第95話 スーパーカーならモテるはず! レオンたちの『ナンパ大作戦』と悲しき結末
「おいディラン! 聞いたか? 『香車の法則』ってやつを!」
ある日の昼下がり。 レオンが、鼻息荒く俺の執務室に乗り込んできた。 後ろにはイグニスとザイン、ガリバーもいる。全員、髪を整え、妙にキザな服を着ていた。
「なんだその法則? 将棋か?」
「違う! 『いい車に乗れば、いい女が寄ってくる』! これぞ宇宙の真理だ!」
レオンが窓の外を指差す。 そこには、彼らが借金して買った『量産型スーパーカー(改造済み)』が輝いていた。
「俺たちは今まで、お前の引き立て役だった。だが今は違う! この『レッド・ドラゴン号』があれば、エルフの秘書たちだってイチコロだぜ!」
「……で、これから何をする気だ?」
「決まってるだろ! 『城下町・スーパーカー流し』だ! 助手席に乗せる女神をハントしてくるぜ!」
「止めても無駄だぞ陛下! 俺の『ブルー・サンダー号』の助手席は、まだビニールを被ったままだからな!」(イグニス)
彼らは意気揚々と出撃していった。
…… …………
数時間後。 俺は心配になって、ピヨちゃん(抱っこ紐で装備)と一緒に様子を見に行くことにした。
城下町の大通り。 そこには、無惨な光景が広がっていた。
「ヘイ彼女! 俺の愛車でドライブしない? 最高時速500キロで天国まで連れてくぜ!」
レオンが、道ゆく女性たちに声をかけている。 だが、反応は冷ややかだった。
「えー、うるさそう」
「あの車、改造マフラーがダサくない?」
「ローン100年残ってるって噂よ。関わったら負けね」
女性たちの情報網は正確無比だった。 誰も見向きもしない。
「くそっ! なぜだ! こんなにカッコイイのに!」
そこへ、一台の『ディラン・カブ(大衆車)』が通りかかった。 運転しているのは、地味で真面目そうな文官の青年だ。
「あら、文官さん! その車、素敵ですね!」
「燃費も良さそうだし、堅実で将来性があるわ!」
0 「今度、ドライブに連れてって♡」
女性たちは、スーパーカーのレオンたちを無視して、大衆車の青年に群がっていった。
「な、なぜだぁぁぁ!!」
レオンが絶叫する。
「おじちゃん、ドンマイでちゅ」 胸元のピヨちゃんが哀れみの目を向ける。 「今のトレンドは『エコ&堅実』でちゅ。……維持費のかかる改造車に乗る男は、地雷物件認定されまちゅよ」
「赤ん坊に論破されたぁぁぁ!?」
だが、捨てる神あれば拾う神あり。 落ち込むレオンたちの前に、ついに興味を示す女性(?)たちが現れた。
「あらん♡ いいお車ですわね♡」
声をかけてきたのは、ド派手なメイクと、露出の激しいドレスを纏ったお姉様方だった。 ただし、頭には『ツノ』が生え、背中には『コウモリの翼』がある。
「こ、これは……サキュバス(夢魔)のお姉さん!?」 レオンが色めき立つ。
「俺たちの車に興味が!?」
「ええ♡ とっても速そうですもの。……ねえ、私たちを『魔界の入り口』まで送ってくださらない?」
「喜んでぇぇぇ!!」
レオンたちは歓喜し、彼女たちを助手席に乗せた。 ついに春が来た。そう思った彼らは、アクセル全開で空へと消えていった。
…… …………
翌朝。
王城の門の前に、ボロボロになったレオンたちが転がっていた。 服は剥ぎ取られ、目は虚ろになり、なぜか全員、頬が痩せこけている。
「……レオン? 大丈夫か?」
俺が声をかけると、レオンは震える手で空を掴んだ。
「……怖かった。……サキュバスじゃなかった……」
「え?」
「あいつら……『車食い(カー・イーター)』だったんだ……」
「は!?」
「魔力で動く高級車が大好物の魔物だったんだよ! ……助手席に乗せた瞬間、シートをかじり始め、魔導循環液を吸い尽くし……俺たちの精気まで……!」
見ると、彼らの自慢のスーパーカーは、内装がボロボロに食い荒らされ、見るも無惨な姿になっていた。
「俺の……俺のローンだけが残った……」
男たちの嗚咽が響く。
「パパ。これがいわゆる『美人局』の進化系でちゅね」 ピヨちゃんが冷静に分析する。
「勉強になったな、レオン。……車で釣れるのは、車好きの魔物だけってことだ」
俺は彼らの肩をポンと叩き、そっと『リポビタンD(ダンジョン製)』を置いて立ち去った。
彼らに美女が寄ってくる日は、永遠に来ないのかもしれない。 あるいは、ローンを完済した100年後には、きっと……。




