第92話 ご祝儀の額が愛の重さ? 恐怖の『格差・引き出物』配送計画
「そういえば、セレスティア」
『ロイヤルベビー計画』の狂騒がひと段落した昼下がり。 俺は、ふと思い出して尋ねた。
「結婚式の『引き出物』って、どうなったんだ? ハネムーンだの車だのでバタバタしてて、まだ送ってないよな?」
「ご安心ください、旦那様。……すでに手配済みですわ」
セレスティアは、執務室の窓から城下町を見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。
「ちょうど今頃、宅配便(ワイバーン便)が各家庭に届いている頃です」
「中身は何だ? 無難にタオルとか、食器か?」
「いえ。……当家の『感謝の気持ち』を形にした、特製食品セットです。ただし……」
彼女は一枚のリスト(顧客台帳)を見せた。 そこには、参列者や国民から頂いた『ご祝儀の金額』が1円単位でランク付けされていた。
「頂いた金額に応じて、厳正なる『格差』を設けさせていただきました」
「か、格差!?」
「ビジネスの世界では常識ですわ。……では、ランクごとの中身をご説明しましょう」
【Cランク:ご祝儀が少なかった方(主に平民、ケチな貴族)】
「まずは参加賞レベルです。中身は『試供品サイズのマヨネーズ(5g)』と……」
「と?」
「『謎の肉(正体不明)』です」
「怖っ!? なんだその肉!」
「ダンジョンの浅い階層で獲れた、ゴブリンだかコボルトだか分からない肉の端切れです。……まあ、焼けば食えますわ」
【Bランク:平均的な額を包んだ方(一般市民、友人)】
「こちらは標準セットです。『ダンジョン・マヨネーズ(レギュラー瓶)』と、『オークのロース肉』の詰め合わせです」
「おお、これは普通に嬉しいな。オーク肉は豚肉より旨味が強いし」
「ええ。これが我が国の『スタンダード(市民権)』となります」
【Aランク:多額のご祝儀を頂いた方(大商人、他国の要人)】
「ここからはVIP待遇です。『プレミアム・マヨネーズ(金粉入り)』と……『最高級ドラゴンの霜降りステーキ肉』です!」
「出た! ヴェルザードが狩ってきたやつか!」
「はい。市場価格で家が一軒建つレベルの肉を、惜しげもなく振る舞いました。……これで彼らは、一生我が国のファン(信者)になります」
「なるほど……。現金なやり方だが、理にはかなっているな」
俺が納得しかけた時、セレスティアがさらに奥から怪しい『白い粉』の小瓶を取り出した。
「そして……全ランク共通で、この『魔法の粉』をお付けしました」
「なんだそれは? ……危ない薬じゃないだろうな?」
「いいえ。名付けて……『ジャンクフードの素』です」
「ジャンクフードの素?」
「ソフィアと共同開発しました。これを振りかけると、どんな料理も一瞬で『ポテトチップス・コンソメパンチ味』や『バーベキュー味』のような、抗いがたい中毒性のある味に変化します」
「……悪魔の発明だ」
「野菜嫌いの子供も、これをかければバリバリ食べます。ただし、カロリーは3倍になりますが」
…… …………
その頃、城下町では。
「あなた! 見て! お城から引き出物が届いたわ!」
市民たちが箱を開けていた。
「うちはBランクだ! やった、オーク肉だ!」 「ちくしょう、うちはケチったから『謎の肉』だ……。でも、この『白い粉』をかけたら……うめぇ! 謎の肉が最高級スナックの味になったぞ!」
「こっちのドラゴン肉、凄まじい魔力だ……! 食った瞬間に元気がみなぎってきた!」
街中から、歓喜の声と、肉を焼く匂いが立ち上っていた。
特に『ジャンクフードの素』の威力は凄まじかった。 サラダにかける者、パンにかける者、中には白湯に溶かして飲む者まで現れ、国民全員が「やめられない、とまらない」状態に陥っていた。
「……計算通りですわ」
セレスティアが電卓を弾く。
「この粉の『詰め替え用』を明日から発売します。……これでまた、莫大な利益が生まれます」
「お前……国民を味覚から支配する気か……」
俺は戦慄した。 マヨネーズに続き、ジャンクフード味。 この国の食文化は、着実に『高カロリー・高中毒』へとシフトしている。
だが、ここで一つ、予想外の副作用が発生した。
「ディラン様! 大変です!」
ノエルが顔を赤くして飛び込んできた。
「ど、どうした?」
「街の皆さんが……その、ドラゴン肉と謎の粉を食べたら、精力がつきすぎてしまったみたいで……」
「え?」
「今夜は街中が『お祭り騒ぎ(意味深)』みたいです! ……ベビーブームが来ちゃいますよ~!」
「なっ……!?」
ドラゴン肉の滋養強壮効果と、ジャンクフードのハイカロリー・エネルギー。 それが組み合わさった結果、国民たちのボルテージが限界突破してしまったのだ。
「あら。……それは好都合ですわね」
セレスティアだけは、涼しい顔で頷いた。
「人口増加は国力の基本。……やはり『ロイヤルベビー計画』と並行して、『国民ベビー計画』も進めるべきでしたわ」
「そこまで読んでいたのか……!」
引き出物一つで、経済を回し、食文化を変え、人口問題まで解決(?)する。 俺の第一夫人は、魔王よりも恐ろしい『経営の怪物』だった。
そして、その夜。 精のついた料理を食べさせられたのは、国民だけではなかった。 俺の目の前には、ドラゴン肉のステーキに『ジャンクフードの素』をたっぷりかけた山盛りの料理と、目をギラつかせた5人の妻たちがいた。
「さあディラン様、残さず食べてくださいね? ……今夜は長いですから♡」
俺は悟った。 この引き出物の最大の被害者は、俺自身だったのだと。




