1.魔法雑貨のお店
ある日、お散歩の果てに不思議なお店にたどりついた。
雨に降られて雨宿りに屋根を借りたお店。
外装はよくある古民家で、それでもこのお家がお店だとわかったのは外に看板が掛けてあったからだ。
「魔法雑貨のお店」
看板の上部分は杖からキラキラとパーティクルがアーチ状に描かれ、下部分には別に看板が下げられて「OPEN」の面がこちらを向いている。
『魔法』といえば洋風なイメージが強いが、ここはどう見ても日本の田舎にある少し大きめの平屋の古民家だ、本当にお店なの?ここ。
もしや違う場所にお店があるのでは?と看板をしっかり確認し、辺りの家々を見渡してみたが、どうやらお店はここで合っているようだった。
魔法、雑貨。どちらも素敵な、心惹かれる良い響きだ、とっても気になる、気になるが……見た目がお店っぽくなく、入る事が躊躇われる。
そうして入るに入れず、玄関先でウロウロとしているとお店の引き戸が開き、中から背の高い人が出てくる
「中へどうぞ、お入りください。」
柔らかい声の優しそうな男性、らしき人。
見上げるほどの高身長で白いシャツに灰色のネクタイ、黒いベスト、黒いズボン、何よりも目立つ黒子頭巾を被った人、ただ、声は男性なのでおそらく男性。
彼は1歩外に出ると店の中を指し店内に入るように僕を促す。
少し戸惑ったが、今だ雨は降り注いでいるし、彼の好意に甘える形でペコッと頭を下げてお店の戸をくぐり店内を見渡した、目を見開いた。
天井から下がる無数のランタン等の照明の類、迷路の様に配置された背の高い棚にはアメジストの原石から道端の石ころ、魔法の小瓶、飲み物の空き瓶、花瓶の欠片、お人形、プラスチック製の指人形、安価なボールペン、万年筆、何処のかも分からないような古びた鍵達、くたびれたシャツ、ボロボロのぬいぐるみ、汚れたハンカチ、綺麗なブローチ、未使用品のランドセルなどなど
視界いっぱいに広がる雑貨が所狭しと並び、そのどれもが綺麗に保たれ、各々が各々の光を発しており、あまりの光景に息をすることも忘れてただそこに呆然と立ち尽くす。
「フフ、お口が空いてますよ」
ガラガラと引き戸を閉めながら、彼が柔らかい口調で語りかけてきてハッと我に返る。
「あっ、えっと、」
「外は凄い雨ですね、アナタもずぶ濡れじゃないですか」
確かに予報になかった大雨のせいでずぶ濡れだ、少し散歩するつもりで出てきてのであまりにも身軽で……困った。
「まだ春口で寒いですからあちらの奥でストーブを焚いているんです、そこに当たって待っていてください。すぐにタオルを持ってきますから」
彼は早足で店の奥へ消えていき、一人残される僕。
恐る恐る一歩踏み出して目が眩む程の照明の下、ゆっくり歩いて奥へと進む。
棚それぞれジャンル別に物が置かれていて流し見でも十分に品を見ることが出来る、ブローチ類の棚、香水瓶類の棚、ペン類の棚など、奥へ進む毎に少しずつ物が大きく、ストーブが置かれている周りには、刀、猟銃、等の武器、果てには甲冑、鎧までもが置いてある。
ここまで来る通路も四方に枝分かれを繰り返していてまだたった一部しかまだ見れていないのかと思うとなんだか無性にワクワクしてくる。
ストーブの傍にはパイプ椅子が一つ置いてありそこに腰をかける、天井を見上げ吊るされている照明一つ一つを見ていた。
青火のランタン、古びた銅のランタン、近代的で小さめのシャンデリア、蝋の切れたシャンデリア、星型のペンダントランプ、お花が咲いたようなランプ、紐をカチカチするタイプの丸型蛍光灯のよく名前のわかんないあれ。
視界いっぱいに広がるだけでも全てが違う、よく言えば非常に多くのニーズに答えられる、悪く言えばまとまりがない照明、それだけじゃない、ここに来るまでに見ていたが何処の棚もジャンル別ではあるものの和風、洋風、中華風、ファンタジックな物と、物のまとまりがないのだ。
天井を見上げながら「不思議な雑貨屋さんだ」と思い、椅子を斜めにギコギコと身体を揺らしていると
「こら!椅子で遊ばない!」
「わぁっ!」
不意に先程よりも少し強めの口調で注意され、驚き姿勢を崩して椅子と共に床に倒れる。
「いてて、」と声を漏らすと彼が頭巾で隠れたままの顔を覗かせ僕の頭を軽くコンと叩く。
「ほら、転んだら危ないでしょう?」
「ごめっ」
慌てて身体を起こし彼の方を向いて謝ろうとすると顔にタオルが掛けられ、頭をワシャワシャとタオルドライされる
「怪我をしてからでは遅いんですよ、それに椅子の寿命も縮まってしまうんです。だからやってはいけませんよ、わかりましたか?」
まるで小さい子供に言って聞かせる様な言い方に少しモヤッとするが、お店の備品であろう椅子で遊んだ自分が全面的に悪い。
シュンと眉を下げ「ごめんなさい」と呟いたが激しめのタオルの動きでその声はほとんど掻き消されてしまった。
「よし、あとはお召し物ですね。
濡れたままではいけませんし、少し大きめでありますがこちらに着替えますか?」
差し出された服は僕にはかなり大きめで、着れば恐らく膝くらいまでは隠れそうな程のもの。
「あ、いえ、せっかくですけど、それは大丈夫です。」
「そうですか?では身体、冷やさないようにしてくださいね」
近くにあったブランケットを引っ張り出して軽く叩き、僕からタオルを受け取るとそのブランケットと交換してくれる。
「あの、ここってなんなんですか?」
「ここですか?看板にもあるように、ここは雑貨屋ですよ、少しだけ特別な」
「特別な」
「ええ、店内ご覧になりましたか?」
「はい、本当に少しだけですけど」
「ここは誰かの〝忘れ物〟を置いている雑貨屋なんです、そこにある甲冑も、あちらの棚にある電気のリモコンも、その箱に入ってるプルタブの一つ一つ、全て誰かの忘れ物なんです。
心当たりが無ければただのガラクタです。だけど、心当たりのあるその人なら、ここにある物の価値がしっかりわかる。
来店されたお客様自身も、ここに居る忘れられた者たちも、いつ会えるかも、どんな物だったか、誰だったか、わからない。それでも皆様導かれるようにしてここへ来て、忘れていた何かを探されるんです。」
「不思議…」
いま一度店内を見回す、ここにいる物達が「早く見つけて」と言わんばかりにキラキラと輝いていているように見えて、もしかしたら僕も導かれてここに来たような気がしてくる。
「きっとアナタも導かれたんですよ。」
「あれ、声に出てましたか?」
「いえいえ、ただ皆さん私の話を聞いたあとは同じようにするんです。」
「…僕、実はここにどうやって来たのか曖昧なんです、ぼーっとしながらお散歩をしていて、雨に降られて気がついたらここで、だから。」
「店内ご覧になりますか?忘れ物が見つかるまで」
「見たいです!」
「それではご案内しますよ、うちのお店は広く、入り組んだ棚の迷路ですから」
椅子から立ち上がり、貸してもらったブランケットを肩から掛ける
「申し遅れました、私ここの店主のアサミです。」
白い手袋を着けた大きな手が目の前に差し出される、手を服で軽く叩いてからその手を握る
「よろしくお願いします!アサミさん」
黒子頭巾の奥でアサミさんが少し微笑んでくれたような気がした。
眼前に広がる〝忘れ物〟を前に、好奇心とは違う、なにか別のざわつきが心の中に芽生えた。
その気持ちの名前が僕にはわからない。
ただ、なんとなく。
___僕も『何かを探しに来た』
そんな気がする。




