第45話 『降臨、伝説の賢者(バーコード)』
屋敷のホールは、カオスを極めていた。 フリフリの魔法少女剣士と、絶対領域ナース聖女が技を競い合い、その中心でヒョウ柄の魔王が仁王立ちしてスルメをかじっている。
俺は、プロデューサーとしてその光景に満足感を覚えていたが、同時に物足りなさも感じていた。
「……いかんな。彼女たちの熱量に対し、審判である俺の格好が平凡すぎる」
俺はいつもの冒険者スタイルだ。これでは、神聖な儀式(コスプレ大会)の主催者として威厳が足りない。 俺は再び、O-SAKAの戦利品袋(という名のゴミ袋)を漁った。
そして、見つけたのだ。 袋の底に、恭しく包まれていた『至高の冠』を。
◇
「待たせたな、戦士たちよ」
俺の声に、ヒロインたちが動きを止めて振り返る。 そして、俺の新たな姿を見て、全員が息を呑んだ。
「しゅ、主人公殿……? その、頭は……!?」
女騎士が震える声で問う。 無理もない。今の俺の姿は、あまりにも神々しい(と俺は思っている)からだ。
俺は顔面を真っ白に塗りたくっていた。これは東方の高貴な殿様が戦の前に施すという、神聖な化粧(バカ殿メイク)だ。 そして、何より注目すべきは頭上である。
頭頂部が見事に禿げ上がり、残された側頭部のわずかな髪を、無理やり反対側へと横断させたヘアスタイル。 そう、伝説の『バーコードヘッド』である。
俺は厳かに告げた。
「これこそが、O-SAKAの賢者たちが最終的に行き着く境地。『ザ・バーコード』だ」
「バーコード……!?」
魔王がスルメを落とした。
「そうだ。見てみろ、この頼りなげな数本の髪の毛を。これは、長年の苦悩とストレス……いや、深淵なる思索の末に残された、知恵の象徴なのだ。風が吹けば飛びそうなこの儚さこそ、最強の証」
俺は、ズレそうになるカツラ(実はカツラだった)を手で押さえながら、胸を張った。
「さらに、この白塗りの顔。これは感情を殺し、公平な判断を下すための仮面だ。どうだ、威厳に満ちているだろう?」
ヒロインたちは沈黙した。 あまりの衝撃的なビジュアルに、言葉を失っているのだ。 だが、俺の脳内フィルターを通すと、彼女たちの反応はこう変換される。
(聖女:なんてこと……! あんな若さで、あそこまで髪を犠牲にするなんて……! なんて深い思慮なの!?) (女騎士:隙がない……! あの頭頂部の輝き、太陽拳の使い手か!? 下手に動けば目が眩む!) (魔王:ククク……やりおる。まさかヒョウ柄を超えるインパクトの装備を隠し持っていたとはな。負けたぞ、我が主よ)
完璧だ。 俺の計算通り、彼女たちは俺の威厳に圧倒されている。
「さあ、祭りを続けようか! この賢者バーコードが、お前たちのデリカシーを見届けてやる!」
俺が殿様語調で扇子を振り上げると、ヒロインたちは再び奇声を上げて戦い始めた。
白塗りのバーコード男が、魔法少女とナースとヒョウ柄の戦いを指揮する。 もはや、ここが異世界なのか、現代日本の宴会場の余興なのか、誰にもわからなくなっていた。
その時である。 屋敷の扉が開き、来客を告げるベルが鳴った。
「たのもー! 隣領の領主代行である! 先日魔物を討伐したという神童殿に、挨拶に参ったのだが……」
入ってきたのは、真面目そうな若い貴族の男だった。 彼は、ホールに広がる地獄絵図を目撃し、そして最後に、中央で白目を向いてハリセンを構えるバーコード頭の俺と目が合った。
「…………ひっ」
貴族の男は、短く悲鳴を上げ、そのまま白目を剥いて気絶した。
「む? どうした? 俺の威厳(バーコードの輝き)に当てられたか。修行不足だな」
俺はそう呟き、倒れた男に気付けの平手打ち(ハリセン攻撃)を見舞うのだった。




