第50話 『大賢者は夜に乱れる? 魅惑のナイトプールとパレオの罠』
昼の川遊び(兼・漢たちの褌祭り)が終わり、日が沈んだ。
バーベキューの火を囲み、皆が談笑している中、一人だけ頑なにテントから出てこない者がいた。
「……ソフィア。いつまで引きこもっているつもりだ?」
俺が声をかけると、テントの隙間からジト目が覗いた。
「嫌よ。月明かりにも紫外線が含まれている可能性があるわ。私の美白は、国家レベルの重要文化財なのよ」
「やれやれ。……せっかくのバカンスなのに、水に入らないのは損だぞ?」
「損得勘定で言えば、水着になって肌を晒すリスクの方が高いわ。……それに、私みたいなインドア派が、アリシアや魔王みたいな『見せつけるボディ』と並ぶなんて、公開処刑よ」
なるほど。紫外線は建前で、本音は「スタイルへの劣等感」と「恥じらい」か。
確かに、ボン・キュッ・ボンのアリシアやヴェルザードと並ぶのは勇気がいるだろう。
だが、俺には秘策があった。
「よし、分かった。お前が懸念する『紫外線』と『恥ずかしさ』。その両方を解決する、大人の遊び場を用意してやる」
俺は管理者権限を発動させた。
◇
「――システム起動。環境設定『Night Resort』」
パチン、と指を鳴らす。
一瞬にして、河原の風景が一変した。
ゴツゴツした岩場は、滑らかな大理石のプールサイドへ。
水面には、魔法で明滅する『光る球体』が無数に浮かび、幻想的なピンクやブルーの光を放ち始めた。
BGMは、波の音と静かなジャズ(俺の記憶再現)。
そう、現代日本で一世を風靡した『ナイトプール』だ。
「な、なによこれ……? 暗いけど、キラキラしてて……綺麗……」
テントから出てきたソフィアが、眼鏡に光を反射させて息を呑む。
「これなら直射日光はない。それに、この薄暗い照明なら、肌を晒す恥ずかしさも軽減されるだろ?」
「……合理的ね。でも、水着がないわ」
「用意してある。これだ」
俺が差し出したのは、ビキニでもスク水でもない。
腰回りを隠す布がついた、大人びたデザインの水着だ。
「『ミッドナイト・パレオ・スタイル』。 腰に巻いたパレオが、気になるラインを隠しつつ、大人のエレガンスを演出する。露出は控えめだが、透け感のある素材が逆に知性を引き立てる……まさに賢者のための装備だ」
「……知性を引き立てる?」
ソフィアが食いついた。チョロい。
彼女は「防御力(露出対策)」が高いと判断し、その水着をひったくってテントに戻った。
◇
数分後。
「……ど、どうかしら。変じゃない?」
テントから出てきたソフィアの姿に、俺は思わず息を止めた。
黒を基調としたシックなビキニ。
その腰には、夜風に揺れるシースルーのパレオが巻かれている。
濡れたような質感の布地が、彼女の白い肌と、普段は見せない脚線美を、隠しながらも艶めかしく強調していた。 眼鏡を外し、髪をアップにしたその姿は、いつもの「残念な研究者」ではなく、完全に「深窓の令嬢」だった。
「……最高だ。魔王や聖騎士とは違う、『大人の余裕』を感じるな」
「べ、別におだてても何も出ないわよ……」
ソフィアは顔を赤らめながらも、パレオの裾を弄って満更でもなさそうだ。
「ほら、行くぞ。ナイトプールの楽しみ方を教えてやる」
俺は彼女の手を引き、プールの中へとエスコートした。
水温は魔法で適温に保たれている。
「わぁ……。光るボールが水面に反射して……魔法陣みたい……」
「ここで、こうやって酒を飲むのが『映え(バエ)』ってやつだ」
俺は、カラフルなカクテル(ノンアルコール)を二つ手渡した。
薄暗いプールで、光るドリンク片手に佇む美女。
完全に『パリピ』の絵面だが、ソフィア本人は「これが……大人の夜遊び……!」と感動している。
「……悪くないわね、ディラン」
ソフィアがカクテルを飲み、ふっと笑った。
「研究室にこもってばかりだったけど……たまには、こういう『非合理的』な時間も必要かもしれないわ」
「だろ? これからも、たまには外に連れ出してやるよ」
「……ええ。お願いするわ」
そう言って、彼女は少しだけ俺の方に体を寄せてきた。
冷たい水の中で感じる、幼馴染の体温。
ナイトプールの怪しい光が、二人の影を水底に落としていた。
……まあ、その直後に魔王ヴェルザードが「ズルいぞ! 私も混ぜろ!」とダイブしてきて、ロマンチックな雰囲気は3秒で崩壊したのだが。




