例外はないらしい
「お邪魔しますぅ!」
陽気な挨拶を告げた太田は、乱暴に靴を脱ぎ捨てる。
「嗚呼……って、太田。靴を脱ぎ散らかすな……」
サークルの打ち上げが終わり、酔っぱらった同級生の太田を俺の部屋へと入れた。彼は酔いが回っている為、床に寝転ぶ。辛うじて脱いだスニーカーが、玄関に転がる。それを俺は溜息を吐きながら直す。
本来であれば、他のサークル仲間と共に太田をタクシーに詰め込む筈だった。しかし、定員オーバーにより、太田は俺が引き受けることになったのだ。幸いなことに、俺は一人暮らしをしている為、誰かに迷惑をかける心配はない。
「うぅ……もう飲めない……」
太田は寝言を唱える。彼はムードメーカーであり、気さくで良い人間だ。唯一の欠点といえば、お酒に酔いやすいのにお酒が好きなことである。
「ほら、水を飲め。布団は此処に敷いておくからな」
俺はキッチンで、コップに水を汲むとローテーブルの上に置いた。それからクローゼットから、来客用の布団を太田の横に敷く。すると1DKの限られた空間は、かなり狭くなった。
「うぇ……ああ、さんきゅぅ……」
太田は緩慢な動きで起き上がると、コップの水を飲んだ。
「そうだ。太田、此処に泊まるに関して、一つだけ注意がある。鈴の音がしたら、頭を下げてくれ。目をつぶってもいいし、開けてもいいけど……兎に角頭を下げてくれ。いいな?」
俺はこの部屋でのルールを告げる。
「ん? あたまを、さげる?」
「嗚呼、絶対に守ってくれ」
不思議そうに首を傾げる太田。それに俺は頷いた。
「わかったよ……すずのおとしたら、あたまさげる……」
「そうしてくれ。俺は顔を洗ってくるから、眠いなら布団で寝てくれ」
太田は酔っているが、俺が告げた内容を復唱した。これなら大丈夫だろう。俺は洗面所へと足を向けた。
「……今日は大丈夫なのか?」
俺は顔を洗い、タオルで手を拭く。感想が漏れた。
『ちりん……ちりん……』
「……っ!?」
不意に鈴の音が響き、俺は頭を下げた。それは数十秒ほど続いた。
「太田っ!?」
鈴の音が鳴り止むと、俺は洗面所を飛び出して太田の安否確認をする。太田はこちらに背を向けて座っていた。俺は太田の肩を掴んだ。
「……っ!? うえっ!? な、なにっ!?」
肩を跳ねさせ、太田が振り向く。手元にはスマホが握られている。そして耳から、ワイヤレスイヤホンを外した。如何やらスマホで動画を観ていたようだ。
「……いや、問題なさそうで良かった」
俺は素直な気持ちを伝える。
「お、おお?」
「今日はもう遅いから寝よう」
不思議そうな太田に、寝ることを勧めた。
○○○
「はぁぁ……またか……」
翌日、目覚めると太田の姿なく。俺はゴミ袋に主を無くしたスニーカーを入れた。




