第2話 学習と失敗
――ゴッ。
床が突き上げた瞬間、佐伯悠斗は反射的に机の下へ潜り込んでいた。
前回よりも早い。身体が勝手に動いた。
(また……地震が来る。ここから天井パネルが落ちる)
揺れが始まる。
ガガガガガガッ――!
同僚たちが悲鳴を上げる中、悠斗は机の脚をしっかり掴み、揺れに耐えた。
前回よりも冷静だった。
揺れが収まり、机の下から出る。
オフィスは同じように半壊している。
(これは……夢じゃない。やり直しだ)
胸の奥が冷たくなる。
「佐伯さん! 大丈夫ですか!」
同僚が駆け寄ってくる。
だが悠斗は答えず、窓の外を見た。
――黒煙。
――傾いたビル。
――逃げ惑う人々。
すべて“前回と同じ”。
(なら、次に起こることも……)
悠斗はスマホを取り出す。
圏外。
これも同じ。
「帰らなきゃ……」
呟き、出口へ向かう。
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【恵比寿駅前】
外に出ると、前回と同じ混乱が広がっていた。
だが悠斗は“同じ行動”を取らなかった。
(あの女性を助けに行けば……俺は死ぬ)
視界の端で、倒れた自転車の下敷きになっている女性が見える。
前回助けた女性だ。
「すみません! 誰か……!」
助けを求める声が聞こえる。
悠斗は足を止めた。
(助けたい……でも、助けたら俺は死ぬ)
胸が痛む。
だが、家族の顔が浮かんだ。
「……ごめん」
小さく呟き、女性から目をそらす。
代わりに、近くにいた若い男性に声をかけた。
「そこの彼女、助けてあげてくれ! 俺は家族のところへ行かなきゃいけない!」
男性は驚いた顔をしたが、すぐに頷き、女性のもとへ走った。
(これで……俺は死なずに済む)
そう思った。
だが――
「危ないっ!」
別の方向から叫び声。
振り返ると、道路の亀裂に足を取られた老人が、倒れた電柱の下敷きになりかけていた。
(また……助けを求める人が……)
悠斗は迷った。
(助ければ……また死ぬかもしれない)
だが、老人の震える手が目に入った。
「……くそっ!」
気づけば走り出していた。
「大丈夫ですか!」
電柱を押し上げ、老人を引きずり出す。
老人は涙を浮かべて何度も頭を下げた。
「ありがとう……ありがとう……」
「気をつけて。余震が来るかもしれません」
そう言って立ち上がった瞬間――
――ドォォォン!
爆音が響いた。
(え……?)
視界の端で、ガス管が破裂し、炎が噴き上がるのが見えた。
次の瞬間、爆風が襲いかかった。
「うわっ――!」
身体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。
耳鳴りがし、視界が揺れる。
(また……死ぬのか……?)
炎が迫る。
(美咲……七海……)
熱と光に包まれ、意識が途切れた。
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【暗闇】
音も光もない空間。
(また……失敗した……)
悔しさと恐怖が混ざる。
(でも……分かったことがある)
・助ける人を変えても死ぬ
・危険は“別の形”で襲ってくる
・正解ルートはまだ見えない
(それでも……帰らなきゃ)
その瞬間――
――ピピピピピッ。
耳元でアラーム音。
目を開ける。
恵比寿のオフィス。
紙コップ。
Slackの未読。
妻からのLINE。
午前九時二十四分。
「……またか」
だが、前回と違う。
悠斗の目には、わずかな“決意”が宿っていた。
(次こそ……進む)




