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第81話 混浴の誘惑と、覗き見防止の『対・ハゲ迎撃システム』

「……なぁ、セレスティア」


 第88階層『湯けむり温泉郷』。 昨夜の崩落から一夜明け、修復された旅館の縁側で、ディランは問いかけた。


「なぜ、俺たちのハネムーンに、あのむさ苦しい連中(レオン、イグニス、そして元国王たち)がいるんだ?」


 視線の先では、浴衣姿の元国王が、ヴェルザードのプロマイド写真を拝みながら温泉まんじゅうを食べている。 完全に風景を汚していた。


 セレスティアは、電卓を叩きながら涼しい顔で答えた。


「資金調達のためですわ」


「資金?」


「今回のハネムーンは貸切ですが、維持費がかかります。そこで、『国王夫妻(私たち)と同じ旅館に泊まれる! プレミアム追っかけツアー』を裏で販売しましたの」


「……売ったのか。俺たちのプライバシーを」


「ええ。特に元国王様は、ヴェルザード様の熱狂的なファン(トップオタ)ですから。『推しと同じ空気を吸いたい』と、隠し財産を全て吐き出して参加されました」


 恐ろしい女だ。 元国王の財布まで搾り取るとは。


「ご安心ください。彼らには『一般客用エリア』から出ることを禁じています。……さあ、気を取り直して。いよいよメインイベント、『貸切・大露天風呂(混浴)』のお時間ですよ♡」


 …… …………


 湯気で視界が白い。 岩肌で作られた巨大な露天風呂は、ダンジョンの最上部に位置し、絶景が広がっていた。


「……ふぅ。命の洗濯だな」


 俺はタオルを頭に乗せ、お湯に浸かった。 18歳の筋肉質な体が、温泉の熱でほぐれていく。


「失礼します……ディラン様♡」


 ちゃぽん……。


 湯煙の向こうから、妻たちが現れた。


 全員、白いバスタオルを体に巻いただけの姿だ。 濡れた髪、火照った肌、そしてタオル越しでも分かる極上のプロポーション。


「ど、どうじゃ? 似合うか?」 ヴェルザードが恥ずかしそうに胸元を押さえる。


「背中、流しますね」 ノエルがぴったりと背後に密着してくる。


「データ収集です。体温の上昇率を……」 ソフィアが逆サイドから腕を絡める。


「皆様、カメラ(記録用)は回しませんから、ご自由にどうぞ」 セレスティアが妖艶に微笑む。


「……あ、あの、刺激が強すぎます!」 アリシアは一人で茹でダコのように赤くなり、お湯に潜っている。


 まさに天国。 酒池肉林とはこのことか。


 俺が鼻の下を伸ばしかけた、その時だった。


『ヌオオオオオッ!! 壁の向こうに! 壁の向こうにヴェルザードちゃんがいる気配がするぞぉぉぉ!!』


 男湯(一般客用)との仕切り壁の向こうから、聞き覚えのある薄汚い叫び声が聞こえた。


「……チッ」


 ヴェルザードの表情が、一瞬で「恋する乙女」から「ゴミを見る魔王」へと変わった。


『ワシは元国王じゃぞ! 少しくらい見てもバチは当たらん! イグニス、その肩車だ! ワシを高いところへ!』


『やめてください陛下! これ以上罪を重ねないで!』


 どうやら、元国王がイグニスを台にして壁をよじ登ろうとしているらしい。


「ディラン様。……処理してもよろしいですか?」


 ノエルがニコニコと笑いながら、手元でお湯を圧縮し始めた。


「ああ。構わん。存分にやれ」


 俺が許可を出した瞬間、妻たちの連携が発動した。


「検索開始。ターゲット・禿頭ハゲ。座標ロック」 ソフィアが眼鏡を光らせる。


「障害物排除。壁の一部を透過させます」 セレスティアが指を鳴らすと、壁が一部分だけ透明になった。


 そこには、必死の形相で壁にしがみつく、バーコード頭の元国王の姿があった。


『見えたぁぁぁ! 桃源郷が……ひっ!?』


 元国王と目が合った。 だが、彼が見たのは桃源郷ではない。 5人の美女が、鬼のような形相で構えている地獄絵図だった。


「推し活のマナー違反じゃ。……消えよ」


 ヴェルザードが冷たく告げる。


「「「『対・ハゲ迎撃システム(お湯バズーカ)』発射!!」」」


 ドパァァァァァァァン!!


 5人分の魔力が込められた、超高圧の熱湯ビームが炸裂した。


『あちちちちちちッ!? 熱いぃぃぃ! そして痛いぃぃぃ! ワシの残り少ない毛根が死滅するぅぅぅ!!』


「ぎゃあああ! 巻き添えだぁぁぁ!」(イグニス)


 元国王とイグニスは、水圧で空の彼方へと打ち上げられた。 キラリと光る星になる。


「……ふぅ。掃除完了です」


 アリシアが清々しい顔で手を払った。


「さあ、ディラン様。邪魔者は消えました。……続きをしましょう?」


 妻たちが再び、俺に擦り寄ってくる。 さっきの殺気が嘘のように甘い雰囲気だ。


「……お前ら、切り替え早いな」


「愛の邪魔をする者は、神でも(元)国王でも許しませんから♡」


 俺は観念した。 このハネムーン中、俺の貞操は妻たちに狙われ、俺の安息は元国王たちに狙われる。 だが、迎撃システム(妻たち)がいる限り、俺の平和は守られる……のか?


「……のぼせるまで、付き合うよ」


 俺は諦めて、妻たちの柔らかい肢体に囲まれながら、熱いお湯と、もっと熱いハネムーンの夜を過ごすのだった。


(遠くの山で、真っ赤に茹で上がった元国王が発見されたのは、翌朝のことである)

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