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第58話 悪魔の調味料と、輝くペンライトの海

 約束通り、俺は王都への『物資支援』を開始した。


 王城の広場には、ダンジョン国から運ばれてきたコンテナが山のように積まれている。 それを囲むのは、先日『回答式かつら・オフ』を終え、ツルツル頭やバーコード頭を秋空に輝かせている国王や貴族たち、そして飢えた市民たちだ。


「おお……! ディランよ! 感謝する!」


 国王(バーコード全開)が、涙ぐみながら俺の手を握る。


「これで民が救われる! して、中身は何じゃ? 小麦か? 干し肉か?」


「いや。もっと『元気が出る』ものだ」


 俺は不敵に笑い、合図を送った。


「セレスティア、頼む」


「ええ、任せて。……さあ、愚かなる人間たちよ。震えて味わいなさい」


 エルフの女王セレスティアが指を鳴らすと、コンテナが開かれた。 中から出てきたのは、黄金色に輝く大量の袋と、チューブに入った白い液体だった。


「これは……?」


「ダンジョン特産、『厚切りポテトチップス(のり塩&コンソメ)』と、セレスティア印の『特製マヨネーズ』だ」


 俺の説明に、貴族たちがざわめく。


「ポテト……? そんなジャンクフードで腹が膨れるか!」

「我々はパンが欲しいのだ!」


 不満の声が上がる。 だが、俺は知っていた。 飢餓状態の人間、しかも長らく質素なスープしか飲んでいない舌に、『資質』と『塩分』と『化学調味料(旨味)』の暴力がどれほど効くかを。


「まあ、食べてみろ。……飛ぶぞ?」


 俺が袋を開け、マヨネーズをたっぷりとつけたポテトチップスを国王に差し出す。 国王は疑わしげにそれを口に運び――。


 バリッ。


 乾いた音が響いた瞬間、国王の動きが止まった。


「――――ッ!?」


 カッ! 国王の目が完全に見開かれ、バーコードの毛先が逆立った。


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁ!!」


 絶叫が広場に響く。


「う、美味い! 美味すぎる! なんだこの脳髄を直撃する塩気は! そしてこの白い悪魔マヨネーズのまろやかさは!」


「へ、陛下!?」


「食え! お前たちも食うのじゃ! これは神の食べ物ぞ!!」


 国王が貪るように袋に手を突っ込むのを見て、貴族や市民たちも次々とポテトチップスに食らいついた。


 バリバリバリバリ! チュウウウウッ(マヨネーズを吸う音)!


「うおおおお! 止まらん! 手が止まらんぞ!」 「ああっ、脂が! 枯渇した体に脂が染み渡るぅぅ!」 「もっとだ! もっとくれ! 金ならある! 隠していたへそくりを全部出すからぁぁ!!」


 地獄絵図だった。 いや、ある意味では天国か。


 プライド高き貴族たちが、口の周りをマヨネーズでベタベタにし、指についた粉までしゃぶりながら、歓喜の涙を流している。 その頭上で、バーコードたちが嬉しそうに揺れていた。


 俺はその光景を見下ろしながら、隣のアリシアに耳打ちした。


「……計算通りだな」


「はい、ディラン様。……恐ろしい光景ですね」


 アリシアが、自身もポテトチップスを隠れ食いしながら頷く。


「一度この味を知ってしまえば、もう王都の薄味なスープには戻れません。彼らは今後、食料を求めてダンジョン国に依存せざるを得なくなるでしょう」


 そう。これが俺の狙いだ。 ただの食料援助では、彼らは食べて終わりだ。 だが、この「中毒性のある嗜好品」をばら撒けば、彼らはそれを手に入れるために必死で働き、なけなしの資産を俺たちに支払うようになる。


 まさに、胃袋からの『経済侵略』だ。


「ふん。餌付け完了か。……ならば次は、余の出番だな」


 ヴェルザードが、煌びやかなアイドル衣装に身を包んで前に出た。


「腹が満たされれば、次は心が乾くもの。……愚民どもよ、余が直々に『推し活』という沼に沈めてやろう」


「おいヴェルザード、手加減しろよ? 心臓麻痺で死人が出るぞ」


「安心しろ。……財布が死ぬだけだ」


 ヴェルザードが指を鳴らすと、特設ステージに魔導照明が灯った。 大音量の音楽と共に、魔王センターとノエル(園長)、アリシア(盾役)のアイドルユニットが登場する。


『さあ、ひれ伏しなさい! そして貢ぎなさい! ラブ・アンド・ドミネーション!!』


 ヴェルザードの歌声と、ノエルの癒やしボイス、アリシアのぎこちないダンスが炸裂する。


 その瞬間、広場の空気が変わった。


「な、なんだこの可愛い生き物は……!」

「尊い……! 後光が差しておる……!」


 マヨネーズでカロリーを摂取し、脳内麻薬がドバドバ出ているハゲたちにとって、アイドルの刺激は強すぎた。


「ヴェルザードちゃぁぁぁん!!」


 国王が叫んだ。 バーコードを振り乱し、両手に持ったマヨネーズの容器をペンライトのように振り回しながら。


「ノエル先生ぇぇぇ! バブみを感じるぅぅ!」

「アリシアたんの恥じらってる顔、最高だぁぁ!」


 オタ芸。 それは、ハゲ頭が照明を反射し、ミラーボールのように輝く、光と狂気の宴だった。


「物販はこちらよー! 握手券付きCD、一枚金貨10枚!」


 リリスが売り子として声を張り上げると、貴族たちが殺到した。


「買う! 全部買う!」

「国宝の壺を売ってきた! これで100枚くれ!」

  「土地の権利書でもいいか!?」


 飛ぶように売れていくグッズ。 俺の空っぽだった金庫に、王都の富が濁流のように流れ込んでくる音が聞こえるようだった。


「……ひどいな、これ」


 俺は呟いた。 武力制圧など馬鹿らしくなるほどの、完全なる支配。 王都の人々は、ダンジョンの食と文化に汚染され、もはや俺たちなしでは生きられない体になってしまったのだ。


「ディラン。王都のレストラン街、すべて買い占めておいたぞ」


 いつの間にか戻ってきたソフィアが、大量の権利書を俺に渡した。


「これで王都の食文化も我らのものじゃ。……さあ、帰ろう。ここでは美味い肉が食えん」


「ああ、そうだな」


 俺は、熱狂の渦と化した広場に背を向けた。


 国王はマヨネーズまみれの口でアイドルの名を叫び、貴族たちはポテトチップスを奪い合い、市民たちはダンジョン国への移住希望の列を作っている。


 王都は死んだのではない。 『ダンジョン国・王都支部(ATM)』として生まれ変わったのだ。


「……さて。稼いだ金で、次はどうするかな」


 俺のポケットには、王都の国家予算に匹敵する売上が入っている。 これでまた、ヒロインたちに少しは贅沢をさせてやれるだろう。


(まあ、あいつらのことだ。すぐに使い切るだろうが……)


 俺は苦笑しながら、夕日に輝く無数のバーコードたちに別れを告げた。


 ありがとう、王都。 お前たちの脂肪と散財は、忘れない。

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