズラをしたいの。私、人間にはちょっとした恨みがあって、まぁ鬱憤晴らしってとこね。最近はオトリがショボイ任務ばっかだって駄々こねてるし。こねてない?そんな事今はどうだっていいのよ!そこで思いついたんだけど、私達三匹の力を合わせれば、人の殺人だってどうということないわ。これぞ猫界では最強最悪のイタズラだと思わない?」
「ふん、お前にしては中々良い意見じゃねーか」
「でも、それって少し考えれば出てきそうな案ですよね」
アメがそういうと、咄嗟にミーラに睨まれてしまった。
「まぁ、今まで思いついてたんだけど、そろそろ良いかなって…別に人間を猫が殺すのなんて違法でもなんでもないし、事故に見立てて殺しちゃえば、尚良いわよね」
「ハッ、まあ良いけどよ。できるなら嫌いな人間を殺さねえか?俺は男の人間が嫌いなんだよ。だから男だったら誰でも良いぜ」
「僕は得に恨みを持ってる人間はいませんが……まあ誰でもいいですかね」
「みんな殺したい奴は得に決まっているわけではないようね。じゃあ私が憎むべき人間を殺しましょう。私、実はとっても根に持つ猫なのよね」
それを聞いて、一瞬ぞくりとしたオトリとアメだったが、そんな事は、出会った頃からもう知っていた事であった。
というかその性格なら丸分かりだ。
*****
人間になる異能力を得て二日目。俺は人間になって、自由気ままな生活を楽しんでいた。
そこに偶然、俺と同じ(今は違うのか?)猫達が、前方からやってくる。
三匹の猫だ。人間から見たら三匹で行動する猫というのはめずらしいそうだ。
俺達にとっちゃ、それが当たり前なんだがな。
得に気にする事なく素通りした俺だが、その時、俺は彼らが話している内容を聞いた。
「標的は子緑苗よ。あの女、他の猫にはご飯あげといて、私が来たらまるで拒絶するかのようにどっかに行くんだもん。最低よね。私、ああいう人間一番嫌いなの。だから殺す標的はそいつにするわ。え?理由がショボイ?私にとっては全然しょぼくないの!!あんたみたいに自由きままに過ごす猫と一緒にしないでちょうだい!」
殺す?標的?人間?
つまり、コイツらは人間を殺そうとしているのか?
だとしたら、少なからずこの三匹の中に一匹は異能力猫がいるということか。
そういえばアイツら、深緑色と黒とアオぶち……そうか、こいつらがマロシロから聞いたゴロキャットか。
ということはアイツらはおそらく全員異能力猫だ。
早速俺にはやる事ができた。
その殺人は阻止しなければ、こういう汚い奴らがいるから人間界では人が死んでいくのではないか?
異能力の猫が関わっている人間の死は少なからずあるハズだ。
だって俺達の世界じゃ人間を殺したって別に牢獄に入れられる訳でもない。
人間がブタや牛を食料として殺すことと、なんら変わりはない。
勿論俺達猫で人間を殺したいという物好きな奴は少ないが。
まず俺がやろうと思った事は、アイツらが殺す標的にしている子緑苗という人間を探し出す事だ。
今のところは女だという事しか分からない。
糞、いきなりつっかかりやがった、流石にそんな情報マロシロだって知らないだろうし。
いや、そうか、じゃあさっきのゴロキャットを追っていけば、子緑苗という人間を特定できるのではないか?
そう思い、俺はゴロキャットを追尾する事にした。
が、結果は駄目だった。アイツらは子緑苗の所に行こうとせず、おそらく住処であろう山のふもとの公園に辿りついていた。
まだ殺す予定はないらしい。
確かに、いくら異能力猫が三匹いるからといって、人間というのはそう容易く殺せるもんじゃない。
少なくとも作戦を練らなければ駄目であろう。
俺は猫に近づこうとするが、流石に近づきすぎると気付かれてしまう。
それにここは人っ子一人いない。いるのは人間の姿をした俺とゴロキャットだけだ。
あいつらが感づいていないのが救いだが、もしかしたら尾行している俺の事を怪しく思っているかもしれない。
しかしアイツらは得に俺の事を気にすることなく作戦会議を決行していた。
ぼそぼそと聞こえるだけで、良く聞き取りずらい。流石に遠いか。
俺は猫の頭脳(今は人間なのだが)をフル回転させて、良い事を思いついた。
一旦公園から出て、俺は本来の猫の姿に戻る。
そして俺は再び公園に戻り、ゴロキャットに近づいていった。
「なあ、お前らが噂のゴロキャットか?」
勿論俺が今ここで猫を仕留める、という事ではない。
「え?噂!?有名なの私達!えっえっ」
深緑の猫は何故だかとてもパニックになっている。
「落ち着けミーラ、いくら地味な事をちょびちょびやってても、噂ぐらいにはなんだろう。ひゃっふう!」
次に黒猫の奴が深緑の猫を注意するが、どうやらコイツも舞い上がっているらしい。
「二人とも落ち着いてくださいよ。噂とは言われていますが、有名だとは言われてませんよ。あ、すいません。ところで、僕達に何か用ですか?」
青ブチの猫だけが、どうやらまともなようだ。やっている事はこの二匹となんら変わらない悪事であるが。
そもそも、悪いことをしてはいけないという考え方は俺にとってはあたり前だが、他の猫は違うらしい。
悪事して当たり前、ほとんどの猫がそう思ってるし、自分がやってる事は悪事じゃないと思ってる。
ちょっとした悪戯、そう思っているんだ。
だがコイツらだけは確信できる。人殺しなんて、悪戯で済まされる事じゃないってな。
「いや、俺もちょっとゴロキャット入りたいかなーなんて、駄目?」
くそっ、こんなに自分の感情を抑えこむことが難しいなんて。
俺は今すぐにでもこの三匹の猫を殴りたい。
思ってもみなかった。人間も中々楽じゃねーな。
「えー!新入り!新入り!?今まで少ない人数でやってきたゴロキャットに……ついに新入りー!!」
深緑の猫のテンションは頂点に上り、爆発した。
「お……落ち着けミーラ!リーダーのてめぇがちゃんとしなきゃ、駄目だろうが!」
そうは言ってるものの、この黒猫も、深緑猫のテンションと大して変わらない。
「はぁ、いや、本当ゴメンナサイ。この二匹こういうの経験なくて、あ、本当に入りたいならもちろん歓迎しますよ」
「異能力猫じゃないんだけど、大丈夫か?」
俺はなるべく異能力猫であることを隠しておきたい。
もともと俺は子緑苗を守るのが目的なのだから、コイツらと一緒に行動した後に、子緑苗を救いだせばいいだけの話だ。
異能力猫じゃなければいけないかと思っていたが、この感激ぶり、まったくもって問題なさそうだ。
「勿論ッ!!普通の猫でもなんでもいいの。ココに入るって事は、イタズラに興味があるって事よね?」
「まあ」
イタズラか。やっぱりコイツらにとってはそれっぽっちの事なんだろうな。
だが俺にはそれっぽっちの事じゃない。俺は人が好きだし、それを平気で殺す奴なんざ、猫だろうとなんだろうと許せない。
その後、俺は無事ゴロキャットの一員となった。
子緑苗をどう殺すかという作戦会議は残念ながら中止になり、その日は俺の歓迎パーティーになった。
*****
次の日、アレから沢山の鮭缶を食わされた俺は、自分の寝どこに戻って朝を迎えた。
明日の夕方またこの公園に集合という命令があったので、それまで俺は人間の姿になり、子緑苗を探索することにした。
アルとマロシロにも聞いてみたが、案の定知らなかった。
そうなれば俺は当てもなくブラブラと町をさまようしかない。
と、そこに神社を発見した。
懐かしい、昔はあの神社でよく飯を御馳走になっていた。
神社の上さんとその娘、俺達猫を良く可愛がってくれたもんだ。
久しぶりに神社の中に入ってみると、そこには一人の少女が居た。
少女といっても、もう高校生くらいだろうか。そして俺は、その子に見覚えがあった。
そうか、この子があの時の娘か。飯を貰ってた頃はまだ小学生くらいだったのに、ずいぶんと成長したもんだ。
「あれ?お客さん?珍しいね。最近じゃあまり見かけないんだよ若い人って」
そういって少女は俺の所に駆けつけてくれた。
やはり人間はいいな、見ず知らずの俺にも優しく接してくれるし、見ず知らずの猫にだって優しく接してくれる。
「ああ、ちょっと通ったもんだから、ここ前にも来たことあってさ。その時はいっぱい猫いたよね。」
「うん、ウチの神社はよく猫が集まるんだ。お母さんが猫にご飯あげてるからかな?でもでも、最近は私がその代役を任されるようになったんだよ。いつも午後3時くらいに来るんだぁ。」
「へぇ、優しいんだね。名前なんていうの?」
唐突な聞き方だったか?猫の俺でも少し違和感を感じた。
ま、できることならメシくれた恩返ししたいって事で名前を聞いたんだけど
まさか
「私は子緑苗って言うの」
まさかこの少女が子緑苗だったとはね。
*****
俺は仮にも高橋栗と名乗っておいた。
思わぬ収穫を得てしまった。
しかしコレでもうゴロキャットにいる意味もなくなったんじゃないか?
いや、アイツらがどんな手段で殺しにかかるか分からない。
やはりゴロキャットに付いていたほうが確実に子緑苗を守る事ができるだろう。
「あ、もうみんな来てたのね」
「リーダーが遅れてどうすんだよ。ったく」
「うるさいわね!アンタみたいに暇じゃないのよ!あっ……コホン、それじゃ、作戦会議を始めるわ。新入りのグリーはまだ聞いていないと思うけど、今回の任務はものすごいわよ。なんてたって人一人あやめちゃうんだから!」
悪いが知っている。
知った上で入ったのだから。
俺は悪魔で知らないつもりで返答する。
「そうなのか、それはすごいな。でも人間一人やるのだってきついんじゃないか?」
一番良い方法は、ここでコイツらが諦める事だ。
だがそうたやすくはいかないだろう。
「大丈夫よ、これぐらい猫も居れば、確実に一人くらいちょちょいのちょいよ!それに私の恨みパワーだってあるんだから」
「恨み?子緑苗と何かあったのか?」
「大アリよ、アイツったら。他の猫にはエサあげて、私にはエサくれずにそのまま神社の中もどっちゃうんだから!本当にあり得ない。差別よ差別」
ふん、それだけの事で、わざわざ人を殺すだと?ふざけるな。
俺は今すぐコイツに吐きだしたい罵声を噛みしめ、曖昧な返事を返した。
「でも中々良い方法がないのよね。やっぱり強硬突破のゴリ押しかしら?私の結界とオトリの武器能力があれば、それもいけるわね」
深緑の猫ミーラの能力は結界。周囲に特定した人物しか入る事のできない結界を張るのだ。
外からは結界の中の音は聞こえない。
黒猫のオトリの能力は自由自在に武器を扱えるというもの。例えば重たい銃であっても、この能力があれば重さなど関係なくなり、猫の手でも操作できるようになる。
「まっ、案外あっけなく決まるっつーか、余裕だぜそんなん。女を殺すのはちと気持ちが揺るぐが、仕方ねぇ」
「じゃあ、僕は調査しときますね」
というわけで、作戦が決まり、今日はお開きとなった。
作戦決行日は明後日。俺はそれまでできるだけ子緑苗と接触することにした。
一日と半日しか話す時間はなかったが、中々充実した話ができた。
俺の守りたいという気持ちは、もっと大きくなっただろう。
*****
作戦決行日、待ち合わせ場所は神社の近くの公園。
だが俺はそこに行かず、直接神社に向かった。
勿論人間の姿でだ。
一日前に避難させる事も可能だったが、アメの調査によってその行為は行えなかった。
俺は神社の階段を一段ずつのぼっていく。
大丈夫だ。待ち合わせ時間15分前だ、俺がいなくて作戦を決行するということはないだろう。
そして流石に15分前、調査係のアメだって、もう集合場所にいるはずだ。
が、俺の予想は大きく外れた。
神社には確かに子緑苗が居た。
が、そこに深緑の猫、ミーラの姿もあった。
「あら、予想より早かったのね、グリー」
「な、どういう事だ…!」
動揺を隠しきれない。
そして俺とミーラのほかに、もう一匹猫がいた。
「んん、お久しぶりですねグリーさん。私、覚えてます?ゴムですよ」
「お前、ゴロキャットの一員だったのか」
「ええまあ、私は常にミーラさんを尊敬してますので、勿論、あなたの異能力も、報告させていただきました」
まさかのまさかだ。
予想の上のそのまた上。
コイツがゴロキャットの一員とは思いもしないさ。
後ろにいる子緑苗は、ロープで巻かれ身動きが取れない状態にある。
それも知識を得たゴムにならなし得られる技なのだろう。
「しかしあなたは厄介だわ。悪事を許さないですって?馬鹿じゃないの、これは悪事じゃないのよ、ただのお遊び。遊んで何が悪いのかしら?それを妨害するあなたって、ただのKYよね?」
「何がお遊びだ。ふざけるな。俺だって人間の物を盗むのはもはや仕方ない事だとは思ってたが。人間を殺す?はっ、笑わせんな。お前がやってることは遊びじゃねぇんだよ。犯罪だ。さっさと子緑苗から離れろ」
「この状況で何を言ってるのかしろグリー。この状況で有利なのはどっち?馬鹿でも分かるわよね。私達よ私達!さっきも言ったけど、アナタみたいな人は私達にとって一番邪魔者なの。だから取引しましょうよ?ねぇ。」
そういってミーラはニヤリと笑った。
「あなたが今、ココで、自らの命を、投げ捨てて頂戴。簡単よね?今のぼってきたその階段から、頭向けて真っ逆さまに落ちるのよ。え?それじゃ死ねないって?クスス、そしたら私達が責任もって殺してあげるわよ!この取引をアナタは拒否できないわよね?だってグリー、アナタが死なないと、この子が死んじゃうんだから。クスクス!!」
「ケッ、俺が死んだ後に子緑苗も殺すって戦法だろ?そんなのに俺は騙されないぜ」
だが、この状況がいかにピンチかってことぐらい俺にだって分かる。
絶体絶命だ。
「高橋君!コイツらの言う事を聞いちゃ駄目!私の事はいいから早く逃げて!!」
子緑苗の声が聞こえる。
そんな事できるか、お前を見捨ててそんな事できるわけないだろう。
そこで、俺にふと疑問が浮上した。
……。
何故子緑苗は、猫の声を理解できる?
いや、それはあり得ないハズだ。
子緑からしてみれば、殺される理由も分からないし、今俺が猫と話をしてることすら不気味に思っているハズじゃないか。
だって、子緑視点では、こいつらの声は所詮鳴き声でしかない。
それを元に、次々と疑問がわきあがる。
そもそも何故オトリとアメがいない?
アメは周囲にいるかもしれないから一応注意をはらっておいたが、俺が見る限りではどこにもいない。
オトリについては全く説明がつかない。
そして俺はゴムとの会話を思いだす。
「悪事は駄目ですよ。私の友達にも異能力を持った猫がいるんですけどね、よく人に化けては悪さをするんですよ。たしかゴロなんちゃらっていう一味に入ってたんですけどね」
それは間違いなくゴロキャットだ。
そしてミーラとオトリの能力は把握している。
今思えば、俺はアメの能力を把握していなかったのだ。
つまり……
「お前は本物の子緑苗じゃない。お前はアメだ」
「なっ…!?何言ってんのよ!どっからどう見ても子緑苗じゃない!」
「じゃあ殺せよ。俺はこの取引、ひきうけねぇぜ」
それを聞いて諦めたのか、子緑苗の姿はアオブチの猫、アメの姿に戻る。
「いやぁ、僕の変身がばれちゃうなんて……」
「丸わかりだ。そもそも人間に猫の言葉は分からない。それなのにお前は、子緑苗の声で、早く逃げろと言ったな。普通はパニックになるはずだぜ?」
「この!何やってんのよ!バカ!アンタならもうちょっとやってくれると思ったのに!これじゃあグリーの処分はできないじゃない!!」
そこで、俺はグリーの処分にひっかかる。
別に本当の事を言っているわけだが、コイツらの本来の目的は子緑苗だ。
つまり俺を殺すのは悪魔でついでということで、つまり、つまり…
俺は神社を後にし必死で走る。
つまりこれは俺を騙すもので、その間に逃げた子緑苗をオトリが殺すということか。
わざわざこんな面倒くさいことをするのは、やはり俺も殺しておいた方が後々安全に動けるという事だったからか。
とにかく俺は猫の姿に戻り、オトリの臭いを辿っていく。
間に合えばいいのだが。
*****
俺が見つけた時、黒猫オトリと子緑苗は俺が普段アルやマロシロと雑談を交わしている公園にいた。
まさにギリギリだ。
公園の端、もう逃げ場がない場所で子緑苗はたじろいでいた。
幸いにも子緑苗の足が予想以上に早かった事と、オトリの人間の女好きが高じて間に合ったようなもんだった。
俺はすぐに人間になりオトリの止めに入る。
「やめろ!!」
「なっ!てめぇグリー!チッ、もうちょっと足止めしとけっての!」
更に幸いなことに、オトリが馬鹿だったが故に、手に持っている武器はナイフだった。
銃だったら一瞬で終わってたであろうが、流石に本物の銃を調達するのには無理があったのだろう。
オトリを取り押さえようとしたが、それをステップでかわし、子緑苗の方に近づく。
そして子緑の肩に軽々しくのっかり、その首にナイフをむけた。
「フン。近づくな。今度こそ本物の子緑苗は死ぬぜ?」
「チッ、てめぇらは一体ドコまで人を殺す事に執着してんだよ」
「ケッ。俺はミーラと違ってコイツに恨みはねぇが、俺はミーラと同じように恨みは溜まる。ま、鬱憤晴らしってとこか。ストレス解消だよストレス解消」
今度こそ絶体絶命だ。
これ以上は奇跡がない限り助けるのは不可能に近い。
そのうちミーラ共もコッチにやってくるだろう。
俺は後ろにある公園に設置されている時計を見る。
時計の針は4時28分をさしていた。
「オトリ、クイズだ。下は大火事、上は洪水、さてなんだ?」
「ん?え?んん?下はえ?大火事で上が洪水?ん?」
馬鹿だから助かった。
が、そのナイフを子緑苗から離すということはしなかった。
あと少しだ。
「あ!分かった分かった!風呂だ風呂!グリー、これで俺がミスって間違えたらそいつを離せとか言われるんじゃないかと思ったけど…ハッ、残念だな。クイズでもどうやら俺の勝ちのようだぜ」
「いや、アンタの負けだよ」
その声と同時に。後ろから二つの物体が子緑苗とオトリに激突する。
それを俺は見逃さず、オトリから離れた子緑苗を救出。
大分パニックになっているようだ。今度こそ本物だ。
当たった物体というのはアルとマロシロだ。
「なんで俺がわざわざこんな事を…グリー、貸し1だかんな!」
「まぁ、アルなら僕がこの状況を見つける前に動いていたと思うけどね。グリー、菓子1つね」
俺はアルとマロシロが時間にルーズなことを利用した。いつもこの二匹は公園に4時30分に来る。
クイズはただの時間稼ぎだ。
「ふう、救出成功と。これで終わりだなオトリ」
俺はオトリが落としたナイフを広いあげ、それをオトリにむかって突きつける。
そこにミーラ共もやってきた。
「お前らも堪忍しろ。そしてもう二度と悪事はするな。人殺しなんてもってのほかだ」
「ふん!そんなの鵜呑みにするわけないでしょ!!」
「コッチにはオトリっつー人質がいるんだぞ。てめぇの仲間だろ。」
「ぐっ…」
「ちょ……ちょっと高橋君!私良く分からないけど、猫をいじめるのは良くないよ!それにこの深緑の子、前に神社であったの。あの時はエサが切れちゃって一回取りにいったんだけど、その時もういなくなっちゃってて…でもまたあえてうれしいし、だから猫イジメは駄目だよ!」
「……あのな子緑苗。コイツらは…」
俺がその言葉を言う前に、ミーラはにゃーんと雄たけびを上げ、子緑の腹部にガバッととびこんでいた。
その瞳には涙を浮かべていた。
「ううう……ごめんなさい!私そんなの知らなくて勝手に恨んじゃって、こんな事…もう二度とやらないから許してください!!」
きっと子緑苗にはその言葉はにゃあにゃあ言っているようにしか聞こえないだろう。
だが、それでいいかもしれない。コイツも今こんな事二度とやらないと言ったし、オトリ、アメ、ゴムの三匹も相当反省しているようだ。
はぁ、疲れた。これでこの子緑苗殺害作戦は失敗に終わったのだ。
腹が減ったので、今日はみんなで子緑苗の神社で飯を御馳走になろう。
俺はそう思って猫の姿に戻った。
子緑苗はそれを見て今日一番に驚いたであろう。
今の俺となっちゃ、そんな事より飯だがな。
俺はこれからも、悪事は絶対に許すことのない猫側から見れば実に邪魔な存在になり、人間側から見ればどうでもいい存在であり続けるだろう。
だがそれでいいんだ。
それがいいのだ。