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第44話 『第一次聖魔コスプレ大戦』

 魔王が『ヒョウ柄』という最強の鎧を纏って以来、屋敷のパワーバランスは崩壊した。 彼女が廊下を歩くだけで、メイドたちは道を譲り、観葉植物すら萎縮する(気がする)。 その圧倒的な『オカン力(ぢから)』に、他のヒロインたちが焦りを感じ始めていた。


「くっ……! あの魔王、主人公様の隣を我が物顔で歩いて……! あの服、そんなに凄いの!?」


 リビングで爪を噛む聖女。 その横で、女騎士が剣を磨きながら重々しく呟く。


「認めざるを得ない。あの服から放たれる『図々しさ』という名の覇気……。私のミスリル鎧では防ぎきれない。主人公殿が『デリカシーの極致』と呼ぶのも頷ける」


 二人は決意した。 このままでは正妻(仮)の座を、あの派手なおばちゃんルックの魔王に奪われる。 ならば、我々も『デリカシー』に匹敵する、異界の戦闘服コスプレを身に纏うしかない、と。


 ◇


「主人公殿! 私にも、魔王ごときを圧倒する『新装備』を所望する!」


 俺の部屋に乗り込んできた女騎士は、悲壮な覚悟を決めた目をしていた。 俺は頷いた。やはり彼女も戦士だ。強さを求めているのだな。


「いいだろう。実はO-SAKAの露店で、ヒョウ柄以外にもいくつか『儀礼用戦闘服』を入手していたんだ」


 俺はアイテムボックスから、厳重に封印された服を取り出した。


「まずはこれだ。『マジカル・バトル・ドレス』。異界の戦乙女たちが、変身メタモルフォーゼする際に着用するという伝説の鎧だ」


 俺が提示したのは、ピンク色でフリッフリの、魔法少女の衣装だった。


「こ、これが鎧……? 防御面積が少なすぎるのではないか? それに、このリボンは……」


「甘いな。これは『可愛さ』で相手の戦意を喪失させる、精神干渉型の装備だ。物理防御を捨て、回避と魅了に特化している」


「精神干渉……! なるほど、心理戦用か!」


 女騎士はゴクリと喉を鳴らし、そのピンクのフリルをひったくった。


 続いて、聖女が前に出る。


「わ、私には!? 聖女にふさわしい、清楚かつ最強の装備はないの!?」


「あるぞ。これだ。『ナース・オブ・ザ・デッド』。死の淵にある者すら蘇らせ、あるいは地獄へ送ると言われる、生死を司る聖職者の白衣だ」


 俺が取り出したのは、少し丈の短いナース服(ピンクのカーディガン付き)。


「こ、これが異界の聖職者の服……! 確かに『白』は神聖な色だけど……なんでガーターベルトがついているの?」


「それは『絶対領域』を展開するための魔力増幅装置だ。そこにこそ神が宿る」


「神が宿る……! わかったわ、着るわ!」


 ◇


 一時間後。 屋敷のホールは、異様な熱気に包まれていた。


「見よ! これが私の新奥義、プリズム・イリュージョンだ!」


 フリフリの魔法少女姿で、長剣を構える女騎士。 恥じらいで顔を真っ赤にしているが、本人はそれを「闘気が満ちている」と勘違いしている。


「癒やされたいのはどいつだー! 注射パニッシュメントしてやるわー!」


 ナース服に身を包み、巨大なメイス(注射器に見立てている)を振り回す聖女。 「絶対領域」の意味を履き違え、物理的な結界魔法をスカートの中に展開しているため、防御力は鉄壁だ。


 そして、その中心で腕を組む、ヒョウ柄ジャージの魔王。


「ほう……。我に対抗しようというのか。だが、その程度の『キャラ付け』で、O-SAKAのオカンには勝てんぞ!」


「行くぞお前たち! 誰が一番『デリカシー(インパクト)』があるか、勝負だ!」


 俺の号令と共に、三つ巴の戦いが始まった。 魔法少女が飛び、ナースが舞い、ヒョウ柄が怒号を飛ばす。


 屋敷の使用人たちは、その地獄絵図(コスプレ大会)を見て見ぬふりをし、遠巻きにこう囁きあった。


「……旦那様、また変な性癖をこじらせて帰ってきたな」

「あの方、何をしに行ってたんでしょうね」


 俺たちの高尚な戦いは、まだ誰にも理解されていないようだった。

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