表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/144

第73話 黒幕は遅れてやってくる(請求書と共に)

「……あれ?」


 執務室で、4人の美女(アリシア、ノエル、ヴェルザード、ソフィア)と1匹の幼女ルナに囲まれ、婚姻届の波に溺れかけていたディランは、ふと違和感を覚えた。


「おい、一人足りなくないか?」


 そう。 俺の周りには、最も強欲で、最も手練手管に長けたエルフの女王、セレスティアがいないのだ。 彼女がこの『玉の輿ビッグウェーブ』を逃すはずがない。 まさか、映画撮影が忙しくて忘れているのか?


「あら。私のこと、探してくれました?」


 その時だった。 執務室の扉が、優雅に、しかし重々しく開かれた。


 そこに立っていたのは、純白のドレス(ウェディングドレス風だが、より高貴なデザイン)を纏ったセレスティアだった。 彼女の後ろには、数人の秘書エルフが控え、山のような書類を抱えている。


「セレスティア! お前、今までどこに……」


「ふふ。皆様が騒いでいる間に、少し『お仕事』をしていましたの」


 セレスティアは、争っている他のヒロインたちを冷ややかな目で一瞥し、俺のデスクに優雅に腰掛けた。 18歳になった俺の顔を覗き込み、うっとりと目を細める。


「……素晴らしいビジュアルですわ、ディラン様。想像以上の『商品価値』です」


「商品価値?」


「ええ。……皆様、ちょっとその雑誌の『裏表紙』を見ていただけます?」


 ヴェルザードたちが持っていた、分厚い結婚情報誌『ZEQSYゼクシィ』。 言われるがままに裏返すと、そこには発行元の名前があった。


『発行:株式会社セレスティア・ブライダル』 『編集長:セレスティア』


「「「なっ!?」」」


 全員が絶句した。


 セレスティアは扇子を開き、高らかに笑った。


「この雑誌を作ったのは私です。法律を買収するための資金を提供したのも私。……そして」


 彼女は指を鳴らした。 秘書たちが、執務室の壁に巨大なポスターを貼り出す。


『緊急特番! ダンジョン王ディラン・アークライト、世紀のロイヤル・ウェディング! ~花嫁は誰だ?(全員です)~』 『独占生中継決定! スポンサー:マヨネーズ本舗』 『チケット絶賛発売中! SS席:金貨100枚』


「な、なんだこれは……?」


「ビジネスですよ、ディラン様」


 セレスティアは俺のネクタイを指で弄りながら、妖艶に囁いた。


「貴方様の結婚式は、全世界が注目する一大エンターテインメントです。これを金に換えない手はありません。……放映権、グッズ販売、式場の建設、観光客の誘致。すべて私が手配し、権利を押さえました」


 彼女は他のヒロインたちに向き直り、女王の威厳たっぷりに宣言した。


「皆様。結婚するのは構いませんが……その式の『プロデュース』は全て私が仕切らせていただきます。衣装も、演出も、順序も、私の指示に従っていただきますわよ?」


「ぐぬぬ……相変わらず抜け目のない女じゃ……」


 ヴェルザードが歯噛みする。 しかし、会場もドレスも雑誌も押さえられてしまっては、誰も彼女に逆らえない。


「そ、それで、セレスティア様は結婚しないのですか?」


 ノエルが恐る恐る尋ねる。 セレスティアはニッコリと笑い、一枚の契約書を俺の目の前に突きつけた。


「もちろん、しますわよ? ……私は『総監督』兼『第一夫人(仮)』として、一番美味しいところをいただきます」


 契約書にはこう書かれていた。


『初夜の権利および、ハネムーンの行き先決定権は、プロデューサーであるセレスティアが独占保有するものとする』


「……お前なぁ」


 俺は呆れた。 他の連中が『愛』や『遺伝子』で暴走している間に、こいつだけ『ビジネス』と『既成事実』の両取りを完璧に決めてきやがった。


「さあ、サインをくださいな、旦那様♡」


 セレスティアは俺の耳元に唇を寄せ、吐息交じりに囁いた。


「この結婚式での収益は、王都復興予算の30年分になります。……断れませんわよね?」


「……悪魔か、お前は」


「いいえ、優秀な妻ですわ」


 俺は天を仰いだ。 ピンク色の雑誌、買収された法律、そして商業化された結婚式。


 俺の『愛』は、いつの間にか『巨大プロジェクト』になっていた。


「……分かったよ。好きにしろ」


 俺が諦めの言葉を吐いた瞬間、執務室は歓声に包まれた。


「やったー! 結婚だー!」

「式場はカジノ風にするぞ!」

「ウェディングケーキは肉タワーじゃ!」

「引き出物はマヨネーズですね!」


 大騒ぎするヒロインたちを見ながら、セレスティアは俺の膝の上に座り、勝ち誇ったように微笑んだ。


「ふふ。……覚悟してくださいね、ディラン様? 貴方様はこれから、死ぬまでたちに搾り取られるんですから」


 18歳の最強イケメン国王・ディラン。 その波乱万丈な結婚生活(と重労働)は、こうして確定したのだった。


(これで、全員集合ですね)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ