第96話 男たちに春が来た!? そして開かれる『夫の墓場』への扉
「ディラン! 奇跡だ! 俺たちにもついに……嫁ができたぞぉぉぉ!」
執務室のドアが破壊されんばかりの勢いで開き、レオンたちが雪崩れ込んできた。 いつもなら借金取りに追われている彼らの顔が、今日は薔薇色に輝いている。
「は?」
俺は書類の手を止めた。
「嫁? お前らに? ……またサキュバスか? それとも新手の詐欺か?」
「失礼なことを言うな! 今回は本物の『人間』で、しかも『聖女』のように優しい女性たちだ!」
レオンが紹介したのは、隣国の修道院から視察に来ていたという、清楚で控えめな3人のシスターたちだった。 彼女たちは恥ずかしそうに頬を染め、レオンたちの後ろに隠れている。
「レオン様は、とても男らしくて……借金があっても『夢』を語る姿に惚れました」(シスターA) 「イグニス様の暑苦しさが、冬の寒さを忘れさせてくれます」(シスターB)
「……マジか」
俺は驚愕した。 世の中には、ダメンズ(ダメ男)を愛してしまう慈悲深い女性というのが実在するらしい。 彼らはついに、幸せを手に入れたのだ。
…… …………
数日後。
「へへっ、ディラン。悪いなー、俺たちだけ幸せで」
王城のカフェテラス。 レオンたちは、愛妻弁当(手作りサンドイッチ)を広げながら、ニヤニヤと俺を見ていた。
「ウチの嫁は最高だぜ。俺がパチンコで負けても『次は勝てますよ』って慰めてくれるんだ」 「ブランドバッグなんて欲しがらない。野花一輪で喜んでくれる」 「朝も優しく起こしてくれる。……お前んとこみたいに、ジャンケンで支配されたり、実験台にされたりしねぇんだよ!」
「……」
俺の額に青筋が浮かんだ。 こいつら、俺の苦労を棚に上げて、完全に勝ち誇っている。
(……許さん)
俺の中で、どす黒い炎が燃え上がった。 俺は世界一の権力者だ。なのになぜ、俺だけが尻に敷かれ、こいつらが平和ボケしているんだ?
(……教えてやる。結婚とは『墓場』であり、妻とは『看守』であることを)
俺は悪魔の笑みを浮かべ、彼らに言った。
「なあレオン。せっかく結婚したんだ。……奥さんたちを、ウチの妻たちが主催する『王妃お茶会(婦人会)』に招待してもいいか? 妻同士、仲良くした方がいいだろ?」
「お! いいなそれ! 箔が付くぜ! 頼むわ!」
彼らは喜んで承諾した。 それが、終わりの始まりだとも知らずに。
…… …………
週末。王城の庭園にて。
「まあ、ようこそいらっしゃいました」
優雅に紅茶を飲むセレスティア、ヴェルザード、アリシア、ソフィア、ノエル。 そこに、レオンたちの新妻が緊張した面持ちで加わった。
「はじめまして……。よ、よろしくお願いいたします」
「ふふ、そんなに緊張なさらないで。……今日は『夫の操縦法』について、楽しく語り合いましょう?」
セレスティアの眼鏡がキラリと光った。
俺は柱の陰から、その様子を見ていた。 俺は事前に、妻たちにこう吹き込んでおいたのだ。
『彼女たち、夫の借金や女遊びに悩んでるらしいんだ。……お前たちのノウハウで、ビシッと指導してやってくれないか?』と。
「ええっ!? 借金を放置!? ありえませんわ!」 セレスティアの声が響く。 「愛しているなら、徹底的に管理し、骨の髄まで搾り取って返済させるのが『妻の務め』です!」
「甘いな。口答えする夫には『鉄拳制裁』じゃ。……恐怖こそが家庭円満の秘訣ぞ」 ヴェルザードが氷の微笑を見せる。
「浮気防止には『首輪(GPS付き)』がおすすめです! 私の開発したこれなら、半径5メートル離れると爆発します!」 ソフィアが怪しいアイテムを配っている。
「男の人は、みんな赤ちゃんにしてしまえばいいんですよ~♡」 ノエルが危険な思想を植え付けている。
シスターたちの顔つきが、みるみる変わっていく。 『慈愛』の瞳から、『覚醒』した猛獣の瞳へ。
「なるほど……。私たちは甘やかしていただけなのですね」 「彼を更生させることこそ、真の愛……!」
洗脳完了。
…… …………
その日の夜。
「ただいまー! 腹減ったー!」
レオンが上機嫌で帰宅した。 だが、家の中は真っ暗だった。
「……遅い」
暗闇から、冷徹な声が響いた。 ロウソクの火が灯ると、そこには、セレスティア直伝の『電卓』と、ヴェルザード直伝の『鞭』を持った妻が座っていた。
「え? シ、シーラ? どうしたんだ?」
「レオン。貴方の借金返済計画書(100年ローン)を見直しました。……今日からお小遣いは『月額500円』です。タバコも酒も禁止。スーパーカーは売却します」
「はぁぁぁ!? な、何言って……」
「口答えですか?」
ピシッ!! 鞭が空を切る。
「ひぃっ!?」
「働け、豚野郎。……貴方が完済するまで、私は鬼になります」
一方、イグニスの家では。 「浮気したら爆発しますからね♡」と首輪をつけられ。
ザインの家では。 「今日から貴方は私の赤ちゃんです。……さあ、オムツを履いて?」と幼児プレイを強要されていた。
…… …………
翌日。
王城の廊下で、げっそりと痩せこけたレオンたちとすれ違った。 その目には、かつての輝きはなく、俺と同じ『死んだ魚のような色』が宿っていた。
「……よう、レオン。結婚生活は楽しいか?」
俺がニヤニヤしながら尋ねると、レオンは震える声で答えた。
「……ディラン。……お前、今までこんな地獄にいたのか……?」
「ああ。ようこそ、こちらの世界へ」
俺たちは無言で肩を組み、固い握手を交わした。 彼らの幸せは一瞬で崩れ去ったが、俺の心は晴れやかだった。 これで俺たちは、真の意味で『戦友』になれたのだから。
「さあ、仕事しようぜ。……稼がないと、家に帰れないからな」
「……ああ。……帰るのが怖いよ、陛下……」
こうしてダンジョン国の男たちは、全員が『恐妻家』となり、その労働力によって国はさらなる発展を遂げることになったのである。




