第89話 男のロマンの代償 『ダンジョン・コレクション』と無限収納バッグ
「……ディラン様?」
サーキットの熱狂から数日後。 俺は、ノエルとの『1日赤ちゃんプレイ』の精神的疲労からようやく回復し、執務室に戻っていた。
だが、そこには氷点下の空気を纏った妻たち(ヴェルザード、アリシア、ソフィア、セレスティア)が勢揃いしていた。
「あ、ああ。みんな、どうしたんだ? そんなに怖い顔をして」
俺が引きつった笑顔で尋ねると、セレスティアが一枚の請求書を突きつけてきた。
「サーキット建設費、スーパーカー開発費、そしてレオン様たちのローン補填……。随分と『男のロマン』に投資されましたわね?」
「うっ……。い、いや、これは経済活動の一環で……」
「ずるいです!」
敗北したアリシアが抗議する。
「男の人たちばっかりズルいです! 私たちだって、お買い物がしたいです! キラキラしたのが欲しいです!」
「うむ。レースでは負けたが、物欲では負けぬ。……もっとこう、魔王にふさわしい『至高の逸品』が欲しいのじゃ」
ヴェルザードが黄金の瞳を光らせる。
「分かりました。……ディラン様、私たちへの『愛』を形にしてください」
「具体的には、宝石と、ドレスと、バッグです」
逃げ場のない包囲網だ。
「わ、分かった! 作ればいいんだろ、作れば!」
俺は観念した。 車の次は、ファッションだ。 俺はダンジョンの職人たちと、ソフィア(技術顧問)を招集し、新たなプロジェクトを立ち上げた。
名付けて、『ダンジョン・ラグジュアリー・コレクション』。
…… …………
数日後。 王城のホールにて、新作発表会が開催された。
「さあ、ご覧あれ! これがダンジョン国の技術と素材の結晶だ!」
ランウェイに、スポットライトが当たる。
『エントリーNo.1:エンシェント・ドラゴンのバーキン』
モデルのアリシアが持っているのは、深紅の鱗が美しく輝くハンドバッグだ。
「素材は、ヴェルザードが昔倒した古代竜のまぶた(一番柔らかい部分)を使用! そして最大の特徴は……」
俺が指を鳴らすと、アリシアがバッグを開けた。
「なんと、中は『亜空間』に繋がっています! 化粧ポーチから戦車まで、容量無制限で収納可能! しかも重量はゼロ!」
「「「キャーッ!! 欲しいぃぃぃ!!」」」
会場の女性貴族たちから悲鳴が上がる。 無限収納機能付きのブランドバッグ。 冒険者の夢と、女性の欲望が融合した悪魔のアイテムだ。
『エントリーNo.2:スターダスト・ティアラ』
次に現れたのは、ノエルだ。 彼女の頭上には、眩いばかりの光を放つティアラが載っている。
「ちりばめられているのは、ダイヤモンドではありません。……『本物の星の欠片』です」
「えっ」
会場がざわめく。
「ソフィアの重力魔法で、宇宙から隕石を引き寄せ、その中心核だけを削り出しました。……暗闇で自動発光し、装備者の肌年齢を常に『マイナス5歳』に見せる幻惑効果付き!」
「5歳!? 買います! いくらでも出します!」
貴婦人たちが失神しかけている。
『エントリーNo.3:絶対防御のイブニングドレス』
最後はヴェルザードだ。 漆黒のシルクのような生地で作られた、大胆なスリットの入ったドレス。
「素材は『ダーク・スパイダーの糸』と『ミスリル繊維』の混紡。……見た目はエレガントですが、ドラゴンのブレスも弾き返します。そのまま戦場に出ても大丈夫!」
「ふふ。……軽くて動きやすいぞ。これで舞踏会も殴り込みも完璧じゃ」
ヴェルザードがターンを決めると、ドレスが夜空のように煌めいた。
…… …………
ショーは大成功だった。
「ディラン様、最高ですわ!」 「これなら文句ありません!」
妻たちは、それぞれの『専用モデル(一点物)』を手に取り、ご満悦だ。
「……ふぅ。なんとか乗り切ったか」
俺が胸を撫で下ろしていると、セレスティアが電卓を片手に近づいてきた。
「素晴らしいですわ、旦那様。……このブランド、『D&G(ダンジョン&ガールズ)』として世界展開しましょう」
「え?」
「予価は、バッグ一つで『お城が買える値段』。……それでも注文が殺到しています。これでサーキットの赤字どころか、国庫が潤いますわ!」
こうして、ダンジョン国は『スーパーカー』に続き、『超高級ブランド』の産地としても名を馳せることになった。
しかし。
「あなた! あのバッグ買ってよ!」
「無理だ! 俺の給料じゃ100年かかる!」 「じゃあ車を売って!」
城下町では、スーパーカーを買った夫と、ブランドバッグをねだる妻との間で、血で血を洗う『家計の戦争』が勃発したとか、しなかったとか。
俺は、自分の作った『男のロマン』と『女のロマン』が、市民の平和な家庭を破壊していないことを祈るばかりだった。




