第52話 連帯責任という名の強制労働。……なんで俺まで? いや、お前も同罪だろ
一夜明けた、ダンジョン地上エリア。
小鳥のさえずりが響く爽やかな朝――のはずだった。
目の前に広がるのは、昨夜の『六尺玉』によってえぐり取られた巨大なクレーター。
そして、その縁で仁王立ちするエルフの女王セレスティアと、土下座させられている俺、ディランの姿があった。
「……ディランさん?」
「は、はい」
「私の可愛いトマトたちが、跡形もなく消し飛んでいるのですが。これはどういうことでしょうか?」
セレスティアの背後には、絶対零度の吹雪が見える気がする。
彼女が手塩にかけて育てたSランク野菜たちが、昨夜の爆風で「焼き野菜」すら通り越して炭化し、更地になっていたのだ。
「い、いや、あれは事故で……。すまん、すぐに直す。管理者権限で『地形修復』を……」
「ダメです!!」
俺が魔法を使おうとした瞬間、セレスティアが叫んだ。
「魔法で安易に作った土に、愛が宿るとでも思っているのですか!? 土作りとは、汗と涙の結晶! 償うのなら、あなたの手で、クワを持って、一から耕し直しなさい!」
「えぇ……。この広さを手作業で……?」
東京ドーム一個分はあるぞ。
俺が絶望していると、瓦礫の陰から、こそこそと逃げ出そうとする小柄な影があった。
ドワーフのガルド親方だ。
「……おい親方。どこへ行く気だ」
「い、いやぁ、朝飯の時間じゃからな。わしはこれで……」
「待て」
俺は【空間掌握】で親方の襟首を掴み、引きずり戻した。
「この『戦略兵器(六尺玉)』を作ったのは誰だ?」
「わ、わしゃ頼まれたもんを作っただけじゃ! 発注者の責任じゃろ!」
「仕様書には『通常火薬』って書いたはずだぞ? なんで中身が『ドラゴンの火炎袋(濃縮)』になってるんだよ!」
昨夜の爆発は、明らかに花火の域を超えていた。
「男ならデッカイ花火が見たいじゃろ!? 威力が足りんと思うて、職人の魂で『サービス』しておいたんじゃい!」
「……サービス?」
セレスティアの声が一段と低くなる。
「私の畑を焦土に変えたのが、サービスですか……? 親方、あなたも同罪です。そこに並びなさい」
「ひぃっ!?」
ガルド親方、あえなく確保。
◇
さらに、騒ぎを聞きつけて野次馬に来ていた「他の男たち」にも火の粉が飛ぶ。
「うわぁ、ひどい有様だなー。ディランたち、怒られてやんの。ダッセェ」
対岸の火事だと思って笑っているのは、剣聖レオンだ。
その横には、呆れ顔のアリシアがいる。
「……レオン様?」
「ん? なんだアリシア」
「昨日の夜、『うおおお! いけぇ! もっとデカイのぶち上げろぉ!』って、一番ノリノリで扇動していましたよね?」
「えっ」
「止めなかった貴方も同罪です。……連行します」
「ちょ、待て! 暴力反対! 俺はSランク冒険者だぞぉぉぉ!」
ドゴォォォン!! アリシアのラリアットが炸裂し、レオンがクレーターの底へ叩き落とされた。
そして、木陰にはもう一人。
「……俺は隠れていた。無関係だ」
気配を消して撤退しようとするザイン。
だが、その足に狐の幼女ルナがしがみついた。
「あれー? ザイン、きのう『この爆風、最高の酒の肴だ』って言ってお酒のんでたよ?」
「ルナ、お前……ッ! (肉につられたか!)」
ザイン、確保。
「俺は筋肉の手入れがあるから……」
逃げようとした炎将軍イグニスの前には、魔王ヴェルザードが立ちはだかった。
「待て。昨日の着火係、お前だったな? 私の『黒炎』を勝手に種火に使いおって……責任を取れ」
「ぐぬぅ……!」
イグニス、確保。
◇
こうして。 クレーターの底に、この国を代表する「男全員」が並べられた。
全員、武器を取り上げられ、代わりにツルハシとスコップを持たされている。
セレスティアが、土手の上から見下ろして宣言する。
「いいですか? 日が暮れるまでに、このクレーターを整地し、新しい土を入れて、畝を作り直すのです。 ……一本でもサボったら、今日の夕飯の『てりたまバーガー』は抜きです」
「「「イエッサー!!」」」
男たちの目が変わった。
バーガー抜きは死活問題だ。
作業開始。 だが、すぐに内輪揉めが始まる。
「くそっ、なんで俺まで! 俺は見てただけだぞ!」
レオンがスコップで土を放り投げながら叫ぶ。
「うるさい! お前が『もっと火薬詰めろ!』って親方を煽ったんだろうが!」
「わしは悪くない! 技術の限界に挑んだだけじゃ! 芸術は爆発じゃ!」
「……巻き込まれた。俺の時給は高いんだぞ。こんな土木作業……」
「ガハハ! いい筋トレになるではないか! ……おいディラン、そこの岩、邪魔だぞ。どけろ」
泥だらけになりながら、文句を言い合い、汗を流す男たち。
最強の剣聖も、天才管理者も、伝説の職人も、ここではただの「肉体労働者」だ。
だが、さすがはSランクの実力者たちだ。
レオンが剣技で岩を砕き、ガルド親方が土質の配合を指示し、イグニスが炎で雑草を焼き払い、ザインが高速移動で整地する。
俺が全体指揮を執ることで、作業は驚異的なスピードで進んでいった。
◇
夕日が差す頃。
荒れ果てたクレーターは、見事な農地へと生まれ変わっていた。
いや、ただ元に戻っただけではない。底から湧き出た地下水を活用し、一部は『温泉予定地』として整備されている。
「……終わったな」
俺は腰を叩きながら、夕日を見上げた。
全身泥まみれだが、不思議と清々しい気分だ。
「ああ。……意外と、悪くない汗だったな」
レオンが泥を拭いながら笑う。
「ふん。わしの整地技術にかかればこんなもんよ。次はここに『露天風呂』を作るかの」
ガルド親方も満足げだ。
そこへ、おにぎりと冷たいお茶を持ったヒロインたちが降りてきた。
「……まぁ。思ったより綺麗になりましたね。合格です」
セレスティアが微笑む。
その笑顔を見て、男たちの疲れも吹き飛んだ――わけではないが、まあ報われた気にはなった。
「お疲れ様でした! 皆さんの働く背中、ちょっとだけかっこよかったですよ!」
アリシアがおにぎりを差し出す。
俺たちは泥だらけの手を洗いもせず、そのおにぎりに食らいついた。
「うめぇ……」
「塩加減が最高じゃ……」
結局、女性陣の手のひらの上で転がされているだけなのだが。
「ま、これなら許してやるか」と、男たちの間に奇妙な絆が芽生えた一日だった。




