第78話 初夜の攻防戦と、砕け散るベッド
その夜。 ダンジョン国王の寝室にある、特注のキングサイズベッド(6人寝ても大丈夫な仕様)の上で、俺は震えていた。
「……なぁ、みんな。話し合おう。俺たちは文明人だろ?」
俺はバスローブの襟をかき合わせながら、必死に訴えた。 しかし、俺を取り囲む5人の美女たちの目は、完全に「獲物を前にした肉食獣」のそれだった。
「話し合い? 必要ありませんわ」
最初に動いたのは、シルクのネグリジェを纏ったセレスティアだ。 彼女は一枚の羊皮紙をヒラヒラとさせた。
「契約書をお忘れ? 『初夜の権利はプロデューサーであるセレスティアが独占する』。……これはビジネスにおける絶対のルールです。さあ、他の方々はご退室を」
彼女が俺の腕に手を伸ばす。 その瞬間。
ボッ!!
黒い炎が走り、契約書が一瞬で灰になった。
「ああっ!? 私の権利書が!」
「ふん。紙切れ一枚で余を縛れると思うたか?」
黒いレースの大胆なランジェリー姿のヴェルザードが、不敵に笑いながらベッドに乗り上げてきた。
「この世のルールは『弱肉強食』のみ。……力ずくで奪った者が勝者じゃ。のう、ディラン?」
「ひっ……!」
ヴェルザードの豊満な肢体が迫る。 だが、その進路を遮るように、白銀の光が走った。
「待ってください! 不潔です!」
純白のベビードール姿のアリシアが、聖剣(鞘付き)を構えて立ちはだかった。
「ディラン様は今日、数々の逃走劇でお疲れなのです! いきなり野蛮な行為は許しません! まずは私が一晩中、腕枕でお守りし……その、体力を回復させてから……朝チュンを……!」
「アリシアさん、顔が真っ赤ですよ? それに『回復』なら私の専門です」
背後から、エプロン風の際どいパジャマを着たノエルが、俺の首に腕を回してきた。 彼女の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
「ねえディランさん。……難しいことはいいですから、私に『バブみ』を感じてください。私が全部リードしてあげますから……♡」
「ず、ずるいぞノエル! 密着しすぎじゃ!」
「データ採取が必要じゃ」
最後に、ぶかぶかのワイシャツ一枚(彼シャツ)という、男の夢を具現化したような姿のソフィアが、冷静に眼鏡を光らせた。
「18歳に進化したディランの『持久力』と『回復力』の実測値が欲しい。……私が被検体となることで、最も効率的なデータを取れるはずじゃ」
「「「却下だ!!」」」
全員の主張が真っ向から衝突した。
寝室の空気が張り詰める。 魔力と闘気がバチバチと火花を散らし、特注のベッドがミシミシと悲鳴を上げ始めた。
「一番手は私よ!」(セレスティア)
「黙れ! 魔王の特権じゃ!」(ヴェルザード)
「護衛任務(添い寝)を遂行します!」(アリシア)
「赤ちゃん作りましょう♡」(ノエル)
「実験台になるのじゃ!」(ソフィア)
「お、お前ら……部屋が! 部屋が壊れる!」
俺の悲鳴など届かない。 ついに、実力行使が始まった。
「氷結魔法・絶対拘束!」
「聖騎士奥義・鉄壁の抱擁!」
「植物魔法・触手緊縛!」
ドォォォォン!!
魔法と物理攻撃が交錯し、窓ガラスが割れ、シャンデリアが揺れる。 俺は爆風の中で、枕を抱えて縮こまっていた。
(……なんでだ。なんで新婚初夜に、俺は命の危険を感じなきゃいけないんだ……!)
18歳の肉体は最高潮だが、精神的にはもう胃が痛い。
その時、誰かが叫んだ。
「らちが明きませんわ! ……こうなったら、『じゃんけん』です!」
「「「え?」」」
セレスティアの提案に、全員の動きが止まった。
「魔法も武力も拮抗しています。ならば、運で決めるのが公平でしょう!」
「……面白い。受けて立とう」
「負けませんよ!」
ゴクリ……。 世界最強の美女たちが、拳を握りしめ、円陣を組んだ。
「最初はグー! じゃんけん……」
「「「ぽい!!」」」
全員がパーを出した。 あいこだ。
「もう一回!」
「「「ぽい!!」」」
全員がチョキ。 思考が拮抗しているのか、あるいは全員が「裏の裏」を読みすぎているのか、勝負がつかない。
「はぁ、はぁ……決まらん!」
「次こそは……!」
彼女たちが殺気立った目で睨み合う中、俺は恐る恐る口を開いた。
「あ、あのさ……」
「「「黙ってて!!」」」
一喝された。理不尽だ。
しかし、このままでは朝になってしまう。 俺は意を決して、男を見せることにした。
「……いい加減にしろ!」
俺は立ち上がり、18歳のバリトンボイスで怒鳴った。
「お前ら、俺を殺す気か! こんな争いをして、俺が喜ぶとでも思ってるのか!」
「ディ、ディラン様……」
5人がシュンとなる。
「俺は……俺はな……」
俺は深呼吸をし、顔を赤らめながら、ボソッと言った。
「……全員、好きなんだよ。選べるわけないだろ」
「え?」
「だから……もう、順番とかいいだろ。……全員で来い」
「「「!!!」」」
その瞬間、寝室の時が止まった。 俺は言った。言ってしまった。 45歳の昭和の倫理観を捨て、ファンタジー世界の王として覚醒した瞬間だった。
「全員で……?」
「つまり、同時に……?」
彼女たちの顔が、一斉に輝いた。 争いの炎が消え、代わりに、とろけるような愛欲の炎が点火する。
「……ふふ。さすが私の旦那様。器が違いますわ」
「うむ。それならば文句はない」
「受けて立ちましょう……!」
5人の美女が、ゆらりと近づいてくる。 さっきまでの殺気とは違う、もっと濃密で、逃げ場のない気配。
「……あ、ちょっと待って。タンマ。やっぱり今のなし……」
俺が後ずさりした時には、もう遅かった。
「いただきまーす♡」
ドサァッ!!
俺はベッドに押し倒された。 右にアリシア、左にヴェルザード、上にノエル、足元にソフィア、そして全体を統括するようにセレスティア。
「ちょ、重い! 苦し……んぐっ!?」
視界が肌色に埋め尽くされる。 18歳の俺の体力と、5人の最強妻たちのスタミナ。 果たして、朝を迎えることができるのは誰なのか。
バキィッ!!
ついに、特注のキングサイズベッドの脚が折れた音が響いた。
「ディラン様ぁぁぁ♡」
「助けてくれぇぇぇ!!(歓喜)」
こうして、王城の寝室からは、夜明けまで激しい振動と、幸せな悲鳴が響き渡り続けたという。
翌朝。
げっそりと頬がこけ、しかしどこか晴れやかな顔をした俺と、ツヤツヤに光り輝く5人の妻たちが、朝食の席に現れた。
「……ディラン。プロテイン飲むか?」
レオンが同情と尊敬の入り混じった目で、特製ドリンクを差し出してくれた。 俺は震える手でそれを受け取り、一気に飲み干した。
「……ああ。美味いな」
これが、俺の新しい日常の始まりだった。




