第51話 『納涼! 本格的すぎる肝試しと、地図を書き換えた六尺玉』
川遊びから戻ったその夜。
俺たちは拠点(要塞)の裏手に広がる広場で、夏の夜の締めくくりを行おうとしていた。
「……むぅ。私だけ川遊びに参加できなかったのは不満です」
頬を膨らませているのは、エルフの女王セレスティアだ。
彼女は昼間、姿を見せなかった。
「仕方ないだろ。お前が『この猛暑ではマンドラゴラ大根がしなびてしまう!』って、畑に氷結結界を張るのに必死だったんだから」
「当然です! あの子たちは繊細なんですから! ……でも、その分、この『夜のイベント』には期待させてもらいますからね?」
セレスティアが期待に目を輝かせる。
その周りには、浴衣姿(ドワーフの繊維技術で作った新作だ)に着替えたアリシア、ソフィア、そして魔王ヴェルザードたちが集まっていた。
「ああ、任せろ。涼しくなるために、とびきりの企画を用意した」
俺はニヤリと笑い、森の奥を指差した。
「第一部、『ダンジョン特製・リアル肝試し』だ」
◇
肝試し。それは日本の夏が生んだ、恐怖による納涼システム。
だが、俺(Free)がやる以上、ただのお化け屋敷で終わるわけがない。
「ルールは簡単。この森を抜けて、ゴールにある『お札』を取ってくるだけだ。ただし……」
俺は言葉を切り、合図を送った。
ヒュ~……ドロロロロ……。
不気味な効果音(風魔法)と共に、森の闇から青白い人魂が浮かび上がった。
そして、現れたのは――。
「う、うらめしやぁ……」 「首が……ない……」
透けた体を持つ幽霊や、首のない騎士たち。
「ぎゃあああああああ!?」
真っ先に悲鳴を上げたのは、剣聖レオンだ。
彼は剣の腕は超一流だが、オバケが大の苦手だった。
「お、おいディラン! あれ、ホログラムじゃねぇぞ!? ガチのアンデッドの気配がするんだが!?」
「当たり前だ。地下90階層から『本物』をスカウトしてきた」
俺は親指を立てた。
もちろん、人間を襲わないように契約済みだが、その腐敗臭と冷気は紛れもない本物だ。
「さあ、行ってこい。……ちなみに、コースの途中には『スペシャルゲスト』も配置してある」
◇
森の中は阿鼻叫喚だった。
「ひいいい! こっちに来るな! 物理攻撃が効かねぇ!」 「落ち着いてレオン! ……きゃあっ! 足首を掴まれた!」
レオンとアリシアの悲鳴が響く。
そんな中、最も恐ろしいポイント――『古井戸エリア』に到達した時だった。
井戸の中から、ゆらりと黒い影が現れた。
頭に白い三角巾をつけ、白装束を着ているが……その背後からは、隠しきれない漆黒の覇気が漏れ出している。
「……うら……めしや……」
棒読みのセリフと共に顔を上げたのは、魔王ヴェルザードだった。
「ひっ……!?」
参加者たちの心臓が止まりかけた。
幽霊じゃない。もっと怖い何かがいる。
「……おい人間ども。驚け。……驚かないと、極大消滅魔法を撃つぞ?」
「脅迫じゃねぇか!!」
レオンがツッコミを入れた瞬間、ヴェルザードが「わっ!」と可愛く脅かすつもりで放った殺気が衝撃波となり、周囲の木々をなぎ倒した。
ドォォォォン!!
「ぎゃあああ! 死ぬ! 呪いじゃなくて物理で死ぬぅぅぅ!」
参加者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
◇
どうにか全員が生還した頃には、みんな顔色が真っ青になり、十分すぎるほど「涼しく」なっていた。
「……ひどい目にあったわ。寿命が縮んだ気分よ」
ソフィアが肩で息をしている。
「まあまあ。恐怖の後は、感動のフィナーレだ」
俺は全員を広場の中央へ誘導した。
そこには、要塞砲のような巨大な「筒」が鎮座していた。
その横で、ハッピを着たガルド親方が歯を見せて笑っている。
「ガハハ! 待たせたな! ドワーフの火薬技術の結晶……『特大六尺玉』だ!」
「ろ、六尺(約180cm)……?」
セレスティアが巨大な玉を見上げ、エルフの長耳をピクリと震わせた。
「あの、ディランさん? 通常、花火というのは尺玉(30cm)程度では? そのサイズは……攻城兵器に見えるのですが」
「細かいことは気にするな。地上じゃ4尺が限界らしいが、俺たちの技術ならイケる。高度2000メートルまで打ち上げ、夜空に直径2キロの華を咲かせる!」
「に、2キロ!? この森が覆い尽くされますわよ!?」
「計算は完璧だ。……たぶんな」
俺は点火スイッチを握った。
「た~まや~!」
ポチッ。
ズドンッ!!!!!!
発射音ではない。地殻変動の音だった。
打ち上げの反動だけで、発射台周辺の地面が陥没し、俺たちは衝撃波で吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
全員が地面を転がる中、光の塊は轟音と共に空を切り裂き、雲を突き抜け、はるか上空へ到達した。
そして。
カッッッ!!!!!!!
夜が、消滅した。
上空に現れたのは、花火ではない。第二の太陽だった。
まばゆい閃光がダンジョンの隅々までを照らし出し、隠れていたゴブリンの鼻毛まで見えるほどの明るさとなった。
数秒後。
遅れてやってきたのは、美しさではなく「暴力」だった。
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!
大気を震わせる衝撃波が、地上へと降り注ぐ。
森の木々は爆風でしなり、肝試しのセットは消し飛び、俺たちの服は風圧でバタバタと千切れそうになる。
「目が! 目がああああ!」
「鼓膜が破れるぅぅぅ!」
美しさを感じる余裕などない。ただの災害体験だ。
◇
やがて、光と音が収まった後。
そこには、広大なクレーターの中心に、アフロヘアで黒焦げになった俺たちが立ち尽くしていた。
周囲の森は更地になり、地形が変わっている。
「……いやー。ちょっと火薬が元気すぎたかな?」
俺は真っ白になった灰を口から吐き出し、頭をかいた。
「『てへ』っ☆」
その瞬間。
「「「『てへ』じゃねええええええ!!」」」
全員の怒号が響いた。
特に、一番の被害者は彼女だった。
「私の……私の畑がぁぁぁぁ!!」
セレスティアが、衝撃波で根こそぎ飛んでいった野菜畑の跡地を見て、膝から崩れ落ちていた。
「あんなに苦労して守ったのに……! トマトも、キュウリも、全部『焼き野菜』になってるじゃないのよぉぉぉ!」
彼女の手には、爆熱でいい感じにグリルされたマンドラゴラが握られていた。
「責任取ってください! ディランさん! 来年までタダ働きですからね!」
「お、おう。善処する……」
こうして、夏の夜の祭典は、地図に新たなクレーターを刻んで幕を閉じた。
ちなみに、この時できたクレーターは後に『六尺池』と名付けられ、新たな観光名所(露天風呂)になったのだが……それはまた別の話。
(第51話 終わり)




