表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/144

第66話 鉄壁の聖騎士と、重すぎる愛の弁当

「ディラン様! 準備はよろしいですか! 本日の護衛任務、このアリシアが命に代えても遂行いたします!」


 ある晴れた休日の朝。


 ダンジョンの入り口で、ディランは眩しいものを見るように目を細めた。


 そこに立っていたのは、我がパーティのメインタンク、聖騎士アリシアだ。


 だが、今日の彼女はいつもの全身を覆う重厚なフルプレートアーマーではない。


 白銀に輝くミスリル素材で作られた、防御面積が極端に少ない『軽装鎧』――いわゆる、ビキニアーマー姿だった。


 鍛え上げられた腹筋と、豊満な肢体が惜しげもなく晒されている。


「……おい、アリシア。なんだその格好は。防御力はどうした?」


 俺が尋ねると、アリシアはカァッと頬を赤らめ、モジモジしながら答えた。


「そ、その……店員が言っていたのです。『デート……いえ、お忍びの護衛任務には、機動性を重視したこの装備が最新のトレンドです』と。……へ、変でしょうか?」


「いや、似合ってはいるが……目のやり場に困るな」


「本当ですか!? ディラン様に見ていただけるなら、恥ずかしさを堪えた甲斐がありました!」


 アリシアはパァッと顔を輝かせた。


 どうやら、俺の気を引くために、あの堅物が相当な無理をしたらしい。


「よし、行くか。場所は第45階層『水晶の迷宮』だ」


「はい! お供します!」


 今回の名目は「新種の鉱石採取の護衛」。


 だが、実質的には二人きりのデートだ。


『水晶の迷宮』は、壁も床もすべて水晶でできた美しい階層で、淡い光が乱反射するロマンチックな(そしてカップルに人気の)スポットでもある。


 俺たちは水晶の回廊を並んで歩いた。


 アリシアは常に周囲を警戒しているが、その距離が近い。


 肩が触れ合う……というか、彼女の柔らかな腕が俺の腕にガッチリとロックされている。


「……アリシア、歩きにくくないか?」


「いえ! これが最適な護衛ポジションです! 何があっても即座に庇えますから!」


 その時だった。


 通路の陰から、プルプルと震える青い物体が現れた。


 この階層の最弱モンスター、『クリスタル・スライム』だ。


「キキュ?」


 スライムが愛らしく首を傾げた、その瞬間。


「き、貴様ぁぁぁ!! ディラン様に何をする気だぁぁぁ!!」


 アリシアが鬼の形相で絶叫した。


 彼女は俺を背後に突き飛ばすと、聖剣を高々と掲げた。


「我が愛の前では塵となれ! 聖騎士奥義――『グランド・クロス(十字砲火)』!!」


 ドゴォォォォォン!!


 閃光が走り、轟音が迷宮を揺るがした。


 スライムごときに、魔王級の敵を葬るための最大火力が炸裂する。


 煙が晴れた後には、跡形もなく消滅したスライムと、抉り取られた床、そして肩で息をするアリシアが残っていた。


「はぁ、はぁ……。ご無事ですか、ディラン様! 間一髪でした!」


「……ああ。スライムがな」


 俺は苦笑した。


 過剰防衛にも程がある。


 だが、彼女の瞳は真剣そのものだ。


「申し訳ありません。ディラン様があまりに強すぎるので……私の出番がないのではないかと焦ってしまって。でも、雑魚掃除くらいは私に任せてください!」


「分かった、分かったよ。頼りにしてる」


 俺が頭をポンポンと撫でると、アリシアは「ふあぁ……♡」ととろけた顔になり、その場にへたり込んだ。


「では、少し休憩にしましょう。……その、お昼を作ってきたのです」


 アリシアは亜空間収納から、風呂敷に包まれた『何か』を取り出した。


 ズズズンッ。


 重い音がして、水晶の床にヒビが入る。


 それは、弁当箱というよりは『御節料理の重箱(五段重ね)』だった。


「……でかくないか?」


「スタミナをつけるには量が必要です! さあ、どうぞ!」


 蓋を開けると、中にはギッシリと詰め込まれた肉料理、卵焼き、そしてハート型にカットされた野菜たちが並んでいた。


 見た目は綺麗だ。味も、以前食べた時は美味かったはずだ。


 問題は、量が相撲部屋の朝食並みであることだけだ。


「さあ、ディラン様。『あーん』をしますね」


 アリシアがフォークにミートボールを突き刺し、俺の口元に運んでくる。


 だが、彼女の手はガタガタと震えていた。


「あ、あーん……」


「お、おい、震えてるぞ」


「き、緊張して……距離感が……えいっ!」


 グサッ。


「ふぐっ!?」


 ミートボールが俺の唇をかすめ、鼻の穴の横に突き刺さった。


「ひいいっ! も、申し訳ありません! 大切な御尊顔に傷を!」


「いいから! 自分で食うから!」


 パニックになるアリシアをなだめつつ、俺たちは並んで弁当を食べた。


 味は抜群だった。


 不器用な彼女が、早起きして一生懸命作ったことが伝わってくる、優しい味だ。


 食べ終わる頃には、二人の間に穏やかな空気が流れていた。


 アリシアが、膝の上で手を組み、ポツリと言った。


「……先日のディラン様の戦いを見て、私は自分の無力さを知りました」


「アリシア?」


「貴方様は、私などいなくても一人で戦える。……でも、それでも私は、貴方様の『盾』でありたいのです」


 彼女は真剣な眼差しで俺を見つめた。


「背中を預けてもらえるように。そしていつか、貴方様が疲れた時に、安心して眠れる場所を作れるように。……私は、もっと強くなります」


 その言葉には、聖騎士としての誇りと、一人の女性としての深い愛情が込められていた。


 不器用で、加減を知らなくて、ちょっと重い。


 けれど、その真っ直ぐさは誰よりも美しい。


 俺は彼女の肩を引き寄せた。


「十分だ。お前がいてくれるだけで、俺は背中を気にせず前に進める」


「ディラン様……!」


 アリシアの目が潤み、感極まったように俺に抱きついた。


 ガシャンッ!


「ぐえっ……」


 ビキニアーマーの硬い金属部分が俺の脇腹にめり込み、彼女の鍛え抜かれた腕力が俺の肋骨を締め上げる。


(……物理的に重い! 痛い!)


「一生、お守りします! 私のこの身(と筋肉)に代えても!」


「あ、ああ……頼むから、力を緩めてくれ……!」


 水晶の迷宮に、俺の悲鳴と、彼女の愛の告白が木霊した。


 こうして、第一のデート『アリシア編』は、スライムへのオーバーキルと、俺の肋骨の危機という、実に彼女らしい形で幕を閉じた。


 けれど、帰り道に手を繋いだ彼女の横顔は、いつもの厳しい騎士の顔ではなく、恋する乙女の幸せそうな笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ