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第83話 伝説の『オバチャン』降臨! アメちゃんとヒョウ柄の継承

「……あかん。これではまだ足りんのじゃ」


 O-SAKAの裏路地。 ヒョウ柄のローブを羽織ったヴェルザードは、ショーウィンドウに映る自分を見て唸っていた。


「何が足りないんだ? もう十分、O-SAKAの風景に馴染んでるぞ(悪い意味で)」


 ディランがツッコむが、ヴェルザードは首を振る。


「形だけじゃ。真の『オカン・ソウル』が足りん。……それを教えてくれる師匠が必要なのじゃ」


「師匠?」


 その時だった。


「あんたらか? ウチの店で、値切り倒して『伝説のマヨネーズ』置いてった姉ちゃんらは」


 ドスの効いた、しかしどこか親しみのある声が響いた。


 振り返ると、そこに『彼女』はいた。


 紫色のパンチパーマ。 顔の半分を覆う巨大なサングラス。 そして、全身を『黄金の虎と銀の龍が絡み合う刺繍』が入ったジャージで包んだ、小柄な老婦人。


 O-SAKA商業組合の裏ボス、通称『大オバチャン』である。


「お、お主は……! 先ほどの服屋の店主!」


「せや。……ええツラ構えになったな。そのヒョウ柄、よう似合っとるで」


 大オバチャンはニヤリと笑い、懐から何かを取り出した。


「ほれ、やるわ」


 彼女がヴェルザードの手に握らせたのは、キラキラと輝く『パインアメ』だった。


「これは……宝石か?」


「アメちゃんや。……よう聞きや。O-SAKAの女はな、剣でも魔法でもなく、この『アメちゃん』一つで世の中を渡るんや」


 大オバチャンは語り始めた。


 泣いている子供がいれば、アメちゃんをやる。 怒っている客がいれば、アメちゃんをやる。 値切り交渉の最後にも、アメちゃんをやる。


「これはな、『あんたと仲良くしたいで』いう契約のエンゲージリングや。……これを自然に出せるようになって初めて、一人前の『オカン』やで」


「……深い。深すぎる」


 ヴェルザードは震える手でアメちゃんを握りしめた。 魔王として力でねじ伏せることしか知らなかった彼女に、『コミュニケーション(飴玉外交)』という心たな武器が授けられた瞬間だった。


「師匠……! ご教授、感謝する!」


「ええってことよ。……あと、兄ちゃん」


 大オバチャンは、俺の方を向いた。


「へ、はい!」


「あんた、ええ女房持ったな。……尻に敷かれてるようやけど、それが一番幸せな形や。大事にしーや」


 サングラスの奥の瞳が、優しく笑った気がした。


「ほなな! これ、サービス(おまけ)や!」


 彼女は嵐のように去っていった。 俺たちの手元には、大量の『特売チラシ』と『商店街の福引券』、そして『アメちゃん』が残された。


「……ディラン。余は決めたぞ」


 ヴェルザードがアメちゃんを口に放り込み、ガリガリと噛み砕いた。


「この国にも、あの『オバチャン・マインド(お節介)』を取り入れる。……まずは国民全員にアメちゃんを配給じゃ!」


「やめろ、虫歯が増える!」


 O-SAKAの夜は更けていく。 騒がしくも温かいこの街で、俺たちは少しだけ「夫婦の在り方(主にカカあ天下)」を学んだ気がした。


 だが、さすがに胃もたれしてきたのも事実だ。 そろそろ、静かな場所が恋しい。

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