第79話 ハネムーンは業務命令!? 行き先は『温泉と卓球の迷宮』
結婚式と、壮絶な初夜(ベッド破壊事件)から数日後。
俺は、新しいキングサイズベッド(強化魔法済み)の上で、朝の光を浴びていた。 左右にはアリシアとヴェルザード、足元にはノエルとソフィアが、幸せそうな寝顔でくっついている。
「……ふぅ。体が資本とはこのことか」
18歳の回復力がなければ、今頃俺は干からびていただろう。 幸せだが、毎晩が体力測定だ。
そこへ、部屋の扉がノックもなしに開かれた。 ビシッとしたスーツ姿のセレスティアが入ってくる。
「おはようございます、旦那様。そして皆様。……起きてください、出発の時間ですよ」
「ん……? 出発?」
俺が身を起こすと、セレスティアはニッコリと笑い、一枚の旅程表を広げた。
「お忘れですか? 結婚契約書の第2条。『ハネムーンの行き先はセレスティアが決定する』。……さあ、愛の逃避行へ参りましょう!」
パンフレットには、デカデカとこう書かれていた。
『新婚旅行で行く! ダンジョン第88階層・未開拓エリア『湯けむり温泉郷』2泊3日の旅!』 『※全行程、密着取材カメラが入ります』
「……は?」
俺は固まった。 取材? カメラ?
「説明しよう!」
セレスティアが指し棒を取り出す。
「今回のハネムーンは、当社の『観光プロモーション』を兼ねています。第88階層に発見された巨大温泉エリア……そこをリゾート地として開発するための、先行体験ツアーですわ!」
「つまり、俺たちは『広告塔』か!?」
「その通りです。お二人の(正確には6人の)ラブラブな混浴シーンや、温泉卓球での真剣勝負を配信し、観光客を誘致するのです。……もちろん、拒否権はありませんよ?」
彼女の背後には、すでに荷物をまとめた撮影クルー(エルフの秘書たち)と、なぜか「ツアー客」として参加する気満々のレオン、イグニス、そしてハゲた元・国王たちが待機していた。
「ディラン様! 混浴と聞いて飛び起きました!」 アリシアが布団から飛び起き、瞬時に荷造りを始める。
「温泉……。茹で卵を作れるな。行くぞ」 ソフィアも目を輝かせる。
「ふふ、浴衣というやつじゃな? 余に似合う自信があるぞ」 ヴェルザードもやる気だ。
「……おい待て。俺の意見は?」
俺の抵抗も虚しく、俺たちはダンジョンの転移陣へと押し込まれた。
…… …………
第88階層『湯けむり温泉郷』。
そこは、硫黄の香りが漂う、日本風の温泉街のようなダンジョンだった。 空には偽物の月が浮かび、情緒あふれる露天風呂が湯気を上げている。 だが、そこら中に「撮影中」の看板と、マイクを持ったスタッフがいる。
「さあディラン様! まずは『露天風呂で背中を流しっこ』のシーンです! カメラ回ってますよ、笑顔で!」
セレスティアの指示が飛ぶ。
「い、いくぞディラン! 覚悟せよ!」
バスタオル一枚のアリシアが、デッキブラシのような剛毛ブラシを持って迫ってくる。
「痛い! アリシア、それは背中を洗うやつじゃない! 岩を磨くやつだ!」 「愛の力で垢を根こそぎ落とします!」
「次は『お酒を酌み交わす』シーンです!」
「ディラン、飲め! 魔界の銘酒『鬼殺し(アルコール度数99%)』じゃ!」
「死ぬわ! 火がつく!」
「次は『温泉卓球・夫婦対決』です!」
「いきますよディランさん! サーッ!!」
「ノエルのスマッシュが音速を超えてる!? 球が燃えてるぞ!?」
癒やしのハネムーン? とんでもない。 これは『接待』であり『重労働』であり、そして『公開処刑』だった。
岩陰からは、ツアー客のハゲた元・国王たちが、
「おお……尊い……」
「ディラン様の悲鳴が心地よい……」
と、温泉卵を食べながら見学している。
「……帰りたい。俺は執務室に帰りたい」
湯当たりしてフラフラになった俺は、脱衣所のベンチで呟いた。
だが、浴衣に着替えた妻たちが、頬を紅潮させて集まってきた。
「ディラン様……その、カメラが止まりましたよ」
セレスティアが、先ほどまでのビジネスライクな顔を捨て、恥ずかしそうに頬を染めている。
「ここからは……『オフショット(本番)』です。……お部屋に、お布団を敷いておきましたわ」
「「「!!!」」」
5人の妻たちの目が、再び怪しく光る。
「……おい。ここ、壁が薄い旅館だぞ?」
「関係ありません。……貸切ですから」
「第2ラウンド、開始じゃな」
俺は悟った。 ハネムーンとは、場所を変えただけの『耐久試験』なのだと。
「……レオン! 助けてくれ!」
俺は廊下で酒盛りをしているレオンたちに助けを求めた。 だが、彼らは見事な土下座で返してきた。
「すまんディラン! 『見ざる言わざる聞かざる』が、今回のツアーの参加条件なんだ!」
「薄情者ぉぉぉ!!」
障子が閉められ、布団へと引きずり込まれる俺。 第88階層の夜空に、俺の幸せな悲鳴と、温泉の湯気が立ち上るのだった。
これぞ、最強の王に相応しい、最強に騒がしい新婚旅行の幕開けである。




