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第85話 男のロマンはマッハで飛ぶ! 超弩級魔導スーパーカー建造計画

 ハネムーンから帰国して数日。 ダンジョン国の王城に、再び日常が戻ってきた。


 ディランは執務室で、山のような書類と格闘していた。 O-SAKAでヴェルザードがばら撒いた『アメちゃん配給計画』の予算申請書にハンコを押しながら、俺はふと窓の外を見た。


 外では、レオンたちが馬車で巡回に出かけている。


「……地味だ」


 俺は呟いた。 俺は一国の王だ。しかも、世界一の金持ち国で、最強の18歳ボディを持っている。 それなのに、移動手段が徒歩か、普通の馬車?


 違う。そうじゃない。 前世の記憶が囁く。成功した男が手に入れるべきアイテム、それは――。


「……車だ。それも、とびきり速くて、ゴージャスなやつ」


 俺の呟きを、そばに控えていたセレスティアが聞き逃さなかった。


「まあ。……旦那様、新しい『オモチャ』が欲しいのですか?」


「オモチャじゃない。『王の威厳を示す移動手段』だ。……こう、シュッとしてて、ドカンと速くて、誰もが振り返るようなやつが欲しいんだ」


 俺が身振り手振りで『スーパーカー』の概念を説明すると、セレスティアの目が『¥(エン)』マークに変わった。


「なるほど……。『速さ』と『力』と『富』の象徴ですね。……面白いですわ。我が国の総力を挙げれば、伝説のドラゴンライダーすら霞むようなモノが作れます」


 彼女はすぐに他の妻たちを招集した。


 会議室に集まった最強の妻たち。議題は『ディラン様のスーパーカー建造』だ。


「ふむ。空を飛ぶのは絶対条件じゃな。余の重力魔法を使えば、山脈だろうが成層圏だろうがひとっ飛びじゃ」(ヴェルザード)


「動力源は任せておけ。古代遺跡から発掘した『恒星型魔力炉』を直列で3基繋げば、理論上は音速を超える」(ソフィア)


「安全性が第一です! 全面をアダマンタイト合金で覆い、私が最高位の『絶対聖域ホーリー・フィールド』を常時展開します! 隕石が落ちても無傷です!」(アリシア)


「内装は任せてくださいね♡ 全席、最高級スライム・クッションのマッサージチェアにして、どんなに揺れても『バブみ』を感じられる空間にします!」(ノエル)


「予算は無制限(どうせマヨネーズで回収できます)。素材は世界中から最高級品を買い占めますわ!」(セレスティア)


 俺の何気ない一言が、国家プロジェクトになってしまった。 彼女たちは徹夜で設計図を引き始め、ダンジョンの最下層にある巨大な空間を『秘密工場』に改造した。


 …… …………


 そして、1週間後。


「ディラン様! 完成しました!」


 俺は、妻たちに連れられて秘密工場へとやってきた。 広大な地下空間の中央に、巨大な白い布がかけられた『何か』が鎮座している。


「さあ、ご覧ください! これが貴方様の新しい愛車……」


 バサァァァッ!!


 布が取り払われた瞬間、俺は言葉を失った。


 それは『車』と呼ぶには、あまりにも禍々しく、そして美しすぎた。


 全長15メートル。 流線型のボディは、深紅のドラゴン(ヴェルザードが昔倒したやつらしい)の鱗と、白銀のミスリルで覆われ、ギラギラと輝いている。 タイヤはない。代わりに、車体下部から青白い反重力エネルギーが噴き出している。 後部には、戦闘機のような巨大なブースターが6基、口を開けている。


「名付けて……『超魔導あばれ天馬ペガサス・レッド・レクイエム号』じゃ!」(命名:ヴェルザード)


「いや、『全天候型・戦略機動要塞・マークⅠ』だ」(命名:ソフィア)


「……とりあえず、乗ってみるか?」


 俺は恐る恐る、ガルウィングのように跳ね上がったコックピットに乗り込んだ。


 内装は、ノエルの言葉通り、人をダメにするほどフカフカだった。 だが、ダッシュボードには見たこともない数の計器と、怪しい赤いボタンが並んでいる。


「ディラン、操作は簡単じゃ。この『魔力スロットル』を握り、魔力を注入するだけじゃ」


 助手席に乗り込んだヴェルザードが、ニヤリと笑う。


「よし……。少しだけ、動かしてみるか」


 俺はスロットルを握り、ほんの少し、魔力を込めた。


 ――キュイィィィィン……ドォォォォン!!!


「え?」


 景色が消えた。


 次の瞬間、凄まじいGが俺の体をシートに押し付けた。 音速を超えた衝撃波ソニックブームが、地下工場の壁を粉砕する。


「うわああああ!? 止まれ! 止まってくれぇぇぇ!」


「あははは! 最高じゃディラン! もっと踏み込め!」


 暴走する『レッド・レクイエム号』は、ダンジョンの壁を豆腐のように突き破り、そのまま地上へと飛び出した。


 王都の上空を、赤い閃光が駆け抜ける。 人々は空を見上げ、「新しい魔王の襲来か!?」とパニックになった。


「あ、あれは……陛下!?」


 巡回中のレオンが、空を飛ぶ赤い物体を見て口を開けた。 その窓から、涙目で手を振る俺の姿が見えたらしい。


 …… …………


 数分後。 隣国の山脈(の頂上)に突き刺さる形で、俺たちの初ドライブは終了した。


「……はぁ、はぁ。死ぬかと思った……」


 俺は震える足でコックピットから降りた。 だが、車体を振り返った時、俺の胸に熱いものが込み上げてきた。


 めちゃくちゃ速い。 めちゃくちゃ頑丈(無傷だ)。 そして、めちゃくちゃカッコイイ。


「……悪くない」


 俺はニヤリと笑った。 これぞ、世界最強の王にふさわしい『オモチャ』だ。


「ふふ。気に入っていただけたようですわね」


 後続の飛行船で追いかけてきたセレスティアが、電卓を叩きながら降りてきた。


「ちなみに、今回の開発費と、破壊したダンジョンの修繕費、隣国への賠償金で……国庫が3割ほど飛びましたわ」


「……え?」


 俺の顔が青ざめる。


「さあ、ディラン様。明日からは馬車馬のように働いて、稼いでいただきますよ? ……これも『維持費』ですわ♡」


 所有欲を満たした代償は、とてつもなく高かった。 俺の新しい相棒『レッド・レクイエム号』は、燃費(維持費)も超弩級だったのだ。


 俺は夕日に輝く愛車を見つめながら、明日からの重労働に思いを馳せ、少しだけ泣いた。

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