第61話 在庫処分の誤算と、覚醒した『ハズレ枠』たち
「……おかしい」
俺は、ダンジョン国の巨大倉庫の前に立ち、呆然と呟いた。
目の前には、空を突くような山脈ができている。 岩山ではない。 ワイバーン、ベヒーモス、キマイラ……高ランク魔獣の死体が積み重なってできた『肉の山』だ。
「なぁ、ガリバー。俺の記憶が確かなら、俺はスラムの連中にこう言ったはずだ。『腹ごなしにダンジョンの浅い層で狩りでもしてこい。獲った分は食べていいぞ』と」
俺の狙いは単純だった。 スラムの民にS級食材を配りすぎた結果、一時的に倉庫の在庫が減った。 だから、彼らに少し狩りをさせて、自分たちが食べる分くらいは現地調達させようとしたのだ。 いわゆる「自給自足の推奨」であり、在庫の消費ペースを緩めるための策だった。
「はい、確かにそう仰いました」
参謀のガリバーが、震える手で在庫リストをめくる。
「ですが、結果として……在庫が減るどころか、10倍に増えております」
「なんでだよ!!」
俺は叫んだ。
「あいつら素人だろ!? なんで本職の騎士団より狩りの効率がいいんだよ! 食べて消費するスピードより、狩ってくるスピードが上回ってるじゃないか!」
「それが……どうやら彼らの中に、とんでもない『才能』が眠っていたようでして」
ガリバーが指差す先には、活気に満ちた解体場の光景があった。
そこでは、先日までスラムで泥水を啜っていた市民たちが、神業のような手つきで働いていた。
「へい! ワイバーン三丁、解体上がり!」
目にも止まらぬ速さでナイフを振るっているのは、かつて王都の魚屋を「作業が雑だ」とクビになった男だ。 S級食材で身体能力が強化された彼は、今やレオンにも匹敵する速度で、魔獣の皮と肉を正確に切り分けている。
「こっちの農地、開墾終わりました! 岩盤ごと粉砕しておきましたぜ!」
巨大なハンマーを軽々と振り回しているのは、工事現場で「力が弱い」と馬鹿にされていた老人だ。 若返った肉体と、長年の「テコの原理」の知識が組み合わさり、彼は今や一人で重機並みの土木作業を行っている。
「ディラン様ぁ! 見てください、この子たち懐いちゃって!」
さらに驚くべきは、幼い子供たちだ。 王都では「魔力なし」と判定され、見捨てられていた孤児たちが、キラーウルフやグリフォンを手懐け、背中に乗って遊んでいる。
「……テイマーの才能か?」
「ええ。彼らは今まで、弱者として魔物から隠れて生きてきました。だからこそ、『魔物の気配』や『感情』を読む力に長けていたのです」
ガリバーが感心したように言う。
「そこにS級食材による魔力強化が加わり、才能が開花したのです。……王国の評価基準では『無能』とされた者たちが、ここでは『Sランク冒険者』並みの働きをしております」
「……マジかよ」
俺は頭を抱えた。 王都はとんでもない損失を出している。 国宝級の美術品を失ったことなど、些細な問題だ。 彼らは、磨けば光る「人的資源」を、自らドブに捨てていたのだから。
「ディラン、良い拾い物をしたな」
そこへ、ソフィアがやってきた。 彼女の後ろには、眼鏡をかけた数人の若者が、必死にメモを取りながらついて歩いている。
「彼らは?」
「私の助手じゃ。王都の学園で『魔法の才能がない』と退学させられた落ちこぼれだそうだが……計算能力と理論の構築力が異常に高い。私の研究の手伝いをさせたら、作業効率が3倍になったぞ」
ソフィアが珍しく機嫌良さそうに笑う。 これまでは全ての研究を一人でこなしていた彼女だが、優秀な(そしてソフィアを崇拝する)助手ができたことで、負担が激減したらしい。
「ディラン様、私の方もです!」
アリシアもやってきた。彼女の周りには、屈強な男たちが直立不動で整列している。
「元・王都の門番たちです。『愛想が悪い』と解雇されたそうですが、一度命令すればテコでも動かない忠誠心と、素晴らしい忍耐力を持っています。私の『盾部隊』として鍛え上げます!」
「うむ。余のカジノのディーラーも確保できたぞ」
ヴェルザードも優雅に扇子を仰ぐ。
「元・詐欺師やスリだそうだが……その器用な指先、カード捌きに最適だ。余が教育して、一流のエンターテイナーにしてやった」
次々と報告される「才能の発掘」。 かつて王都で「ハズレ枠」「ゴミ」として扱われていた彼らは、適材適所の配置と、少しのきっかけ(S級食材)で、化けた。
「……ははっ。笑えるな」
俺は乾いた笑い声を上げた。
王城では今も、血統書付きの「無能なエリート(ハゲ)」たちが、マヨネーズを舐めて自堕落に過ごしている。 一方、ここダンジョン国では、「捨てられたゴミ」たちが最強の軍団へと進化し、国を豊かにしている。
これぞまさに、究極の皮肉。
「……で、ディラン様。この増えすぎた在庫、どうしますか?」
ガリバーが、再び山積みの肉を見て尋ねる。
俺はニヤリと笑った。
「決まってるだろ。……『輸出』だ」
「輸出、ですか?」
「ああ。王都の貴族たちに売りつけてやれ。『最近、高級なドラゴンステーキが手に入りましてねぇ。マヨネーズによく合いますよ?』とな」
「……悪魔ですか」
「彼らが捨てた人材が狩った肉を、彼らが高値で買い取る。……最高の経済循環だと思わないか?」
俺の号令と共に、元・スラムの民たちが歓声を上げた。
「「「うおおおお! ディラン様のために稼ぐぞぉぉ!!」」」
その声は、もはやただの労働者ではない。 自分たちの価値を認め、居場所をくれた主君への、絶対的な忠誠を誓う「騎士団」の叫びだった。
こうして、俺の在庫処分計画は(良い意味で)失敗し、ダンジョン国は「最強の生産力と人材」を手に入れた。 王都が崩壊するのは、もはや時間の問題ではなく、俺のサジ加減一つとなったのだ。




