表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/78

第42話 『西の都の怪物、その名はオカン』

「いいこと!? あなたが『デリカシー』というものを身につけて帰ってくるまで、この屋敷の敷居はまたがせないからね!」


 ヒロイン連合の盟主たる聖女の怒号と共に、俺の荷物が門の外へと投げ出された。 重厚な鉄扉が、まるで俺を拒絶するかのように轟音を立てて閉ざされる。


 俺はしばし呆然と扉を見つめ、やがて一つ頷いた。


「……なるほど。そういうことか」


 彼女たちの要求は明白だ。 今の俺には、圧倒的に不足しているものがある。それが『デリカシー』だ。


 彼女たちは、俺にその『デリカシー』なる未知の強者を討伐、あるいは従属させ、その力を我が物にして戻ってこいと言っているのだ。 なんと厳しい愛のムチか。 これまでの俺は、神童と呼ばれ、魔王さえも退けた。だが、上には上がいるということか。


「待っていろ。必ずやそのデリカシーという最強の幻獣、あるいは奥義を持ち帰ってみせよう」


 俺は愛剣を背負い直し、西へと足を向けた。 噂によれば、西方の商業都市『O-SAKA』には、常識の通じない猛者たちが跋扈しているという。 そこに、俺の求める答えがあるはずだ。


 ◇


 数日の旅を経てたどり着いた『O-SAKA』は、混沌の都だった。 街を行き交う人々は皆、声が大きい。 そして、歩く速度が異常に速い。 俺の動体視力をもってしても、彼らの会話のテンポを聞き取るのは困難を極めた。


「ここか……魔境と恐れられる地は」


 俺は情報を得るため、ひときわ活気のある商店街へと足を踏み入れた。 その時である。 強烈な闘気オーラを放つ一軒の店が、俺の足を止めた。


 店先には、「大特価」「持ってけドロボー」といった攻撃的な呪文が書かれた札が乱舞している。 そしてその中心に、黄金と黒の斑点模様――猛獣ヒョウの皮を模した戦闘服チュニックを身にまとった、初老の女性が仁王立ちしていた。


 間違いない。この地の支配階級だ。


 俺は警戒レベルを最大に引き上げ、その女性に接触を試みた。


「頼もう。俺はこの地にあるという『デリカシー』を探して……」


「あらやだお兄ちゃん! ちょっと、すっごい男前やないの!」


 俺の開戦の口上は、音速を超えた彼女の接近によって遮られた。 速い。 縮地か? いや、予備動作なしのゼロ距離移動だ。


「え、あ、いや、俺は……」


「あかんであんた、そんな顔色して! ちゃんとご飯食べてるんか!? ほっそいなぁ! ポッキーみたいやで! これ食べ! 飴ちゃんあげるから!」


 俺の口の中に、個包装された固形物がねじ込まれた。 防御結界を展開する隙すら与えぬ、神速の投擲スキル。 毒か? いや、甘い……これは、高濃度の糖分による精神汚染攻撃か!?


「待て、俺の話を聞いてくれ。俺はデリカシーを……」


「あーもう、そんなペラペラの服着て! 寒いやろ!? 見てみぃこの服、安しとくで! これな、ウチの孫に着せようおもてたんやけど、あんたにあげるわ!」


 彼女は俺の言葉を『聞く』というプロセスを完全に放棄していた。 こちらの攻撃(会話)は全て無効化され、あちらの攻撃おせっかいだけが一方的に叩き込まれる。 なんだ、この理不尽な無敵時間は。


「いらん! 俺にはこの装備が……」


「ええってええって! 遠慮せんでええの! はいこれオマケ! これもつけとくわ! ほら、似合うわぁ~! まるで虎やな!」


 気がつけば、俺の上半身には猛獣ヒョウ柄の上が羽織らされ、両手には「オマケ」と称された大量の惣菜袋が握らされていた。 物理的な拘束術ではない。 「断らせない」という圧倒的な精神圧プレッシャーが、俺の動きを封じているのだ。


「あ、あとこれな、賞味期限切れかけやけど美味しいから持ってき! はい、さいなら! 気ぃつけて帰りや!」


 背中をバシィッ! と強打される。 その衝撃は、ドラゴンの尾撃に匹敵する重さだった。 俺は弾き飛ばされるようにして、店の外へと押し出された。


 ◇


 商店街の喧騒の中、俺は立ち尽くしていた。 手には、ヒョウ柄の服と、山盛りのコロッケや煮物。 そして口の中には、未だに溶けきらない飴ちゃん。


 完敗だ。 魔法も、剣技も、そして『論理』さえも、あの黄金の戦士には通用しなかった。


「……恐ろしい。デリカシーとは、これほどまでに相手を圧倒し、己のペースに巻き込む覇王色の覇気のことだったのか」


 俺は震える手で、ヒョウ柄の服を握りしめた。 世界は広い。 俺が「神童」などと調子に乗っていた間も、O-SAKAのオバチャンたちは、この領域で戦い続けていたのだ。


「……帰ろう。今の俺では、デリカシーには勝てない」


 俺は、最強の敵から授かった戦利品(ヒョウ柄)を丁重に持ち帰ることにした。 ヒロインたちがこれを見れば、きっとこう言うだろう。 『凄まじい修行をしてきたのね』と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ