第73話 黒幕は遅れてやってくる(請求書と共に)
「……あれ?」
執務室で、4人の美女(アリシア、ノエル、ヴェルザード、ソフィア)と1匹の幼女に囲まれ、婚姻届の波に溺れかけていた俺は、ふと違和感を覚えた。
「おい、一人足りなくないか?」
そう。 俺の周りには、最も強欲で、最も手練手管に長けたエルフの女王、セレスティアがいないのだ。 彼女がこの『玉の輿ビッグウェーブ』を逃すはずがない。 まさか、映画撮影が忙しくて忘れているのか?
「あら。私のこと、探してくれました?」
その時だった。 執務室の扉が、優雅に、しかし重々しく開かれた。
そこに立っていたのは、純白のドレス(ウェディングドレス風だが、より高貴なデザイン)を纏ったセレスティアだった。 彼女の後ろには、数人の秘書エルフが控え、山のような書類を抱えている。
「セレスティア! お前、今までどこに……」
「ふふ。皆様が騒いでいる間に、少し『お仕事』をしていましたの」
セレスティアは、争っている他のヒロインたちを冷ややかな目で一瞥し、俺のデスクに優雅に腰掛けた。 18歳になった俺の顔を覗き込み、うっとりと目を細める。
「……素晴らしいビジュアルですわ、ディラン様。想像以上の『商品価値』です」
「商品価値?」
「ええ。……皆様、ちょっとその雑誌の『裏表紙』を見ていただけます?」
ヴェルザードたちが持っていた、分厚い結婚情報誌『ZEQSY』。 言われるがままに裏返すと、そこには発行元の名前があった。
『発行:株式会社セレスティア・ブライダル』 『編集長:セレスティア』
「「「なっ!?」」」
全員が絶句した。
セレスティアは扇子を開き、高らかに笑った。
「この雑誌を作ったのは私です。法律を買収するための資金を提供したのも私。……そして」
彼女は指を鳴らした。 秘書たちが、執務室の壁に巨大なポスターを貼り出す。
『緊急特番! ダンジョン王ディラン・アークライト、世紀のロイヤル・ウェディング! ~花嫁は誰だ?(全員です)~』 『独占生中継決定! スポンサー:マヨネーズ本舗』 『チケット絶賛発売中! SS席:金貨100枚』
「な、なんだこれは……?」
「ビジネスですよ、ディラン様」
セレスティアは俺のネクタイを指で弄りながら、妖艶に囁いた。
「貴方様の結婚式は、全世界が注目する一大エンターテインメントです。これを金に換えない手はありません。……放映権、グッズ販売、式場の建設、観光客の誘致。すべて私が手配し、権利を押さえました」
彼女は他のヒロインたちに向き直り、女王の威厳たっぷりに宣言した。
「皆様。結婚するのは構いませんが……その式の『プロデュース』は全て私が仕切らせていただきます。衣装も、演出も、順序も、私の指示に従っていただきますわよ?」
「ぐぬぬ……相変わらず抜け目のない女じゃ……」
ヴェルザードが歯噛みする。 しかし、会場もドレスも雑誌も押さえられてしまっては、誰も彼女に逆らえない。
「そ、それで、セレスティア様は結婚しないのですか?」
ノエルが恐る恐る尋ねる。 セレスティアはニッコリと笑い、一枚の契約書を俺の目の前に突きつけた。
「もちろん、しますわよ? ……私は『総監督』兼『第一夫人(仮)』として、一番美味しいところをいただきます」
契約書にはこう書かれていた。
『初夜の権利および、ハネムーンの行き先決定権は、プロデューサーであるセレスティアが独占保有するものとする』
「……お前なぁ」
俺は呆れた。 他の連中が『愛』や『遺伝子』で暴走している間に、こいつだけ『ビジネス』と『既成事実』の両取りを完璧に決めてきやがった。
「さあ、サインをくださいな、旦那様♡」
セレスティアは俺の耳元に唇を寄せ、吐息交じりに囁いた。
「この結婚式での収益は、王都復興予算の30年分になります。……断れませんわよね?」
「……悪魔か、お前は」
「いいえ、優秀な妻ですわ」
俺は天を仰いだ。 ピンク色の雑誌、買収された法律、そして商業化された結婚式。
俺の『愛』は、いつの間にか『巨大プロジェクト』になっていた。
「……分かったよ。好きにしろ」
俺が諦めの言葉を吐いた瞬間、執務室は歓声に包まれた。
「やったー! 結婚だー!」
「式場はカジノ風にするぞ!」
「ウェディングケーキは肉タワーじゃ!」
「引き出物はマヨネーズですね!」
大騒ぎするヒロインたちを見ながら、セレスティアは俺の膝の上に座り、勝ち誇ったように微笑んだ。
「ふふ。……覚悟してくださいね、ディラン様? 貴方様はこれから、死ぬまで私に搾り取られるんですから」
18歳の最強イケメン国王・ディラン。 その波乱万丈な結婚生活(と重労働)は、こうして確定したのだった。
(これで、全員集合ですね)




