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第93話 ゆりかごはフライパン!? 禁断の『神のたまご』と究極マヨネーズ

「……生まれました」


『ロイヤルベビー計画』の発動から数週間後。 早朝の王城に、賢者ソフィアの冷静な、しかし少し興奮した声が響き渡った。


「う、生まれた!? もうか!?」


 ディランは飛び起きた。 セレスティア、アリシア、ノエル、ヴェルザードも寝間着のままソフィアの研究室へと駆けつける。


「ソフィア! 男の子か? 女の子か?」 「母子ともに健康なのですか!?」


 期待に胸を膨らませる俺たちの前に、ソフィアは白衣を翻し、培養カプセルのカーテンを開けた。


「……これじゃ」


 そこにあったのは、赤ん坊ではなかった。


 直径1メートル。 黄金色に輝く殻。 表面には魔法陣のような幾何学模様が浮かび上がり、ほんのりと温かい光を放つ物体。


 どう見ても、『巨大な卵』だった。


「……卵?」


 全員が固まった。


「うむ。ディランの遺伝子と、私の魔力を『魔導人工子宮ホムンクルス・ポッド』で融合させた結果、最も安定した形態である『卵殻』として形成されたのじゃ」


 ソフィアが眼鏡をクイッと上げる。


「今はまだ殻の中じゃが、この魔力反応……間違いなく、最強の生命体が育っておる」


「お、おお……! これが俺たちの子供……!」


 俺は感動に震え、恐る恐るその温かい殻に触れた。 ドクン、ドクンと力強い鼓動が伝わってくる。


 だが、その時。 背後から「ゴクリ」と生々しい音が聞こえた。


 振り返ると、セレスティアがうっとりとした表情で卵を見つめていた。


「……素晴らしいですわ。この艶、このハリ……」


 彼女は電卓ではなく、懐から『計量スプーン』と『ボウル』を取り出した。


「これほどのサイズの卵……。黄身の濃厚さは計り知れません。……これを使えば、伝説の『アルティメット・マヨネーズ』が作れるのではなくて?」


「「「!?」」」


 空気が凍りついた。


「おい待てセレスティア! それは俺たちの子供だぞ!? 食材じゃない!」


「ですが旦那様、見てください。……この殻の輝きは、まるで『私を割って、美味しく食べて♡』と誘っているようですわ」


「誘ってない! 必死に守ってるんだよ!」


 しかし、セレスティアの言葉は『マヨラーの呪い』として俺の脳裏にも侵食した。


(……確かに。この卵で作ったマヨネーズは、一体どんな味がするんだろう?) (ドラゴンステーキにかければ……いや、シンプルに野菜スティックで……)


「いかん! 邪念を捨てろディラン!」


 俺は自分の頬を叩いた。 危ない。父親としての自覚が、食欲に負けるところだった。


「ふざけるな! 私の研究の結晶をフライパンに乗せるでない!」


 ソフィアが激怒し、卵の前に立ちはだかる。


「この子は国の未来じゃ! 名前はもう決めてある! 『アインシュタイン2世』じゃ!」


「いーえ! この子は『ピヨちゃん』です!」 ノエルが抱きつく。


「魔王の風格を感じるぞ……。オムレツにすれば魔力が上がりそうじゃが……」 ヴェルザードまで涎を垂らしている。


 その時だった。


 ピキッ……。


 卵の表面に亀裂が入った。


「あ! 生まれる!」


 全員が固唾を飲んで見守る。 食欲か、愛か。 この卵から出てくるのは、人か、魔物か、それとも――。


 バリバリバリッ!!


 殻が盛大に砕け散り、中から黄金の光が溢れ出した。


「オギャアアアア!!」


 元気な産声と共に現れたのは……。


 人間の赤ん坊のような顔立ちだが、背中には小さな翼が生え、お尻には卵の殻をパンツのように履いた、奇妙だが愛らしい生物だった。


「「「か、可愛いぃぃぃ!!」」」


 ノエルとアリシアが絶叫した。 つぶらな瞳、プニプニの肌。 それは間違いなく、俺たちの『家族』だった。


「……ふぅ。危ないところでしたわ」


 セレスティアが残念そうに(?)ボウルを隠した。


「さすがにこの姿を見たら、マヨネーズにはできませんわね」


「当たり前だ!」


 俺がホッとした瞬間、その『謎の赤ちゃん(ピヨちゃん)』が、ポンッとお尻から何かを産み落とした。


 それは、手のひらサイズの真っ白な『卵』だった。


「……ん?」


 ソフィアがその卵を解析する。


「……驚くべき結果じゃ。この子は『高魔力生命体』。……排魔活動の一環として、定期的に『無精卵』を生成するようじゃ。成分は……最高級の鶏卵の1000倍の栄養価がある」


 その瞬間、セレスティアと俺の目が合った。


「……ディラン様」 「……ああ、セレスティア」


 俺たちは無言で頷き合った。


 子供(本体)は食べるわけにはいかない。 だが、その子が産んだ『卵』なら……?


「「いただきまーす!!」」


 数分後。 俺たちは、産みたての卵と、ダンジョンの酢、そして極上の油を使って、その場で『新生マヨネーズ』を作り上げた。


 ペロッ……。


「う……うまいッ!!!」


 口の中に広がる、濃厚でクリーミー、かつ神々しいまでのコク。 これぞ『神のたまご』から生まれた奇跡の味。


「これは売れますわ! 商品名は『天使のマヨネーズ』! 瓶詰めにして世界中に輸出です!」


「ピヨちゃん! もっと産んでくれ! パパのために!」


「キャッキャッ!」


 赤ちゃん(ピヨちゃん)は、俺たちが喜んでいるのを見て、嬉しそうに次々と卵を産み始めた。


 こうして、我が国の『ロイヤルベビー』は、誕生初日から『マヨネーズ工場の工場長』としてのキャリアをスタートさせることになった。 愛と食欲とビジネス。 全てが丸く収まった(卵だけに)、奇跡の誕生だった。


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