歳神(さいしん)
萬物が初まり、霊気がまだ散っていなかった時代、遠古の大陸「梵亞」は獣族が統治する土地であった。当時、獣人たちは血脈と天性に従って城を築いて暮らしており、虎族は高い山に居を構え、龍族は深い海に潜み、蛇族は深い森に隠れ、鼠族は地底を駆け巡っていた。しかし、族群間の領地争いや資源を巡る衝突は絶えず、大陸の上空には常に戦火と陰霾が立ち込めていた。
天地の秩序をつかさどる遠古の神霊「天啟」は勅令を下した。毎年春分の日に、聖山「天柱峰」の頂で大陸をまたぐ「百獸御前試煉」を開催するという。真っ先に登頂し、天啟の試煉を通過した十二の獣種には「歳神」の至高の栄誉が与えられ、交代で世の中の歳月をつかさどり、大陸の平和を維持することになる。そして、彼らのリーダーは百獣を率いる「天定十二衛」となるのだった。
この日、無数の獣人英雄たちが族人たちの期待を背負い、天柱峰のふもとにある果てしない荒野に集結した。
試煉のスタートラインは大陸中央の「怒濤江」のほとりに設けられた。川の水は轟音を立てて激しくうねり、泳ぎ巧みな水族の獣人ですら容易に川に入ることができないほどであった。
鼠族の若い参加者「子墨」は体が小さく、身長が一丈余りもある熊族や虎族の前にあってはまるで一粒の塵のようだった。しかし、子墨は鼠族の中で最も優れた洞察力と知恵を持っていた。彼はよく分かっていた。自分の瞬発力だけでは、この天険を渡り切ることは絶対に不可能であり、その後の高山を登ることなどなおさらであると。
その時、牛族の強者「丑魁」がしっかりとした足取りで川辺へと歩み寄ってきた。丑魁の体躯は鉄塔のようにたくましく、背中には重厚な鉄の双斧を背負い、性格は沈着冷静で心優しい。彼は振り返り、足元で群衆に押し潰されそうになっていた子墨を見つけると、親切にその巨大で粗い手のひらを差し出した。
「おチビちゃん、川の流れが激しすぎる。お前一人では渡れない。俺の肩に乗りな、対岸まで連れていってやるよ」
子墨はためらうことなく、軽やかに丑魁の肩へと飛び乗り、感謝の気持ちを込めて言った。
「ありがとうございます、丑魁アニキ!」
耳をつんざくようなラッパの音が響きわたり、試煉が正式に始まった!
瞬間、万獣が駆け出した。虎族の戦神「寅覇」が山林を震わせるほどの威圧的な咆哮を上げ、両足で地面を蹴ると、まるで色鮮やかな稲妻のように川面めがけて突進し、驚異的な跳躍力を生かして水面に漂う巨木を踏み台に前方へと飛び跳ねた。一方、兔族の少女「卯雪」は小柄な体つきで、軽やかな風系の戦技を足に纏い、水面を自由自在に跳ね回り、白い残像のようだった。
丑魁は一歩一歩しっかりと足を踏み出し、冷たく凍てつく怒濤江の中へと進んでいった。強烈な水流が彼の頑丈な肉体に打ち付けるが、彼は歯を食いしばり、比類なき体力と粘り強さで一歩一歩逆流を押し進み、水中で方向を見失った多くの遊獣たちさえも追い抜いていった。
対岸に近づいたその時、それまで遥かにリードしていた龍族の首領「辰霄」と鳳凰一族の強者が空中で風雲を巻き起こす対決を繰り広げていた。辰霄は生まれながらの空の王者であり、風を呼び雨を降らせ、その龍威は極めて盛んであった。しかし、彼はただやみくもにスピードを追い求めているわけではなく、眼下の川の中で数名の弱い獣族たちが渦に飲み込まれそうになっているのを見ると、辰霄は長く一声吟じ、祥雲を降らせて渦を押し平め、いくつかの命を救った。だが、まさにそのわずかな遅れが原因で、彼は第一梯隊から遅れをとることになった。
対岸に上がると、そこは天柱峰の頂上へと続く「千階絕嶺」であった。ここには歴代の神霊が残した重力陣法が張り巡らされており、上へ進めば進むほど、体に加わる圧力は何倍にも増していった。
寅覇が真っ先に進み出、その身には燃え盛る炎のような狂暴な気血がみなぎり、石段を猛烈に駆け上がった。しかし、彼がちょうど五百段目に足を踏み入れようとしたその時、真っ黒な影が音もなく崖壁の影から滑り出た——蛇族の影殺者「巳影」である。
巳影の体つきは極めて柔らかく、まるで黒い絹のリボンのようであり、岩や草むらを隠れ蓑にしながら、体力をほとんど消耗することなく重力場の中を滑るように進んでいった。彼は寅覇を攻撃せず、寅覇が切り開いた風の抵抗を巧妙に利用し、すぐ背後にぴたりと張り付いた。
「ふん、ずる賢い奴め!」寅覇は冷笑したが、途中で手を出すような真似はせず、ただ歩調を速めた。
それと同時に、馬族の騎士「午烈」と羊族の智者「未和」が手を取り合って進んでいた。午烈は大陸で最も優れた陸上のスピードを持っていたが、彼は単独で突撃することはしなかった。なぜなら、未和が族内で代々伝わる薬草を使って、先ほど川渡りの際に岩で傷ついた午烈の両足を丁寧に手当てしてくれていたからだ。
「午烈、前方は『萬刃風谷』だ。風の勢いが狂暴だから、私を乗せて突っ切ってくれ。聖光の壁で風の刃を防いでみせる!」未和は穏やかに言った。
「よし!俺の背中に乗ったからには、一緒に峰の頂まで駆け抜けるぞ!」午烈は天に向かって嘶き、未和を背負ったまま赤紅色の流光と化して、風谷へと真っ直ぐ飛び込んだ。
一方、猴族(サル族)の「申空」と鶏族の「酉鳴」は、この上ない抜群のコンビネーションを見せた。申空は非常に身軽で、険しい崖の間をまるで平地のように軽快に駆け上り、張り付いていった。酉鳴は長距離を飛ぶことはできないものの、極めて鋭い先見の明(予知能力)を持っており、風の刃が爆発する直前に必ず澄んだ鳴き声を上げて申空に警告を発した。
「左だ!申空、飛べ!」
「了解!」申空は一回転して、数丈もある空間の裂け目を危うくかわし、ついでに酉鳴をひょいと掴み上げて、より高い階段へと投げ飛ばした。二人は交互に高度を上げ、その速度はすこぶる速かった。
第三章:終点前の大逆転
一日一晩に及ぶ限界の死闘と試練を経て、前方の天啟聖壇がうっすらと見えてきた。
丑魁は重いプレッシャーに耐えながら、一番乗りで聖壇の前の最後の百メートルプラットフォームに足を踏み入れた。その呼吸は雷のように荒々しく、全身は汗だくだったが、それでも彼は安定した歩調を崩さず、間もなく歳神の召喚を象徴する神聖な石柱に一番に触れようとしていた。
背中に乗っていた子墨は、手に届くほどの栄誉を見つめながら、その目に複雑な光をチラつかせた。彼は分かっていた。自分の体力通りにいけば、丑魁に勝つことなど永遠にできない。しかし、もし……。
丑魁がまさに最後の一歩を踏み出し、第一位になろうとしたその瞬間、子墨は突如として丑魁の肩から力強く弾み飛び起きた!
鼠族に備わった天性の瞬発力がこの瞬間に極限まで発揮され、子墨は鋭い矢のように空中を切り裂き、丑魁の足が地面に着地するよりも早く、両手で神聖な石柱に一番に触れたのだ!
神聖なる光が激しく輝き渡る!
「第一位——鼠族、子墨!」
天啟神霊の厳かですさまじい声が天地の間に響きわたった。
丑魁は足を止め、呆然とした。子墨は少し気まずそうに振り返り、頭を下げて言った。
「丑魁アニキ、ごめんなさい……僕、あなたを利用したんだ」
目の前で小刻みに震えている小さなネズミを見て、丑魁は突然大声で笑い出し、その巨大な手のひらで子墨の頭を優しくポンポンと叩いた。
「小僧、知恵も実力のうちだ。お前の道案内がなければ、俺だってさっきの霧の森の沼地を避けることはできなかったさ。お前はこの第一位にふさわしい男だ!」
再び神光が眩しく輝いた。
「第二位——牛族、丑魁!」
それに続き、色鮮やかな猛虎の姿がすさまじい狂気を纏いながら聖壇へと突入してきた。寅覇は足元こそ少しフラついていたが、それでも胸を張り、頭を高く上げて言った。
「ははっ!痛快だ!第三番目は俺だ!」
「第三位——虎族、寅覇!」
そのすぐ後には身軽な姿の卯雪が続き、彼女は強靭な耐久力と風系の戦技を駆使して、見事に第四位をもぎ取った。
「第四位——兔族、卯雪!」
誰もが第五位は空の覇者・辰霄に違いな mein と思ったその時、空を黄金の龍の影が横切った。辰霄が聖壇に着地した。その体には人を救った際に負った傷跡が残っていたものの、表情は相変わらず威厳に満ちて気高かった。
「第五位——龍族、辰霄!」
辰霄の影から滑り出た巳影がフッと微笑み、人間の姿に変わった。
「お先に失礼した、龍族の長よ」
「第六位——蛇族、巳影!」
「第七位——馬族、午烈!」
午烈は未和を乗せたまま聖壇に踏み入り、荒い息を大きく吐き出した。
「第八位——羊族、未和!」
未和は穏やかに微笑みながら、周囲の参加者たちに挨拶を交わした。
第九位と第十位はほぼ同時に到着した。申空が空中で一回転して着地し、酉鳴は翼を広げて石柱の上に舞い降りた。
「第九位——猴族、申空!」
「第十位——鶏族、酉鳴!」
この時、十二歳神の席は残りわずか二つとなり、背後の山道からはすでに数十匹もの強靭な獣族たちの咆哮が響き渡っていた。狗族の戦士「戌牙」は、その忠誠心と不屈の意志を頼りに、全身傷だらけになりながらも、族人の証を歯に噛み締めたまま、一歩一歩聖壇を這い上がってきた。
「第十一位——狗族、戌牙!」
残された枠はついに最後の一個となった!
山道の入り口では、熊族、狼族、豹族の強者たちが最後の入場券を巡って狂ったように激しい争いを繰り広げていた。しかし、この一触即発の緊迫した瞬間、丸々としていて全身泥まみれの影が、なんと隣の険しい小道からフラフラと歩み出てきたのである。
それは驚いたことに、猪族の「亥豐」だった。
亥豐はもともと山腹で体力が尽きかけてあわやリタイアするところであり、草むらの中でぐっすり眠りこけていたのだった。しかし彼は運が極めて良く、うとうとしながら歩いているうちに遠古の獣神が残した転送陣法に迷い込み、そのまま聖壇のすぐ近くの裏山へと転送されたのだ!道中で拾った野生の赤い果実をかじりながら、彼はのほほんと聖壇の敷地内へと足を踏み入れた。
「第十二位——猪族、亥豐!」
戦闘は一瞬にしてピタリと止まり、山道にいた残りの獣族の強者たちは深い溜息をつくしかなく、己の運命を受け入れたのだった。
天啟神霊の光輝が天柱峰の頂をすっぽりと包み込んだ。子墨、丑魁、寅覇、卯雪、辰霄、巳影、午烈、未和、申空、酉鳴、戌牙、亥豐——異なる天性、知恵、そして力を持ったこれら十二人の獣人英雄たちが、神聖な石柱の前に肩を並べて立った。
天啟の神なる声が梵亞大陸に響きわたる。
「本日より、汝ら十二族は歳月を分け合い、交代で世の秩序をつかさどる。子鼠は知を主り、丑牛は勤を主り、寅虎は威を主り、卯兔は仁を主り、辰龍は勇を主り、巳蛇は霊を主り、午馬は敏を主り、未和は善を主り、申猴は変を主り、酉鳴は信を主り、戌狗は忠を主り、亥猪は福を主る」
「十二の歳神立ち、百獣は静まり、梵亞大陸に永遠の平和が訪れん!」
神光が十二人の英雄たちの肉体に溶け込み、その額にはそれぞれ固有の歳神の印が浮かび上がった。その日から、獣人の世界に果てしない紛争の時代は終わりを告げ、十二生肖を紀年とする全く新しい時代へと突入した。そして、この知恵、勇気、優しさ、そして運にまつわる試煉の伝説は、梵亞大陸において数万代にわたる獣人の子孫たちへと代々語り継がれていくことになったのである。




