第86話 男の夢を量産せよ! 『国民車構想』と空飛ぶ渋滞
「……売れたな」
王城の中庭。 俺は、ずらりと並んだ5台の『量産型スーパーカー(ハイエンドモデル)』を見送っていた。
購入者は、レオン、イグニス、ザイン、ガリバー、そしてハゲた元国王だ。
「ヒャッハー! 見てくれこの加速! 俺のローンは100年払いだぜぇぇ!」
レオンが涙と鼻水を流しながら、真っ赤な機体で空へと消えていく。 彼らは「男のロマン」のために、向こう100年の給料を前借りし、セレスティアと『地獄のローン契約』を結んだのだ。
これで、国庫の赤字は解消された。 だが、俺の視線は城下町に向けられていた。
街の人々が、空を飛ぶレオンたちを、羨望の眼差しで見上げている。
「……いいなぁ。俺たちには、一生手が出ない夢だよなぁ」 「所詮、貴族様の乗り物さ……」
ため息が聞こえてきそうだ。
「違う。……車ってのは、一部の特権階級だけのものじゃない」
俺の中に、前世の記憶――昭和の日本の『マイカーブーム』の熱気が蘇る。 いつかはクラウン? いや、まずはカローラだ。
「セレスティア、ソフィア! 会議だ!」
俺は執務室に駆け込んだ。
「聞け。……俺は、あの『スーパーカー』の廉価版を作る。誰でも買える、安くて丈夫で、そこそこ走る『国民車』だ!」
「廉価版、ですか?」
セレスティアが計算機を弾く。
「はい。ハイエンド機の技術を流用し、装飾と過剰な武装(ミサイル等)を撤廃。……素材をミスリルから『強化鉄』に落とせば、コストは100分の1まで下がります」
ソフィアも頷く。
「動力炉も『恒星型』は危険すぎる。……代わりに、燃費の良い『風精霊エンジン(スライム式ハイブリッド)』を採用すれば、出力は落ちるが、お婆ちゃんでも運転できる安全設計になるぞ」
「それだ! 名前は……『ディラン・カブ(D-Cub)』だ!」
こうして、ダンジョン国初の大衆車生産プロジェクトが始動した。
…… …………
1ヶ月後。
王都の中央広場で、新車発表会が行われた。
「市民の諸君! これが君たちの翼だ!」
アンベールされたのは、丸みを帯びた愛らしいフォルムの小型浮遊車『ディラン・カブ』。 最高速度は時速80キロ(空を飛ぶには十分)。 燃費はリッター30キロ(マナ換算)。 価格は、一般市民の年収半分程度。
「おおお……! こ、これなら俺たちでも買えるぞ!」 「夢のマイカーだ!」 「パパ、あれ買ってー!」
会場は熱狂に包まれた。 注文が殺到し、セレスティアの用意した『5年ローン・無金利キャンペーン』のおかげで、飛ぶように売れていった。
そして――。
ダンジョン国の風景は一変した。
ブブブブ……。
空には、色とりどりの『ディラン・カブ』が行き交っている。 荷物を運ぶ商人、デートするカップル、孫を乗せて安全運転するお爺ちゃん。 誰もが笑顔でハンドルを握っている。
「……いい景色だ」
俺は執務室の窓から、その光景を眺めて満足げに頷いた。
「これぞ文明開化。……俺は、この国に『移動の自由』を与えたんだ」
だが。 俺は気づいていなかった。 車社会の到来が、新たな『敵』を生むことを。
「ディラン様! 大変です!」
アリシアが血相を変えて飛び込んできた。
「ど、どうした? 事故か?」
「いえ、事故はありません(自動ブレーキ機能のおかげで)。……ですが、『進まない』のです!」
「は?」
俺が慌てて外を見ると、空の光景が変わっていた。
プップーーー!! 「動かねぇぞ! 前の車、早く行けよ!」 「信号が変わっただろ! あ、エンストした!」
大通り上空に、数百台の車がびっしりと詰まり、ピクリとも動いていなかった。 そう。 『交通渋滞』である。
空飛ぶ車とはいえ、結局みんな「行きたい場所(大通り)」は同じなのだ。 さらに、ヴェルザードが改造した『族車(マフラー改造)』が爆音を鳴らし、アリシア率いる『交通機動隊(白バイならぬ白ドラゴン)』が取り締まりを行い、余計に混乱に拍車をかけている。
「……あちゃー」
俺は頭を抱えた。 夢を量産しすぎて、空のキャパシティを超えてしまったのだ。
「緊急マニュアル発動! 『時差出勤』と『ナンバープレート規制』を導入しろ!」
「対応が現代日本すぎますわ、旦那様!」
夢のマイカー生活は実現した。 しかし、その代償として、ダンジョン国は『朝のラッシュアワー』という現代病に悩まされることになったのだった。
(なお、俺の『レッド・レクイエム号』だけは、渋滞を無視して垂直上昇できるため、市民からめっちゃ白い目で見られるようになった)




