第49話 『引きこもり賢者と、A5ランクの誘惑』
男たちが狩った魚や、持ち込んだ食材でバーベキューが始まった。 河原に香ばしい肉の焼ける匂いが充満する。
だが、そこに一人の重要人物が欠けていた。 大賢者ソフィアだ。
「ソフィアのやつ、まだテントから出てこないのか?」
俺が尋ねると、アリシアが困った顔で答える。
「ええ。『紫外線は肌の老化を招く』『ガチャの更新時間だから忙しい』って、結界を張って閉じこもってるんです」
「やれやれ……。せっかくの最高級『ドラゴン牛のA5ランクカルビ』が焼けたというのに」
俺はわざとらしく大きな声で言い、うちわで肉の匂いをテントの方へと扇いだ。
「……!」
テントが一瞬、ピクリと揺れた。 天才的な魔力探知能力を持つ彼女が、この匂いの正体に気づかないはずがない。
「さらに、今日は特別に、キンキンに冷えた『カフェイン増し増しエナジードリンク』も用意してあるんだがなぁ」
ズズズ……と、テントのファスナーが少し開く。 そこから、暗黒のオーラと共に、青白い手が出てきた。
「……ディラン。その肉とドリンクを献上しなさい。そうすれば、私のこの『対紫外線・絶対遮断領域(日傘)』の中に、貴方を入れてあげなくもないわ」
現れたのは、完全防備のソフィアだった。 水着ではない。 黒いローブを目深に被り、サングラスをかけ、日傘をさし、さらに全身に冷却魔法をまとっている。 夏のレジャーに来たはずが、一人だけ『不審者』か『闇の行商人』のような風貌だ。
「おいおい、そんな格好で肉が食えるか? ほら、少しは肌を出してビタミンDを生成しろ」
「嫌よ! 太陽は敵! リア充も敵! 私は日陰で肉だけを貪るの!」
ソフィアは素早い動き(身体強化魔法)で俺の手から皿を奪い取ると、猛烈な勢いで肉を吸い込み始めた。
「うまっ……! 何これ、脂が甘い……! ガチャで爆死した心が癒やされる……!」
「……お前なぁ」
呆れる俺の横で、褌姿のレオンが笑う。
「ガハハ! ソフィア、お前も一緒に川に入ろうぜ! 褌なら貸すぞ!」
「死んでも嫌よ! 近づかないで筋肉ダルマ! 暑苦しい!」
ソフィアが氷結魔法を放ち、レオンを凍らせる。 その騒ぎを見て、ようやく場全体が一つになった。
普段は研究室や執務室にいるメンバーたちが、褌とローブと水着入り乱れて肉を奪い合う。 これこそが、ダンジョン国が誇る「カオスな日常」の縮図だった。




