第43話 『魔王覚醒、あるいはO-SAKAのおばちゃん化』
「ただいま戻った。これが俺の見つけた答え――『デリカシー』の正体だ」
屋敷のリビングに、重々しい空気が流れる。 俺を追放したヒロイン連合の面々――聖女、女騎士、そして魔王が、固唾を飲んで俺を見守っている。 俺は旅の荷物を解き、あの最強の戦士から譲り受けた『清衣』を取り出した。
「な……なによ、その、目が痛くなるような模様は!?」
聖女が悲鳴に近い声を上げる。 無理もない。この黄金と漆黒の斑点模様――通称『ヒョウ柄』は、見る者の精神を不安定にさせる幻惑効果がある。
「これは西の都を支配する覇王たちが纏う戦闘服だ。彼女たちはこれを纏うことで、あらゆる干渉を無効化し、己の道を突き進む。俺たちに足りなかったのは、この圧倒的な『自己主張』だったんだ」
俺は真剣な眼差しで説いた。 デリカシーとは、相手に気を使うことではない。相手に気を使わせないほどの圧倒的な存在感を放つことなのだと。
「さあ、着てみてくれ。この服に袖を通せば、お前たちも『デリカシー』の深淵を覗けるはずだ」
「ぜ、絶対にお断りよ! そんなO-SAKAのおば……いえ、奇抜な服!」
聖女と女騎士が全力で拒否する中、一人、興味深そうにその服を手に取った者がいた。 魔王だ。
「ほう……。奇妙な意匠だが、不思議と力が漲ってくるのを感じるな」
魔王はおもむろに、フリルのついたゴシックドレスの上から、そのヒョウ柄のスパッツと、虎の顔がプリントされた極彩色のシャツを重ね着した。
その瞬間、空気が変わった。
かつて世界を震え上がらせた『魔王の威圧感』とは違う。 もっとこう、生活感と図々しさが入り混じった、土足で心に踏み込んでくるような『ド迫力』。
「どうだ? 似合うか?」
魔王がポケットから、俺が持ち帰った『賞味期限ぎりぎりの飴ちゃん』を取り出し、ふてぶてしく口に放り込む。 その姿は、魔界の王というより、商店街の裏ボス。 あるいは、『夜の街のママ』が休日にパチンコに行く姿そのものだった。
「す、凄い……! 違和感がない……!」
俺は戦慄した。 魔王の持つカリスマ性が、ヒョウ柄の強烈な個性を完全に手懐けている。 むしろ、魔王としての格が上がったようにさえ見えた。
「気に入ったぞ。この服を着ていると、誰に何を言われても『知ったこっちゃない』という無敵のメンタルになれそうだ」
「だろ!? それがデリカシーだ!」
俺と魔王がガッチリと握手を交わす。 これぞ、種族を超えた理解。
その様子を見ていた聖女が、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「……いったい、あいつは何をしに行ってたのよぉおおおッ!!」
屋敷に響き渡る絶叫。 だが、今の俺たちには届かない。 俺たちはすでに、他人の目線など気にしない『オカン』の領域に足を踏み入れていたのだから。
「おい若いの、茶ぁしばきに行こか?」
「御意、姐さん」
こうして俺と魔王は、ヒョウ柄のペアルックで街へと繰り出すことになった。 デリカシー探求の旅は、予想外の方向へと進化を遂げていた。




